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2024.02.16

ダイレクトマーケティング実践講座〈第9回〉顧客戦略③カスタマーシェアと収益化

COCAMPコラムの中でも特に人気のテーマである「ダイレクトマーケティング」。この連載コラム「ダイレクトマーケティング実践講座」では、大広と協働し、様々なクライアントのダイレクトマーケティングやCRMを実行する株式会社クロスエムの中村光輝氏とともに、ダイレクトマーケティングで重要な「事業戦略」「顧客戦略・顧客獲得」「顧客育成」「フルフィル・顧客管理」の4つの領域について、現場の実践に基づき解説していきます。

(図表)ダイレクトマーケティング実践講座の全体概要

(図表)ダイレクトマーケティング実践講座の全体概要

第9回は、ダイレクトマーケティングにおける「顧客戦略・顧客獲得」の「顧客戦略」から、「カスタマーシェア」と「収益化」について解説します。

シリーズ一覧は、記事下部をご覧ください

顧客ステージにおけるカスタマーシェアとは?

中村
今回は、「顧客ステージ」の中の「カスタマーシェア」のお話です。

カスタマーシェアとは、特定の顧客が自社の商品をどれだけ利用しているかを示す指標です。
例えば、スキンケアのカテゴリーを例に挙げると、顧客がスキンケア商品に投資する金額の中で、自社の商品が占める割合を見ています。

カスタマーシェアは、自社への顧客のロイヤルティを示すものでもあり、ロイヤルティが高ければ高いほど、カスタマーシェアも高くなるというわけです。

(図表)顧客のロイヤルティを示すカスタマーシェア

(図表)顧客のロイヤルティを示すカスタマーシェア

中村
上の図では、縦軸にカスタマーシェア、横軸にアクションロイヤルティ(累積購入回数や金額)を設定しています。図は左から右へと進むにつれて、自社の累積購入回数や金額が増えることを示しています。

右上にある「ロイヤル顧客」は、そのブランドの商品だけを購入するという意味で、顧客シェアは100%となります。例えば、スキンケア商品の場合、洗顔料から化粧水、乳液、美容液まで全てがそのブランドの商品で揃えられている状態です。

「ロイヤル顧客」の一つ前のステージ、「クロスセル顧客」は、顧客シェアが70%から90%の状態を示します。この顧客は、スキンケア商品を選ぶ際に特定のブランドを主に選びますが、一部の商品(例えば美容液)だけは別のブランドを選ぶ状態です。つまり、主に特定のブランドを選びつつも、一部の商品については他のブランドを選ぶ傾向がある、というイメージを持っていただければと思います。

一つ手前の「安定リピーター」のステージでは、顧客シェアはおおよそ50%程度と考えられます。この顧客は、特定の商品(例えば化粧水)だけをそのブランドで購入する状態です。 

折橋
ダイレクトビジネスでは、新規顧客を獲得することはコストがかかりますから、既存顧客の中で売り上げを増やす、つまりカスタマーシェアを高めることが重要です。これは顧客戦略の中で重要なポイントですね。
何度も出てきましたが、顧客戦略のゴールとは、ロイヤル顧客を増やすということですね。

(図表)顧客ステージでゴールとなるロイヤル顧客

(図表)顧客ステージでゴールとなるロイヤル顧客

中村
上の図「ゴールとなるロイヤル顧客」では、縦軸にマインドロイヤルティ(顧客のブランドに対する好意度、NPSなどで計測)、横軸にアクションロイヤルティ(顧客の累積購入回数や金額、LTVなどで計測)を設定しています。ロイヤル顧客の育成とは、売上貢献度が高く、マインドロイヤルティの高い顧客を増やすことです。

ロイヤル顧客は、ブランドへの直接的な収益だけでなく、新たな顧客を生み出す口コミや紹介による間接的な収益も生み出します。ブランドのアンバサダーとして、口コミを通じてブランドを宣伝してくれます。
ロイヤル顧客が増えれば、ブランドのファンが増え、その結果、新たな優良顧客が増えるので、「プラスのスパイラル」を生む効果があります。
これは、新規顧客を獲得するために高額な広告費をかけるのではなく、コストを抑えつつ良質な顧客を増やす方法として効果的です。このプラスのスパイラルはビジネスにおいて重要な要素となります。 

折橋
ロイヤル顧客、中でもアンバサダーによる説得力のある魅力的な口コミが増えるということは、これから優良顧客になり得る見込み顧客や新規顧客もどんどん増えていくということにつながります。まさにプラスのスパイラルが効いてきます。

中村
顧客戦略を考えるフェーズでは、売上貢献度が高くブランドのファンであるロイヤル顧客を把握することが、まず第一です。そのロイヤル顧客を維持・育成することが顧客戦略そのものになります。これを丁寧に実行することが大切です。

顧客戦略における収益化、その課題と解決策

折橋
さて、顧客戦略という視点で、今度は、「収益化」という内容に移ります。

 中村
まず、一度の購入による収益について考えてみたいと思います。どういう買い方をしてもらうことで利益が出るのか、あるいは赤字になってしまうのかという点を考えてみましょう。

消費財の通販だけでなく、ダイレクトビジネスが広がる現在、時折見かけるのが、一度の購入で利益を上げにくいビジネススタイルです。 
例を挙げてみます。一度の購入が5,000円以上なら利益が出るとします。通販ビジネスの場合、原価や販促コストだけでなく配送料なども考慮する必要があり、一度の購入額が非常に重要になります。逆に言うと、5,000円未満だと赤字になってしまうという状況を想定します。

折橋
一度の購入で5,000円以上にならないと赤字になるという想定ですね。なかなか厳しいですね。
このビジネスで、どういう売り方をすればよいかということですね。

商品A12,000円で、これを1つだけ買っていただくと、支払い金額は2,000円となり、赤字になってしまいます。

(図表)収益化する買い方とは?

(図表)収益化する買い方とは?

収益化のひとつの答え、まとめ買い。でも、顧客の初期段階では難しい?

中村
問題は、どうすれば一度の購入で5,000円以上になるかということです。その一つの答えは、まとめ買いを促進することです。これは商品を継続的に使うことが前提となります。

例えば、一つ2,000円の商品A3つまとめて購入してもらうことで、支払い金額は合計6,000円となり、結果的に利益を得ることができます。 

上図の右端のパターンでは、商品Aだけでなく、商品Bや商品Cも購入してもらうことを想定します。例えば、商品B1,000円、商品C3,000円とします。これらを一緒に購入してもらうことで、クロスセル・併売を実現し、合計金額が6,000円となります。
このパターンでも、合計金額が6,000円に達するため、利益を得ることができます。

初回顧客やリピーターの段階では、継続意思が固まっていないことが多いですね。また、他の商品を一緒に購入する、いわゆるクロスセルの意識もまだ低いでしょう。このような段階だと、先ほどのような黒字化する買い方は必ずしも簡単にできるわけではありません。

中央のパターン、つまり商品A3つまとめて購入するのは、商品Aを継続して使うことがある程度想定できる顧客に限られるということです。

折橋
基本的に、安定リピーターになると、まとめて買うことができますね。いつも買っている商品なので、まとめて買っても使うことがわかっているから。
しかし、顧客の初期段階で、すぐにまとめ買いをするというのは、ハードルが高い。全部使うかどうかわからないから、無駄な出費になる可能性を恐れます。

顧客の初期段階では、クロスセルも難しい?

中村
右端のパターンである、商品Aだけでなく、商品BCも購入するというクロスセルの方法も、初期の段階では難しいです。商品Aをリピートしてもらうだけでも困難な段階なので、さらに他の商品を加えるというのは厳しい。

この例の場合、どのようにすれば顧客にクロスセルを促進できるかということが、事業の収益化という観点から重要な課題となります。これを解決することが、ビジネスとしての成功に繋がるということです。

折橋
利益が出る買い方、ここで言う、商品Aをまとめて2つや3つ購入してもらうことを実現するには、顧客がスムーズに商品を使用し、継続使用してもらえるような方法を考える必要がありますね。

さらに、商品AだけでなくBCも一緒に使うと良いですよ、ということを顧客にいかにイメージさせるかですね。

商品の使い方や買い方を、顧客が自然に思い浮かべられるようにするコミュニケーションが必要になりますし、CRMでそこをアフターフォローしないといけませんね。 

中村
ですから、商品の単価が比較的低い場合、最初の段階からこれらを考慮していないといけませんし、場合によっては商品ラインナップの設定、どうやってこの5,000円というバーを超えられるのかということを商品開発の段階から検討する必要があります。
こういったことが、事業戦略や顧客戦略で必要な要素となります。 

収益化の観点からもう一つ。顧客戦略の側面から考えることも重要です。
新規顧客を獲得するためには、多額のコストがかかります。しかし、初回の購入金額は低く、継続意識も低いため、最初は赤字になることが多いです。 

折橋
そうですよね。まだ2回や3回しか購入していない段階では、利益を出すことが難しいことが多いですよね。
顧客が安定リピーターになるくらいでやっと、黒字化するイメージですね。 

利益に対する貢献度が高いロイヤル顧客

中村
一方で、事業の利益を考えてみます。大半の利益を生み出しているのは、頻繁に購入するヘビーユーザー、ロイヤル顧客です。売上以上に、ロイヤル顧客は利益貢献度が高いというのが特徴です。

折橋
利益を出すことは次の投資への資金となり、事業の長期的な成長には欠かせません。
売上を上げることは確かに大切ですが、継続的な事業成長のためには利益を確保することが重要ですね。ロイヤル顧客は、アンバサダーに象徴されるような、直接的な収益だけでなく、間接的な影響も大きい。 

中村
ロイヤル顧客は継続購入率が高く、ブランドロイヤルティも高く安定しているため、累積的な利益貢献も安定して高く見込めます。

ロイヤル顧客は全体の顧客数の中では少数かもしれませんが、企業の利益の過半数を占めることもあります。そのため、ロイヤル顧客をどのように育てるかは、特に顧客を正確に把握できるダイレクトビジネスにおいて、非常に重要な課題です。

重要なポイントは、LTV、つまり顧客が生涯にわたって会社に貢献する利益を考えると、ロイヤル顧客の貢献度は突出して高いということです。

(図表)収益化に貢献する顧客は?

(図表)収益化に貢献する顧客は?

ダイレクトマーケティングにおける事業計画とは?

折橋
さて、顧客戦略の最後になります、「事業計画」です。
一般的な事業計画では、「商品売上の積み上げ」が基本となりますよね。

中村
ダイレクトビジネスの場合、「顧客の積み上げ」の視点から計画を作ることもあります。

(図表)顧客の積み上げでつくるダイレクトマーケティングの事業計画

(図表)顧客の積み上げでつくるダイレクトマーケティングの事業計画

中村
図を見てみましょう。この表は顧客基点の事業計画を示しています。ここではシンプルに、「顧客数 × 顧客単価 = 年間売上金額」という計算式を用いています。そして、顧客ステージ別に算出をするのが基本の考え方になります。

第8回で話をした5つの顧客ステージ、すなわち初回顧客、リピーター、安定リピーター、クロスセル顧客、ロイヤル顧客です。例えば、各ステージに200人ずつ、合計で1,000人の顧客がいるとします。それぞれのステージで顧客単価は異なるため、その単価に基づいて年間売上金額が算出されます。
左の表では、例えば年間売上が約4,220万円となるとしましょう。

事業計画をどのように考えるかというと、新規顧客を増やして売上を伸ばす方法もありますが、クロスセル顧客やロイヤル顧客を増やすことに注力する方法も考えられます。

右の表を見てください。全体の顧客数は1,000人と左の表と変わりません。ここでは、各ステージの顧客単価がそれぞれ左の表と同じだった場合、初回顧客やリピーターの顧客数は減っても、逆にクロスセル顧客やロイヤル顧客が増えると、売上金額は自ずと増加します。顧客数自体は変わらないものの、売上は約30%アップするというわけです。

折橋
売上を伸ばすために新規顧客を増やすのか、それとも安定したロイヤル顧客やクロスセル顧客を増やして長期的に利益を蓄積していくのか、という選択ですね。

中村
この例は一年間の売上の動きを示していますが、これが積み重なり年数が経つと、その効果は一層高まります。したがって、顧客ステージごとの顧客の動向を把握することは、ダイレクトビジネスの計画をより精度高く行う上で重要です。

折橋
つまり、新規顧客をどれだけ獲得するかも大切ですが、それ以上に既存顧客をどのように増やすかが重要ですね。これが顧客計画そのものだと。ダイレクトマーケティング特有の事業計画とは、結局のところ、ロイヤル顧客をどう増やすかという顧客計画そのものとも言えますね

第7回から解説してきた顧客戦略のまとめ

中村
第7回から話してきた顧客戦略全体をおさらいしましょう。

まず一つ目は、自社の顧客構造をしっかりと理解することです。これは顧客の特性や構成を把握することを指します。その上で戦略を設計します。私は個人的にクロスセルモデルが好きですが、単品定期モデルも含め、自社の現状や課題を把握した上で、顧客戦略や具体的な打ち手を考えることが必要です。

二つ目は、ダイレクトビジネスでは、顧客ステージという視点が重要です。顧客を一括りに考えるのではなく、顧客ステージごとに課題を明確にし、それに対する適切な対策を打つことが大切です。

三つ目は、自社のロイヤル顧客を深く把握することです。これは、長く愛用しているお客様や累積金額の高いお客様を特定するだけでなく、定義を明確にしてそのお客様のインサイトを詳細に把握することが重要です。ロイヤル顧客の課題を把握し続けることで、自社の事業を健全に運用することができます。

折橋
ダイレクトマーケティングのキーファクターとしては、もう何度も言っていることではありますが、ロイヤル顧客の育成と維持であると。

中村
それが顧客戦略ですね。 


まとめ

ダイレクトマーケティングの戦略では、収益化のためにもロイヤル顧客が重要です。

カスタマーシェアの重要性

  • カスタマーシェアは、特定の顧客が自社の商品をどれだけ利用しているかを示す指標であり、顧客のロイヤルティと関係しています。ロイヤルティが高いほど、カスタマーシェアも高くなります。
  • 顧客は「ロイヤル顧客」「クロスセル顧客」「安定リピーター」といったステージに分けられ、企業はロイヤル顧客を増やすことを目指すべきです。
    収益化の課題
  • 収益化のためには、一度の購入で利益を出すことが重要で、特に消費財ビジネスでは、一回の購入金額が赤字にならないような売り方を考える必要があります。
  • 利益を生むまとめ買いやクロスセル促進は、初期段階では顧客が継続的に購入する意思を持つことが難しいため、戦略が必要です。

収益化の課題

  • 収益化のためには、一度の購入で利益を出すことが重要で、特に消費財ビジネスでは、一回の購入金額が赤字にならないような売り方を考える必要があります。
  • 利益を生むまとめ買いやクロスセル促進は、初期段階では顧客が継続的に購入する意思を持つことが難しいため、戦略が必要です。

事業計画の視点

  • ダイレクトビジネスでは「顧客の積み上げ」に基づく事業計画が重要で、顧客数や顧客単価を考慮して年間売上を算出します。
  • 新規顧客獲得だけでなく、ロイヤル顧客やクロスセル顧客を増やすことが長期的な利益につながります。

次回は、ダイレクトマーケティングにおける「顧客戦略・顧客獲得」の「顧客獲得」についてお話していきます。

<ダイレクトマーケティング実践講座 講師>

(写真)中村 光輝中村 光輝
(株)クロスエム 代表取締役
通販会社にて18年間、CRMを中心にマーケティング業務に従事。その後、2014年に独立。主に化粧品や健康食品などのダイレクト事業を対象に、CRMのプランニングやマーケティング戦略の立案、顧客分析などをサポート。特に、ロイヤル顧客を軸とした戦略・施策のコンサルティングを多数手掛ける。

(写真)折橋 雄一折橋 雄一
(株)大広 顧客価値開発本部 顧客育成局 マネジメントリーダー
メディアバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にしたアクイジション領域から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。調査と分析を核としたPDCAと、得られた知見を統合しオジリナルメソッドを開発することに力を注いでおり、通販の顧客インサイトを可視化した「カスタマージャーニーマップ」や口コミ循環のマーケティングモデルである「アンバサダーハリケーンモデル」を開発。

ダイレクトマーケティング講座〈第9回〉はいかがでしたでしょうか?COCAMPでは、これからも、みなさまの業務に役立つコンテンツを掲載してまいります。これを機会にメルマガ登録をお願いします。

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この記事の著者

COCAMPダイレクトマーケティング部

(株)大広が培ってきたダイレクト・マーケティングの知見やノウハウを発信するチーム。 通販の初期から今に至るまで、変化する時代と顧客を見続けてきた第一線のプロデューサーやスタッフをメンバーに、ダイレクトビジネスの問題や課題を、顧客価値の視点から解いていきます。