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2026.05.07

199年の老舗が「共創」に踏み出した理由。そして、共創とは何かを改めて考えた話。

「箱根・比叡山を超えない」。
そう決めてから195年以上、愛知・岐阜・三重・静岡の東海4県のみに商圏を限定して事業を続けてきた企業がある。1827年創業、来年で200年を迎えるヤマサちくわ株式会社だ。工場の従業員全員が包丁技術を習得し、魚を市場から直接仕入れ、石臼でじっくり練り上げる。バイヤーを一切通さず、自分たちで作り、運び、売る。年商約40億円。完全な垂直統合型のものづくり企業だ。
「本当に、共創という言葉と無縁の世界でずっとやってきました」——専務取締役の蔵野泰輔さんは語る。その会社が今、外に開こうとしている。なぜか。そして何が変わり始めているのか。
大広の未来共創本部のメンバーが、ヤマサちくわの蔵野泰輔さんと田中知巳さんをお迎えして共創による変革についての対談「ちくわミーティング」を行った。本稿では、その対談を通じて私たちが考えた「共創の本質」を探る。

k_masuda増田 浩一
株式会社大広   未来共創局インキュベーションセンター

株式会社大広入社後、一貫して、ストラテジックプランナーとして事業会社の広告戦略、商品戦略立案を支援。2020年からは、経済産業大臣登録中小企業診断士として中小企業の経営戦略を中心としたコンサルティング活動を継続。 主な顧客は、食品製造業、機械製造業、飲料メーカー、学校法人ほか、ゴーストレストランといった次代のユニコーン企業までと、幅広い。 東京商工会議所派遣専門家。 直近執筆の論文「小規模事業者の情報発信を効率化するコンテンツ制作ツール~ 12の「呼び水」を使ってサクサク創る制作メソッド ~」にて、東京都中小企業診断士協会会長賞を受賞。ほか表彰歴・セミナー等対外活動実績多数。

守るべきものがあるから、変われる。

200年近く続く会社には、必ず「守り続けてきたもの」がある。
ヤマサちくわの場合、それは「鉛は金に変わらない」という言葉に凝縮されている。本物の原料で、本物の製品を作る。その哲学は、第二次世界大戦の空爆で工場が壊滅したときも揺るがなかった。おからと馬鈴薯でんぷんで餅を作り、1〜2年で立て直した。
しかし同時に、変わらなければならないことも、見えていた。
人口減少、担い手不足、単一文化の限界。「分かるだろう」という世界で体が覚えるしかない職人技術を、どう次世代へつなぐか。地元採用中心で育ってきた組織が「単色」になりすぎていないか。兵庫出身・東京で社会人経験を積んだ後、妻の実家であるヤマサちくわに入社した蔵野さんだからこそ、外から見えた課題だった。
「守るべきものがあるから、変われる」。この逆説が、ヤマサちくわの共創の出発点だと思う。

「練り物屋じゃない視点」が、当たり前を価値に変えた。

外に開いた途端、面白いことが次々と起きた。
オフィスに冷凍庫ごと貸し出す「オフィスちくわ」は、練り物屋の発想からは絶対に生まれなかったアイデアだ。高タンパク・低脂質の「プロテインちくわ」はスポーツジム向けに開発されたが、実際に火がついたのはオフィスだった。そして「なんでちくわなんですか?」という来客のツッコミが、そのままアイスブレイクとして機能するというおまけつき。
人口3,700人の和歌山県すさみ町など、各地の漁港で捨てられていく未利用魚の製品化では、「魚をさばくのは当たり前のこと」と思っていた自社の技術が、地域にとっては誰にも代えられない強みだと初めて気づかされた。現在、複数の自治体から問い合わせが寄せられている
『負けヒロインが多すぎる』『モンスターハンター』 といったアニメ・ゲームとのコラボでは、今まで届かなかった層にリーチし、海外からわざわざ豊橋を訪れるファンまで生まれた。
これらに共通するのは一つのことだ。「外の人に言われて初めて、それが強みだと分かった」——蔵野さんはそう何度も繰り返した。
自分たちにとっての当たり前は、他者にとっての価値である。共創とは、その「当たり前」を一緒に掘り起こす行為なのだと、この日の対話は改めて教えてくれた。

ヤマサのお二人Image-(16)

縁は、縁を呼ぶ。

今回の出会いには、少し面白い経緯がある。
作家・企業顧問として400以上の企業・自治体の組織開発を支援する沢渡あまねさん(あまねキャリア株式会社代表)が、大広のオフィスで開催したセッションがきっかけだった。「組織開発&共創デザイン」を標榜する沢渡さんのコラボレーション先として、ヤマサちくわが紹介された。いわば「わらしべ長者」のような縁のつながり方だ。
沢渡さんはそのセッションをこう振り返っている。「大広さんの素敵な共創空間にて、『チームプレーの天才』 (共創デザインをテーマにした書籍)を共通言語に、深くかつ多様な対話と共感が繰り広げられました。これぞ共創の対話」と。
共創は、意志だけでは動かない。場があり、人があり、縁がつながることで初めて動き出す。大広のオフィスという「場」が、この縁の一つの結節点になっていたことは、私たちにとっても嬉しい発見だった。

Image※『チームプレーの天才』
 誰とでもうまく仕事を進められる人がやっていること
 著者:沢渡 あまね /下總 良則 

(ダイヤモンド社)

 

共創には、4つの条件があるかもしれない。

対話の最後に、こんな言葉がその場から生まれた。「ちくわには、共創の条件が全部詰まっている気がする」と。
 栄養があり、そのまま食べられる——スキルと熱量を持ち寄ること。
 穴が開いていて見通しがよい——ビジョナリーで、透明であること。
 味がよく染みる——他者の言葉に、本気で触れること。
 文化を感じさせる——カルチャーなき共創は、続かないこと。
笑いながら「確かに」とうなずく声が、その場に広がった。ちくわを食べながら共創を語る。少しおかしな場だったかもしれない。でも、肩肘を張らずにフラットに問い直せる場だったからこそ、本質的なことが見えてきた気がする。

大広・未来共創本部が目指していること。

最後に、少しだけ私たち自身の話をさせてほしい。
大広には「未来共創本部」という組織がある。広告・マーケティング支援にとどまらない、新しい役割と収益モデルを探索・実装するチームだ。
私たちが向き合っているのは、三つの問いだ。大広が長年培ってきたクライアントネットワーク・インサイト力・クリエイティブという資産を、どう隣接する新しい価値に転換できるか。社会課題を正面から入口にした事業をどう設計できるか。そして、官民連携や地域との共創を通じて、持続的なビジネスをどう生み出せるか。
今回のヤマサちくわとの出会いは、その問いへの一つの応えとなった 。199年の老舗が「当たり前」を価値に変えていく過程を一緒に設計すること。それは、私たちが目指す共創の実践そのものだ。
「外の人に言われて初めて、強みだと分かった」——この言葉は、クライアントとの関係においても同じだと思う。自社では当たり前になりすぎて見えなくなっている価値を、一緒に掘り起こすこと。それが、私たちが「共創パートナー」として果たせる役割だと信じている。
ヤマサちくわとのプロジェクトは、始まったばかりだ。続報を、またこの場でお届けしたい。

もし「自社の当たり前を、一緒に掘り起こしてみたい」と思ったら、ぜひご相談ください。

 ●ご相談はこちら

まとめ

 ヤマサちくわの実践は、「守るべきものがあるから、変われる」を示した。核となる哲学を軸に外へ開き、外の視点を取り入れることで、自社の当たり前が価値へと転化した。共創とは、関係と場を整え、視点を交差させるプロセスである。鍵となるのは、スキルと熱量、見通しと透明性、対話、文化の四つ。まずは小さな一歩を試し、検証し続けることだ。縁は縁を呼び、価値は更新されていく。現場の技の見える化や限定エリアでの試行、異分野との対話を重ねれば、小さな成功が次の挑戦と縁を呼び込む。創業199年の老舗の実践は、その道のりが特別な誰かだけのものではなく、誰もが今日から始められることを教えてくれる。 


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この記事の著者

増田 浩一

株式会社大広 未来共創局インキュベーションセンター

株式会社大広入社後、一貫して、ストラテジックプランナーとして事業会社の広告戦略、商品戦略立案を支援。2020年からは、経済産業大臣登録中小企業診断士として中小企業の経営戦略を中心としたコンサルティング活動を継続。 主な顧客は、食品製造業、機械製造業、飲料メーカー、学校法人ほか、ゴーストレストランといった次代のユニコーン企業までと、幅広い。 東京商工会議所派遣専門家。 直近執筆の論文「小規模事業者の情報発信を効率化するコンテンツ制作ツール~ 12の「呼び水」を使ってサクサク創る制作メソッド ~」にて、東京都中小企業診断士協会会長賞を受賞。ほか表彰歴・セミナー等対外活動実績多数。