COCAMPコラムの中でも特に人気のテーマである「ダイレクトマーケティング」。この連載コラム「ダイレクトマーケティング実践講座」では、大広と協働し、様々なクライアントのダイレクトマーケティングやCRMを実行する株式会社クロスエムの中村光輝氏とともに、ダイレクトマーケティングで重要な「事業戦略」「顧客戦略・顧客獲得」「顧客育成」「フルフィル・顧客管理」の4つの領域について、現場の実践に基づき解説していきます。
第13回は、ダイレクトマーケティングにおける「顧客育成」の「クロスセル・アップセルのポイント」から、「クロスセルの順番」について解説します。
シリーズ一覧は、記事下部をご覧ください
<ダイレクトマーケティング実践講座 講師>
中村 光輝
(株)クロスエム 代表取締役
通販会社にて18年間、CRMを中心にマーケティング業務に従事。その後、2014年に独立。主に化粧品や健康食品などのダイレク ト事業を対象に、CRMのプランニングやマーケティング戦略の立案、顧客分析などをサポート。特に、ロイヤル顧客を軸とした戦略・施策のコンサルティングを多数手掛ける。
折橋 雄一
(株)大広 顧客価値開発本部 顧客育成局 マネジメントリーダー
メディアバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にしたアクイジション領域から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。調査と分析を核としたPDCAと、得られた知見を統合しオジリナルメソッドを開発することに力を注いでおり、通販の顧客インサイトを可視化した「カスタマージャーニーマップ」や口コミ循環のマーケティングモデルである「アンバサダーハリケーンモデル」を開発。
クロスセル・アップセルとは
折橋
今回から、「顧客育成」のフェーズに入ります。顧客育成の中で、なかなかクロスセルが発生しないというお悩みを持っている企業様は多いと思います。これをどう拭していくのかを話していきます。
そして肝になってくる、ロイヤル顧客をどう増やしていくのかについても解説していきます。
中村
まずは、クロスセル、アップセルから始めます。そこであらためて、顧客ステージの話を少し触れておきたいと思います。
下の図は、顧客の流れをいくつかのステージに分けたものになります。
見込み客から初回購入顧客になり、リピーターになり、さらに安定したリピート状態の顧客に引き上がっていくわけですが、ここからクロスセルが本格的に働くかどうかが、優良顧客化するかしないかの分かれ目になります。
顧客は、継続購入はしてくれても、多くの場合、なかなかクロスセルが働かないという「クロスセルの壁」が大きな悩みの一つです。
折橋
改めて、クロスセル、アップセルについても整理しておきましょうか。
中村
「クロスセル」は、販売手法の一つで、ある商品を購入した顧客に対して、追加で他の商品も買ってもらうことを目指します。基本的に、クロスセルでは顧客が既に買っている商品と関連性の高い商品を提案することが多いです。なぜなら、関連商品の方が顧客に受け入れられやすいからです。例えば、化粧品で、顧客が保湿用の化粧水を買った場合、同じ保湿シリーズの乳液やクリームを勧めます。
また、購入商品の効果をサポートするアイテムを勧める方法もあります。例えば、化粧水の浸透を高めるための専用コットンを提案するといったことです。
そういったアイテムを一緒に使うことによって、浸透力を高め保湿効果を高めるという売り方をすることがクロスセルという施策のイメージです。
折橋
購入いただいているということは、その商品にベネフィットを感じているわけで、それと関連性が高い商品なら、さらにベネフィットが向上するという期待が持てます。
また、追加のアイテムを併用することで、より高いベネフィットが感じられるというのも、期待が大きく、また買いやすいですよね。
中村
次に、「アップセル」は、顧客が選んだ商品に対して、より高価な商品を購入してもらう販売手法です。これは、顧客に対して、高機能や付加価値がある上位モデルなどの高価格商品への移行を促す施策です。顧客が現在選んでいる商品の上位バージョンや高機能モデルを提案する、というイメージです。
例えば、化粧品や健康食品なら、配合されている成分にプラスして、さらに別の成分も入っている、あるいは成分がより高配合になっているといった高機能を訴求して、より価格が高い商品への移行を促します。
顧客への商品提案は「順番」がカギ
折橋
クロスセル、アップセルとも、顧客単価が高くなるということで、LTVを高めることができるため、とても重要な施策ですね。
しかし、これがなかなか難しいというのが、多くの企業様が悩んでいる問題でした。
中村
様々な事業に関わらせていただいた中で感じるのは、クロスセル施策の順番が適切でない、ということです。
顧客の現在購入している商品を考慮せずに、やみくもにいろんな商品をセールスしても、なかなか二つ目の商品は買ってくれません。
折橋
確かに、企業側に売りたい商品があって、それをいつもセールスしているというイメージはありますね。
そうではなくて、対象顧客に適した商品を提案しないといけない、ということですよね。
中村
ターゲット顧客のセグメントとその特性を理解し、それに合致した商品をクロスセルすることが重要です。次の図を見てください。
顧客が商品を購入する順番に沿ってクロスセルを検討することが効果的です。
左から順に、最初にクロスセルすべき商品、次いで二番目、三番目というように商品特性があると考えて下さい。
例えば、化粧水購入者に対するクロスセルでは、まず、同じ「化粧品カテゴリ」内の関連性の高い商品をおすすめします。特に化粧水の後に使う乳液やクリームは、顧客にとって自然な提案です。化粧水が気に入った顧客は、同じラインの乳液なども自分に合うと感じる可能性が高いため、この組み合わせを最初にクロスセルとして提案するのは理にかなっています。
折橋
化粧水、乳液というのは連続して使うことが多い商品です。自分の肌に合った同じブランドで揃えることで、ベネフィットをより感じられるという期待もありますから、自然な流れですし、受け入れやすいですよね。
中村
乳液などのスキンケア品購入後のクロスセルでは、スキンケアの範囲を超えて提案を広げる方法が一つです。化粧水との直接的な関連性は薄れるものの、メイクアップ商品なども選択肢になります。もし同一ブランドが提供するメイクアップ品がスキンケア商品と同じこだわりやコンセプトで作られていれば、顧客はきっと自分に合っているのではないかと感じやすいでしょう。したがって、化粧水や乳液などのスキンケア品に続いて、メイクアップ品の提案は自然な流れとなります。
折橋
最初に購入した化粧水と同じカテゴリであるスキンケア関連でどんどん広げていくということも、商品ラインナップ数には限界はありますからね。
そこで、同じコンセプトの商品ということであれば、関連性を保ってお勧めできるし、自然な流れになりますね。
中村
化粧品の購入後、顧客には化粧品カテゴリ以外の商品をお勧めすることが次のステップとなります。これを「事業間クロスセル」とも呼びますが、全く異なるカテゴリの商品を提案すると顧客は違和感を覚え、他のブランドから購入することを検討するかもしれません。そのため、化粧品と何らかの関連性がある商品、特にベネフィットやブランド選択要素が共通する美容関連の商品が適しています。
例えば、美容を目的としたサプリメントは化粧品購入者にとって親和性が高く、すでに別のブランドで美容サプリを購入している場合でも、「このブランドの化粧品が良かったから、同じブランドのサプリメントも試してみよう」と考えやすいです。
折橋
この「事業間クロスセル」が成立するかどうかは、購入している商品だけではなくて、ブランドや企業が自分に合っており、ロイヤルティを感じていただけていることがベースになるかと思います。
中村
そうですね。
顧客が幾つかの商品を購入し、ブランドへの信頼を築いた後、最初に購入したものとは関連性が低いカテゴリへとクロスセルを広げていくのが一般的な流れです。例えば、化粧品と直接関連のないアパレル商品(例えば下着など)もそのブランドから購入することを検討するようになります。これは、顧客が「このブランドなら高品質な商品を提供してくれる」と信頼しているからです。ブランドのファンであれば、どのようなカテゴリであってもそのブランドの商品を欲しいと考える顧客がいるため、多岐にわたるクロスセルが可能になると考えられます。
折橋
このクロスセルの順番ということについては、我々が開発した「クロスセルカスタマージャーニーマップ」でも表現しています。
商品にしか興味のない顧客は、周辺商品のクロスセルには進む可能性があるが、カテゴリを超えるクロスセルは発生しにくい。必然的に、LTVは中程度となる。
LTVを高める「カテゴリを超えたクロスセル」を発生させるには、企業・ブランドを好きになって、「この企業からならいろいろ買いたい」と思っていただくことが必要。そこでは、企業やブランドを好きになってもらうアプローチ(絆の架け橋)が重要になる、としています。
次回は、ダイレクトマーケティングにおける「顧客育成」の「クロスセル・アップセルのポイント」から、「クロスセルの課題」についてお話していきます。
ダイレクトマーケティング実践講座講師の中村・折橋へのご質問やご相談は、こちらへお寄せください。
「ダイレクトマーケティング実践講座」シリーズ一覧
ダイレクトマーケティング実践講座〈第1回〉「ターゲット」を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第2回〉コンセプトづくりのコツ
ダイレクトマーケティング実践講座〈第3回〉 「事業モデル」で戦略が異なる
ダイレクトマーケティング実践講座〈第4回〉「商品企画」における重要ポイント
ダイレクトマーケティング実践講座〈第5回〉安定した利益を生み出す「価格」設定とは?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第6回〉ロイヤル顧客を生みだすための「チャネル」「販促」の考え方
ダイレクトマーケティング実践講座〈第7回〉「顧客戦略」は顧客ステージで変える
ダイレクトマーケティング実践講座〈第8回〉戦略のベースとなる5つの「顧客ステージ」とその特徴
ダイレクトマーケティング実践講座〈第9回〉収益化はロイヤル顧客がカギを握る
ダイレクトマーケティング実践講座〈第10回〉顧客獲得に向けた商品選定と戦略思考
ダイレクトマーケティング実践講座〈第11回〉最初のハードル「F2転換の壁」をどう乗り越えるか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第12回〉リピーターを育てるコミュニケーションの要諦
ダイレクトマーケティング実践講座〈第13回〉ブランドへの信頼を築きクロスセルに導く
ダイレクトマーケティング実践講座〈第14回〉第2のハードル「クロスセルの壁」をどう乗り越えるのか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第15回〉 徹底した顧客の理解がクロスセルを促進する
ダイレクトマーケティング実践講座〈第16回〉アップセルの成否は顧客のロイヤルティの見極めにある
ダイレクトマーケティング実践講座〈第17回〉 「ファン化の壁」を乗り越えて、ロイヤル顧客を作る!
ダイレクトマーケティング実践講座〈第18回〉 ロイヤル顧客を維持するには?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第19回〉ロイヤル顧客の育成で直面する3つの課題
ダイレクトマーケティング実践講座〈第20回〉商品配送における顧客価値を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第21回〉コンタクトセンターの「インバウンド」と「アウトバウンド」とは
ダイレクトマーケティング実践講座〈第22回〉コンタクトセンターにおける「VOCの価値」と「顧客対応品質」
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ダイレクトマーケティング実践講座〈第24回〉打つべき手が見える形でデータを整理し活用する
ダイレクトマーケティング実践講座〈第25回〉CRMに欠かせない「顧客管理」、その重要な3つのポイント