COCAMPコラムの中でも特に人気のテーマである「ダイレクトマーケティング」。この連載コラム「ダイレクトマーケティング実践講座」では、大広と協働し、様々なクライアントのダイレクトマーケティングやCRMを実行する株式会社クロスエムの中村光輝氏とともに、ダイレクトマーケティングで重要な「事業戦略」「顧客戦略・顧客獲得」「顧客育成」「フルフィル・顧客管理」の4つの領域について、現場の実践に基づき解説していきます。
第10回は、ダイレクトマーケティングにおける「顧客戦略・顧客獲得」の「顧客戦略」から、「獲得商品」について解説します。
シリーズ一覧は、記事下部をご覧ください
<ダイレクトマーケティング実践講座 講師>
中村 光輝
(株)クロスエム 代表取締役
通販会社にて18年間、CRMを中心にマーケティング業務に従事。その後、2014年に独立。主に化粧品や健康食品などのダイレク ト事業を対象に、CRMのプランニングやマーケティング戦略の立案、顧客分析などをサポート。特に、ロイヤル顧客を軸とした戦略・施策のコンサルティングを多数手掛ける。
折橋 雄一
(株)大広 顧客価値開発本部 顧客育成局 マネジメントリーダー
メディアバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にしたアクイジション領域から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。調査と分析を核としたPDCAと、得られた知見を統合しオジリナルメソッドを開発することに力を注いでおり、通販の顧客インサイトを可視化した「カスタマージャーニーマップ」や口コミ循環のマーケティングモデルである「アンバサダーハリケーンモデル」を開発。
顧客獲得するための商品選びのポイント
折橋
それでは次に、「顧客獲得」のフェーズに進みましょう。
顧客獲得のための商品、"獲得商品"とも呼ばれますが、その商品の種類やタイプについてのお話になります。
見込み客が初回購入しやすいハードルの低い商品は何か?または、継続購入しやすい商品は何か?を考える必要がありますね。
中村
顧客戦略という視点を含めて、獲得商品を設定することになります。
商品は主に3つのカテゴリーに分けられます。
1つ目は「お試し商品」で、これはフルサイズの本品ではなく、少量のお試し商品です。
2つ目は「本品」で、これはお試し商品のような少量のサイズではなく、最初からフルサイズの本品を購入いただくもので、都度購入する方法となる商品です。
3つ目は「定期購入商品」で、基本的にはフルサイズの同じ本品を、定期的にお届けする方法で購入する商品です。通販でよく見られますね。
それぞれ初回購入のハードル、F2継続率で特徴があります。
折橋
言うまでもなく、「お試し商品」というのは、価格自体も安いので、初回購入のハードルは非常に低いですね。手軽に購入できます。
ただし、手軽さゆえにそこから本商品を購入する率は低くはなりますね。
中村
「お試し商品」は気軽に購入できるため、顧客は買ってはみたけれど、結局使わなかったり、そもそも買ったことさえ忘れてしまう、ということもあります。
しかし、例えばスキンケア商品では、商品の使用感を確認することが非常に重要です。自分の肌に合うかどうかを確かめる必要があります。このような目的からすると、「お試し商品」は有効な戦略と言えます。特に、商品の特性を確認したいというニーズが高い商品カテゴリーでは、「お試し商品」は非常に効果的です。
折橋
そうですね。興味はあるけど、本当に自分に合っているかどうか試してみたい、という要望は強いですよね。お試しできるなら申し込んでみようという人は多いと思います。
次に、初回本品購入です。「本品」を最初から購入する選択肢は、初回のハードルがやや高く、スタートが少し難しくなります。本品は当然ながら量が多く、価格もそれに比例して高いですよね。
中村
これを緩和するために、値引きや割引オファーなどの手段があります。例えば、初回購入を80%オフにするなどして顧客を獲得する方法です。これは特に通販商品でよく見られます。
しかし、元々の価格が高いため、獲得効率は低めになります。これは、本品で新規顧客を獲得する一つの課題と言えるでしょう。
一方で、初回に本品を購入する場合、顧客はその商品を一定期間使うことができます。これにより、二回目の購入など継続購入の確率は、初回にお試し商品を購入した顧客よりも高くなる傾向があります。
また、別の観点から見ると、小さな会社や新規事業がダイレクトビジネスを始める場合、お試し商品を作るのはコストがかかりすぎることが考えられます。小さい容器などを少量発注すると、予想外に高いコストがかかることがあります。そのため、ミニサイズのお試し商品の原価が本品よりも高くなることもあります。このような経済的な制約から、新規顧客を「本品」で獲得するという選択をとることもあります。
折橋
そうですね。お試し商品は意外とコストがかかるんですよね。
逆に、顧客の側からすれば、本商品を安価で、1か月程度しっかり試せるというメリットも出ますね。
中村
定期購入のようにハードルが高くなるわけではないので、初回購入のハードルは中ぐらいと言えます。
3つ目、「最初から定期購入」で顧客を獲得する選択肢もあります。これは「初回定期」などとも呼ばれます。しかし、定期購入に対する顧客の心理的なハードルは非常に高く、これにより顧客獲得の効率が低下する可能性があります。
折橋
しかし、定期購入ですから、二回目以降の継続率(F2継続率)は比較的高くなりますね。
中村
商品の特性や使用感の確認などを考慮に入れつつ、新規顧客の獲得効率と二回目以降の購入(F2)の転換率や継続率をバランス良く見極めることが、初回購入を促す商品選びの鍵となります。これが初回購入顧客を獲得するための商品選びの基本的な考え方です。
「勝ちパターン」の早期確立が重要
折橋
次は、「顧客獲得の勝ちパターン」です。
特に新しい事業を始める際には、いかに早期に「顧客獲得の勝ちパターン」を確立できるかが、一つの大きな課題となりますね。
中村
まず、新規顧客(F1)獲得の基本的な戦略は、どのメディアで顧客を獲得するのが最適か、そしてどのクリエイティブが最も効率的な獲得をもたらすか、といった要素の組み合わせを通じて「勝ちパターン」を作り出すことです。
クリエイティブ要素をさらに深掘りすると、特にウェブ展開が主流となっている現在、メインコピーの選択や、LP(ランディングページ)のファーストビュー(最初に見る画面)の設計が重要となります。例えば、化粧品の場合、人物が映っている画像が良いのか、それとも人物はない方が良いのかというような点は、よくテストされます。
そして、ファーストビューにどのような要素を含めるのが最適か、という点も重要な考慮事項となります。
折橋
顧客獲得効果の高い勝ちパターンの広告クリエイティブを、「勝ちクリ(クリエイティブ)」と呼んだりしていますね。新規獲得広告では、ひとつの「勝ちクリ」ではすぐに疲弊して、効率が悪くなるので、次々と「勝ちクリ」を開発していかなければなりません。
中村
同様に、クリエイティブ要素の一部として「オファー」も重要です。
オファーは、クリエイティブとは少し異なる側面を持っています。お試し価格や割引率をどのように設定するのが最適か、またはプレゼントを追加するとどうなるのかなどを考慮し、それらをテストすることがあります。
最後に考慮すべきは「獲得商品」です。お試し商品のほうがいいのか、それとも本品でも一定レベルの獲得効率が得られるのかを見定めていく。
これらの要素を、特にABテストを通じて初期段階で評価し、最適な戦略、いわゆる「勝ちパターン」を早期に確立することが大切です。その評価指標としては、獲得効率(CPO、CPAなど)があります。
「勝ちパターン」は新規顧客獲得率だけでは決まらない
中村
さらに、一定の顧客数、ボリュームを獲得できることも重要な要素です。獲得効率が良くても、獲得できる顧客数が少なければビジネスの拡大は難しいからです。
獲得効率と獲得数のバランスを見ながら、「勝ちパターン」を確立することが基本的な戦略となります。
折橋
企業によって、折込みチラシで勝ちパターンを持っていたり、TVインフォマーシャルが得意だったり、ウェブが良かったりと、得手不得手があったりするんですよね。
しかし、以前は、新規顧客の獲得広告にばかり目が行っていて、その効率を追い求めていくという会社も多かったんですが、2回目以降の継続が良くないとビジネスとしては成り立たないので、継続率に注目する会社が多くなってきていますね。
中村
そうですね。
新規顧客の獲得のみで「勝ちパターン」を作るだけでは、満足しない企業が多いです。二回目以降の購入(F2、F3)が増えない、または顧客が継続しないと、事業が安定しないという課題につながります。
そのため、新規顧客獲得の「勝ちパターン」を作る際には、二回目以降の購入(F2、F3)の転換率や継続率を考慮に入れ、それらを向上させる戦略をワンセットで考える必要があります。
折橋
新規顧客(F1)獲得のためのメディアやクリエイティブだけでなく、獲得した顧客が継続して商品を購入(F2)しているか、そしてそのためのコストまでを考慮に入れることが現実的だと思います。
これらを一つのセットとして考え、早期に「勝ちパターン」を確立することが必要になるということですね。
中村
事業を始める際、初期の計画では「勝ちパターン」を3ヶ月程度で確立することを目指す会社も少なくありません。しかし、実際には半年や1年かかることが多く、ときには1年経ってもなかなか「勝ちパターン」が見つからないことも珍しくありません。
そこで、3か月や半年という期間を設定し、その中で最善の戦略を確立していくというのが現実的なアプローチだと考えます。
また、新規顧客の獲得や二回目の購入(F2)までを目指すだけでなく、獲得した顧客の属性(年齢、性別など)や、獲得したメディアごとの顧客特性(例えば、オフラインメディアで獲得したが、実際にはウェブに親和性がある顧客など)を把握することも重要です。
これらの情報を早い段階で把握することで、例えば、獲得した顧客をウェブに誘導するなどのCRM戦略を立てることでコスト効率を向上させることが可能になります。
顧客の属性やメディアリテラシーといった情報は、全体的な顧客育成戦略においても非常に重要な情報です。
折橋
まとめますと、新規顧客の獲得効率だけでは、「勝ちパターン」とは言えない、二回目の購入(F2)までの顧客を対象に考えることが重要。
そして、新規顧客の獲得数(ボリューム)と効率のバランスを見極め、それに基づいて自社の「勝ちパターン」を判断していかないといけない、ということになります。
次回は、ダイレクトマーケティングにおける「顧客戦略・顧客獲得」の「顧客獲得」から、「F2転換」についてお話していきます。
ダイレクトマーケティング実践講座講師の中村・折橋へのご質問やご相談は、こちらへお寄せください。
「ダイレクトマーケティング実践講座」シリーズ一覧
ダイレクトマーケティング実践講座〈第1回〉「ターゲット」を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第2回〉コンセプトづくりのコツ
ダイレクトマーケティング実践講座〈第3回〉 「事業モデル」で戦略が異なる
ダイレクトマーケティング実践講座〈第4回〉「商品企画」における重要ポイント
ダイレクトマーケティング実践講座〈第5回〉安定した利益を生み出す「価格」設定とは?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第6回〉ロイヤル顧客を生みだすための「チャネル」「販促」の考え方
ダイレクトマーケティング実践講座〈第7回〉「顧客戦略」は顧客ステージで変える
ダイレクトマーケティング実践講座〈第8回〉戦略のベースとなる5つの「顧客ステージ」とその特徴
ダイレクトマーケティング実践講座〈第9回〉収益化はロイヤル顧客がカギを握る
ダイレクトマーケティング実践講座〈第10回〉顧客獲得に向けた商品選定と戦略思考
ダイレクトマーケティング実践講座〈第11回〉最初のハードル「F2転換の壁」をどう乗り越えるか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第12回〉リピーターを育てるコミュニケーションの要諦
ダイレクトマーケティング実践講座〈第13回〉ブランドへの信頼を築きクロスセルに導く
ダイレクトマーケティング実践講座〈第14回〉第2のハードル「クロスセルの壁」をどう乗り越えるのか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第15回〉 徹底した顧客の理解がクロスセルを促進する
ダイレクトマーケティング実践講座〈第16回〉アップセルの成否は顧客のロイヤルティの見極めにある
ダイレクトマーケティング実践講座〈第17回〉 「ファン化の壁」を乗り越えて、ロイヤル顧客を作る!
ダイレクトマーケティング実践講座〈第18回〉 ロイヤル顧客を維持するには?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第19回〉ロイヤル顧客の育成で直面する3つの課題
ダイレクトマーケティング実践講座〈第20回〉商品配送における顧客価値を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第21回〉コンタクトセンターの「インバウンド」と「アウトバウンド」とは
ダイレクトマーケティング実践講座〈第22回〉コンタクトセンターにおける「VOCの価値」と「顧客対応品質」
ダイレクトマーケティング実践講座〈第23回〉顧客管理の基礎はデータ分析にある
ダイレクトマーケティング実践講座〈第24回〉打つべき手が見える形でデータを整理し活用する
ダイレクトマーケティング実践講座〈第25回〉CRMに欠かせない「顧客管理」、その重要な3つのポイント