2025年に大広の社内ユニット、大広GXU(グロースクロスユニット)が誕生しました。さまざまなプレイヤーとクロスし、新たな価値をグロースすることを目指す本ユニット。そのメンバーとつながりのある方々に話をお聞きする本連載。第9回は広告業界の第一線で活躍した後、ソーシャルデザイン領域でチャレンジを続ける福島治さん。東日本大震災の復興支援から、障がいのあるアーティストを中心とした市民芸術祭の立ち上げまで、数々のプロジェクトを手掛ける原動力や気付きを伺いました。
福島 治
有限会社福島デザイン ソーシャルデザイナー/アートディレクター
デザイン事務所や広告代理店を経て、1999年に福島デザイン設立。2009年からソーシャルデザインをテーマに活動を開始し、東日本大震災支援プロジェクト「祈りのツリー」、JAGDA東北復興支援活動などを推進。2018年に株式会社フクフクプラス設立。障がいのある方の創作活動を活かした「ご当地フォント」などを展開。「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」発起人/総合プロデューサー。東京工芸大学 名誉教授。JAGDA・AGI会員。
塩脇 生成
株式会社大広GXU ブランドエクスペリエンスグループ
クリエイティブディレクター/コピーライター/プランナー
編集プロダクション、転職メディア、出版社、広告会社などを経て、2023年に博報堂ケトルへ。2025年より現職。主な受賞歴はACC、JAA広告賞、毎日広告デザイン賞、CCNなど。
50代で見つけた、新たなライフワーク。
塩脇:大学時代、福島研究室ではお世話になりました。福島さんは広告代理店でアートディレクターやクリエイティブディレクターとして活躍後、ソーシャルデザインへと軸足を移されています。そのきっかけからお聞きしたいです。
福島:2009年ごろですね。家族に不幸があって、鬱になり人と会いたくない時期がありました。その時に、「自分は今後どういうデザインをやりたいのか」考えることが増えたんです。広告業界で実現したかったことは、大体達成できた。だから、何か新しいことに対してもう1度情熱を持って取り組みたいと思ったんです。
塩脇:その時に出会ったのがソーシャルデザインだったと。
福島:そう。ある海外事例をまとめた本を読んでいて衝撃を受けました。途上国の人たちが水を運びやすくするためのプロダクト開発だったり、社会課題を解決する仕組みのデザインだったり。僕はそれまで「かっこいいビジュアルをつくる」挑戦をしてきました。でも、「社会課題を解決するためのデザイン」という考え方があるんだと気付いたんです。これは挑戦しがいがあるなと思いました。
塩脇:今でこそソーシャルデザインという言葉や概念は広まりましたが、当時はまだそうした機運はなかったんじゃないですか。
福島:ほとんど聞かなかったですね。広告はクライアントがいて、予算があって、目的も明確。だけど、ソーシャルデザインは違う。クライアントはいないし、予算もない。けれど課題だけはある。何をどうしようかと悩んでいる時に、東日本大震災が起きました。
塩脇:2011年3月ですね。
福島:「デザインの力で何かできないか」という考えと同時に「一人じゃ絶対に無理だな」と思いました。そこで、ソーシャル活動を行っている著名なデザイナーとコピーライターに企画を持って会いに行ったら、「意味のあることだから一緒にやりましょう」と快諾してくれて。そこから3人で集まって、「祈りのツリープロジェクト」が始まりました。
塩脇:日本ユニセフ協会がプロジェクトの母体となっていますが、どのような経緯で?
福島:被災地がどういう状況で、何を必要としているのか、いち早く現場に入って知っていたのがユニセフでした。僕らの企画が、大変な状況下にある人々のおせっかいになってはいけない。現場を知るユニセフには、ぜひとも仲間になってほしくて声をかけたんです。
塩脇:それが2011年夏ごろの話で、2011年の冬には被災地にツリーを届けている。すごいスピード感ですね。
福島:3人だけのプロジェクトだと狭い感じがしたので、デザイナーや美大の教授陣、美大生に声をかけまくったんです。そこで日本を代表するデザイナーを含め、たくさんの人が仲間になり、ムーブメントが生まれて企画が加速した。出版社にも協力を仰いで記事にしてもらい、2000人のクリエイターが集まったんです。
塩脇:すごい!
福島:声をかけたほぼ全員が快く参加してくれて、ありがたかったですね。参加クリエイターが被災地の子どもたちを想いながらクリスマスオーナメントを制作。それをチャリティー販売したり、被災地に直接届けたり、展示したりしながら最終的にはオーナメントで彩られたクリスマスツリーが被災地に贈られました。
塩脇:それが第一弾で、この後も長く続くプロジェクトになったと思うのですが、最初から長く続ける想定だったのでしょうか。
福島:最低3年はやりましょうと周りに言い続けていました。打ち上げ花火ではよくないと。所属していたJAGDA(日本グラフィックデザイン協会)に企画書を持っていき、JAGDA会員によってデザインされたハンカチを、被災地の子どもたちにプレゼントする活動なども同時期に行ないました。
気付いたら、家を売っていた。
塩脇:その後も、どんどん活動を拡大していますね。
福島:被災から1年後には4つの小学校に出向き、子どもたちに書いてもらった絵をJAGDA会員がデザインしてチャリティー販売する企画を実現しました。子どもらしさがありながら、プロのデザインが施された素晴らしい作品が生まれて、500万円以上の寄付が集まったんです。さらに寄付で終わらないように、ワークショップも行いました。
塩脇:すごい行動量ですね。
福島:ちょっとでも子どもたちに癒しや笑顔を届けたくて必死でした。4つの小学校で実施したワークショップでは子どもたちに「寄付金125万円の使い方を考えてください」という課題を出して、みんなで地域の人や友達が笑顔になるアイデアを考えたんです。
塩脇:楽しそうですね。記憶に残るアイデアはありますか。
福島:鼓笛隊を組んでいる子どもたちがいたんです。しかし、放射能によって楽器が使えなくなり、活動が途絶えていた。その子たちが出してくれたアイデアが「楽器を買い直して、地域の人に音楽のプレゼントをしたい」というもので、すごく良いと思いました。そのアイデアを採用して楽器を購入し、子どもたちの演奏をみんなで聴くことができたんです。
塩脇:久しぶりに演奏を聞いた地域の人も嬉しかったでしょうね。
福島:さらに素晴らしいのは、その楽器と活動が後輩に受け継がれていったことです。アイデアを出してくれた子どもたちがいつか同窓会で集まって、「あの伝統を復活させたのはおれたちだよね」と誇りに思える活動になったことが大きな成果です。
塩脇:寄付でとどまらず、誇りを取り戻すことができたと。
福島:そう、ソーシャルデザインはお金を集めることじゃない。未来につながることが目的だと思うんです。
塩脇:とは言え、活動資金も重要ですよね。
福島:まさに、そこが常に課題…。ソーシャルデザインをやると覚悟を決めてから、お金がどんどんなくなりました。ソーシャル1本で行くとかっこつけて、広告の仕事を全てやめたので福島デザインの売上は10分の1。それでも東北には5年間以上、通い詰めて自費もかなり投じました。気が付くと、軽井沢にあった家は売ることに…。
塩脇:すごい覚悟ですね。
福島:でも、その苦い経験で学んだことがあります。善意だけでは続かない。社会を良くしたいなら、活動そのものを持続可能にしなければいけません。
人は正しさでは、動かない。

塩脇:現在は障がいのあるアーティストの作品で街中を飾る市民芸術祭「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」の開催なども行っていますね。
福島:東北での学びを経て、たくさんある社会課題の中で何をテーマに活動するのか考えました。そこで出会ったのが「障がい者アート」。障がいのある方が描くアートの魅力と価値を伝えようと決めました。
塩脇:なぜそこに惹かれたのでしょうか。
福島:作品が本当に魅力的だったんです。でも、評価や収入につながりにくく、ご家族も苦労されているケースが多かった。だったら、僕が培ってきた「伝える力」を使って、社会との接点をデザインしようと考えました。
塩脇:それが「フクフクプラス」や「ご当地フォント」といった活動にもつながっているんですね。
福島:そうです。障がいのある方が描いた絵や文字を、デザイナーや学生と一緒にフォントやパターンに変換する。それを企業や自治体が使い、利用料をアーティストへ還元する。そんな仕組みを共同代表の磯村が考案し、一緒に広めました。
塩脇:仕事になる仕組みをデザインしたんですね。門前仲町の街を美術館に見立てて、歩道や街中にアート作品を飾る「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」も同じ発想でしょうか。
福島:そうですね。やりたかったのはイベントではなく、ファンを増やしたかったんです。
塩脇:ファン?
福島:作品をきっかけに、人と人が話して理解が生まれて好きになる。だから「アートパラ深川芸術祭」とはせずに「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」として、対話が生まれる構造をつくりました。
塩脇:企業の巻き込み方も、「スポンサー」ではなく「パートナー」を目指したそうですね。
福島:協賛企業の担当者の方とも対話を生み出したかった。だから、芸術祭に「企業賞」をつくって自分たちが好きな作品を選んでもらいました。担当者の方はみんな本気で選びます。すると、授賞式で作家本人や家族と会うと会話が弾むし、気付けばファンになっている。そこから、その企業主催の個展やコラボ商品化といった話が生まれることもありました。
塩脇:企業も祭りの当事者になっていくんですね。
福島:仲間になる設計、モチベーションが上がる仕組みがあれば人は動いてくれる。2026年10月に7回目を迎えた「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」ですが、今では協賛企業の社員さんがボランティアで参加してくれたり、社長が自らチラシを配ってくれたり、そういう風景を見ると嬉しいですよね。スターアーティストもたくさん輩出できて、協賛金も十分いただけるイベントになりました。
塩脇:持続可能な活動になっていますね!最後に、ソーシャルデザインに必要なものと、広告会社がマネできる要素があれば教えてください。
福島:ソーシャルデザインに必要なのはとにかくパッション。バカと思われてもとにかく頑張る、一生懸命になる。「この人は本当に課題を勉強して理解して、ライフワークとして本気でこの問題に取り組んでいるんだ」という姿を見て、周りも手を差し伸べようかなと思ってくれる。また、社会課題を解決する企画と言っても、正しさだけでは人は動かない。楽しいこと、面白いこと、参加したくなることが大事です。そこを設計できるのは広告人の強み。だからこそ、もっと広告会社には社会課題と関わる余白があると思っています。
まとめ
福島さんの活動に共通していたのは、「まずファンをつくる」仕組みのデザインを設計すること。社会課題を訴えるのではなく、人や作品を好きになってもらう。支援者を集めるのではなく、取り組みを好きになってくれる仲間を増やす。結果として人が動き、活動が続き、社会課題の解決につながっていく。福島さんがデザインしているのは、課題解決の仕組み以上に、応援したくなる関係性そのものかもしれないと感じる取材でした。
【参考】
福島デザイン
https://www.fukushima-design.com/
アートパラ深川おしゃべりな芸術祭
https://artpara-fukagawa.tokyo/
「大広とクロスな人たち」シリーズ一覧
第1回「良い人みんなでつくる時代」 みんな/皆川壮一郎さん
第2回「文脈を編み出し、接点を増やす。広告チームにこそPRパーソンを」マドベ/片山悠さん
第3回「日常の延長で広告体験を味わってもらう“銭湯”の魅力」 ピクセル/大塚輝さん
第4回「オノマトペは、“人の心を鷲掴み”にする言葉」 明治大学/小野正弘さん
第5回「ネコが広げる、つながりとアイデア」 SUNDAY ISSUE/太田メグさん
第6回「“うっかりプロ野球選手”から始まった、世界の野球を知るキャリア」 カメラマン/八木虎造さん
第7回「毎日の実験的イベントで発見を生む」 本屋 B&B/中川紀彦さん・酒井和也さん
第8回「企業の中に眠る原作を物語に。ブランドエンタメが育む企業資産」 エスアイエーメディア/萩原穣さん



