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2024.03.22

ダイレクトマーケティング実践講座〈第16回〉アップセルの成否は顧客のロイヤルティの見極めにある

COCAMPコラムの中でも特に人気のテーマである「ダイレクトマーケティング」。この連載コラム「ダイレクトマーケティング実践講座」では、大広と協働し、様々なクライアントのダイレクトマーケティングやCRMを実行する株式会社クロスエムの中村光輝氏とともに、ダイレクトマーケティングで重要な「事業戦略」「顧客戦略・顧客獲得」「顧客育成」「フルフィル・顧客管理」の4つの領域について、現場の実践に基づき解説していきます。

第16回は、ダイレクトマーケティングにおける③「顧客育成」の「クロスセル・アップセルのポイント」から、「クロスセルの促進」の続きと「アップセル」を解説します。

シリーズ一覧は、記事下部をご覧ください

ダイレクトマーケティング実践講座概要の図解

<ダイレクトマーケティング実践講座 講師>

中村 光輝さんのプロフィール写真中村 光輝 
(株)クロスエム 代表取締役
通販会社にて18年間、CRMを中心にマーケティング業務に従事。その後、2014年に独立。主に化粧品や健康食品などのダイレク ト事業を対象に、CRMのプランニングやマーケティング戦略の立案、顧客分析などをサポート。特に、ロイヤル顧客を軸とした戦略・施策のコンサルティングを多数手掛ける。

 

折橋 雄一さんのプロフィール写真折橋 雄一 
(株)大広 顧客価値開発本部 顧客育成局 マネジメントリーダー
メディアバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にしたアクイジション領域から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。調査と分析を核としたPDCAと、得られた知見を統合しオジリナルメソッドを開発することに力を注いでおり、通販の顧客インサイトを可視化した「カスタマージャーニーマップ」や口コミ循環のマーケティングモデルである「アンバサダーハリケーンモデル」を開発。

企業ロイヤルティの形成で事業間クロスセルさせる

折橋
クロスセル戦略では、まずは顧客が現在購入している商品に関連する商品を提案していくことから始めますが、商品アイテム数にも限界がありますので、最終的には異なるカテゴリの商品までクロスセルを広げていきたいですよね。「事業間クロスセル」と呼びますが、LTVも向上しますので、ここを目指していきたいです。

中村
特にロイヤルティが高くなってきた顧客は、さまざまな種類の商品を購入いただける傾向があります。極論すれば、その企業・ブランドの商品なら何でも買いたいと思ってくださる顧客は、カテゴリを超えていろいろな商品を購入いただけます。
これが事業間クロスセルです。

図をご覧ください。

 

事業間クロスセル


たとえば、化粧品を買っている顧客には、同じブランドのサプリメントも提案できるかもしれません。大切なのは、顧客がそのブランドに対してどれだけ強い信頼と愛着を持っているか、つまり、企業ロイヤルティがベースになってきます。

企業がどのような理念やこだわりを持って商品を開発しているのかを顧客に伝えることが重要で、商品の機能や価値だけでなく、その背景にあるストーリーや開発の想いを共有することが、ロイヤルティの高い顧客を引きつける鍵となります。
さらに、創業者や社長、または開発者等の顔が見えてくることが、ロイヤルティが高い顧客にとっては非常に重要です。顧客にとって身近に感じられるような関係を築くことも、顧客のロイヤルティを高めるのに役立ちます。

折橋
我々も、顧客インタビューを実施したりしますが、ロイヤルティの高い顧客は、会社やブランドのことをよくお話しされます。中でも、社長がこう言っていたので共感した、というようなお話はとても嬉しそうに語っていただけますね。
逆に、ロイヤルティの低い顧客は、商品のことしか話さないですね。企業のことは関心がないと言う方もいらっしゃいます。
ここは大きな違いです。

中村
そうですね。顧客の企業ロイヤルティがまだ形成されておらず、商品ロイヤルティがあるかないかの段階ですと、企業の「人」や「顔」がどんどん出てきても、ある意味セールス色を感じてしまったり、やや強めのアピールと捉えられることもあります。

ですので、ある程度のロイヤルティが形成されてきた段階で、企業の「人」や「顔」が見え、企業の想いやこだわりを伝えることが、事業間クロスセルを機能させます。
顧客が企業に対してロイヤルティを持っている状況では、企業ブランドのストーリーやこだわりを共有することで、様々な商品への関心を引き出し、異なるカテゴリ間のクロスセルが成功しやすくなります。

折橋
顧客の企業ロイヤルティを育成することが、事業間クロスセルには欠かせない要素です。

アップセル施策は顧客への丁寧な説明が不可欠

中村
次に、アップセルについてお話しします。
例えば、現在顧客がベーシックな化粧水を購入しているとしましょう。この顧客に対して、より高機能で高価格な化粧水を提案するといったことがアップセルです。

折橋
顧客がすでに興味を持っている商品の上位バージョンや豪華版を勧めることで、より価値の高い商品を購入してもらう戦略ですね。

アップセル中村
アップセルの施策例としては、クロスセル施策と同様、サンプルプレゼントという手法がその1つです。現在購入している化粧水よりも、高機能版の化粧水を購入時にサンプルプレゼントします。
現行の化粧水をリピートしてきた顧客はもちろんですけれども、リピートしてはいるものの実は未充足な部分を感じている顧客もターゲットに入ってきます。
ただし、サンプルでアップセルを試みる際は、留意点があります。顧客がどちらの商品が自分に合っているのか迷ってしまう可能性があるということです。そのため、顧客に対して、ベーシック版と高機能版の化粧水の違いを明確に説明し、自分に合った商品を選べるようにサポートすることが大切です。この説明をわかりやすく伝えるツールを作成することが、アップセルの成功につながります。また、もしアップセルが成功しなくても、このようなサポートがあれば、ベーシック版の化粧水のリピート購入率を高めることができます。

折橋
ベーシック版と高機能版の違いを分かりやすく説明することで、より商品に対して理解が深まるということですね。比較することで、どちらが今自分の必要としている商品なのかが非常に判断しやすくなりますね。さらにいうと、今はベーシック版を選択したとしても、将来の高機能版への購入につながる可能性もあります。

中村
アップセル施策の二つ目は、先行トライアルという施策です。
新しい高機能化粧水を発売する際に、既存のベーシック化粧水を使用している顧客に対して、新商品のトライアル版を先行して販売します。
新商品を最初に体験する機会を提供することで、顧客の興味を引き、購入へと繋げることができます。
特に、高機能化粧水のニーズにマッチする顧客に対して効果的ですから、顧客の年齢や性別、過去の購入履歴、肌質などのデータを分析し、ターゲット顧客を絞り込むことで、より効率的にアップセルが行えます。
また、新商品のトライアルの機会を提供すること自体が、さらにロイヤルティを高めることになり得ます。このように、ある程度ロイヤルティが高い顧客をターゲットにすることで、アップセルの成功率を上げることが期待できます。

留意点としては、新商品を先行して試せるということがメリットの施策なので、ロイヤルティの高い顧客などにセグメントできるかどうかが鍵になります。
ロイヤルティの高い顧客に対して、先行して試せることをオファーとするので、対象顧客が自分に合った商品を提供されていると感じ、ポジティブに受け止めてもらうことで、よりアップセルが機能しやすくなります。

折橋
高機能版の新発売時に行うことが効果的な施策ですね。一般の販売前に「特別に提供してくれるんだ」と思ってもらえるほど、顧客のロイヤルティが高いと効果も高いですが、逆にロイヤルティが低いと、単に金額が高いものをセールスされていると捉えられてしまう危険性もありますね。

中村
さらに、一歩進めて、ロイヤルティの高い顧客に感謝を示すための施策として、高機能版の化粧水の本品をプレゼントするという施策もあります。
本品をプレゼントするということはコストがかかりますが、長期にわたって継続的に購入してくれるロイヤルティの高い顧客に対しては、その投資が価値あるものとなり得ます。年間を通じて購入してくれたことに対し、感謝を伝えること自体が、顧客のロイヤルティを高めます。そして、実際に本品をプレゼントすれば、さらにその商品やブランドへの好意が増し、アップセルにつながる可能性が高くなります。

折橋
本品プレゼント施策では、コストも相応にかかるので、まずは対象顧客の購入実績をきちんと把握しておく必要がありまね。
長い間、継続して購入いただいている顧客に、感謝の気持ちを伝えるということだけでも顧客からすれば、企業に対して特別な感情を抱きます。

中村
ただし、これまでの継続購入に対する感謝を前提にプレゼントする、という意図を丁寧に伝えることが重要です。
不特定多数の顧客に向けたプレゼントオファーというより、ロイヤルティの高い顧客に限定して提供している施策であることが伝わると、アップセル商品に対しても肯定的な印象を持ちやすくなります。
多くの事業者がこのような施策を活用してアップセルやクロスセルを成功させている例がありますから、本品をプレゼントするという施策は、有効だと言えるでしょう。

折橋
新規顧客や初期顧客に気を取られがちではありますが、まずはロイヤルティの高い顧客に対する施策に注力していくべきですね。最も大切な顧客ですから。

中村
アップセルを成功させるための重要なポイントは、ロイヤルティのある顧客に施策を実施することです。
ロイヤルティのある顧客に対して、施策の意図を丁寧に伝えると、そのロイヤルティの高さを反映して、施策がより有効に働くことが期待できます。

「クロスセル・アップセル」のまとめ

折橋
クロスセルとアップセルの戦略をまとめると、以下の三つのポイントになります。

クロスセル・アップセルのポイント


一つ目は、クロスセルでは、顧客ごとに異なるセグメントに基づいて、それぞれに合わせた商品を提案することが大切。それぞれの顧客に適したアプローチを順番に行うほうがLTV向上には有効です。

二つ目は、クロスセルの主な課題は、顧客に新しい商品を試してもらうだけでなく、その商品を継続して購入してもらうこと。リピート購入への促進が成功の鍵となります。

三つ目は、事業間クロスセル、特に関連性が低い商品間でのクロスセルを進める場合、企業ロイヤルティをベースに展開することが重要。顧客が企業に対してロイヤルティを持っていることが、カテゴリが異なる商品への関心を高めるために役立ちます。

次回は、ダイレクトマーケティングにおける「顧客育成」の「ロイヤル顧客化」についてお話していきます。

「ダイレクトマーケティング実践講座」シリーズ一覧
ダイレクトマーケティング実践講座〈第1回〉「ターゲット」を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第2回〉コンセプトづくりのコツ
ダイレクトマーケティング実践講座〈第3回〉 「事業モデル」で戦略が異なる
ダイレクトマーケティング実践講座〈第4回〉「商品企画」における重要ポイント
ダイレクトマーケティング実践講座〈第5回〉安定した利益を生み出す「価格」設定とは?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第6回〉ロイヤル顧客を生みだすための「チャネル」「販促」の考え方
ダイレクトマーケティング実践講座〈第7回〉「顧客戦略」は顧客ステージで変える
ダイレクトマーケティング実践講座〈第8回〉戦略のベースとなる5つの「顧客ステージ」とその特徴
ダイレクトマーケティング実践講座〈第9回〉収益化はロイヤル顧客がカギを握る
ダイレクトマーケティング実践講座〈第10回〉顧客獲得に向けた商品選定と戦略思考
ダイレクトマーケティング実践講座〈第11回〉最初のハードル「F2転換の壁」をどう乗り越えるか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第12回〉リピーターを育てるコミュニケーションの要諦
ダイレクトマーケティング実践講座〈第13回〉ブランドへの信頼を築きクロスセルに導く
ダイレクトマーケティング実践講座〈第14回〉第2のハードル「クロスセルの壁」をどう乗り越えるのか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第15回〉 徹底した顧客の理解がクロスセルを促進する
ダイレクトマーケティング実践講座〈第16回〉アップセルの成否は顧客のロイヤルティの見極めにある
ダイレクトマーケティング実践講座〈第17回〉 「ファン化の壁」を乗り越えて、ロイヤル顧客を作る!
ダイレクトマーケティング実践講座〈第18回〉 ロイヤル顧客を維持するには?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第19回〉ロイヤル顧客の育成で直面する3つの課題
ダイレクトマーケティング実践講座〈第20回〉商品配送における顧客価値を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第21回〉コンタクトセンターの「インバウンド」と「アウトバウンド」とは
ダイレクトマーケティング実践講座〈第22回〉コンタクトセンターにおける「VOCの価値」と「顧客対応品質」
ダイレクトマーケティング実践講座〈第23回〉顧客管理の基礎はデータ分析にある

この記事の著者

COCAMPダイレクトマーケティング部

(株)大広が培ってきたダイレクト・マーケティングの知見やノウハウを発信するチーム。 通販の初期から今に至るまで、変化する時代と顧客を見続けてきた第一線のプロデューサーやスタッフをメンバーに、ダイレクトビジネスの問題や課題を、顧客価値の視点から解いていきます。