WEBやSNSが普及し顧客と直接接点を持つことが容易になった現在、商品やサービスをダイレクトに販売するD2Cビジネスはますます注目を集めています。中でも比較的新規参入のハードルが低く、独自の価値を提供できる「単品リピート型」のD2C市場は拡大を続けています。
しかし、プレイヤーが増え競争が激化した結果、売り上げに伸び悩む企業も少なくありません。本記事では、多くの単品リピート型D2C事業が直面する課題を乗り越え、持続的な成長を実現するための成長戦略を解説します。特に、LTV(顧客生涯価値)の最大化、高騰する顧客獲得コストの最適化対策、そしてファンマーケティングやクロスセル・アップセルといった具体的なアプローチに焦点を当てていきます。
「単品リピート型」ビジネスモデルの優位性と「LTV」向上の重要性
「単品リピート型」とは、あるブランドの1つの商品を定期的に複数回購入し続けてもらうビジネスモデルです。D2Cで取り扱われる商品は多岐にわたりますが、一定のペースで消費される健康食品や化粧品は「単品リピート型」が多い傾向にあります。
売上金額は「顧客数 × 顧客単価」で決まるため、顧客に継続して商品を購入してもらうことで安定した売り上げを確保できます。定期購入顧客数がある程度維持できれば、毎月の売上予測が立てやすく、景気や流通の影響も受けにくいため、中・長期的に安定した事業運営がしやすい点が単品リピート型のメリットと言えるでしょう。
多くの単品リピート型D2C企業は、この事業モデルで売り上げを伸ばし、早期に事業への初期投資を回収して黒字化を実現しています。その後は、安定したLTVを持つ定期購入顧客数を維持しながら、広告プロモーションに投資して新たな顧客を獲得することで事業を拡大しています。
ただし、近年はプレイヤーが増加しているため、サプリメント市場などでもシニア層からミドル層、さらに若い世代へとSNSなどを通したアプローチが拡大傾向にあります。健康食品のダイレクト販売業界の勢力図も、ここ5〜10年の間で大きく変化しています。
高騰する「顧客獲得コスト」とその「対策」
「単品リピート型」事業の成長は、基本的に買い続けてくれる顧客を増やすことによって実現します。そのため、定期顧客を一人増やすためにどれくらいのコストがかかるかが非常に重要です。この受注1件あたりのコスト(CPO)、すなわち顧客獲得コストは、20年ほど前と比べると2〜3倍に高騰しており、顧客を増やすための費用が事業拡大のネックになっています。
顧客数を増やすためにより多くの広告プロモーションに投資することは、事業の損益計算書(PL)を圧迫することに直結します。顧客獲得に多額の費用がかかることで、企業は赤字を抱える期間が長くなります。従来は1年間の継続購入で利益が出ていたものが、現在では1年半から2年と回収期間が長期化し、黒字化が遅れる傾向にあるのです。そうなると広告投資に回せる資金が減り、新規顧客獲得も進まないという悪循環に陥ってしまいます。特に、ある程度の売り上げ規模まで成長した企業や、商品に競争力がない事業者が伸び悩むのは、このようなケースが多く見られます。
CRM活動による顧客の離脱率低減と「LTV」の向上
新規顧客の獲得が難しい状況であれば、現在商品を購入し続けてくれている定期購入顧客の離脱を防ぐことが極めて重要です。メールやLINEなどのSNSサービス、DM、その他オウンドメディアなどを通して、適切な頻度と情報量で顧客と接触し、長期継続購入へのインセンティブを付与するといった、十分なCRM活動を行うことで、顧客の離脱率をある程度まで低減できます。
これはLTVを向上させる上で不可欠な対策です。もちろん、店頭販売であれD2Cであれ、サービスから離れていく顧客は必ずいます。現状で10%の顧客が離脱しているとしたら、それを5%、さらには3%と、継続的に離脱率を減らすための施策を講じ続ける必要があります。
既存顧客にも有効な新規顧客獲得向け広告の「顧客獲得コスト」への影響
ダイレクトビジネスにおいて、広告活動は店舗の代わりという考え方ができます。そのため、その広告を見て申し込んだ新規顧客数や、1人当たりの定期CPO(顧客獲得コスト)などを分析することはもちろん重要です。しかし、近年では既存顧客への広告の影響も重視されています。新規顧客獲得向けの広告は、その商品を購入している既存顧客も目にします。広告に接触した既存顧客は「自分の選択は正しかった」「良い商品を選んだ」と再認識し、これがプライドメンテナンスに繋がり、結果的に離脱率の低下に貢献します。これまでは新規顧客獲得のためのコミュニケーションに重きを置いていましたが、最近では既存顧客に対する広告の影響も非常に重視されています。広告メッセージも、既存顧客のプライドを損なわない内容であることが求められます。
「クロスセル」「アップセル」戦略で顧客単価と「LTV」を最大化
顧客一人当たりの購入単価を上げる方策として「クロスセル」と「アップセル」があります。クロスセルは、他の商品も併せて購入してもらうことで客単価アップを図る手法です。一方、アップセルは、現在購入している商品よりも高額な上位商品に切り替えてもらうことで客単価を上げていきます。新規顧客の獲得が難しくなっている現在、既存顧客の単価を上げていくことに力を入れているメーカーや事業者は多く見られます。
しかし、健康食品をクロスセルするといっても、健康食品を10個も購入する人は稀でしょう。アップセルにおいても、5千円の化粧品を使っている人が、良い商品だからといってすぐに月5万円の化粧品を購入することは考えにくいです。そのため、同じカテゴリーの商品だけでは、いずれマネタイズに限界が訪れる可能性があります。
例えば、膝の痛みに効くサプリメントに加え、足の力をつける機能的なシューズも販売すると、同じニーズで異なるセグメントの商品にまで購入動機を広げられます。かつてはこうしたラインナップの拡充も盛んでした。近年ではクロスセルの考え方も進化しており、例えばナイキでは、シューズの販売だけでなく、走行データを表示するアプリ「ナイキプラス」を提供しています。スニーカーやウェアだけでは販売に限界がありますが、運動データが蓄積されるアプリであれば、自己の記録データを失うというスイッチングコストが生じるため、クロスセルと同時に継続意向も高まります。つまり、シューズ購入後も定期的な売り上げを維持し、顧客との関係も保つことができるのです。
このように、最近は顧客情報を分析し、顧客が他にどんな興味を持っているのかという傾向を掴んで、そこに対して商品や価値を提供することを重視しています。顧客のデモグラフィック分析、購入頻度、購入タイミング、購買商品傾向、自社サイト訪問履歴などの行動データに加え、顧客の性格といった定性データも組み合わせて推奨商品や推奨タイミングを出し分けることで、クロスセル・アップセルの精度を向上させています。
「顧客獲得コスト」を改善するための戦略的アプローチ
同じ商品を売り続けて商品が市場に浸透すればするほど、顧客獲得効率はどんどん悪化します。これは店頭販売でも同じ現象です。お茶や洗剤などの消費財は、成分を変えたりパッケージを変えたりと何かしらバリューアップをして消費者の購買意欲を刺激しています。しかし、経口摂取による機能と安全性を求められる健康食品などは開発に時間がかかることが多く、細かくリニューアルすることは困難です。このような変更が難しい中で顧客を増やしていくため、ますます商品が買われにくい状況が生まれます。顧客獲得でありがちなのが、商品はほぼ同じままで市場内でのポジションをずらすべく、広告での訴求を大きく変えて新たな見込み客や潜在客を掘り起こそうとするケースです。これはあまり推奨できません。なぜなら、生活者の頭に一度根付いた商品のポジションを変えることは非常に困難だからです。ある程度の認知が高まった後は、機能の大幅なアップや抜本的なリノベーションをしない限り、コミュニケーションアプローチの変更だけで新たな需要を掘り起こすことは難しいと言えるでしょう。
「自分向けの商品」と顧客が考える年代幅を考慮した「顧客獲得コスト」の「対策」
そこで、顧客獲得の効率を良くし、新たな顧客を増やす成長戦略として、購入者の「年代」に着目することが挙げられます。1つの商品の購入客のコアな年代層は20歳刻みであることが多いのです。例えば、顧客の7割が60〜70代という商品があったとします。同じ商品を40〜50代に販売しようとしても、60〜70代向けと認識されている商品は40〜50代からは支持されません。「70代の人が、膝が痛いのでAという商品を飲んでいる」という広告をたくさん見ている40代は、たとえ自分の膝が痛くなっても、その商品を飲みたいとは思わないでしょう。広告のアプローチを新しくしても、この意識を変えることは困難であり、これは健康食品に限らず幅広い商品に当てはまることと言えます。
「自分向けの商品」と顧客が考える年代幅は前後10歳までです。したがって、40〜50代に販売を拡大するなら、現行の商品ではなく、その年代のニーズを深く掘り下げてインサイトを探り、それに合致するようにリニューアルした商品が必要です。つまり、年代に特化した商品ラインナップを拡充し、それに合った広告プロモーションを行うことが重要です。20歳刻みで展開することで、新たな見込み客・潜在客にアプローチでき、顧客獲得効率を改善する可能性が広がります。
「顧客が顧客を連れてくる」ファンマーケティングの「D2C」における可能性
定期購入顧客を増やすコストが上がり続けている中、顧客が顧客を連れてきてくれるファンマーケティングは、D2Cにおける最も効果的な成長戦略の対策の一つです。D2Cは店舗を持たないため、基本的にブランドや企業、顧客同士が直接触れ合う機会が限られています。だからこそ、リアルな接点でこうした体験を創出することは、ファンを育む上で極めて重要になります。近年、広告コミュニケーションだけに頼らない新たな顧客創出手法として、各企業で実践が進められています。
D2Cのビジネスモデルでは、商品を買い続けてくれる顧客の存在が非常に重要です。そのため、ロイヤルティの高い顧客をいかに育成するかは、店舗販売以上に注力すべき点です。ファンマーケティングは、既存顧客のロイヤルティを高めるだけでなく、新たな顧客を獲得することにも繋がるため、事業にとって非常に大きなプラスとなります。よくキャンプ・アウトドアメーカーの「スノーピーク」の例が挙げられますが、ファンマーケティングを成功させるためには多様なノウハウとプロセスが必要です。私たち大広は、今後こうしたファンエンゲージメントを高めるための提案や施策にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
「D2C」の「成長戦略」は顧客との対話から生まれる
「単品リピート型」事業を拡大するためには、流出する顧客を減らす、顧客単価を上げる、そして新しい顧客を増やす、という最も基本的な成長戦略が不可欠です。これら3つの要素全てに手を打つ必要がありますが、実はそれぞれにまだ多くの改善余地があります。社内で現状が煮詰まっていると感じるかもしれませんが、実際には多くの解決策が存在し、どのようなアプローチが必要かは、その事業者が抱えている具体的な課題を深く掘り下げて洗い出さなければ見えてきません。本記事では異なるカテゴリーの商品開発やファンマーケティングなどを紹介しましたが、これらが踊り場から脱却するための唯一の答えではなく、最適なアプローチは各企業や事業が置かれている状況によって異なります。
踊り場に直面した際には、顧客にとっての価値をもう一度見つめ直すことが非常に重要です。顧客が何を求めているのか、なぜブランドを好きでいてくれるのか、そして現在抱えている顧客の実情を知ることがニーズの理解に繋がり、改善策への突破口が開かれます。そのために不可欠なのは、顧客との対話です。
私たち大広は、ダイレクトマーケティング時代から培ってきた顧客分析のノウハウを活かし、顧客とつながる仕組みや対話メソッドを進化させています。“対話力”を通して商品やブランドの魅力を再構築し、顧客価値を基軸とした事業の成長をサポートさせていただきます。様々な取り組みを行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
D2Cビジネスが直面する踊り場からの脱却には、顧客との対話を深め、そのニーズに応える新たな成長戦略が求められます。単品リピート型のビジネスモデルにおいては、CRM活動の強化やクロスセル・アップセルの精度向上が不可欠です。また、顧客が顧客を連れてくるファンマーケティングの活用も有効な手段となります。これらの施策を通じて、顧客のLTVを最大化し、顧客獲得コストを抑えながら継続的な購入を促すことが、持続可能な成長への鍵となります。各企業が置かれた状況に応じた最適な対策を講じることで、D2Cビジネスは新たなステージへと進化していくでしょう。
D2Cビジネスのさらなる成長戦略について、貴社が抱える具体的な課題について、ぜひ一度ご相談ください。
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