社会環境が変化する中で、過去の延長線上では未来を語れない今。未来への“意志”をもって先行している企業の事例を紐解いて、そこに学んでみようという大広「ミラスト」チームによるトークセッション、それが「イノベーションのタネ」です。ミラストに日本能率協会総合研究所の菊池健司氏を迎えて、未来がどうなるかではなく、未来をどう描くかのヒントを探ります。第3回のキーワードは「パーパス」です。
菊池 健司
(株)日本能率協会総合研究所 MDB事業本部エグゼクティブフェロー
1990年日本能率協会総合研究所入社、外資系金融機関での勤務を経て、現在に至る。MDBは、2025年1月現在、約2,000社の会員企業を有する日本最大級のビジネス情報提供機関。現在は、リサーチ力を基盤とした企業の未来戦略・新規事業策定の伴走支援、そして、情報収集・活用手法研修、未来洞察研修等を日々実施している。2024年11月より、NIKKEI「グローバル・ビジネス総合研究所」(毎週木曜昼12:00~)レギュラー出演中。
増田 浩一
(株)大広 第1マーケティングデザイン局 第3PG 部長 ミラスト主宰
早稲田大学理工学術院建築学研究科を修了の後、株式会社大広入社。一貫して、ストラテジックプランナーとして事業会社の広告戦略、商品戦略立案を支援。2020年からは、経済産業大臣登録中小企業診断士として中小企業の経営戦略を中心としたコンサルティング活動を継続。 主な顧客は、食品製造業、機械製造業、飲料メーカー、学校法人ほか、ゴーストレストランといった次代のユニコーン企業までと、幅広い。東京都中小企業診断士協会会長賞ほか表彰歴・セミナー等対外活動実績多数。
その企業が何のために存在しているのか、自らの存在意義を宣言する「パーパス」に取り組んでいる企業が多いですが、果たして、パーパスでビジネスがうまくいっているのか? 機能しているのか?いかがでしょうか。
パーパス経営自体は理論としては正しいし方向性も合っているんだけども、この会社みたいにやればいいみたいな成功例が少なくて、多くの企業が苦しんでらっしゃるのかなっていう感じがしますね。
パーパス経営は、今の時代の中でやらざるを得ないみたいな事情があったのかなというふうに感じるんですよ。例えば就職意向においても、パーパスがないと選ばれないみたいな。
今って従業員エンゲージメントの時代ですよね。大手損害保険会社が新入社員の初任給を41万円にしたというニュースもありましたが、単に給料の問題だけではなくて、パーパスはあらためて重要だ、そんな流れがあるのかなと感じます。パーパスを持っている会社は志望動機が上がるみたいなアンケート結果もあるんですよ。
大きな背景として、変化が大きな社会の中では昨日と同じことやっていても難しいよねと。一歩踏み出してチャレンジするのが大事だよねっていうのが大前提になっているのかなって思いました。
そうですね。
さっきの採用の話に関連してですが、Z世代、今後はα世代が採用される時代になりますよね。その時、パーパスがあるなしっていうのが重要なんだろうなって。
これまで新人、若手は会社の中で揉まれて育ったわけです。先輩もそうだったから、自分の労働時間を100%会社に投じていれば、会社が自分を育ててくれるし、実際そうだったと思うんです。
はいはい。
揉まれる環境があったから、ある程度キャリアっていうのは会社の中で保証されていたわけですよね。でも今は労働法が改正されてハラスメントが起こりやすい環境も是正されつつある。いわばホワイトな環境なわけです。キャリアが伸びる時期に、揉まれる環境を体験できないことで「自分、ちゃんと育っていけているのかな?」とか、そんなことを最近の若い社員たちは感じているんじゃないかと。
わかるような気がします。
最近読んだ「会社はあなたを育ててくれない~「機会」と「時間」をつくり出す働きかたのデザイン」という本にも、会社が働きたいだけ働かせてくれたから人は伸びたんだけど、そういう環境もなくなり、若い世代も含めて新しい生き方、働き方を模索し始めているという風潮があると書いてあって。企業としてのパーパスも大事だけど「個人のパーパス」っていうのも同時に大切になってくると思いました。
ジェームズ・クーゼス先生の「リーダーシップチャレンジ」っていう本の中で、組織のパーパスをいかに理解しているかよりも、自分自身のパーパスを理解しているほうが組織に対する参加貢献が高いという話があります。自分のパーパスを会社のパーパスと照らして見つけておくことができるか、ということはがキャリアの精神衛生上すごく重要かもしれないですね。
ちょうど今年、ミレニアム世代、Z世代と呼ばれた40代前半以下の人が、 ビジネスパーソンの半数以上を占めるようになるっていうのが今年の大トレンドです。これからの時代、企業は働き手の中心になる若い人の思いと共鳴する、あるいは個人のパーパスを見つけることに伴走する姿勢って大切ですね。
そうですね。
入社される新入社員向けに一人一人のパーパスを見つけるような研修プログラムを用意するようなことは、労務人事系の専門誌でも特集されますよね。企業が宣言したパーパスが個人のパーパスをインスパイアしていく、そういう企業がこれから支持を集めていくんだと思います。
話が少し変わりますが、ポーラ幸せ研究所がシニアの方々に対して幸せのあり方を具体的に提供されていることに社会的な意義を感じるんです。多分若い人から見ても、社員の行く末を考えてくれる会社って素敵って見えるんじゃないかと思ったりしますね。
「ポーラ幸せ研究所発 定年後もワクワク生きたい! 人生後半 幸せ資産の増やし方」を出版された、佐野さんですよね。
佐野さんご自身は、もともと“鬼の営業マン”だったんだそうですね。定年後、自分のライフシフトを会社に支援してもらいながら、若手と一緒に新しいプロジェクトを立ち上げられたりしていらっしゃいます。そういう会社って素敵だなと。
いろんなことに取り組んでらっしゃいますよね。
若手からすれば佐野さんがどんどん自己変革していくのを目の当たりにして、自分たちももっと変わっていっていいよね、みたいな。それって自己肯定につながると思うんです。
それでいうと、これから先、会社ってどんな場所なのか、再定義できる企業が未来を作っていける、そんな着眼点もあるかもしれないですね。
会社としての存在価値の再定義ですね。
働く人の視点で会社を見ると、いろんな刺激を提供してくれる場、自分のキャリアの発見とか、ストレッチに役立つ場でもありますよね。
先輩などモデルケースがいる中で、自分のキャリアを具体的に作っていける場でもあります。そんなふうに、いくつかの定義が再考できるのかなと。こういう機能を自覚している会社が未来を作っていくのかなと思うこともあるんです。
働く人のキャリアの捉え方が変わるなかで、働き方も変わり得ますね。
働き方の選択肢として、今後、副業とかパラレルワークが一般化してくる中で、残るか辞めるかという選択肢の他に、会社に「半身(はんみ)」残るとか、徐々に抜けてもう1回戻ってくるという選択も可能性としては十分あり得るかも、と思います。
「半身」というのもありですね。
例えば正社員の中でも半分外に出向する機会を提供するとか、課外活動の場で会社を認識してみてもらうとか。 残るか辞めるかという選択肢の中に、もっとグラデーションが実はあって。 その手段も含めて、パーパスを見つけるヒントをお互い考えられる対話の場が会社なのかもと。会社にはそんな定義もあるかもしれません。
新卒とか転職のマーケットって会社へのロイヤリティもさることながら、自分が何をやりたいかみたいなことを一番に考えますよね。今の若い人たちって3社目が本命みたいなことを聞きます。最初大きな企業に入ってしっかり研修受けて、別の会社に移って、自分のやりたい本当の本命の企業を3社目に設定して。
おお、そうなんですか。
そんな話も出てくる中で、増田さんの言うように、残るか辞めるかの間に、働き方のグラデーションが広がっていくと思います。何があるか分からない世の中で、労働市場環境ではなくて人々のマインドが大きく変わっちゃった。これが、大きなポイントかなと。そんな世の中でいろんな選択肢を提示してくれる企業はこれからきっと強いですよね。
そのグラデーションを探るときに、企業のパーパス、個人のパーパスが大きな意味を持ちそうですね。
そういう意味ではパーパスという言葉の定義は随分と広が広がった感覚がありますよね。
みなさんはどうお感じになられるでしょうか?
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