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2023.12.08

ダイレクトマーケティング実践講座〈第1回〉「ターゲット」を見極める

COCAMPコラムの中でも特に人気のテーマである「ダイレクトマーケティング」。この連載コラム「ダイレクトマーケティング実践講座」では、大広と協働し、様々なクライアントのダイレクトマーケティングやCRMを実行する株式会社クロスエムの中村光輝氏とともに、ダイレクトマーケティングで重要な「事業戦略」「顧客戦略・顧客獲得」「顧客育成」「フルフィル・顧客管理」の4つの領域について、現場の実践に基づき解説していきます。

第1回は「ターゲット」についてです。

シリーズ一覧は、記事下部をご覧ください

<ダイレクトマーケティング実践講座 講師>

nakamura中村 光輝 
(株)クロスエム 代表取締役
通販会社にて18年間、CRMを中心にマーケティング業務に従事。その後、2014年に独立。主に化粧品や健康食品などのダイレク ト事業を対象に、CRMのプランニングやマーケティング戦略の立案、顧客分析などをサポート。特に、ロイヤル顧客を軸とした戦略・施策のコンサルティングを多数手掛ける。

 

orihashi折橋 雄一 
(株)大広 顧客価値開発本部 顧客育成局 マネジメントリーダー
メディアバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にしたアクイジション領域から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。調査と分析を核としたPDCAと、得られた知見を統合しオジリナルメソッドを開発することに力を注いでおり、通販の顧客インサイトを可視化した「カスタマージャーニーマップ」や口コミ循環のマーケティングモデルである「アンバサダーハリケーンモデル」を開発。

 

折橋
中村さんは、通販会社に長年勤めた後、現在は独立して主にダイレクトマーケティングやCRMなどのコンサルティングを手がけていらっしゃいます。弊社も数年前から中村さんと協業しており、その豊富な知識と経験がクライアント様にも高く評価されています。また、このコラムでも紹介している各種カスタマージャーニーマップや「アンバサダー“ハリケーン”モデル」において、中村さんから顧客インサイトの知見や豊富なご経験からのアドバイスもいただいています。

 今回は、「ダイレクトマーケティングでスキルアップするための実践講座(ダイレクトマーケティング実践講座)」として、実務で長年培ってきた”現場の生きた知見”をうかがいながら、ダイレクトマーケティングの基礎を解説していきたいと思います。

中村
はじめまして、中村と申します。私は、通販会社で18年ほど働いており、CRMを中心とする業務や、事業戦略、マーケティング戦略にも長く関わっていました。その通販会社が売り上げ100億円程度の段階から600億円程度まで成長する過程で、実務やマネジメントの経験を積むことができました。その経験と独立してからのコンサルティングをもとに、ダイレクトマーケティング実務について、お話しできればと思います。

折橋
今回、「ダイレクトマーケティングでスキルアップするための実践講座(ダイレクトマーケティング実践講座)」として、ダイレクトマーケティングにおいて重要な4つの領域、「事業戦略」「顧客戦略・顧客獲得」「顧客育成」「フルフィル・顧客管理」について取り上げたいと思います。ダイレクトマーケティングの基礎を網羅して、即実践で役立つ講座にしていこうというわけです。

全体概要ですが、まず「事業戦略」では「事業戦略」の重要な部分と、「マーケティング戦略」について説明していきます。次に「顧客戦略」。ダイレクトビジネスでは顧客という視点が非常に重要で、「顧客の戦略」と「顧客獲得」について説明します。3つ目の「顧客育成」では「クロスセルアップセル」そして「ロイヤル顧客化」についてを。最後に「フルフィル・顧客管理」としてフルフィルメントの基礎と、顧客のデータベース分析のお話をします。

ダイレクトマーケティング実践講座概要折橋
それでは、早速中身の方に入っていきます。まずは「事業戦略」です。

事業戦略のポイントとして、「ターゲット」「ブランドコンセプト」「事業モデル」についてお話していきます。今回は「ターゲット」についてです。

事業戦略

コアターゲットを明確に

中村
事業戦略について、ダイレクトマーケティングの観点から考えると、最も重要なのはターゲティングだと考えています。私自身も通販会社に入社した際、創業者である社長から最初に強く言われたのが、顧客視点を持ってターゲットセグメントを見極めることが極めて重要だということでした。

折橋
一般的なマーケティングでも、性年代や居住地、購買チャネルなどの属性項目でセグメンテーションを行うことは当たり前のことですよね。同様に、ダイレクトマーケティングでも性年代や居住地などは重要な視点ですが、より具体的な人物像やペルソナを想定できるかどうかということが、ターゲティングの精度に大きく影響し、ビジネスの成功失敗にも大きく関わってくると思います。つまり、そのターゲットセグメントとして具体的な人物像を描き、それに合わせた戦略を展開することが、ダイレクトマーケティングにおける成功の鍵を握ると言えると思います。まずは、一般的なマーケティングとダイレクトマーケティングの違いを見ていきましょうか。

中村
最も基本的な違いは、対象とする顧客の範囲です。一般的なマーケティングは、不特定多数の顧客をターゲットにしますが、ダイレクトマーケティングは、特定の顧客をターゲットにします。ユニークユーザーとして正確に顧客を見定め、個別にアプローチすることで、より的確なビジネス展開を目指すということです。この対象顧客の違いが、ダイレクトマーケティングの最も重要なポイントとなります。

2つ目は、一般的なマーケティングは不特定多数の顧客を対象にするため、市場シェアや競合との比較を重視します。一方、ダイレクトマーケティングは特定の顧客を対象にするため、市場シェアも重要ですが、顧客シェアやワレットシェアといった視点がより重要とされます。

3つ目の違いとして、一般的なマーケティングは競合との戦いを意識する傾向が強く、競合との比較や優位性を重視します。一方、ダイレクトマーケティングは、顧客をより深く把握し、顧客に焦点を当てたビジネス展開を目指すため、競合との比較よりも顧客を理解し、顧客のニーズに合わせた戦略を立てることが重要とされます。

コアターゲットを明確に折橋
一般的なマーケティングとダイレクトマーケティングでは、競合との関係や顧客へのアプローチ方法に違いがありますね。ダイレクトマーケティングでは、顧客を深く理解することが重要視されるということですね。これはとても大切なことだと思います。我々もまず、「顧客を知ること」から始めましょうと言っています。

中村
ダイレクトマーケティングにおいては、コアターゲットを明確にすることが非常に重要です。既存事業の場合は、ロイヤル顧客を見定め、新規事業の場合は仮想ロイヤル顧客でも構いませんが、なるべく具体的な人物像、ペルソナを描くことが必要です。これは事業戦略を立てる上で非常に重要であり、ダイレクトマーケティングの成功、失敗に大きく関わってくると思います。

顧客分析

折橋
まず具体的な顧客を見定めないと始まらないですよね。

そのコアな、特にロイヤル顧客を見定めていくという意味において、ダイレクトマーケティングでやるべきことといえば、顧客分析であり、その中でもRFM分析などが良く使われますよね。このRFM分析は至るところで出てくる分析、あるいは視点ですので、少し説明させていただきます。

RFM分析というのは、リーセンシー(R)、フリークエンシー(F)、マネタリー(M)という3つの指標を用いた分析です。リーセンシーというのは、最新購入日あるいは最終購入日です。フリークエンシーに関しては、一般には累計の購入回数を指すということになります。マネタリーに関しては、やはり累計の購入金額を指します。

RFM分析 折橋
中村さんは、このRFM分析をどう活用されていますか?

中村
まず、リーセンシー(R)に関しては、最終購入日からの経過日数を見ます。最終購入日が何日前、何ヶ月前、何年前かという視点で判断します。例えば、最終購入日が1年以内のお客様をアクティブ顧客とし、1年以上経過したら休眠顧客として区分するなどの活用方法があります。これによって、セグメンテーションを行うことができます。

 次にフリークエンシー(F)ですが、通販ビジネスでは、よくF1、F2という言い方をします。購入1回の顧客(初回購入顧客)はフリークエンシーが1であり「F1顧客」と呼ばれます。F1顧客をF2顧客(2回目購入客)に転換させ、再購入してもらうことを目指すのが「F2転換」と呼ばれるものです。このような指標を作成し、分析を進めていきます。

 そして、マネタリー(M)。例えば自社でロイヤル顧客を設定する場合、マネタリー(累積購入金額)が高いお客様を選ぶことが一般的です。なぜなら収益貢献度が高いですから。例えば、累積購入金額が100万円以上のお客様をロイヤル顧客としよう、というように使われます。

折橋
RFM分析でどういうことがわかるのかというと、例えば、ダイレクトメールの送付ですと、リーセンシーは休眠顧客よりもアクティブ顧客の方が反応率が高く、フリークエンシーは回数が多ければ多いほどレスポンス率が高いと一般的に言われています。同様に、マネタリーに関しても金額が高ければ高いほどDMを送った時に反応率が高いと言われています。

RFM分析は、施策を行う際の最適な顧客を選定するためのセグメンテーションにおいても使用されるため、あらゆる場面においてダイレクトマーケティングで使用される基本的な分析手法です。

ちょっと付け加えますと、顧客をセグメンテーションする際に、特にマネタリー(累積購入金額)とフリークエンシー(累積購入回数)で見ます。例えばロイヤル顧客は、当然、マネタリー(累積購入金額)もフリークエンシー(累積購入回数)も最も多いセグメントになります。逆に初回顧客はフリークエンシーは1回でマネタリーも低い。ロイヤル顧客と初回購入客の間にも、リピーター、安定リピーター、クロスセル顧客などとセグメントすることができます。

このようにまずは、顧客構造を把握し、セグメントごとの特徴をおさえるということが大切です。そこからはじめて、そのターゲットセグメントに対して、戦略立案ができるわけですから。これはしっかり押さえておいていただければと思います。

ターゲットのインサイト

折橋
ターゲットをセグメンテーションしたら、その次はターゲットのインサイトを把握することが重要になります。ロイヤル顧客をターゲットにする場合、具体的なロイヤル顧客のインサイトを把握することが非常に重要ですよね。ロイヤル顧客が製品やサービスに対してどのようなインサイトを持っているか、ですね。

中村
それでいうと、非常に重要なのは、「どんな不満を抱いているのか」ということを把握していることです。特に新規顧客を獲得する、ロイヤル見込み客を獲得するみたいな言い方でもいいですけれども、そんな場合、他社の該当製品を使っていて、そこに対してどんな不満を抱いているのかということを把握することによって、そこを改善する。

自社において、そこにどんなベネフィット、あるいは不満を解消する製品特性やサービス特性を持っているのかということを見定めていって、ブランドスイッチをさせるというような動き方をするので、このロイヤル見込み客を対象にインサイトを整理することが重要で、特に不満を抽出するということが非常に重要です。

折橋
不満を抽出することが重要というのは、顕在化していないが、不満に思っていることがわかれば、それを改善することで、選んでもらえるようになる、ということですね?

中村
はい。
お客様がまだ気づいていないニーズやウォンツをきちんと顕在化させていくことによって、「このブランドはとっても私の気持ちをわかってくれている」「私にあったブランドなんだ」と思ってくれますので、ロイヤルティが上がっていく可能性が高いということになります。

ですから、この不満をきちんと把握するということ、それから、潜在ニーズを抽出するということが、ターゲットインサイトを明確にすることにおいて、とても重要な視点ということになります。

私自身も、通販会社に入社した際に、ロイヤル顧客にどのように喜んでもらえるかを考え、お客様セグメントとインサイトの深堀りをすることが、ダイレクトマーケティングやダイレクトビジネスが成功するかどうかの鍵になると考えました。

折橋
ターゲットセグメントと、インサイトの深堀りがとても重要なポイントだということを忘れないようにしないといけませんね。

中村
もう一つ。ターゲットのインサイトを具体的にしないまま事業を進めてしまうと、商品、コミュニケーション、販促施策やサービス施策が一貫性のないものになってしまい、顧客がリピートしにくかったり、ロイヤルティが上がらなかったりしてしまいます。新規顧客を獲得してもファンが増えない状態に陥ることになります。その結果、効率的な事業経営がなかなかできないということになります。この点も重要なポイントです。

折橋
このブランドや企業は自分に合っている、自分のことをわかってくれていると感じられなければ、ロイヤルティは上がりませんよね。ファンになって応援したくなるのは、そんなブランドや企業だからですね。また、そのファンがアンバサダーとして他の人にも推奨してくれることで、事業はさらにうまく回る。つまり、顧客に支えられて事業が成り立っているということですよね。

次回は、ダイレクトマーケティングにおける「事業戦略」の「ブランドコンセプト」について解説します。

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ダイレクトマーケティング実践講座講師の中村・折橋へのご質問やご相談は、こちらへお寄せください。

「ダイレクトマーケティング実践講座」シリーズ一覧
ダイレクトマーケティング実践講座〈第1回〉「ターゲット」を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第2回〉コンセプトづくりのコツ
ダイレクトマーケティング実践講座〈第3回〉 「事業モデル」で戦略が異なる
ダイレクトマーケティング実践講座〈第4回〉「商品企画」における重要ポイント
ダイレクトマーケティング実践講座〈第5回〉安定した利益を生み出す「価格」設定とは?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第6回〉ロイヤル顧客を生みだすための「チャネル」「販促」の考え方
ダイレクトマーケティング実践講座〈第7回〉「顧客戦略」は顧客ステージで変える
ダイレクトマーケティング実践講座〈第8回〉戦略のベースとなる5つの「顧客ステージ」とその特徴
ダイレクトマーケティング実践講座〈第9回〉収益化はロイヤル顧客がカギを握る
ダイレクトマーケティング実践講座〈第10回〉顧客獲得に向けた商品選定と戦略思考
ダイレクトマーケティング実践講座〈第11回〉最初のハードル「F2転換の壁」をどう乗り越えるか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第12回〉リピーターを育てるコミュニケーションの要諦
ダイレクトマーケティング実践講座〈第13回〉ブランドへの信頼を築きクロスセルに導く
ダイレクトマーケティング実践講座〈第14回〉第2のハードル「クロスセルの壁」をどう乗り越えるのか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第15回〉 徹底した顧客の理解がクロスセルを促進する
ダイレクトマーケティング実践講座〈第16回〉アップセルの成否は顧客のロイヤルティの見極めにある
ダイレクトマーケティング実践講座〈第17回〉 「ファン化の壁」を乗り越えて、ロイヤル顧客を作る!
ダイレクトマーケティング実践講座〈第18回〉 ロイヤル顧客を維持するには?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第19回〉ロイヤル顧客の育成で直面する3つの課題
ダイレクトマーケティング実践講座〈第20回〉商品配送における顧客価値を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第21回〉コンタクトセンターの「インバウンド」と「アウトバウンド」とは
ダイレクトマーケティング実践講座〈第22回〉コンタクトセンターにおける「VOCの価値」と「顧客対応品質」
ダイレクトマーケティング実践講座〈第23回〉顧客管理の基礎はデータ分析にある
ダイレクトマーケティング実践講座〈第24回〉打つべき手が見える形でデータを整理し活用する
ダイレクトマーケティング実践講座〈第25回〉CRMに欠かせない「顧客管理」、その重要な3つのポイント

この記事の著者

COCAMPダイレクトマーケティング部

(株)大広が培ってきたダイレクト・マーケティングの知見やノウハウを発信するチーム。 通販の初期から今に至るまで、変化する時代と顧客を見続けてきた第一線のプロデューサーやスタッフをメンバーに、ダイレクトビジネスの問題や課題を、顧客価値の視点から解いていきます。