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2024.04.05

ダイレクトマーケティング実践講座〈第19回〉ロイヤル顧客の育成で直面する3つの課題

COCAMPコラムの中でも特に人気のテーマである「ダイレクトマーケティング」。この連載コラム「ダイレクトマーケティング実践講座」では、大広と協働し、様々なクライアントのダイレクトマーケティングやCRMを実行する株式会社クロスエムの中村光輝氏とともに、ダイレクトマーケティングで重要な「事業戦略」「顧客戦略・顧客獲得」「顧客育成」「フルフィル・顧客管理」の4つの領域について、現場の実践に基づき解説していきます。

第19回は、ダイレクトマーケティングにおける③「顧客育成」の「ロイヤル顧客化」 から、「ロイヤル顧客の育成」について解説します。

シリーズ一覧は、記事下部をご覧ください

ダイレクトマーケティング実践講座概要の図解

<ダイレクトマーケティング実践講座 講師>

中村 光輝さんのプロフィール写真中村 光輝 
(株)クロスエム 代表取締役
通販会社にて18年間、CRMを中心にマーケティング業務に従事。その後、2014年に独立。主に化粧品や健康食品などのダイレク ト事業を対象に、CRMのプランニングやマーケティング戦略の立案、顧客分析などをサポート。特に、ロイヤル顧客を軸とした戦略・施策のコンサルティングを多数手掛ける。

 

折橋 雄一さんのプロフィール写真折橋 雄一 
(株)大広 顧客価値開発本部 顧客育成局 マネジメントリーダー
メディアバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にしたアクイジション領域から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。調査と分析を核としたPDCAと、得られた知見を統合しオジリナルメソッドを開発することに力を注いでおり、通販の顧客インサイトを可視化した「カスタマージャーニーマップ」や口コミ循環のマーケティングモデルである「アンバサダーハリケーンモデル」を開発。

ロイヤル顧客育成は、とことん「顧客を知ること」

折橋
それでは、顧客育成の最後の項目、「ロイヤル顧客の育成」についてです。新規顧客獲得がますます厳しくなると考えられるため、「ロイヤル顧客の育成と維持」がきちんとできているかどうかがとても重要になってきます。しかし、現状、多くの企業がロイヤル顧客を増やすのに苦労しています。

下図はダイレクトビジネスの事業戦略のところで提示しましたが、再度見てみましょう。

ロイヤル顧客が増えない理由

中村
ロイヤル顧客を増やすためには、主に3つの課題があります。

1つ目は、多くの企業がそもそも顧客に自社ブランドの価値を十分に伝えていない現状があります。企業やブランドの想いやこだわりを顧客に発信していないため、顧客もそれを知る機会がありません。

2つ目は、顧客とのコミュニケーションが不足しています。正確に言うと、クロスセルなどセールスのメールやチラシは送るものの、顧客のマインドを高めるようなコミュニケーションが少ない。また、定期購入で何十回も購入しているような長期リピーターに対して同梱物が全くない、といった企業もあります。
顧客とのコミュニケーションをきちんと行っていくことが大切です。

3つ目は、顧客を深く理解していないことです。多くの企業が短期的な売上げには焦点を当てますが、顧客の行動や意識を深く理解する努力をしていません。短期的な売上げに傾倒する危険性は、顧客との長期的な関係性の欠落にもつながります。顧客のことを深く理解せず、一貫性の無いCRMを行っていては、ロイヤル顧客の維持も育成もできません。

これらの点が、ダイレクトビジネスを行う企業が直面している共通の課題です。

折橋
ロイヤル顧客は事業利益の多くをもたらしてくれる存在にも拘わらず、意外に対応が疎かになっていたり、深く把握できていなかったり、企業の想いやこだわりの発信ができていなかったりしていませんか?ということですね。

中村
そういったことを踏まえて、ロイヤル顧客を育てるために何をすべきかについて話しましょう。
顧客がどのような経緯でロイヤル顧客になったのか、そして現在どのような課題を抱えているのかを常に把握することが、ロイヤル顧客を育成する鍵だと私は考えています。

下の図をご覧ください。

ロイヤル顧客の育成


まず、左の図は「カスタマージャーニー」です。これは顧客がロイヤル顧客になるまでの過程を指します。このカスタマージャーニーをしっかりと分析し、理解することが重要だと思います。
ロイヤル顧客になる一歩手前の段階であるクロスセル顧客と比較し、どのようなアクション、マインド、コンタクトの要素でギャップがあるのかを明確にします。
ロイヤル顧客が何に不満を感じているのか、クロスセル顧客とはどの点でギャップがあるのかをしっかりと把握することが大切です。

その上で、ロイヤル顧客が企業のどのような要素、どういうところに興味関心を持って、クロスセル顧客からロイヤル顧客へと移行したのかを丁寧に解析することが必要です。

ロイヤル顧客は企業に対して意見を持っていることが多いため、座談会や個別インタビューを頻繁に行い、実際に顧客の声を聞くことが最も良い方法だと思います。

折橋
顧客は、企業のアンケート等に答えることで、ロイヤルティが高まり、アンバサダー度が高まります。
ロイヤル顧客との接点を多く持ち、声を聞くこと自体がとても重要なロイヤル顧客の育成施策になります。

中村
さらに、右の図です。
ロイヤル顧客のインサイトを常に把握することが大切です。特にロイヤル顧客が感じる不満を常に把握し、それらを解消するための施策を行うことが重要です。そして、それをロイヤル顧客一歩手前のクロスセル顧客にも適用していくことによって、潜在的に感じている不満要素を解消し、不満が顕在化する前に防ぐことが可能になります。

折橋
不満を解消することで、顧客はスムーズにロイヤル顧客へと移行しやすくなりますね。
ロイヤル顧客を維持することができれば、ロイヤル顧客一歩手前の顧客に対してもロイヤル顧客への育成スピードが速まると言えますね。

中村
だからこそ、ロイヤル顧客のインサイトを常に把握することは、顧客マネジメントを超えて、ブランドマネジメントの基本になると思います。

折橋
ロイヤル顧客の育成というと、何かとても難しそうに聞こえるかもしれませんが、基本は「顧客を知ること」だと言えますね。
ロイヤル顧客になるに至ったカスタマージャーニーを把握し、ロイヤル顧客手前のクロスセル顧客とのギャップを見出す、ということを分析するといいですね。
当然、クロスセル顧客を知るということも必要です。つまり、まず自社の顧客構造を購買データから分析して、その顧客セグメントの特徴をアンケートも含めて調査し、把握しないといけないですね。

アンバサダー促進①:ブランド共創のトライアル体験

中村
さて、ロイヤル顧客というのはアンバサダー度が高い顧客でもあります。
ロイヤル顧客の育成という点で、わかりやすいのは、やはりアンバサダーのトライアル体験というものです。

例として2つ挙げます。下の図をご覧ください。

アンバサダーのトライアル体験


左側にあるのは、新商品のモニターに参加してもらうことです。これは非常に効果的で、商品に好意的なお客様へ、商品モニターに参加いただいたり、座談会に参加いただくことで、普段とは違う体験をしてもらいます。
そこで開発担当者の想いに触れたり、他のユーザーの意見を聞いたりして、楽しみながらフィードバックをしてもらうことで、商品やブランドの価値を深く掘り下げることができます。

このような体験があると、自分が関わった商品という認識が生まれやすくなります。アンケートに答えたり、ホームユーステストに参加したことで、商品が販売される段階になると、それを自分のことのように感じ、発売を楽しみに待つようになります。そうなると、商品に思い入れができますから、積極的に友人や知人に話すようになります。

これはまさに「共創」です。企業と顧客が一緒に取り組んで新商品を世に出すこと。
このようなトライアル体験を広げることで、顧客は商品だけでなく、企業やブランドにも関心を持つようになります。これがロイヤル顧客を作り、育てることにつながると思います。

折橋
最初は「商品」で入ってきて、商品が好きになり、リピート購入するようになりますが、ここで留まっていては、我々の言う「商品アンバサダー」止まりになる。「商品アンバサダー」とは商品だけに興味がある状態で、短期的に終わってしまう危険性があります。
ですから、大切なことは、商品から「企業やブランド」に興味関心を移行させることです。企業の姿勢やこだわり、社長や従業員を含めて、好きになってもらうことです。そして、「この企業のつくる商品はみんな好き」とクロスセルもしてくれるようになり、ロイヤル顧客になり、真のアンバサダーへと成長していく。長期的に関係が維持できます。

アンバサダー促進②:ブランドエンゲージメントに進展させる

中村
私の経験からの例を挙げますが、以前、限定数量商品の販売を行ったところ、ご好評いただいて商品が早期に完売してしまったことが何度かありました。その結果、商品を手に入れられなかった顧客からは苦情などの声が届きました。この経験を活かす方法はないかと考えたときに、このようなマイナスの体験をいい意味で活用できるのではないかと思いました。
そこで、限定数量商品が早期に売り切れてしまい購入できなかったという顧客の声をVOCデータから集めました。そして、お詫びをするとともに、サービス改善を行うことを顧客に伝えました。並行して、その限定商品の再販売を検討し、それが決定したときに、顧客にお手紙をお送りしました。「お客様からいただいた声をもとに再販することになりました」という内容です。
このお手紙には特別なオファーは付けずに送りましたが、「単なる事務的なお詫びではなく、本当に再販することを考えてくれて、しかもそれをきちんとお手紙で伝えてくれた」と、とても喜んでいただきました。
その結果、多くの顧客に再販した商品を購入いただけましたし、より多くの商品を購入いただいた方もいらっしゃいました。

実は、再販要望の声を寄せた顧客を対象に、このお手紙を送ったグループ(Aグループ)と送らなかったグループ(Bグループ)に分けてABテストを実施しました。
再販商品に関する広告は両方のグループとも共通に行った上で、結果は、お手紙を送ったグループのほうが1.4倍の売上を上げました。値引きや割引なしで、お手紙一枚の差だけでこれだけの売上増加が見られたのです。

このような取り組みは、ブランドと顧客との関わりを深めるブランドエンゲージメントに繋がります。地味な取り組みかもしれませんが、顧客の声(VOC)に基づいて施策を行うことも、アンバサダー体験につながっていく。
自分の意見が企業によって真摯に受け止められ、それに対する反応が返ってくると、マイナスの体験がプラスの体験へと変わります。クレームが喜びの声に変わる、そういった変化を示す一例としてお話ししました。

折橋
クレームに対して真摯に対応することで、逆にロイヤルティが上がる、という良い例ですね。
お客様もクレームは言いたくないという人が多いと思います。エネルギーが必要ですから。でも、ちゃんと良くないことは良くないと伝えようと、頑張っていただいたんだと。そこには、企業に対して良くなってほしいという願いが込められている。もうこの段階でロイヤルティは高いですね。
そういう双方向の関係性を大切にして、こちらからもメッセージを出すことが重要ですね。言わなければ伝わりません

中村
やはり企業の「人」、「顔」というのがちゃんと見えること、その思いを丁寧に伝えることがロイヤル顧客の育成につながっていくと思います 。
値引き割引オファーを多用してしまうと、短期的な反応を引き起こすだけで、長期的な関係が失われがちです。ロイヤルティを高め、長期的な関係を築くことが、ロイヤル顧客を育成する上で非常に重要な視点といえます。

折橋
我々の「クロスセル・カスタマージャーニーマップ」でいうところの「値引きの落とし穴」にはまることは避けなければいけませんね。落ちていった先は「お得感の荒野」という、まさに荒れ果てた世界で、「安い」ということにしか価値のない場所です。そこでは、ロイヤルティは育ちません。

※クロスセルカスタマージャーにマップの詳細は、下記コラムで解説しています。
LTVを向上させたい!カスタマージャーニーマップから施策を考える| COCAMP 顧客と共創するマーケティングポータル

(株)大広オリジナル資料「クロスセルカスタマージャーニーマップ」<(株)大広オリジナル資料「クロスセルカスタマージャーニーマップ」>

ロイヤル顧客化のポイント

中村
大切なことなので、ロイヤル顧客化のポイントをおさらいしましょう。
まず、ロイヤル顧客は「ブランドとの良質な顧客体験を持っている」ということが言えると思います。アクション、マインドと同時にコンタクト、コミュニケーションという部分で非常に良質な体験があることが重要です。
次に、ロイヤル顧客を増やすには、「育成」よりも、まずは「維持」を行うことが重要です。 
そして、3つ目。ロイヤル顧客を深く把握し続けるということがロイヤル顧客を増やしていくためにも重要ということになります。

第1回目からお話しているダイレクトマーケティングのキーファクターは、ロイヤル顧客の育成と維持です。
これらのポイントをおさらいし、理解を深めていきましょう。

ロイヤル顧客化のポイント

折橋
「アンバサダーハリケーンモデル」では、商品ではなく、企業に対してロイヤルティを育成していくことが重要だということを主張しています。
企業のことが好きにならないと、クロスセルも生まれにくい。企業との間に、サービスやコミュニケーションの良質な体験があれば、ロイヤル顧客になっていく可能性が高まります。

育成のことばかり考えるのではなく、まずは今のロイヤル顧客をきちんと把握し続けること、それによってロイヤル顧客を維持することが大切ですね。

次回は、ダイレクトマーケティングにおける④「フルフィル・顧客管理」の「フルフィルメント」について解説します。 

「ダイレクトマーケティング実践講座」シリーズ一覧
ダイレクトマーケティング実践講座〈第1回〉「ターゲット」を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第2回〉コンセプトづくりのコツ
ダイレクトマーケティング実践講座〈第3回〉 「事業モデル」で戦略が異なる
ダイレクトマーケティング実践講座〈第4回〉「商品企画」における重要ポイント
ダイレクトマーケティング実践講座〈第5回〉安定した利益を生み出す「価格」設定とは?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第6回〉ロイヤル顧客を生みだすための「チャネル」「販促」の考え方
ダイレクトマーケティング実践講座〈第7回〉「顧客戦略」は顧客ステージで変える
ダイレクトマーケティング実践講座〈第8回〉戦略のベースとなる5つの「顧客ステージ」とその特徴
ダイレクトマーケティング実践講座〈第9回〉収益化はロイヤル顧客がカギを握る
ダイレクトマーケティング実践講座〈第10回〉顧客獲得に向けた商品選定と戦略思考
ダイレクトマーケティング実践講座〈第11回〉最初のハードル「F2転換の壁」をどう乗り越えるか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第12回〉リピーターを育てるコミュニケーションの要諦
ダイレクトマーケティング実践講座〈第13回〉ブランドへの信頼を築きクロスセルに導く
ダイレクトマーケティング実践講座〈第14回〉第2のハードル「クロスセルの壁」をどう乗り越えるのか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第15回〉 徹底した顧客の理解がクロスセルを促進する
ダイレクトマーケティング実践講座〈第16回〉アップセルの成否は顧客のロイヤルティの見極めにある
ダイレクトマーケティング実践講座〈第17回〉 「ファン化の壁」を乗り越えて、ロイヤル顧客を作る!
ダイレクトマーケティング実践講座〈第18回〉 ロイヤル顧客を維持するには?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第19回〉ロイヤル顧客の育成で直面する3つの課題
ダイレクトマーケティング実践講座〈第20回〉商品配送における顧客価値を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第21回〉コンタクトセンターの「インバウンド」と「アウトバウンド」とは
ダイレクトマーケティング実践講座〈第22回〉コンタクトセンターにおける「VOCの価値」と「顧客対応品質」
ダイレクトマーケティング実践講座〈第23回〉顧客管理の基礎はデータ分析にある

この記事の著者

COCAMPダイレクトマーケティング部

(株)大広が培ってきたダイレクト・マーケティングの知見やノウハウを発信するチーム。 通販の初期から今に至るまで、変化する時代と顧客を見続けてきた第一線のプロデューサーやスタッフをメンバーに、ダイレクトビジネスの問題や課題を、顧客価値の視点から解いていきます。