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2024.08.26

産後リカバリープロジェクトの事業化事例。 フェムテック・フェムケアを自社のアセットから 推進した、株式会社ポーラ“ママニエール”

女性特有の健康課題を解決するテクノロジーや商品・サービスを指す「フェムテック」。スタートアップだけではなく大企業においても自社のアセットを活かした参入が進み、本格的な実装・社会浸透期に差し掛かっています。一方で、どのように課題を設定し、自社のアセットから新規事業を推進していくのか、手探りの企業も多いのではないでしょうか。
フェムテック・フェムケアの活用の場として、これまで見落とされていた「産後のリカバリーケア」が注目されはじめています。「産後」を一つのターニングポイントとして捉え、正しいヘルスケア知識を広げ、健康やQOLをもっと社会で応援していく「産後リカバリープロジェクト」も立ち上がり、私たちフェムテック・フェムケアラボもこのプロジェクトに参画しています。
今回のコラムでは、産後ケアとフェムテックで新規事業を展開した株式会社ポーラさまの事例をご紹介します。自社のアセットを見つめなおし、その活用方法を「肌」から「心の分析」に変換した、産後ケアアプリ“ママニエール”の立ち上げから、今後の事業展開について、大広フェムテック・フェムケアラボの柴田がお話を伺いました。
※この記事は、COCAMPウェビナー『産前産後×フェムテックにおける事業創出』第2部からの抜粋です。

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◆株式会社ポーラ 馬場喜美子さま
 /mamaniere(ママニエール)事業責任者
2011年株式会社ポーラ入社。海外事業部にて、現地法人での営業、教育、マーケティングの担当後、商品企画部門にて「B.A」や「ホワイトショット」などのスキンケア品、「ディエム クルール」などのメーク品を中心に、約10年間、商品開発に従事。2度の産育休の経験から、産後ケアの必要性を強く感じ、本業と並行して、部署を超えたメンバーとゼロからmamaniereの開発を行う。

cocamp002_-3shibata◆株式会社大広 柴田 笙子/フェムテック・フェムケアラボ
2019年に新卒で入社後、食品・ヘルスケアやファッション・美容系業界のブランド戦略立案・コミュニケーション支援、サステナビリティ推進を行う。大広フェムテック・フェムケアプロジェクトでは産後リカバリープロジェクトの推進に携わり、企業の連携による社会課題解決に取り組む

 

 

 

女性の健康課題解決に向けた社員向け支援を洗い出し、事業領域を選定。

馬場さんの自己紹介と、ポーラさまで女性特有の健康課題への対策について、どのように取り組まれているのかを教えていただけますか。

株式会社ポーラの馬場と申します。2011年にポーラに入社し、海外事業部で営業、教育、マーケティングを担当した後、10年以上化粧品の開発に従事してきました。現在はフェムテックのサービスを新規事業として立ち上げ、その責任者を務めています。プライベートでは5歳と8歳の娘を育てており、2度の産育休を取得しながら働いています。
 ポーラがどのような会社かを簡単にご紹介します。ポーラはもうすぐ創業100周年を迎える化粧品会社で、国内外に多数の販売拠点を持っています。従業員は約1300人で、そのうち75%が女性。総合職でも半々の割合で、管理職に占める女性の割合は30%です。内閣府のデータによると、令和3年度の日本の女性管理職比率は13.2%なので、ポーラの数値は比較的高い方と言えます。
 しかし、私たちポーラはこれで満足しているわけではありません。女性特有の健康課題が原因で離職やキャリアの停滞が起こらないようにするため、ライフステージに合わせた社内支援を提供しています。具体的には、婦人科産業医の在籍、定期健康診断、自己負担婦人科検診の補助などが挙げられます。また、オンラインで診療処方ができるルナルナオフィスプログラムや、生理用ナプキン無料受取サービス「OiTr(オイテル)」も導入しています。さらに、卵子凍結の保管初期費用や検査費用の補助も行っています。

新規事業を立案しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか

ポーラでは女性の健康課題に対する支援は手厚いものですが、私自身が出産を経験したことで、産休育休中のサポートが不足していることを実感しました。産休育休中は会社との接点が少なくなり、先程挙げたような支援を受けづらくなります。出産後には心身の変化と不調に直面し、育休復帰に向けて心身のリカバリーが必要でした。この経験から、産後ケア事業の必要性を強く感じ、新規事業として立案しました。

 

自社アセットを見つめ直し、課題解決のための活用方法を検討。

産後ケアの必要性を強く感じられたご自身の体験から新規事業として提案された、産後ケアアプリ「ママニエール」について教えてください。

 「ママニエール」は、ポーラ独自の顔分析技術を活用して、産後ママの心と体の状態を即座に分析するアプリです。スマホを顔にかざすだけで、30秒以内に現在の疲労傾向や自律神経の状態を把握することができます。この分析結果をもとに、一人ひとりに最適なケア方法やサービスを提案する、まさに「あなただけの産後のコンシェルジュ」として機能するのアプリです。このアプリは、昨年の7月に公開され、産後のママたちに向けた独自のケアサービスを提供しています。

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 なぜポーラがこのようなアプリを開発したのか、その背景についてもお話しします。産後の女性たちは、赤ちゃんの世話に追われ、自分のケアを後回しにしがちです。しかし、この時期は心身ともに不調を感じやすく、適切なケアが非常に重要です。ポーラはこの課題に対して、自社のアセットを活用できる方法を模索しました。より良い化粧品を開発するために、ポーラには肌分析技術という強みと、2,070万件以上の肌分析データの蓄積がありました。このビッグデータは世界最多ともいわれています。その技術とデータベースを、視点を変えて「肌」ではなく「心や体の状態」といったヘルスケア領域で活用できないか検討に検討を重ね、産後ママの心と体の状態を分析する技術を開発したのです。

新規事業の広がりや、ターゲットからの反応はどうでしたか。

 ポーラはこのアプリを無料で提供することで、同じ志の企業や地域と手を結び、産後ママたちへの価値向上や産後の課題解決のスピードアップを目指してきました。すでに115社以上の企業に協賛していただいています。また、経済産業省の「フェムテック等サポートサービス実証事業」に採択されたり、神奈川県の「ME-BYO BRAND」にも認定されました。ベビーテックアワード2023 にて大賞、ウェルビーイングアワード2024でGOLD賞​をいただくなど、自分たちがおもっていた以上のひろがりに驚いています。
 何より一番嬉しかったのは、ユーザー様からの声です。「あなたはこれだけ疲れているよと第三者的な立場で言ってもらえると、休んでいいんだと思えるようになりました」「自分の味方になってくれるアプリだよと産後ママに勧めたい」​「分析結果を夫にシェアして、家事育児のサポートをお願いできました」など・・・産後の課題解決に少しでも役立てているという実感がありました。さらに、顔分析で得られたデータを活用し、大学との共同研究も進めています。産後ケアの新しい形として、「ママニエール」は産後ママたちの心と体を支えるパートナーとなることを目指しています。

ユーザー評価やエビデンスを積み重ね、事業の価値を広める。

このアプリを使った実証実験も行っているとのことですが、それはどういったものですか

 ⼥性、特に産後⼥性の⼼⾝の不調・復職に向けた社会課題の解決を⽬指すために実証実験に着手しました。まず、私たちが注目したのは産後ケアアプリを用いた育休復帰に向けた心身リカバリーの実証です。なぜ育休復帰に着目したかというと、産後の女性の約80%が育休中であり、復職に向けたキャリア支援が非常に重要だからです。特に驚いたのは、この実証を開始する際にリクルートを行ったところ、予想をはるかに上回る応募があり、育休中の産後ケアが非常に強く求められていることがわかりました。
 実際に産後のお母さんたちにアンケートを行った結果、87%が身体的または精神的不調を抱えていることが明らかになりました。さらに、産後からの経過月で比較すると、産後直後よりも育休復帰のタイミングで不調を抱える割合が増えていることもわかりました。これにより、育休復帰前のケアがいかに重要かが見えてきました。

産後女性の心身状態実証実験の結果、どのようなことがわかってきましたか?

 今回の実証では、顔分析を使って心身リカバリーの効果を測定しました。その結果、リアルでの産後ケアが非常に有効であることが確認されました。また、オンラインでのカウンセリングも同様に効果があることがわかりました。これにより、産後ケアの広義なアプローチが必要であると考えています。
 さらに、モニターの方々に定期的に自己分析を行ってもらった結果、分析の回数が多いほど自分の状態をよく理解し、健康に過ごしていることがわかりました。定期的に自分の状況を把握することが、産後女性の心身の健やかさを保つ有効な手段であると示唆されています。
 一連の実証を通じて、育休中の女性の心身ケアが職場復帰へのサポートに大きく寄与することがわかりました。産後ケアを単なる母子ケアとして捉えるのではなく、育休中の社員のキャリア支援の一環として位置づける必要があると感じています。また、女性のキャリアに大きな影響を及ぼす出産において、まだまだ必要とされるサービスやケアがたくさんあると実感しました。
 「妊娠したら母子手帳、出産したらママニエール」といわれるように、この先も頑張っていきます。そして、その先には、産後ケアが当たり前になって「産後ケア」という言葉そのものがなくなる日が来るのが私たちの願うところです。
 もし、私たちと一緒に何か取り組んでみたいと思われる方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡いただければと思います。

まとめ

産前産後は人生の中で最も健康リテラシーの高まるタイミングの一つです。産後を支え合う社会を作っていくことは、出産を検討する女性への希望を与えるだけでなく、子どもや家族、その周囲も巻き込んだ全ての人のウェルビーイングに繋がっていくと産後リカバリープロジェクトでは考えています。
その中で、ママニエールの取り組みも「まずは自分の状態を知るところから」始める、はじめの一歩のソリューションになるのではとお話を聞いて思いました。将来的に、女性従業員を持つ企業側からの支援として、キャリアの一環としてこのようなソリューションを福利厚生として取り入れる動きを作っていけるといいなと思います。
もしご興味を持った方がいらっしゃいましたら、産後リカバリープロジェクトにお声がけください!

 

 

※この記事は、COCAMPウェビナー『産前産後×フェムテックにおける事業創出』第2部からの抜粋です。第1部からのアーカイブ動画をご覧になりたい方はコチラ。