女性特有の健康課題を解決するテクノロジーや商品・サービスを指す「フェムテック」。
今世の中では、スタートアップだけではなく大企業においても自社のアセットを活かした参入が進み、本格的な実装・社会浸透期に差し掛かっています。
とはいえ、このコラムをご覧の皆様の中には、言葉として知っているものの「自社の場合何をテーマに取り組めばいいか分からない」「取り組み始めたけど将来像の作り方が見えない」そんな思いでもやもやしている方もまだまだいらっしゃるかもしれません。
そこで、大広フェムテック・フェムケアラボからの今回のコラムでは、私たちも参画・推進をしている「産後リカバリープロジェクト」を例に、「あるモーメントに着目して不(心、体、生活における不調・不快・不安・不満)を深ぼる」「同じ課題に気づいたプレーヤーみんなで手を取り合う」そんな向き合い方をご紹介したいと思います。
“一つの困りごとのあるモーメント”に見えても、沢山の解決したい不が絡まり合っていることも多々あります。それらを解きほぐしていくと、自社がお役に立てるところが見つかるかもしれません。
大広フェムテック・フェムケアラボが参画する「産後リカバリープロジェクト」とは?
◎始まりはみんなの「N=1(一人単位)のモヤモヤ」から
「産後って、めちゃくちゃ体にダメージがあるのに、みんな自分の体の回復に時間や気を使えてなくない……!?」
社会には、言われてみれば誰しもそう思うのに、なぜか解決しきれていない課題があります。
我々が参画している「産後リカバリープロジェクト」が捉える課題もその一つです。
私も大広フェムテック・フェムケアラボの一員として、そして、将来のライフプランに悩む一人の働く女性として、身の回りで見聞きする出産と育児の壮絶さに、疑問を感じたり、びびったりしていました。そんな時に同じ想いでお声がけいただいたのが日本リカバリー協会さんでした。「産後にまだまだ企業としてできることがあり、それを各社が手を取り合う形で進めていきたい」ということで、全力でこのプロジェクトの推進に乗りました。
◎産後リカバリープロジェクトの活動内容
この日本リカバリー協会が中心となり2022年に立ち上がった「産後リカバリープロジェクト」は、「産後」を一つのターニングポイントとして捉えています。
正しいヘルスケア知識を広げ、日本人の生涯にわたる健康やQOL、子どもの健全な成長をもっと社会で応援していくことを様々な企業やプレーヤーで目指すプロジェクトです。
一般社団法人日本疲労学会、神奈川県未病産業研究会、神戸リサーチコンプレックス協議会が後援し、専門的な視点からのアドバイスを得ながら、今まであまり進んでいなかった産後の女性及び夫婦へのリカバリーの意識を高める活動や社会全体への定着や啓発に取り組んでいます。参画企業同士で手を取り合ってアセットを活かした商品・サービス開発も進めています。
2022年11月のプロジェクト設立から、これまで地道に仲間集めを進めてきました。
まだまだ1年ちょっとのプロジェクトにはなりますが、2023年10月に初の啓発キャンペーンを行うにいたりました。
10月10日「産後リカバリーの日」第一回シンポジウムレポート
「産後リカバリープロジェクト」では妊娠期間を表現する「十月十日(とつきとおか)」にちなみ10月10日を「産後リカバリーの日」として記念日制定しています。
プロジェクト設立初の記念日2023年10月10日に『産後リカバリープロジェクト 第1回シンポジウム』を開催し「産前産後10の重要課題2023」を発表しました。
(会場はタカラベルモント株式会社ホールにて開催いたしました)
①見えてきた産後にまつわる不「産前産後10の重要課題2023」の発表
「産前産後10の重要課題2023」を発表しました。
「産前産後10の課題2023」は、産後リカバリープロジェクトで実施した667人への産前産後のアンケート調査と10万人の調査データから作成した「産後リカバリー白書」をもとに、参画・協賛企業、産前産後に関わる有識者の方などとともに内容を決定しています。
<産前産後10の需要課題2023>
- 妊娠中と比べて産後の情報が少ない
- 「休めない」意識は産後1.5倍に
- 回復が十分でないまま社会復帰せざるをえない
- 産後の体のケアの満足度が低い
- 核家族・一人親世帯などで頼れる人が少ない
- 妊婦歯科健診の受診率は3割
- 今や5人に1人の帝王切開出産。心のケアへの理解不足
- パパ育休へのモヤモヤ
- 男性の産後うつが見過ごされている
- 産後リカバリーは産前から始まっているという事実
この10の課題、意外なものもあるのではないでしょうか?
情報アクセスの難しさや、自分自身のケアに手が回らない状況、現代社会のライフスタイルによるものなど、様々な様子が浮かぶはずです。
「産前産後10の重要課題2023」の発表では、具体的な調査結果を交えての発表を行い、10項目が発表されるごとに熱心にメモをとる参加者の姿が印象的でした。中でも「妊婦歯科健診の受診率は3割」「5人に1人の帝王切開出産」という項目は知らなかったという方が多く、時代とともに変化する産前産後の状況、特に産後ケアの情報の少なさに気付く機会になりました。
②産後はアスリートにとってのケガ!?「千葉工業大学野村由美先生による講演」
千葉工業大学創造工学部教育センター助教 野村由実氏
千葉工業大学創造工学部教育センター助教の野村由実先生の講演では、近代の産後を取り巻く状況の変化から、先生の産後リカバリーに関する研究内容についてお話いただきました。
30年前と比べても、初婚・初産年齢の高齢化や核家族化、サポートする祖父母の高齢化、社会で話題になった男性育休の現状など産後を取り巻く社会的背景は大きく変化しています。そんな中で、野村先生自身の産後体験も交え、産後の回復についての実情をお話いただきました。
けがをしたアスリートはリハビリで競技復帰を目指すにも関わらず、産前の健診は定期的にあっても、産後は子どもの健診がメイン・ママ健診は産後1カ月までであるなど、大けがレベルと言われる産後ダメージからの身体的リカバリーについては注目されていない実情があります。
アスリートが日常生活から競技復帰までリカバリーするのと同じように、産後の心や体も回復させるだけでなく、社会復帰や自己実現も目指せる世の中であるべきだというお話をいただきました。
③企業が、社員やお客様へできること「参画企業によるパネルディスカッション」
パネルディスカッションでは「産前産後10の需要課題2023」の中からパネラーの各企業が特に注目している項目、企業活動に活かす項目に関して発表しました。
<各社の注目した課題と、活かそうと思う内容>
そしてタカラベルモント株式会社執行役員メディカル事業部事業部長の石黒昇氏の閉会の挨拶では「パパ育休のモヤモヤ」や「男性の産後うつ」など、企業が取り組んでいくべきことも多いとのコメントがありました。
今後、産後リカバリープロジェクトは、今回発表した「産前産後10の重要課題2023」をもとにして、課題解決に向けて日々変わる産前産後を取り巻く情報のアップデートとなる勉強会の開催や、ソリューションの模索・実現を目標に参画企業との協業などを予定しています。より広く「産後リカバリー期」について社会に啓発し続けることで、認識を深め、「出産」「産後」が現代の産前の方々にとって前向きな選択肢の一つとなるよう、新たな協力者を募りながら活動を推進していきます。
当日は約60名の企業やメディアの方にご参加いただき、参加者のアンケートには「広い視野で包括的に課題を洗い出していただき、新たな発見があったと共に、日本社会として解決していかなければならないと感じました」「出産経験者として個人的または同じ母親同士の間で感じていた様々な問題点を、このようなプロジェクトで行政・企業が協力して言語化・共有することはとても大きな意味があり、素晴らしいことだと思います」「出産に関わる女性だけではなく、社会で立場や役職のある男性の方が積極的に関わっていること、出産前の女性が関わっていることがすごくよかったです」などの感想がありました。また、開催後の名刺交換会では、シンポジウムでの熱気に負けない意見交換、交流が活発に行われました。
このモーメントに対し、「何か力になりたい!」という意欲を持つ人が様々な立場でいることがわかり、これからのプロジェクトを通じた課題解決に対して、一層期待が膨らむ機会となりました。
まとめ
名刺交換の場面でもみなさん「話を聞いていて〇〇だと思った」という気づきを熱くお話しており、良質なインプットにつながるシンポジウムとなりました。
このような、社会でなかなか手が付けられていない新しい不を伴うモーメントへの取り組みでは、1社で立ち向かっても世の中に浸透するスピードが遅くなることもあり、1社のソリューションよりも複数社が組み合わさるからこその提供価値を作れる可能性があります。
だからこそ、横での連携をみなさん重要視されており、「企業同士のプロジェクト」というタッグを組む形の可能性も感じました。
「あるモーメントに着目して不を深ぼる」と、一つのモーメントに見えても、沢山の解決したい不が絡まり合っています。まず実態を知り、課題の構造を可視化していくと、自社がお役に立てる不は必ず見つかるはずです。
私たちも産後リカバリープロジェクトや大広フェムテック・フェムケアラボを通じ、そのような課題解決の取り組みをより一層広げるつもりです。
今回、シンポジウムをご紹介した産後リカバリープロジェクトは新規参画企業を随時募集しております。ご興味をお持ちの方は、ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
【参考】
産前産後の10の重要課題2023 特設サイト
https://sungo1010.jp/
この記事の著者
柴田 笙子
(株)大広 顧客価値発掘局