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2024.03.08

ダイレクトマーケティング実践講座〈第14回〉第2のハードル「クロスセルの壁」をどう乗り越えるのか

COCAMPコラムの中でも特に人気のテーマである「ダイレクトマーケティング」。この連載コラム「ダイレクトマーケティング実践講座」では、大広と協働し、様々なクライアントのダイレクトマーケティングやCRMを実行する株式会社クロスエムの中村光輝氏とともに、ダイレクトマーケティングで重要な「事業戦略」「顧客戦略・顧客獲得」「顧客育成」「フルフィル・顧客管理」の4つの領域について、現場の実践に基づき解説していきます。

第14回は、ダイレクトマーケティングにおける③「顧客育成」の「クロスセル・アップセルのポイント」から、「クロスセルの課題」について解説します。

シリーズ一覧は、記事下部をご覧ください

ダイレクトマーケティング実践講座概要の図解

<ダイレクトマーケティング実践講座 講師>

中村 光輝さんのプロフィール写真中村 光輝 
(株)クロスエム 代表取締役
通販会社にて18年間、CRMを中心にマーケティング業務に従事。その後、2014年に独立。主に化粧品や健康食品などのダイレク ト事業を対象に、CRMのプランニングやマーケティング戦略の立案、顧客分析などをサポート。特に、ロイヤル顧客を軸とした戦略・施策のコンサルティングを多数手掛ける。

 

折橋 雄一さんのプロフィール写真折橋 雄一 
(株)大広 顧客価値開発本部 顧客育成局 マネジメントリーダー
メディアバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にしたアクイジション領域から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。調査と分析を核としたPDCAと、得られた知見を統合しオジリナルメソッドを開発することに力を注いでおり、通販の顧客インサイトを可視化した「カスタマージャーニーマップ」や口コミ循環のマーケティングモデルである「アンバサダーハリケーンモデル」を開発。

ターゲットごとに異なるクロスセル施策

折橋
次に、ターゲットによってクロスセル施策が異なってくるということで、クロスセル施策を展開する際に重要なポイントについて、見ていきましょう。

中村
前回と同じ例でお話します。まず顧客が化粧水などの商品に対して感じている商品ロイヤルティをベースとして、スキンケア品やメイク品への展開を勧めます。
しかし、商品だけに焦点を当てたクロスセルは、その後のカテゴリ拡張には限界があるため、購入が重なるにつれて企業ロイヤルティの構築が必要になります。

このフェーズでは、商品の品質だけでなくブランドや企業への信頼に視点を移し、顧客に企業やブランドを理解してもらうことで、化粧品カテゴリ以外の商品であっても品質が良いと期待させることができます。
たとえば、同じ理念で開発されたサプリメントや健康食品などです。
企業の一貫した開発理念などが顧客に伝わると、異なる領域の商品に対しても信頼が生まれ、クロスセルのチャンスが広がります。
商品ロイヤルティから企業ロイヤルティへと発展していく中で、顧客はロイヤル顧客へと進化します。ロイヤルティの高い顧客は、さまざまな新しい商品にも惹かれるため、クロスセルの成功率が向上します。

折橋
リピーターや安定リピーターというセグメントでは、商品ロイヤルティが強いが、そこから企業ロイヤルティへと導いていくと、クロスセルは発生しやすくなり、クロスセル顧客というセグメントになる。それを繰り返すことでロイヤル顧客セグメントに育成することができ、その企業の商品は何でも購入したい、というマインドを持つに至るということですね。

ターゲットによってクロスセル施策は異なる02

いかに「クロスセルリピート」に繋げるか


中村
クロスセルの課題について改めて整理をしたいと思います。
顧客が初回購入後、継続的に購入する「F2の壁」を越え、安定したリピーターになったとしても、依然としてクロスセルは大きな壁です。
通販ビジネスを例にとると、定期購入モデルでは、顧客のほとんどが一つのブランドから複数の商品を購入しているわけではありません。実際、アクティブ顧客の中でも複数アイテムを購入しているのは10%以下という企業が多いです。
一品のみの定期購入顧客が多いわけですが、実際には二つ目の商品に全く手を出さないわけではなく、問題はその継続です。多くの顧客はクロスセル商品を試しはするものの、なかなか継続してくれないというのが実情です。

折橋
クロスセルの課題は、新たな商品を一度試してみる「クロスセルトライアル」ではなく、実際に複数商品を継続購入する「クロスセルリピート」にあるということですね。

中村
多くの顧客はさまざまな施策によって二品目や三品目の商品を一度は試しています。実際、私がいろいろなケースに関わらせてもらっている中で見ていると、多くの企業でアクティブ顧客の半数以上がクロスセルのトライアルを経験しています。
しかし、2アイテム3アイテムと併買を継続している顧客は全体の中で2~3%しかいないというケースが多いです。

クロスセルへの初回トライアルは、それほど難しくはありません。
問題は、一度試した商品を継続して購入してもらう「クロスセルリピート」なんです。

クロスセルの課題02

中村
クロスセルがうまくいくということは、顧客のシェアが高まるということです。
クロスセルの商品に満足すると、顧客は、「良い商品を提案してくれた」「自分のことをわかってくれている」と感じ、成功体験になります。このような成功体験は顧客のロイヤルティを高め、結果としてその顧客からのシェアを拡大させることに繋がります

また、化粧品を例にします。
化粧水を購入した後、初めのステップとしてその化粧水に関連性が高い乳液やクリームをクロスセル推奨するのが一般的です。その売り上げが好調であれば、他のスキンケアへと展開を図っていくわけですが、特に、販促セットや紫外線ケアなどの季節商品、ワンシーズンで1個ぐらい買うような商品は、顧客が購入しやすいとされています。
こうしたところから、クロスセル販売数を高めていくという方法もあります。

少しずつ、ハードルの高い、やや高価格な美容液などのスペシャルケア商品やメイクアップ品などに広がっていって、結果的に化粧品に関する顧客シェアが高まっていきます。

折橋
化粧品の場合は、季節にからんだスペシャルケア商品などは、顧客にとっては買いやすいですし、クリスマスコフレのような限定商品なんかも購買意欲をそそります。こういうクロスセル展開も大切ですよね。単に販売量が伸びるということもありますが、顧客を飽きさせない、いつも新鮮で楽しい情報を提供してくれると思われる存在でいることも、企業のファン化を促進させますね。

中村
さらに化粧品とは違う事業である美容サプリメントや下着など、異なるカテゴリの商品へと範囲を広げ、LTVを高めることも考えられます。つまり、化粧品だけでなく、他の事業領域にまでクロスセルが及ぶと、それがLTV上昇に繋がるという効果が期待できるわけです。


商品ロイヤルティから企業ロイヤルティへの移行


折橋
クロスセル戦略の重要なポイントは、顧客ステージで言う、安定リピーター以降ですね。二つ目、三つ目、それ以上といった複数の商品を購入するというところが、CRMとして目指すべきところです。

中村
はい。
初期段階の顧客セグメントに対しては、顧客が手軽に試せるような特別価格の商品や販促セットを訴求します。まずは商品を手に取ってもらうことを目指すわけです。しかし、この段階ではクロスセルのリピート率は低く、特にクロスセルした商品が顧客の期待に沿わなかった場合、失敗体験になってしまいます。それが積み重なると、「このブランドが私に勧めてくる商品はあまりいい商品がない」、もしくは、「このブランドで私に合う商品は、化粧水や乳液ぐらいなのかな」と思ってしまう。
こういったネガティブなインサイトが固まってしまうと、「私にはちょっと合わないブランド」、「このブランドって私のことを分かってくれない」、という烙印を押されてしまいます。

さらに、それが重なると、顧客は徐々に企業からのコミュニケーションを拒絶するようになり、「自分は化粧水だけ買い続ければいいや」、という商品ロイヤルティの状態でとどまってしまう。
こういったところを上手く成功体験を増やしていくことで、企業ロイヤルティの形成を目指していきます。

折橋
最初はひとつの商品を気に入って継続購入していただき、次に関連商品等のクロスセルでクロスセルリピートを創出する。継続して顧客とのコミュニケーションを図り、ブランドや企業に関する情報を提供し、理解していただくことを続け、タイミングよく、クロスセルの提案を重ねていけば、顧客シェアは高まり企業ロイヤルティも高まる、ということですね。

中村
顧客がクロスセル顧客やロイヤル顧客になると、ブランドとの関わりを楽しみながら、その時のニーズに合わせた商品を購入するようになります。
商品ロイヤルティから、企業ロイヤルティへの移行がスムーズに行われていきます。

折橋
「クロスセルカスタマージャーニー」でのメインテーマはまさに、「商品ロイヤルティから企業ロイヤルティへの移行」です。
クロスセルは、企業を理解し、好きになっていただかないと発生しにくいし、企業ロイヤルティが形成されれば、関連商品だけでなく事業間クロスセルが成立するほどになります。

中村
そしてさらに、クロスセル顧客のセグメントになると、商品認知の高い顧客になっていくので、併買パターンが多様になってきます。
また、このセグメント顧客に関するデータも多く蓄積されてくることになります。企業は的確なデータ分析をしていきながら、顧客に合った商品をお勧めしていくことが大切です。
より適切な商品提案ができれば、併買数も増えていくし、ロイヤルティも高まることになります。
ダイレクトビジネスにおいては、購買データに基づく顧客分析の精度が非常に重要です。データベースやプラットフォームに関する議論は、今後に持ち越しますが、ダイレクトビジネスは顧客データが豊富であるという特徴があり、購買データの分析はクロスセル戦略などのCRMに密接に関連しています。


次回は、ダイレクトマーケティングにおける「顧客育成」の「クロスセルの促進」についてお話していきます。

「ダイレクトマーケティング実践講座」シリーズ一覧
ダイレクトマーケティング実践講座〈第1回〉「ターゲット」を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第2回〉コンセプトづくりのコツ
ダイレクトマーケティング実践講座〈第3回〉 「事業モデル」で戦略が異なる
ダイレクトマーケティング実践講座〈第4回〉「商品企画」における重要ポイント
ダイレクトマーケティング実践講座〈第5回〉安定した利益を生み出す「価格」設定とは?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第6回〉ロイヤル顧客を生みだすための「チャネル」「販促」の考え方
ダイレクトマーケティング実践講座〈第7回〉「顧客戦略」は顧客ステージで変える
ダイレクトマーケティング実践講座〈第8回〉戦略のベースとなる5つの「顧客ステージ」とその特徴
ダイレクトマーケティング実践講座〈第9回〉収益化はロイヤル顧客がカギを握る
ダイレクトマーケティング実践講座〈第10回〉顧客獲得に向けた商品選定と戦略思考
ダイレクトマーケティング実践講座〈第11回〉最初のハードル「F2転換の壁」をどう乗り越えるか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第12回〉リピーターを育てるコミュニケーションの要諦
ダイレクトマーケティング実践講座〈第13回〉ブランドへの信頼を築きクロスセルに導く
ダイレクトマーケティング実践講座〈第14回〉第2のハードル「クロスセルの壁」をどう乗り越えるのか
ダイレクトマーケティング実践講座〈第15回〉 徹底した顧客の理解がクロスセルを促進する
ダイレクトマーケティング実践講座〈第16回〉アップセルの成否は顧客のロイヤルティの見極めにある
ダイレクトマーケティング実践講座〈第17回〉 「ファン化の壁」を乗り越えて、ロイヤル顧客を作る!
ダイレクトマーケティング実践講座〈第18回〉 ロイヤル顧客を維持するには?
ダイレクトマーケティング実践講座〈第19回〉ロイヤル顧客の育成で直面する3つの課題
ダイレクトマーケティング実践講座〈第20回〉商品配送における顧客価値を見極める
ダイレクトマーケティング実践講座〈第21回〉コンタクトセンターの「インバウンド」と「アウトバウンド」とは
ダイレクトマーケティング実践講座〈第22回〉コンタクトセンターにおける「VOCの価値」と「顧客対応品質」
ダイレクトマーケティング実践講座〈第23回〉顧客管理の基礎はデータ分析にある

この記事の著者

COCAMPダイレクトマーケティング部

(株)大広が培ってきたダイレクト・マーケティングの知見やノウハウを発信するチーム。 通販の初期から今に至るまで、変化する時代と顧客を見続けてきた第一線のプロデューサーやスタッフをメンバーに、ダイレクトビジネスの問題や課題を、顧客価値の視点から解いていきます。