詳細な調査を実施し、実際の顧客の声をもとにPDCAサイクルを回すTVインフォマーシャル制作。長年にわたって制作に携わり、顧客からの声を集積・分析してきた大広WEDO・折橋氏に、視聴者の興味を掻き立て、思わず「買いたい!」と思わせる制作ノウハウを聞きました。今回は、表現・演出編です。
[インタビュイー]
折橋 雄一
(株)大広WEDO プロデュースDivision プランニングチーム
TV通販枠のバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にした企画・制作・メディア運用から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。
演出の良し悪しを決めるのは「視聴者」
――今回は、実際の調査でわかった「良い例」「悪い例」を挙げてご説明いただける、ということですが…
折橋
はい。典型的な例を挙げてご説明したいと思います。実際の事例に基づいたシーンについて、新たに生成AIを活用して画像を作成した「表現・演出5つのポイント」としてまとめましたので、こちらでご紹介します。
まず、以下のAとBは商品を試飲した後の感想です。どちらが良い例だと思いますか?
――どちらも「おいしい」という意味の表現をしていますが…
折橋
Aが良い例なんです。Aに対しては、購入者調査では、「クリーミーなところが印象に残った」「コメントを聞いて飲んでみようと思った」「おいしそうだと思った」などと好印象。一方Bに対しては「贅沢」という表現に反応した回答はひとつもなく、逆に「説明が抽象的」「ありきたりの言葉」「喉ごしや後味がわからない」などといった意見がターゲット視聴調査でありました。我々は次のように分析しました。
<分析>
A:タレントの五感に響くシズルワードが、あたかも自分も飲んでいるかのような疑似体験感覚を生み出し、見ている人に「クリーミーでおいしそう、飲みたい!」という欲求を生み出した。
B:「贅沢」という言葉では「どんな味か」が想像できず、商品を疑似体験できない。そのため、「抽象的、ありきたり」といった印象を持たれ、「おいしそう、飲みたい」といった欲求を生み出すことができない。
――こうした調査と分析を、放送素材の改訂に活かすわけですね。
折橋
はい。インフォマーシャルというのは、放送したその日のうちにレスポンスの良し悪しがはっきり出ます。入電数や受注件数などのデータが出ますから。その「良し悪し」を放送素材の制作にフィードバックするためには、視聴者が、どの部分に惹かれて、どの部分には興味がわかなかったのか、という、コンテンツの分析が必要になります。そこで、前回お話したようなアンケート調査を行い、その声から、TVインフォマーシャルとして効果的な表現と、そうでない表現を洗い出すわけです。これは個別のインフォマーシャルの改訂に役立てます。
今回は、数多くのインフォマーシャルで得た調査結果を改めて分析し、インフォマーシャルに共通のナレッジといえるものをまとめ、示唆を出したものを「表現・演出のポイント」としてお話しします。
表現・演出5つのポイント
1.映像・言葉で五感を刺激する
折橋
では、見ていきましょう。まずは、「映像・言葉で五感を刺激する」というポイントです。
まず、得られた示唆を示し、具体的なシーンで解説しますね。
<示唆①>
商品の良さは臨場感ある映像で伝える
⇒疑似体験できると、購入意欲が高まる
これはコラーゲンの関連商品のインフォマーシャルで、原料のコラーゲンの魅力について説明するシーンですが、どちらが良い表現でしょうか?
――これは、わかりやすいですね。Aはぷるぷる感が伝わってきます。
折橋
そうですね。皿に載せたコラーゲンのかたまりを揺らしたAの映像には、「コラーゲンってすごい!」という声が調査であがりました。対してBは、お鍋なのに沸いている感じもしないし湯気もない、シズル感がまったくありません。ですので全く印象に残りません。
次は、おいしさ表現です。両方とも良い例です。
<示唆②>
おいしさ表現は、驚いた表情や感覚言葉で伝える
⇒〇:ほおばる、一気に飲み干す、食感のオノマトペ(トロトロ、さらさら)、感嘆の声などは効果的
×:台本棒読み感、具体的にイメージできない言葉(贅沢、自然の恵み)は興味をひかない
――表情が自然で、実感が伝わりますね。
折橋
顔を崩して頬張る事はお行儀が悪く見える恐れもありますが、本当の美味しさを伝えるパワーもあるんです。調査でも、「おいしそう。注文しようと思った」「美味しそう、飲んでみたい」という声があがってきました。
次は、「質感」というようなことです。
<示唆③>
商品の中身(質感、色、形状)を一目でわからせ、五感を刺激する。
良い例と悪い例です。
――これも、ひと目で違いがわかります。Aの方が躍動感がありますね。
折橋
Aは、商品の特徴である「とろりとクリーミーな質感」を見せているのに対して、Bはパッケージの外側だけ。中身の液体の様子がわかりません。調査でも、Aには「グラスにそそいでる時すごくクリーミーで美味しそう」、Bには「どんな味なの?」という声がありました。
次も同じ示唆です。
――Bのかっこいいパッケージの映像は、CMなどではよく使われていますが…
折橋
Aでは、「すごく濃厚な美容液だ」という声があり、しっかりと質感が伝わっていることが分かります。対してBですが、美しく現実離れしたイメージ映像では、使用実感が伝わらないんですね。単なるインサート映像になってしまって印象に残らず、購入意欲にはつながらないんです。
次は、実際に使用している映像を見せること。
<示唆④>
実際に使用している映像を見せる
⇒特に化粧品は肌に直接塗るものなので、実際に肌に塗って見せて疑似体験させる
――Aの方は、塗っていることがはっきりわかります。
折橋
そうですね。Aに対しては「顔にたっぷりと塗るのを見て、顔に水分補給が行き渡りそうだと思った」という声がありました。Bも塗ってはいるのですが、画像が小さすぎて伝わりません。調査でも「実際に塗っているシーンがあったらよかったのに」と、気づかれていませんでした。
映像として出しているのに気が付かれないなんて、意味のないことをやってしまったということになりますね。
次は自然の映像のチカラです。
<示唆⑤>
自然の映像(画像)は商品の魅力を増す
⇒自然の映像・画像は良いイメージ(健康・おいしさ)をもたらす
商品に関連がなくても、イメージ映像・メタファー映像として自然シーンを積極的に入れる
2つとも高評価事例です。自然の映像も効果的ですね。原料に関する映像の場合には、自然由来の素材を使っていることが高評価につながりますし、単なるイメージとして商品と組み合わせて見せるだけでも五感を刺激する。サプリなどだと「体の中がきれいになりそう」という感想につながりました。
折橋
さらに、原料を産地で見せるこんな映像も、印象をとても高めています。
<示唆⑥>
原料を産地で見せる(大量・採れたて)
⇒たわわに実っているところ、根つき、土つきなどを見せると、新鮮さや採れたてのシズル感を強く感じさせることができる
――たしかに、ツルがピン!となっているトマトはおいしそうだし、土がついていると栄養がありそうに感じます。
折橋
「とれたての新鮮さ」は非常に好印象で、スーパーに売っているのとは違ういい素材が使われていることを感じさせます。「栄養価が高そう」「いい香りがしてきそう」といった感想が多く上がってきました。また、ひとつだけポツンとあるのではなく、大量に見せることも印象を高めることがわかっています。
2.「驚き」を伴ってメッセージを伝える
折橋
次は、2つ目、「驚き」を伴ってメッセージを伝える、というポイントです。
<示唆⑦>
強いインパクトのある映像を出す
商品の効果や成分の質の高さなどを理解していただくためにどうするか。まず、画像であれば、インパクトが必要です。
――これは、ぞっとするというか、自分もそうかも、と思ってしまいます。
折橋
頭皮は自分では見えませんから、余計に「自分もそうかも」と思うし、なんとかしなければ、と思いますよね。調査でも、「ぞっとするよね。最近抜毛が多いのはそのせいかな、と切実な声があがりました。
次は、グラフの見せ方です。
<示唆⑧>
グラフは、ひと目でわかるようにする
⇒特にギャップの大きさがよくわかるように工夫する
グラフで説明することもよくあると思いますが、この場合も注意が必要です。複雑にすると全く伝わらない。ギャップの大きさや変化を見せたいのであれば、レーザーチャートや棒グラフが効果的です。
下記の例では、違いがはっきり分かりますよね。
折橋
そして、意外性も大切です。
<示唆⑨>
意外性でインパクトをつける
⇒普段の常識を覆すような情報でないと、印象に残らない
すっぴんのタレントさんがコスメ製品を体験レポートする、というのも効果的です。
――普段、テレビで見慣れている人がすっぴんだと、インパクトがありますね。
折橋
すっぴんになってレポートしてもいいと思うほどの商品だ、と印象に残り、「すっぴんになって商品を体験する。買ってみようかなと思った」という声があがりました。
次は悪い例です。
女性がシミに悩んでいることを数字で示しても印象に残りません。共感してもらうには、街頭インタビューなどが効果的です。
3.説明して理解させるのではなく、直感させる
折橋
それでは、3つ目のポイントです。
「説明して理解させるのではなく、直感させる」です。
まず、比較です。
<示唆⑩>
比較する
⇒色の違いは一目でわかりやすい
言葉でたくさん説明されるよりも、ぱっと見てわかる方が効果的です。たとえばこちら…
――たしかに、色の違いはひと目で見て印象に残ります。
折橋
変化の様子を見せることも効果的です。
<示唆⑪>
変化の様子を見せる
たとえば、酸に負けずにどんどん増えていく乳酸菌。
折橋
体にいいと感じていただけてますね。
次は、実物をうまく活用することです。
<示唆⑫>
量の多さを実物で見せる
一日に必要な野菜の量、といったときにも…
――グラフの方はピンときませんね。
折橋
わざわざ「野菜」で見せることが効果的なんです。こんな量は食べられない、と感覚的にわかります。
4.リアリティを感じさせる
折橋
次は4つ目のポイント「リアリティを感じさせる」です。
これもインフォマーシャルではとても重要な要素です。
<示唆⑬>
話していることを実際の映像でも見せる
⇒言っているだけではリアリティがない
「おいしいジュースは料理に使ってもおいしい」という話なんですが…
――あきらかに、説得力が違いますよね。
折橋
そうなんです。同じ内容でも、それをちゃんと映像で見せることが重要です。そのために、わざわざユーザーさんのお宅まで行って、実際に料理するところを撮影させてもらう。そのリアリティが重要です。
<示唆⑭>
現実感のないイメージ映像では伝わらない
折橋
コスメ製品などの場合、CMでよくあるイメージ映像は、TVインフォマーシャルでは”惹き”がありません。
――さきほども出ましたよね。たしかに、だんだん目が慣れてきました。
折橋
きれいなだけの映像では印象に残らないから買おうという気にならないですね。そうではなく、出演者が商品を手に出して、それを顔に塗ってみて、「すーっと浸透していく感じがします」などと言ったほうが、よほど効果的です。リアル感がないといけないです。
次は美味しさの表現方法です。
<示唆⑮>
老若男女様々な人の感想は、「本当においしい」と納得させる
ターゲット層だけではなく率直な感想を語る子どもをはじめ、老若男女の感想が有効
おいしさ表現でも重要なことがあります。
――登場人物の年代が様々ですね。
折橋
子どもの「おいしい」は、嘘がない自然な感想として説得力がありますし、幅広い年代の人が出てくるとリアリティが増すんです。味の訴求というのは本当に難しいので、いろんな人たちが出てきていろんな言葉で感想を言うことがリアリティになり、エビデンスにもなる、ということだと思います。
次もリアリティの重要さを示しています。
<示唆⑯>
「生産現場で生産者」、「研究開発現場で研究者」の表情や様子をみせる
商品や原材料をつくっている現場、研究の現場などを見せることも効果があります。わざわざその「現場」を見せることが重要です。
それに比べて悪い例です。
――たしかに、「悪い例」では、現場のすごさが伝わりにくい…。
折橋
「悪い例」は印象に残らないばかりか、「説明力が足りない」といった批判的な感想につながります。「良い例」に対しては、生産者のこだわりや研究者の専門性に反応する声が多く、その裏付けのある商品や販売企業に対する信頼感や安心感も生まれています。
言葉で表現しなくても、会社のすごさまで感じてもらえるんです。これがインフォマーシャルの力ですよね。
5.動きのある映像、明るい映像を使う
折橋
5つ目のポイントは、「動きのある映像、明るい映像を使う」です。
表現の基本ともいえますね。
<示唆⑰>
『動いているシーン』は、視聴者の目を引く
⇒歩きながら話す、パワフルに体を動かす、明るい屋外でのスポーツシーンなど
意外と気づきにくいのが、映像の「動き」です。
折橋
動くものに目が行く、というのは誰しも同じで、動きながら情報を伝えたほうが印象に残りやすいのです。加えて、生き生きと活動している人が出てくると、「自分もそうなりたい」というような、ちょっとした憧れのような気持ちを抱く。その商品を使うことでそうなれるのでは…というような期待が高まります。
明るさに関しても同じです。
インフォマーシャルでは、明るくないとよい印象にならないと言えます。
<示唆⑱>
明るく華やかな雰囲気が良い印象を与える
特に、女性ターゲットの場合は、一目見て華やかさと明るい印象を与える衣装にも気をつけ、全体に暗い印象にならないようにする
――たしかに、悪い例は、なんだかお通夜のようですね…。
折橋
服装や空間が明るいと表情まで明るく見えて、商品のこともポジティブに受け取ってもらえる。逆の場合には「スタジオに暗い色しかない」と評価も低いし、実際にレスポンスも低調でした。だから、スタジオにお客さんを入れた収録をするときなどには、事前に「黒っぽい服は着てこないでください」とお願いしています。
補足:MCの留意点
折橋
最後に補足ですが、MCの演出上の留意点です。
<示唆⑲>
情熱的に販売する
感情のこもったセールスストークは、視聴者の気持ちを盛り上げ、購入意欲を増進させる
番組全体を取り仕切る人の話し方や声のトーンは、視聴者の印象を大きく左右します。
気持ち・感情を揺さぶるんですね。
折橋
身振り手振りのアクションも効果的です。
<示唆⑳>
「身振り手振りの大げさなアクション、わかりやすいデモンストレーションで視聴者を乗せる
折橋
話のテンポや、やりとりが気持ちよくみ合っているかどうか、ということも大事です。静的で抑揚がないと、購入意欲がわきませんよね。わくわくする気持ちが大切だと思います。それを作って見せるのです。
<示唆㉑>
プロ同士がテンポの良いトークで、視聴者を引き込む
折橋
ここまでご紹介したたくさんのポイント、そのひとつひとつが調査結果に裏付けられたものです。
――何気なく見ているTVインフォマーシャルですが、細部の演出や表現にも具体的な理由があるということがよくわかりました。
折橋
前回もお話しましたが、「経験と勘」ではなく、実際の顧客の声を聞き、どういう要素、表現がお客様の感情に訴え、購入に結びついているのかを知ることが重要です。「この演出は効果があった」「この演出は注目されなかった」と、調査を積み重ね、分析し、より良く改訂していく。TVインフォマーシャルの「表現・演出5つのポイント」には、そうした知見がつまっています。
――ありがとうございました。次回は、TVインフォマーシャルの構成要素について、これまでの事例分析をお話いただきます。
まとめ
-
演出の良し悪しを決めるのは「視聴者」
⇒視聴者のフィードバックに基づき、良い例と悪い例を分析する。 -
表現・演出5つのポイント - 以下の5つのポイントを意識して制作することが重要。
- 映像・言葉で五感を刺激する
- 「驚き」を伴ってメッセージを伝える
- 説明して理解させるのではなく、直感させる
- リアリティを感じさせる
- 動きのある映像、明るい映像を使う
-
MCの留意点 - 情熱的に販売し、身振り手振りやテンポの良いトークで視聴者の気持ちを引き込む。
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