2025年4月に大広の社内ユニット、大広GXU(グロースクロスユニット)が誕生しました。さまざまなプレイヤーとクロスし、新たな価値をグロースすることを目指す本ユニット。そのメンバーとつながりのある方々に、大広GXUとの仕事を通して見えた、強みや可能性をお聞きする本連載。第4回は明治大学の文学部教授である小野正弘さん。企業課題をオノマトペで突破するという難題をお願いするたびに、予想以上のオノマトペ制作で応えてくださる小野先生。オノマトペと広告との相性や、魅力についてグイグイお聞きしました。
小野 正弘
明治大学 文学部 教授
日本語の史的研究(文字・語彙・意味)を通して、日本語の奥深さや面白さを探求している。特にオノマトペに強い関心を持ち、『オノマトペがあるから日本語は楽しい(平凡社)』『日本語 オノマトペ辞典(小学館)』『感じる言葉オノマトペ(角川学芸出版)』など多数の著書がある。
塩脇 生成
株式会社大広GXU ブランドエクスペリエンスグループ クリエイティブディレクター/コピーライター/プランナー
編集プロダクション、転職メディア、出版社、広告会社などを経て、2023年に博報堂ケトルへ。2025年より現職。主な受賞歴はACC、JAA広告賞、毎日広告デザイン賞、CCNなど。
オノマトペの歴史は1300年以上。
塩脇:せっかくの機会なので、まずオノマトペの歴史から教えていただきたいです。
小野:歴史は意外と古く、『古事記』(712年)には国が生まれる音を「こをろこをろ」と表現する記述があります。『古事記』に登場するもっと前から、人々の生活の中で自然発生し、使われていたはずです。
塩脇:そんなに昔から。使い勝手が良い言葉だからですかね?
小野:オノマトペは「名前のないもの」に強いんです。例えば正体が不明でも「グルルなやつ」と言えば、唸り声をあげる生き物として仲間に伝わる。名詞がなくても共有できるのが、オノマトペならではの強みと言えるでしょう。
塩脇:日本は特にオノマトペが発展してきた国だと聞きました。
小野:特徴的なのは擬音語だけでなく、状態や質感を表す擬態語が非常に多いこと。「はらはら」「しーん」「ふわり」など、感覚を音に託している。こうした体系性は日本語のほか、韓国語などにも見られますが、世界的にそう多くはありません。
塩脇:「しーん」のような表現は英語にはないんですか?
小野:silenceと名詞で語られます。あの、「空気が止まる感じ」を表現する言葉は英語にはないと思います。さらに日本語の面白さは、一つのオノマトペが複数の表現を成立させる点にもあります。「ぱらぱら」と言うと、量が少なく落ちていくイメージが宿る。「ぱらぱらと雨が降る」という感じですね。ただ、「ぱらぱらと意見が出た」と言えば、会議の空気を描写することができます。
塩脇:たしかに。「観客席がぱらぱら」「本をぱらぱらめくる」など、色んな使い方がありますね。
小野:オノマトペは1人の天才の発明ではなく、人々のやり取りの中で自然に洗練されてきた言葉。いまも進化を続けていて、漫画家さんは特にオノマトペ表現が上手いですね。
塩脇:先ほどの「しーん」は手塚治虫先生の発明という話もあります。
小野:そう言われがちですが、実際にはもっと昔から存在していました。ただ手塚さんの使い方は驚くほど巧みで、漫画表現におけるオノマトペ使いの名手と言えます。ほかにも、最近読んだ漫画で牛乳を飲むシーンに「ギュニュッ」、ズボンを履くときに「ズボンッ」という言葉を置いた場面があって驚きました。意味を超えたオノマトペで、感覚に直撃する。有名なセリフの「ひでぶっ」なんかも象徴的ですよね。理屈ではなく、感覚で成立してしまう。そこにオノマトペの本質があります。
“重箱の隅”に広がる世界。
塩脇:小野先生がオノマトペ研究を始めたきっかけは?
小野:最初のきっかけはオノマトペ辞典に関わったときです。編集者が私を指名した理由が「オノマトペなので、オノマサヒロ先生です」と。
塩脇:ダジャレですね(笑)。
小野:言語学にはこうした名前の縁があるんですよ。「~のだ」を研究する野田先生とか。「~なら」を研究する奈良先生とか。オノマトペの“オノ”に導かれるように研究を始めて、深みにはまっていました。
塩脇:研究で嬉しいのはどんな時ですか?
小野:説明できなかったことが説明できるようになった瞬間ですね。例えば「ぱっぱっと」と「ぱぱっと」。似ているけど、結構違う。「さっさと」と「ささっと」も同じ。どちらも素早さを表していますが、働き方が違う。言語として極めて細かい違いなのに、話者は直感で使い分けている。研究によって、その直感の奥にある仕組みを言語化できた時、喜びを感じます。
塩脇:とても繊細な世界ですね。
小野:木のてっぺんに生えた葉っぱの裏にいる小さな虫を見つけたような感覚です。重箱の隅のように見える場所に、実は広い世界がある。その虫を見つけた瞬間に、言葉への理解が一気に深まっていくんです。もちろん、研究以外にも手応えを感じる場面があります。
塩脇:どんな時にですか?
小野:教育現場です。小学校ではすでにオノマトペ教育が始まっていますが、子どもたちの反応は驚くほど良い。「ずきずき」と「きりきり」ではどっちが痛い?「もふもふ」と「ふわふわ」は何が違う?といった問いに、鋭い感覚で応えてくれます。オノマトペは論理より、感性に直結して届く言葉。教育現場に加えて、スポーツや音楽、医療現場など、身体感覚を伝える言葉として注目されています。
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たまに使うから効く必殺技。
塩脇:まだまだお聞きしたい事ばかりなのですが、そろそろ本題に入ります。小野先生とはいくつかの仕事でご一緒しましたが、最初に広告でオノマトペを作ってほしいという依頼を受けた時はどのような気持ちでしたか?
小野:言語学はよく「既存のものを説明する学問」と言われます。何かを生み出す学問ではない。そんな風に言われることもあります。だから、言語学が世の中の役に立つチャンスは挑戦であり、喜びでした。
塩脇:仕事で面白かった点はありますか?
小野:要件を満たしつつ、普通すぎず奇抜すぎず、人に届くバランスでオリジナルなオノマトペを作る。その難しさと面白さがありました。塩脇さんからの依頼も最初は「ムチャぶりだなぁ」と思うのですが、反面燃えるものがあり、やってみるとできる。食べ物や化粧品など感覚系の商品はオノマトペとの相性がよく、作りやすいと思います。
塩脇:逆に気を付けるべき商品/カテゴリーはありますか?
小野:年齢層の高い商品ですね。若年層のほうがオノマトペの受容性が高い。24歳前後で感覚が切り替わる印象があります。若いけれど背伸びしたい層にはオノマトペが刺さる一方、大人向けに使うと「バカにしているのか」と受け取られかねない。
塩脇:メディアとの相性もありますか?
小野:映像は〇、平面は△です。特に文字だけの平面広告だとオノマトペが浮いてしまうので、絵や映像と組むことで最大化すると思います。さらに重要なのは「使いすぎない」こと。お手本は俳句ですね。
塩脇:俳句?
小野:芭蕉のオノマトペ使用率は約1%です。たまにしか使わないから効く。また、同じ語は2度と使わないという緊張感も持っていたようです。
塩脇:ここ一番で使うから効く、必殺技のようなものなんですね。広告表現やネーミングでもオノマトペは使いがちなので、注意が必要ですね。
小野:ネーミングと言えば、オノマトペもので一番好きなのは「ガリガリ君」ですね。食感・見た目・キャラクター性が凝縮されていて、誰もが共感できる。広告的な都合や無理がない。「君」という接尾も効いています。
塩脇:「ガリガリバー」では可愛さがないですもんね。これから、オノマトペで挑戦したいことはありますか?
小野:広告はもちろん、体験設計にも挑んでみたいです。知り合いのイベントで「どきどきゾーン」「はらはらゾーン」といったものを作り、空間でその言葉(どきどき、はらはら)を感じるように設計したものがあります。例えば、暗い部屋の隅から音が聞こえるようなインスタレーションで、脳の中で言葉が立ち上がるような状態を作る。オノマトペの新たな可能映を感じました。
塩脇:大広が関わった仕事で、目を隠した状態で花を注文する『見えないお花屋』というものがありました。僕も体験したのですが、自然とオノマトペを駆使していたような気がします。オノマトペと体験という組み合わせは相性が良いのかもしれません。
小野:面白いですね。
塩脇:最後に。僕たちの新ユニット「大広 GrowthX」という名前、言語学の専門家から見てどうですか?
小野:「グロース」「クロス」と韻を踏んでいて調子がいい。Xは伸びしろ、未知数という意味もあり、言葉として良いなと思います。
塩脇:先生の授業を受けてみたいと思うような、ためになる話ばかりでした。ありがとうございます。
まとめ
小野先生と話して感じたのは、オノマトペが「感覚」と「意味」の境界を越えていく存在ということ。ロジックで固めた企画を、ロジカルな表現で届けても伝わりにくいもの。そんな場面で、理屈より早く感覚に届くオノマトペは必殺技のように効く。なにより、企業課題をオノマトペで解くというムチャな依頼も「研究対象」のように楽しんでいる小野先生の姿が印象的でした。
【参考】
【大広とクロスな人たち】 第1回「良い人みんなでつくる時代」 みんな/皆川壮一郎さん
【大広とクロスな人たち】 第2回「文脈を編み出し、接点を増やす。広告チームにこそPRパーソンを」マドベ/片山悠さん
【大広とクロスな人たち】 第3回「日常の延長で広告体験を味わってもらう“銭湯”の魅力」 ピクセル/大塚輝さん
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この記事の著者
塩脇 生成
株式会社大広GXU ブランドエクスペリエンスグループ



