2025年4月に大広の社内ユニット、大広GXU(グロースクロスユニット)が誕生しました。さまざまなプレイヤーとクロスし、新たな価値をグロースすることを目指す本ユニット。そのメンバーとつながりのある方々に、大広GXUとの仕事を通して見えた、強みや可能性をお聞きする本連載。第8回は2026年5月から大広と伴走する、ブランデッド・エンターテインメント事業を手掛けるエスアイエーメディアの萩原さんです。大広GXU局長の濱口さんと共に「そもそもブランドエンタメとは?」という問いから、とことん深掘りしました。
萩原 穣
株式会社エスアイエーメディア 代表取締役
広告代理店や総合映像会社、エンターテインメント企業で国内外のライセンス事業やコンテンツビジネスに従事。その後、グローバルIT企業でクリエイターやメディアとの共創領域を担当。起業後はキッズ・ファミリー向け事業やコンテンツ開発を手掛ける。現在は企業の価値を物語化して事業成長につなげるブランデッド・エンターテインメントを推進。
濱口 隆義
株式会社大広GXU 局長/グロースマネージャー/ストラテジスト/クリエイティブディレクター
プロジェクト伴走型のプランニングメソッド「Project Based Growth Marketing(PBGM)」を開発し、ビジネスグロース視点で戦略立案から実行まで一気通貫でプロデュース。大学を中心にブランディング、広報、産学連携、起業家育成を数多く手がける。Z世代の価値観やトレンドを研究する大広若者研究所「D'Zlab.」代表。
塩脇 生成
株式会社大広GXU ブランドエクスペリエンスグループ クリエイティブディレクター/コピーライター/プランナー
編集プロダクション、転職メディア、出版社、広告会社などを経て、2023年に博報堂ケトルへ。2025年より現職。主な受賞歴はACC、JAA広告賞、毎日広告デザイン賞、CCNなど。
企業の中に眠る「原作」を、物語へ変える。
塩脇:萩原さんとの仕事で初めて「ブランドエンタメ」という概念を知り、とてもワクワクしています。萩原さんの考える「ブランドエンタメ」とは何でしょうか?
萩原:企業の中に眠っている「原作」を見つけ、生活者が自分から触れたくなる物語として育てることです。「原作」と聞くと、小説や漫画を思い浮かべるかもしれませんが、そうではありません。創業者の思想や苦労、商品が生まれた背景、作り手のこだわり、顧客の声、ファンコミュニティとの関係など、企業の中には商品だけでは語りきれない価値がたくさんあります。
塩脇:例えば、創業者のストーリーをコンテンツ化することも「ブランドエンタメ」になると。
萩原:創業者や社員の挑戦を描く人気ドキュメンタリー番組がありますよね。あれは「ブランドエンタメ」と言えると思います。社員の熱量や苦労、涙や挑戦の歴史には人の心を動かす要素があります。企業や商品の裏側にある人間ドラマも「原作」です。
濱口:最初に萩原さんから話を聞いた時に、映画やドラマに企業ロゴ・商品などが登場するプロダクトプレイスメントとは違うのかな?と思ったのですが。
萩原:コンテンツと広告との関係には3つの段階があると思っていて。1つ、出来上がった映画やドラマを活用して、広告を行うプロモーションタイアップ。2つ、作品の中に商品を入れ込むプロダクトプレイスメント。3つ、名脇役としてストーリーの中に商品が存在するように設計する「ブランドエンタメ」。
塩脇:商品の関わり方が異なるんですね。
萩原:そう。1と2は、露出はあるけれど物語と関係がないため、中長期の記憶に残りません。3の「ブランドエンタメ」は、ストーリーそのものに商品が関与する。視聴者は広告ではなく物語として受け取り、結果としてブランドの価値や思想が深く記憶に残ります。
塩脇:なるほど。誰もが知るSNSの創業期を描いた映画や、人気シューズの誕生秘話をテーマにした映画が思い浮かびました。あれらは結果的に「ブランドエンタメ」になっているんですね。
萩原:大事なことは、企業が伝えたいことを語るのではなく、生活者が「見たい」「共有したい」と思える物語に変換すること。広告枠で時間を奪うのではなく、自分の時間を預けたくなる体験をつくることだと思います。
良い「ブランドエンタメ」は、育てるもの。
塩脇:企業の「原作」を物語にする際、何を重視していますか?
萩原:「エンタメファースト」です。生活者は時間をかけて広告を見たいわけではありません。物語の顔をしていても、中身が商品説明になっていればすぐ見抜かれます。まずは純粋に面白いこと、制作者が乗りたくなること。その上でブランドが自然に存在することが重要です。
塩脇:従来の“広告”としては捉えない方が良いということですね。
萩原:広告は限られた接触時間の中で、商品の魅力や価値を伝えるものです。一方「ブランドエンタメ」はもう少し長い時間軸で、生活者にブランドの世界観を体験してもらうもの。広告が“届ける力”だとすると、「ブランドエンタメ」は“記憶に残る物語をつくる力”だと思います。
塩脇:「ブランドエンタメ」と広告は、どう関係していくのでしょうか。
萩原:良い「ブランドエンタメ」は広告の代替ではなく、それらをさらに有効にするものです。「ブランドエンタメ」から、広告、SNS、PR、店頭施策、イベント、商品化へ展開していく。バラバラな接点をひとつの文脈でつなげられると考えています。
塩脇:軸となる「ブランドエンタメ」を生むためには、どんなことが大事ですか。
萩原:たくさんの原案を用意して、小さく検証を重ねることです。
塩脇:何回もテストをする?
萩原:そう。エンタメ業界でも、最初からヒット作を当てるのは極めて難しい状況になっています。漫画もアニメも映画も、多くの企画をテストしながら可能性を探っています。「ブランドエンタメ」も同じ。実証実験を繰り返しながら育てていく発想が必要です。
塩脇:広告だと、一発で鮮やかな正解を出すのがプロの矜持のような感覚も…。
萩原:「ブランドエンタメ」は農業に近いと思っています。砂漠に水をまくのではなく、どこに芽が出る可能性があるのか、オアシスを見極めながら育てる。だから、エスアイエーメディアはコンテンツ制作会社ではなく、コンテンツR&Dスタジオだと考えています。
塩脇:研究開発所ですね。これまで実施されてきた「ブランドエンタメ」では、どんな成果がありましたか?
萩原:ある消費財の事例では、商品理解だけでなく企業への親近感や好感度、さらにはSNS上での関与意欲でも良い影響が見られました。「ブランドエンタメ」の面白いところは、コンテンツだけで完結しないこと。SNSで語られ、イベントになり、店頭企画になり、商品化されることもあります。だからこそ、最終的には事業へ戻っていく導線設計がポイントです。「ブランドエンタメ」はブランドの価値を生活者の記憶に積み立てていくこと。その結果として事業成果につなげることが大事だと思っています。
スペックではなく、物語で選ばれる時代へ。
塩脇:そもそも今、「ブランドエンタメ」が求められている背景は何だと思いますか。
萩原:大きく2つあります。1つ目は商品スペックだけでは差別化しにくくなっていること。企業が持つ思想や文化、歴史、姿勢といった感情資産が重要になっています。
濱口:スペック競争から、意味競争へ近づいている感じですね。
萩原:まさに。生活者は企業が言いたいことよりも、「自分にとって意味があるか」を見ています。何を売るかではなく、なぜ存在しているのか、どんな価値観を持っているのか。そこが問われる時代。もう1つの理由はSNSや動画プラットフォームの存在です。
塩脇:コンテンツ量の増加ですか?
萩原:それもあります。SNSや動画プラットフォームによって、生活者は膨大な情報の中から見たいものを選ぶようになりました。企業が伝えたい情報よりも、生活者が見たい情報の方が圧倒的に強い時代です。また、生活者自身も発信者になっています。ブランドは企業だけで作るものではなくなりました。
濱口:UGCの影響も非常に大きいですよね。
萩原:最近は企業から一方的に発信するよりも、生活者が自分ごと化できる物語を持っている方が強い。二次創作が生まれたり、SNSで語られたり、コミュニティが育ったりします。そうした状態をつくれるブランドは強いですね。
濱口:だから、既存IPを借りるだけでなく、自分たちの「ブランドエンタメ」IPを持つことも重要になってくると。
萩原:人気IPを借りて認知を獲得する手法が中心でしたが、ブランド自身が物語やIPを持てれば長期的な資産になります。単発的に消えていくのではなく、企業が保有する価値になるんです。私は「掛け捨てから、積み立てへ」と表現しています。
濱口:実際、クライアントへそうした話をすると、多くの企業が関心を示してくれます。もちろんまだ日本では発展途上ですが、海外では成功事例も増えていますし、数年後には大きな潮流になる可能性があると感じますね。
萩原:ただ、「ブランドエンタメ」は万能ではありません。どんな企業でも成立する魔法の杖ではない。大切なのは、その企業の中に生活者が触れたくなる「原作」があるかどうか。
塩脇:向いているのはどんな企業ですか?
萩原:商品やサービスの背景に、生活者の感情や記憶がある企業は向いていると思います。食、飲料、ライフスタイル、ウェルネス、ペット、住宅、旅行、教育、地域ブランドなど。BtoB企業でも、技術開発の背景や社会課題解決への想いは十分、物語になります。
塩脇:最後に、今後「ブランドエンタメ」を広げていくうえで、大広GXUに期待することは何ですか?
萩原:企業課題を理解する広告会社と、コンテンツ開発を担うパートナーが手を組みながら育てていくのが「ブランドエンタメ」です。その意味で大広GXUとの取り組みには大きな可能性を感じています。広告、コンテンツ、IP、事業開発。それぞれの川は認知されながらも、意外とつながっていませんでした。その間をつなぐ運河を掘る役割を期待しています。
濱口:簡単ではありませんが、とても面白い挑戦だと思っています。一緒に楽しんで、頑張っていきましょう!
まとめ
「私たちの会社には物語になるようなネタはない」。そう思う企業も少なくないかもしれません。しかし、今回の取材で印象的だったのは、「原作」は特別なものではないという言葉。創業の想い、商品開発の苦労、社員の挑戦、顧客との関係。多くの企業がすでに持っている価値こそが、「原作」になりえます。それを育てることで、新たな企業資産が生まれるかもしれません。どんな「原作」が眠っているのか。そんな視点で自社を見つめ直してみたくなる取材でした。
【参考】
エスアイエーメディア:https://www.siamedia.jp/
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第1回「良い人みんなでつくる時代」 みんな/皆川壮一郎さん
第2回「文脈を編み出し、接点を増やす。広告チームにこそPRパーソンを」マドベ/片山悠さん
第3回「日常の延長で広告体験を味わってもらう“銭湯”の魅力」 ピクセル/大塚輝さん
第4回「オノマトペは、“人の心を鷲掴み”にする言葉」 明治大学/小野正弘さん
第5回「ネコが広げる、つながりとアイデア」 SUNDAY ISSUE/太田メグさん
第6回「“うっかりプロ野球選手”から始まった、世界の野球を知るキャリア」 カメラマン/八木虎造さん
第7回「毎日の実験的イベントで発見を生む」 本屋 B&B/中川紀彦さん・酒井和也さん
第8回「企業の中に眠る原作を物語に。ブランドエンタメが育む企業資産」 エスアイエーメディア/萩原穣さん
この記事の著者
塩脇 生成
株式会社大広GXU ブランドエクスペリエンスグループ



