TVインフォマーシャルの歴史と変遷、そして新たな可能性について紐解いてきたシリーズもいよいよ最終回。顧客応対の最前線である「コールセンター」について、アイビーシステム・小林氏と大広WEDO・折橋氏にうかがいます。日々、多くの顧客に応対する現場からは、「注文を受ける」だけではない役割が見えてきました。クライアントにとってコールセンターとはどのような場所なのか。戦略立案や映像素材制作(大広)、メディアバイイング(ディー・クリエイト)との連携を含めて解説します。
小林 かほり
アイビーシステム(株)池袋コールセンター サブマネージャー
オペレーターで入社、スーパーバイザーを経て、現在は複数クライアント企業を担当するチームのマネージャーとして従事。通販の新規受電を中心に様々な商材の受電業務を担当。
折橋 雄一
(株)大広WEDO プロデュースDivision プランニングチーム
TV通販枠のバイイング、TV通販会社の営業担当を経て、ダイレクトマーケティング業務に従事。TVインフォマーシャルを中心にした企画・制作・メディア運用から、CRM戦略立案や顧客育成プログラム立案等のクライアントサポートを推進。
「電話を受ける」という業務の奥深さ
――まず、TVインフォマーシャルにおけるコールセンターの基本的な役割を解説いただけますか。
折橋
TVインフォマーシャルを見たお客様が電話をする先、つまり、お客様と企業とのファーストコンタクトを担うのがコールセンターです。第一義的な役割は、「電話を受ける」こと。当然のこと、と思われるかもしれませんが、案件ごとに異なる条件を分析し、入電数を予測して、オペレーターの数も含めた体制を過不足なくつくるには、多大なノウハウが必要です。TVインフォマーシャルの場合は、その商品を初めて買うお客様が多いので、コールセンターの応対が企業の第一印象になる。顧客を獲得し、長くお付き合いしていくためには、質の高いコールセンターが不可欠です。さらに、コールセンターから得られる情報はPDCAを回していく起点になるものですから、戦略的にも重要な拠点です。
――日々、業務に当たっておられる小林さんは、コールセンターの役割をどのようにとらえていらっしゃいますか。
小林
一般的にはコールセンター=注文を受ける場所、と思われがちですが、弊社ではその役割を、「お客様とクライアント企業の間に立って双方を繋ぐ架け橋になること」と捉えています。お客様は私たちをクライアント企業の人だと思ってお話しされますから、私たちもクライアントの代理だという意識で応対することを徹底しています。お客様の質問にお答えしたり意見をお聞きしたりして、クライアント企業につなぐことも重要な役割です。アイビーシステムでは、電話を受ける人のことをオペレーターではなく「エージェント(代理人)」と呼ぶ理由もそこにあります。
――顧客に十分な応対をするために、人員体制はどのように組んでおられるのでしょうか。
小林
基本的には、番組の放送予定と、クライアントや広告代理店から提供される呼量予測(過去のデータから入電数を予測したもの)をもとに、クライアントのKPIを達成できるよう体制を組んでいきます。KPIの設定も、応答数や応答率を重視される場合、定期引き上げ率(お試し商品を購入した顧客が通常商品購入や定期購入へと移行した割合)に重点を置かれる場合など企業によって様々ですので、エージェントの特性を見極めつつ、人数と、誰をどこに配置するかを決定します。電話が集中するのは放送時間の中でCTA(Call to Action=行動喚起。受注を促す呼びかけ)の出るタイミングですが、商品によって電話の鳴り方も異なるので、過去のデータとマネージャーの経験値を合わせて最適な体制をつくるようにしています。
――商品や企業に合わせて体制を組むのですね。
小林
そうですね、たとえば、なぜか放送が終わってから入電する「後鳴り」が非常に多い商品があって、その後鳴りに応対できるように人を配置する、ということもあります。また、映像のつくり方によっても電話の鳴り方は変わります。映像の前半から商品内容を詳しく訴求する映像素材なら前半から電話が鳴りますし、情報を小出しにした上で最後にドーンと出す場合には最後に電話が集中する。商品や放送素材の傾向を分析し、入電を予測することも、人員配置にとっては重要です。
――応対のしかたに「専任」と「シェアード」があるとお聞きしました。それぞれ、どのようなことでしょうか。
小林
「専任」はクライアント1社に限定して人員を配置して受電するという方法です。呼量予測に対して予め配置人数を算出し、適切な人数を配置することで呼損(混雑などにより受電できないこと)を減らして応答件数を確保することができ、エージェントもひとつの商品に集中して応対できるメリットがあります。ただ、コスト面は「シェアード」に比べて割高です。
一方、「シェアード」はエージェントが複数社の受電を行う方法です。「専任」より低コストで、放送予定に応じて柔軟に体制を組むことができるというメリットがあります。一方で、複数社のコールを順番に受電するため、大きな放送が重なってしまった場合などは応答件数が制限されてしまう恐れがあります。
――「シェアード」の場合、エージェントの方々は複数の商品に応対できなければいけないのですね。
小林
はい、商品の数だけ異なる情報やトークスクリプトを理解しておく必要があります。ただ、弊社には数十年のキャリアがあるベテランも多く、中には10社近く同時に応対できる人もいます。組織としても、マニュアルやスクリプト、FAQなどを電子化し、簡単に素早く確認できるようにするなど、エージェント側の負担を軽減し、正確に応対できるような工夫をしています。
「企業の顔」となり得るコールセンターはこうつくる!
――トークスクリプトは応対の基本となる「台本」のようなものだと思いますが、アイビーシステムではどのように準備されているのでしょうか。
小林
クライアント側で作成したスクリプトを使用する場合と、弊社に作成をお任せいただく場合があります。弊社で作成する場合にも、クライアントの意向を聞きながら練り上げるので、長ければ完成まで2週間以上かかる場合もあります。
――企業からはどのような意向があるのでしょうか。
小林
たとえば、「お客様のお悩みごとを必ず聴取してほしい」とか、放送内容のブラッシュアップのために「番組のどこがよかったかを質問をしてほしい」、という意向は多いですね。また、商品に大きな自信をお持ちの企業が、スクリプトの中で「お客様にしっかり商品アピールをしてほしい」と要望されるケースもあります。でも、お客様が番組を見てすでにご存じの内容だと、話に飽きてしまわれたり、通話時間が長くなってかえって購買意欲が下がったり、その間、他の電話を取れず機会損失につながるなど、逆効果になることも考えられます。そういう場合はクライアントと話し合いながら、適切に短くお伝えできるよう提案して調整したりします。
――クライアントの意向をくみ取りつつ、最適化していくということですね。実際の会話はスクリプト通りに進むのでしょうか?
小林
スクリプト通りに進行出来ないケースも多くあります。スクリプト上は、冒頭で「ご注文でしょうか」と伺ってから「何のテレビ番組をご覧になりましたか」という媒体聴取をする流れだったとしても、冒頭より、商品の効果やお値段など様々なご質問をされます。ですからエージェントは、お客様の話の流れに合わせて応対しながら、タイミングを見てスクリプトに戻れるよう訓練を重ねます。「お客様のお話をきちんと聞く」ことと「スクリプトを遵守してご案内をする」ことを両立するよう徹底しています。
――スクリプトの全体像が頭に入っていないとできないことですね。どのような準備をされるのでしょうか。
小林
TVインフォマーシャルの場合は、放送される映像素材の内容を事前に共有いただいて視聴します。お客様から「出演していた人がすごく綺麗だったけどおいくつなの?」といった質問が出たりするので、商品そのものの情報でなくても、放送内容は頭に入れておく必要があります。途中までしか見ないで電話される場合には、応対の中で商品情報を補足することもあります。
――いまお聞きしていただけでも、エージェントの方々が、準備を徹底された上でお客様に合わせて臨機応変に応対しておられることがわかります。社内の教育体制はどのようにされているのでしょうか。
小林
スクリプトに関しては、スクリプトを見ながらの研修をした上で、ロールプレイングを繰り返し実施し、様々な場合の応対を徹底して身につけます。また、社内の応対品質管理部が応対の音声をモニタリングしてスクリプトが遵守されているかチェックし、改善点があればエージェントにフィードバックして応対のレベル向上をはかっています。
――難しいのはどのようなことでしょうか。
小林
電話は顔が見えないので、声のトーンや話し方で気持ちがダイレクトに伝わってしまう傾向があります。そこが対面の接客に比べて非常に難しい部分です。
――エージェントの方々の気持ちが重要だということですね。
小林
はい。弊社の経営理念「明るい笑顔 素直な心 感謝の気持ち」――明るい笑顔でお客さまをお迎えすること、素直な心でお客様のお話に耳を傾けること、感謝の気持ちを持つこと――これができているかどうかで応対の品質も最終的な結果も変わってきます。お客様に「あなたがそうやって薦めるなら、この商品を長く使ってみようかしら」と思っていただけるような応対が理想です。
また、お客様にクライアントのファンになっていただくことも、私たちが担う役割のひとつだと考えています。当該の商品情報だけでなく、クライアントの理念や開発の経緯などを事前の研修でしっかりと学ぶようにしているのは、そのためです。エージェント自身がお客様に共感し、寄り添うこと、クライアントの商品の良さをよく理解して「お薦めしたい」と思っていることが、とても重要なのです。こういう教育を徹底しているところも、弊社の強みのひとつだと考えています。
――さきほど、勤続年数が長いエージェントが多くいるという話が出ましたが、全体として離職率も低いとのこと。どこに要因があると考えておられますか。
小林
コールセンターは24時間365日稼働していますが、所属人数が多いこともあって、個人の事情に合わせて柔軟な働き方ができるようシフトなどを配慮することができています。そこに働きやすさがあるのだろうと思います。また、数字面での成績は個人ではなくチームで達成しよう、という雰囲気づくりも心掛けています。個人が数字で追い込まれると、どうしても応対に表れてしまいます。それよりも、みんなで協力して応対の質を高めながら目標を達成していこう、という方針です。総じて仕事に対する意識が高く、楽しんで働いている人が多いのも弊社の特徴だと思います。
戦略立案のシーズは「顧客の声」の中にある
――クライアントに顧客の声を届けることもコールセンターの重要な役割だということでしたが、情報提供はどのように行われるのでしょうか。
小林
基本的には呼量や応答件数、受注件数や引き上げ率、どの媒体を見たのか、媒体別の受注件数や引上げ率などを集計して報告します。また、注文にならなかった入電にどのようなものがあったのか、といったことを報告する場合もあります。そうした数値とは別に、お客様のご質問やご意見などもレポーティングします。
折橋
我々からコールセンターにお願いして、販売戦略を立てたり映像素材を分析したりするためのアンケートをスクリプトに加えてもらうこともしばしばあります。
小林
そうですね。お客様がインフォマーシャルの映像のどこがよいと思ったか、何を見て購入しようと思ったか、など、事前に設定した質問をしてアンケートを取る場合もあります。
――顧客から情報を得る上で苦労されることはありますか?
小林
ご年配の方だと、いま自分がどのチャンネルを見ているのかを把握していない方も多く、聞き出すのが難しい場合がありますね。番組を視聴中の電話だといいのですが、「昨日見た」「先週見た」となると、時間帯もはっきりしなかったりします。エージェントは、「夜でしたか、朝早かったですか」「長い番組でしたか、短かったですか」など、いろいろな聞き方をして視聴された番組を特定する手がかりを探すことになります。
――そこでも、エージェントの方々の応対力が発揮されるわけですね。アイビーシステムは情報収集する立場ですが、大広グループの連携、情報共有についてはどのように考えておられますか。
小林
大広さんやメディアバイイングのディー・クリエイトさんと情報共有いただくことで多くのメリットを感じています。人員配置をはじめとするセンター構築の部分で精度を上げられることはもちろんですが、クライアントの考え方や企画の意図などをしっかり理解できることで、私たちもその一員となって成功させよう、という意識になれることは、エージェントのモチベーションにもつながっていると思います。
折橋
映像素材の制作でいえば、エージェントさんに映像に対する意見を聞いたりすることもあるんです。お客様の反応をいちばんよく知っている人たちですから。
小林
そうやってコールセンターの声を聞いていただくと、やりがいもより大きくなります。
――顧客応対の世界もめまぐるしく変化していますが、コールセンターの今後についてはどのように展望されますか。
小林
お客様応対にもAIによるチャットが導入される事例が増え、利便性や効率が高まった部分はあると思います。ただ、高齢のお客様をはじめとして、自動化されたところからあふれてしまう方々が必ずいる。「人対人」の重要性も増してくるのではないかと思います。お客様に寄り添って応対するという、人だからこそ生み出せる価値を、コールセンターとしては大切にしていきたいと考えています。
折橋
コールセンターは顧客体験の最前線、重要なタッチポイントです。そこで気持ちのいい接客があれば、顧客にとってそれは「良い体験」、その企業のことを好きになる出発点になり得るわけです。クレーム連絡をしたときの応対がよかったことで、その後ロイヤル顧客になった、などというケースはたくさんありますから。
――質の高いコールセンターは、TVインフォマーシャル成功の要のひとつということですね。
――さて、「今こそ!TVインフォマーシャル」シリーズもいよいよ最終回となりました。全体を締めくくっていただけますか。
折橋
このシリーズでは、TVインフォマーシャルの歴史から、メディアバイイング、関連法規や制作ノウハウなど、多岐にわたって解説してきました。近年TVインフォマーシャルが再び注目され、新たなビジネス分野に広がりを見せていることも、お話してきたとおりです。
インフォマーシャルを効果的に運用するためには、調査と分析に基づいてPDCAを回しつつ、お客様の心をつかむ映像素材を制作し、効果的な放送枠を準備し、高い応対品質で注文を受ける、というように、各社が正しく機能しつつ連携する必要があります。戦略立案と素材制作の大広、メディアバイイングのディー・クリエイト、そしてコールセンターであるアイビーシステムが相互理解のもとに連携することで、それぞれの豊富なノウハウが相乗効果を生み、戦略的なインフォマーシャルを実施することができます。
大広グループでは、このように3社が連携をして、質の高いTVインフォマーシャル展開が可能になっています。
中高年層に向けたTVインフォマーシャルは、商品やサービスの魅力を分かりやすく伝える力があり、納得感を与えながら、新規顧客を効率的に獲得できる最強のチャネルの一つです。
企業様においては、この効果的な施策を取り入れることで、これまでにないビジネスチャンスの扉を大きく開くことができると確信しております。
まとめ
- コールセンターは、「注文を受ける」だけではない、顧客情報収集と戦略立案の最前線。
- 質の高い応対を実現するために、電話を受ける人材教育はスキルとマインドの両面で。
- 映像素材制作、メディアバイイング、コールセンターが連携することで、より効果の高いTVインフォマーシャルが可能になる。
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この記事の著者
小林 かほり
アイビーシステム(株)池袋コールセンター サブマネージャー