インフォマーシャル放映の際の関門のひとつ、放送局考査。商品分野の関連法の規制に加えて放送局ごとの基準もあり、NGと判断されると表現の変更や映像の差し替えなど、時間的にも費用的にも大きなダメージにつながりかねません。商品の効果的な訴求と考査のクリアをどのように両立すればよいのか、今回も、株式会社ディー・クリエイトの宮入氏、大広WEDOの折橋氏にうかがいます。
[インタビュイー]
宮入 穂高
(株)ディー・クリエイト カスタマ―ビジネスプロデュース局 CBP部 部長
2010年ディー・クリエイト入社。メディアの買付セクションを経て、現在は営業チームでメディアプランニング、レスポンス分析、インフォマーシャル制作などに従事。これまで担当してきたダイレクト系企業は30社以上。
折橋 雄一
(株)大広WEDO プロデュースDivision プランニングチーム
TV通販枠のバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にした企画・制作・メディア運用から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。
法律やTV局内規は、何を規制しているのか
――はじめに、基本的な「考査」のしくみを教えていただけますか。
折橋
はい。テレビで放送される映像は、すべて放送局の考査にかけられます。尺の長短にかかわらず、言ってみれば「公共の電波に乗せてよいかどうか」をチェックするわけです。TVインフォマーシャルの場合は29分・14分などCMよりはるかに放送時間が長く、さらに企業から持ち込まれた映像を「番組」として放送するので、放送局としてもより厳しくチェックすることになります。概ね、放送予定の1か月程度前には、いわゆる「完パケ」=完成したインフォマーシャルを放送局に提出し、そこで指摘があれば修正して再度考査にかけ、それをクリアして放送が可能になる、というのが基本です。
――出稿する企業にとっては大変な部分も多いと思います。考査の基準となる法規制にはどのような意義があるのでしょうか。
折橋
規制がないと、医薬品ではないのに効果効能をうたうとか、機能や成分を偽るといった、信頼できない情報が流される恐れがあります。法で規制することで放送する情報の信頼性を担保する意義が大きいと思います。
――規制する法律にはどのようなものがあるのでしょうか。
宮入
主に景品表示法、特定商取引法、健康増進法、薬機法が深くかかわっていて、それぞれ所管官庁や規制する対象が異なります。
【放送局考査においての各指標】
景品表示法
消費者庁の管轄で、消費者を保護するための法律です。
品質や成分などが優れたものだと誤認させたり(優良誤認)、優位性があると誤認させたり(有利誤認)する不当表示を規制します。たとえば「売り上げ日本一」などの「ナンバーワン表示」は消費者の購買行動に与える影響が大きいので、相当のエビデンスを表示できなければ使えません。
特定商取引法
こちらも消費者庁の管轄で、通信販売をはじめとする7類型の商取引に関しての規制です。
たとえば初回価格を低く設定し、消費者が電話をかけてみると「もっとお得なコースがありますよ」と別のものを勧める、というような行為は、「通信販売ではなく電話勧誘販売にあたる」ということで、近年規制が厳しくなっています。
健康増進法と薬機法
いずれも厚労省の管轄です。健康増進法は、誇大広告を規制していて、たとえば「1か月でシワが消えた!」というような、効果を偽る表現を規制します。
薬機法は、医薬品と健康食品を誤認させないように規制しています。健康食品は(トクホなどを除き)効果効能をうたえませんから、「〇〇に効く」といった表現はできません。
折橋
厚労省は、薬機法に即して「医薬品等適正広告基準」というガイドラインを定めています。たとえば、化粧品に関しては現在56項目の表現が使用可能とされていて、「肌にはりを与える」「頭皮、毛髪を清浄にする」といったように例文をあげています。ただ、法律上許されている表現自体は、訴求力が高いとは言えず、また競合商品と似た表現になってしまうため、規制を守りつつどう伝えるか、制作上で工夫が求められる部分です。
宮入
本当に、そこは難しいところですね。法律に抵触しない範囲で、いかに消費者に刺さる表現を見つけるか、というところはどの企業もいちばん苦労しているところだと思います。
蓄積した情報力で、制作段階から細かな考査対策が可能に
――放送局からの指摘には、どんなものがあるのでしょうか。
折橋
基本的には、効果効能表現や優良誤認が多いでしょうね。特に健康食品では、「効果効能を標榜している」と指摘されることがあります。これは、言葉だけではなく、映像、テロップなど番組全体で判断されます。健康食品などは医薬品ではありませんから、「〇〇に効く」というような表現はNGです。また、例えば、1日1粒飲むだけでダイエットになるというような表現は優良誤認と指摘されたりします。
さらに、「今まで何を使っても満足できなかった方に」という表現は、他社誹謗と指摘されたり、他社よりも自社商品のほうが効果があるなど優位性を示す表現として、優良誤認と指摘されたりする場合もあります。
これもよくありますが、商品含有成分の重要性を専門家が説明した後、商品につながるという表現の場合は、専門家(医療関係者など)の推奨であると指摘されたりします。
――考査でNGが出た場合にはどのようにするのでしょうか。
折橋
そのままではどうしても放送できない、ということになると、その部分を削除するか、表現を変えるか、しかありません。完パケの状態からの変更は、映像やテロップや音声も含めた修正が必要で、時間も費用もかかってしまいます。だからこそ、撮影段階でも表現を変えたり、別の表現修正をしたり、考査に対して対策を講じておくということが必要になります。
――事前の“検討”とそれを可能にする情報力が重要になるわけですね。
宮入
そうですね。Dクリエイトでは、2023年実績で、年間6000件あまりの素材を考査に提出していて、全国130あまりの地上波・BS放送局、その他CS放送局での考査実績を蓄積しています。それを分析すると、局ごとの考査の難易度や、どういう表現に対して厳しいか、といった傾向が見えてきます。そうした情報を制作に反映することで、ある程度は事前に対策が可能です。
難しいのは、ぜひとも放送したい放送局の考査が非常に厳しい場合です。これまでにもお話ししてきたように、TVインフォマーシャルは複数の放送局の枠を組み合わせることが多いのですが、厳しい考査に合わせて素材をつくると、どうしてもあたりさわりのない表現になってしまう。それを比較的考査の易しい放送局で放送すると、他社のインパクトに埋もれてしまってレスポンスが取れなくなる可能性があるんです。
――バランスが難しいということですね。
宮入
はい。あとは、放送局によっては独自の内規を設けているところもあって、それには個別に対応する必要があります。たとえば、画面にQRコード(二次元バーコード)を表示するのは最近の主流ですが、これは自社のウェブサイトに飛んでもらってそこで受注する、という仕組みです。局によっては、「ウェブサイトの内容までは考査できないので、QRコードはNG」というところもある。ほかにも、「割引率は50%以内にしてください」という放送局もあります。そういう情報をわかった上で、制作を行う必要があります。
考査対応を一元管理、スムーズな考査クリアをサポート
――関連法の適用には、変化もあるのでしょうか。
宮入
そうですね。流れとしては、どんどん規制が厳しくなっていると思います。10年前と現在では、かなり違ってきていますね。
――そういう変化に対応するにはどのようにすればよいのでしょうか。
宮入
ディー・クリエイトの場合は、考査の専任部署を置いて考査対応を一元管理しています。どのクライアントの案件にも考査担当者がかかわり、考査の側面から企画構成や台本の表現を検討して、スムーズな考査クリアをサポートします。考査担当者は関連する法律の動向を常に把握していますし、消費者庁や厚労省、自治体などからの情報を得てアップデートし、最新の基準に対応できるように準備しています。
折橋
我々大広の制作陣も、もちろん情報のキャッチアップはしていますが、やはりディー・クリエイトは頼れる存在ですね。私が制作に携わるときには、ディー・クリエイトの考査担当者と事前によく話をします。新しい動きを教えてもらったり、この表現は考査でNGが出るかもしれない、といった意見をもらえたりするので、こちらも知識を得つつ、制作内容に反映しています。
宮入
考査専任の部署が情報を一元管理することのメリットは大きいと思います。担当者の属人的な知識ではなく、社内の誰もが、最新の豊富な情報の蓄積を活用することができますから。また、前回も少しお話しした「AI考査」は、現在、放送局でのPoC(コンセプト実証)中です。我々制作側だけでなく、放送局にとっても一定の基準で考査できるという効果が見込まれますし、人的負担を減らすというメリットも期待されているところです。
――法規制とインフォマーシャルの関係は、この先どのように進んでいくのでしょうか。
宮入
先ほどお話しした規制の厳格化は、おそらく今後も続くだろうと思われます。ただ一方で、表現があまりにも縛られてしまうと、モノが売れなくなってマーケットがシュリンクしてしまう懸念がある。放送局と一体となってコンテンツをつくるとか、そういう方向でも可能性を探っていく必要があると思っています。
折橋
法律や規制の主旨を根本的なところできちんと理解することが制作者にも必要です。Dクリエイトと協力し台本段階から考査対応をしっかりやっていくことを実践しています。
最後に、我々の基本姿勢についてお話しさせてください。
商品を購入した消費者、つまりクライアント企業にとっての顧客に不利益が生じれば、結果的にクライアント企業のブランドに傷がつき、大きなダメージを被ることになります。これは、広告会社としては絶対に起こしてはいけないことだと考えています。
商品を無理やり飾り立てて短期的な利益を得るのではなく、商品の本当の良さがお客様に伝わり、何度もお客様にリピート購入いただき、その結果、売り上げが上がり、長期的な企業価値向上を実現するのが我々の仕事です。
これからの人口減少時代では、一度ではなく、長期的に何度もお客様に買っていただくことがとても重要になります。
ですから、インフォマーシャルにおいては、過剰な表現で興味をあおるのではなく、しっかりとした商品であること、他のお客様にも喜んでいただけていること、そして何より信頼できる企業であることを、29分間でしっかりとお伝えする、ということを心がけています。
――ありがとうございました。
まとめ
■情報の信頼性を担保するため、TVインフォマーシャルの表現にも様々な法規制がある。
■法規制の細目は変化を続けており、放送局によって考査の難易度にも差があるため、スムーズにクリアするには情報の蓄積とアップデートが必要。
この記事の著者
宮入 穂高
(株)ディー・クリエイト カスタマ―ビジネスプロデュース局 CBP部 部長