COCAMPコラムの中でも特に人気のテーマである「ダイレクトマーケティング」。この連載コラム「ダイレクトマーケティング実践講座」では、大広と協働し、様々なクライアントのダイレクトマーケティングやCRMを実行する株式会社クロスエムの中村光輝氏とともに、ダイレクトマーケティングで重要な「事業戦略」「顧客戦略・顧客獲得」「顧客育成」「フルフィル・顧客管理」の4つの領域について、現場の実践に基づき解説していきます。
第23回は、「顧客管理」の「データ活用」について解説します。
シリーズ一覧は、記事下部をご覧ください
<ダイレクトマーケティング実践講座 講師>
中村 光輝
(株)クロスエム 代表取締役
通販会社にて18年間、CRMを中心にマーケティング業務に従事。その後、2014年に独立。主に化粧品や健康食品などのダイレク ト事業を対象に、CRMのプランニングやマーケティング戦略の立案、顧客分析などをサポート。特に、ロイヤル顧客を軸とした戦略・施策のコンサルティングを多数手掛ける。
折橋 雄一
(株)大広 顧客価値開発本部 顧客育成局 マネジメントリーダー
メディアバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にしたアクイジション領域から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。調査と分析を核としたPDCAと、得られた知見を統合しオジリナルメソッドを開発することに力を注いでおり、通販の顧客インサイトを可視化した「カスタマージャーニーマップ」や口コミ循環のマーケティングモデルである「アンバサダーハリケーンモデル」を開発。
顧客管理とデータ分析は不可分の関係
折橋
さて、「顧客管理」についての話です。ここでの顧客管理とは、単に顧客情報を管理することだけでなく、顧客データを集計分析し、施策を検証したり、お客様のお悩み(自社顧客の課題)を見つけ出すことを指します。
また、CRM施策を実施するために、対象顧客などのデータを抽出したり、集計分析やデータ抽出などを的確に行うためのデータベースの運用管理も大切です。
中村
顧客管理は、CRMと非常に関連が深いです。今後のダイレクトビジネスにおいては、データを扱う機会が非常に多くなってくると思います。
まずは、データの集計分析について話します。
ダイレクトマーケティングを実施している多くの企業が大量のデータを保持していますが、自社のデータ分析に満足している企業は少ないようです。ダイレクトマーケティングでは、特定の顧客を分析することが中心で、顧客がいつ何を購入したかを特定することが重要です。そのため、データ分析では顧客番号や会員ナンバーが、顧客を特定し理解するために不可欠なキーコードになってきます。
折橋
顧客データ分析にはいくつか代表的な方法がありますね。まず、「RFM分析」は最もポピュラーで基本的な分析で、顧客の購買行動を理解するために使用されます。次に、「デシル分析」は、特に優良顧客の特性を把握する手法です。そして、「RFMI分析」は、特定の顧客層がどの商品を購入しているかを理解するためのもので、商品と顧客の関係を明らかにする分析です。
中村
データ分析の日常的な側面として、ダイレクトレスポンス施策の検証が多く行われています。しかし、ダイレクトマーケティングの本質は、収益に大きく貢献している顧客の購買行動を把握することです。具体的には、自社の優良顧客がどのような人物像なのか、優良顧客の購買実態はどうなっているかを理解することです。これらの行動分析は、事業運営の観点から見ても非常に重要だと考えられます。
個人的な見解になりますけれども、 ダイレクトレスポンス施策は単発的な施策が多く、そのためこの検証分析だけでは重要な顧客課題を見逃すリスクもあります。したがって、RFM分析を基盤とした顧客行動のきちんとした分析を行う環境を整えることが非常に重要だと考えます。
折橋
まず自社のロイヤル顧客が誰であるかを把握し、その購買実態や特徴を正しく理解すること。さらに、ロイヤル顧客がどのようなカスタマージャーニーを経て現在に至ったかを知ることが顧客データ分析の基礎ということですね。
優良顧客のアクティブ度合を確かめる「RFM分析」
折橋
それでは、「RFM分析」から詳しく話していきましょう。
RFM分析はダイレクトマーケティングにおける最も基本的な分析手法の一つです。RFMは、それぞれRecency(最新購入日)、Frequency(累計購入回数)、Monetary(累計購入金額)の頭文字を取ったもので、これら3つの指標を用いて顧客の基本的な購買行動を把握します。
中村
RFM分析の一例として、図の左下の「Recency別の顧客数表」を見ると、左側には最近購入した顧客が多く、右に行くほど最終購入からの時間が経過し、顧客数は少なくなっていきます。どんどん休眠顧客が増えていくことになります。一般的にはこのように最近買った顧客の方が多くて、だんだん顧客数が少なくなっているというグラフになることが多いです。
図の真ん中の「Frequency別の顧客数表」では、左側には累計購入が1回の顧客が多く、右に行くほどリピート購入する顧客が減少しています。一般に新規顧客の再購入率というのは平均で約3割だったりしますので、大半の新規顧客が2回目の購入をしない傾向にあることがグラフから読み取れます。
FrequencyとMonetaryは、相関関係にあることが多いです。図の右の「Monetary別の顧客数表」では、一番左端には累計購入金額が最も低い顧客が位置し、右に行くほど購入金額が高まり、優良顧客が増えます。しかし、優良顧客は数が多いわけではないため、グラフ上では顧客数が徐々に少なくなる傾向が見られます。
折橋
ただ、このRFM分析を見ただけでは、数値の良し悪しを判断するのが難しいですよね。実際に現場でどのようにRFM分析を活用しているのかについて解説いただけますか?
中村
分析としては、二つに集約されるかなと思います。 RFマトリクスとFMマトリクスです。
「RFマトリクス」は、アクティブ状態(R)と継続購買力(F)で自社の顧客動向を確認するための基礎表です。特に健康食品や化粧品などを扱う単品リピート通販会社ではほとんどの場合で利用されていますが、取り扱い商品間の価格差が大きい事業会社の場合は、RMマトリクスを利用することが多いです。
縦軸には最新購入日(Recency)を年単位や月単位で配置し、例えば1年以内、2年以内に購入した顧客を分類します。横軸は累計購入回数(Frequency)で、右に行くほど購入回数が多くなります。図の緑色のエリアは顧客数が多いことを示し、通常1回しか購入していない顧客が多いことを意味します。購入回数が増えるにつれて顧客数は減少しますが、同時に継続している顧客の割合も高くなります。このRFマトリクスを利用することで、優良顧客がどの程度アクティブな状態でいるかを簡単に把握することができます。
「FMマトリクス」は、Frequency(累計購入回数)とMonetary(累計購入金額)をそれぞれ横軸と縦軸に配置したものです。これにより、購入回数が多く金額も高い、つまり最も良い顧客が右下に位置するような動きを示します。
商品単価に幅がない場合、購入回数と購入金額は比例する傾向があり、このFMマトリクスを用いることで自社のリピーターの継続状態や優良顧客の特徴を把握することができます。事業ごとの特性に応じて、優良顧客の累計回数や累計金額がどのような値なのか、そしてその顧客数が増えているか減っているかなど、優良顧客の基礎実態を確認する際にFMマトリクスが使用されます。
折橋
こういった顧客の継続状態などを確認すると、自社の優良顧客の「健康状態」を把握することができますね。
そもそも自社の優良顧客はどういう購買数値なのか、また、それがきちんと増える傾向にあるのか、減る傾向にあるのかという基礎的な確認をすることが、このRFM分析の現場での使い方ということになりますね。
中村
RFM分析は日常的にダイレクトメール(紙媒体やeメール。以下、DMと表記)の送付対象顧客のレスポンス検証によく利用されます。
下の図を見てください。まず、DMを送る前に、送付対象となる顧客を抽出する場合、レスポンスや売上げ見込みの高い顧客を優先的に選定しながら、RFMのマトリクスをベースに、送付数を確定させます。
DM送付後は、RFMのマトリクスをベースに、どのセル(顧客グループ)からどれくらいのレスポンスや売上金額があったかを検証し、レスポンス率の高低や費用対効果などの目標達成度を確認するためのデータとして利用するのが一般的です。
折橋
もともとRFM分析は、アメリカでダイレクトメールの効率を上げるために使われていたものですからね。
中村
この表に基づくと、右下の顧客が最も良質であり、レスポンス率も高いとされます。緑色のセルがレスポンスが高い顧客群を示し、赤色はレスポンスが低いことを意味します。購入回数が少なく、累計購入金額も低い顧客はDMにあまり反応しませんが、多数回購入しており累計購入金額も大きい顧客はDMに反応する可能性が高いです。これはDMに限らず、多くのマーケティング施策に共通する特徴です。
データ分析を日常的に行い、ダイレクトレスポンスの効果を検証することは、ダイレクトビジネスを展開する企業にとって一般的な業務になります。
折橋
レスポンス率は購入回数や購入金額が高いほど上がりますね。
しかし、そういう優良顧客の人数は多くないので、それが必ずしも大きな売り上げにつながるとは限りませんね。
中村
DMを送る対象を考える際、累計回数や累計金額が多い顧客への送付が望ましいと考えがちですが、これにより、特定の優良顧客に対して頻繁に施策を行うことになり、その顧客からすれば「なぜこんなに頻繁にたくさんの同じようなDMが届くのだろう」とうんざりされるリスクもあります。そのため、顧客管理が重要となり、特に良質な顧客に対しては、ブランドとの長期的な関係性を継続するため、最近実施した施策の内容を考慮し、次の施策を行うタイミングや頻度、内容を慎重に判断する必要があります。LTVを最大化させることを意図して、このような個々の施策における対象顧客の判断を担うCRM部署や役割が非常に大切です。
折橋
RFM分析は、購買の実態を把握し、適切なマーケティング戦略を立てるために用いられていますね。
優良顧客を特定し、その特徴をあぶりだす「デシル分析」
中村
次に「デシル分析」です。デシル分析は、顧客を購入金額の高い順に10等分して、各グループの売上構成比を確認する手法です。これはパレートの法則、すなわち上位20%の顧客が売上全体の80%を占めるという原則に基づいています。この分析を通じて、企業は自社の優良顧客を特定し、その購買特性を把握するために利用します。
折橋
実際には、2:8になることは必ずしも多くないですよね。3:7とか、35:65とかの比率で上位の顧客が売上の大部分を占めることが多いと思います。デシル分析をするとすぐにわかります。
中村
図を見てください。顧客を3:7の比率で分類した場合で作ってみました。ここで言うランク1の顧客の方が売上金額が高いということになりますが、ランク1から3までの上位3割の顧客が売上全体の7割を占めています。これらのランク1から3の顧客がどういう具体的な特徴があるのか、また購買行動を取っているのか、継続離脱状況はどうなのかを確認していくということになります。
折橋
こちらの表では、上位3割の顧客が売上の7割を占めているわけですから、この3割を優良顧客とする場合、その顧客単価(ここでは年間購入金額を想定)は5万円以上になります。逆に言えば、優良顧客の条件は、5万円以上の顧客単価となりますね。
2:8や3:7といった比率で顧客を分析すると、1回や2回の分析であっても、その比率は大きく変わらないため、会社として自身の事業は、年間売上の7割が上位3割の優良顧客で成り立っていると認識することができますね。
中村
実際のデシル分析の活用法についてですが、次の表を見てください。先ほど見たデシル分析の基本項目を左側に示しています。これに年間のFM値や累計のRFM、さらには具体的な商品の購入実態などの情報を関連付けて分析します。
この分析により、優良顧客とそれ以外の顧客との間にある購買行動のギャップを特定します。どういう購入行動の要素でギャップがあるのか。このギャップが優良顧客への分かれ道であり、この点を理解し、顧客にどういう行動をとってもらうのか、どの商品を買ってもらうのか促すことで優良顧客を増やすことが可能になります。さらに、ギャップを埋める方法を明らかにするために、追加してクロス集計分析や、必要に応じて調査を行うことが大切です。これらの情報は、カスタマージャーニーを作成する際のヒントともなり得ます。
折橋
デシル分析は、優良顧客だけでなく、その手前の顧客セグメントのギャップを見ることで、どのような要素や項目を改善すれば次の顧客育成に繋がるかを見定めるのにも役立ちます。購買行動のギャップ分析をしていく上での最初の一歩の基礎表ですね。
優良顧客の具体的な購買行動を把握する「RFMI分析」
折橋
最後に「RFMI分析」についてですが、これは、RFM分析に商品、つまりアイテムを加えたものです。実際には、「RI集計」や「FI集計」といった用語で表され、このような集計がよく行われます。
中村
RFMI分析は主に、定期購入ではなく、都度購入やクロスセルの買い方を分析する際に適用されます。具体的には、RI集計では最新購入日(Recency)と商品アイテム(Item)を組み合わせた分析を行い、アクティブ顧客が最近どのような商品を購入したか、または1年以上休眠した顧客がどの商品を購入して再び購買を開始したかを見ます。これにより、休眠顧客がどのような商品で再活性化したか、または活性化施策と関連があるかなど、購入傾向を把握することができます。
FI集計は、顧客の累計購入回数(Frequency)とアイテム(Item)を分析する方法です。これは、顧客が購入した回数のセグメントごとに、どの商品の購入率が高まるかを把握するために使われます。累計回数が多い顧客、つまり優良顧客は多様な商品を購入する傾向がありますが、その手前の顧客育成段階にある顧客は購入アイテムの幅が狭いことが多いです。また定番商品以外の値引き割引商品や限定販売商品が、累計回数セグメントの中でどのくらいの順位や購入率を示すのかといったことも、顧客セグメントの購買行動特徴を把握する上で有効となります。FI集計を用いることで、顧客の購入ジャーニーを追いながら、どのタイミングでどの商品の購入率が高まるかを分析し、クロスセル施策に最適なタイミングや商品の選定に役立てることができます。また、これはクロスセル施策の顧客セグメント条件の設定にも影響を与えます。
折橋
RFM分析に商品軸の要素を追加することで、単純なRFMだけでなく、より具体的な購買行動の集計分析が可能になりますね。
しかし、このように複雑なクロス集計が増えると、セグメントする際のしきい値の設定なども含め、データ分析業務にはさまざまな知識と経験が求められますね。
次回も引き続き「データ活用」について解説します。
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