アイドルや俳優、アニメのキャラクターなど、自分にとって「推し」の対象を応援する「推し活」。中心層は若い世代ですが、実は、40~50代のミドル層が「推し活」のメリットを享受し、人生後半のウェルビーイングにも影響を与えているという調査結果が明らかに。今日はこれら研究をはじめ、人生100年時代をどうポジティブに生きていくか、そのヒントを探究している(株)大広の髙橋薫さんをお迎えして、「推し活」が人生にどのように寄与するのか、ビジネスの顧客価値創造にどう生かせるのか、可能性についてお話を伺っていきます。
髙橋 薫
株式会社大広 ビジネス戦略本部 ビジネス統括局 アライアンスマネジメント部
2008年株式会社大広入社。
博報堂100年生活者研究所研究員(研修出向)。経営学修士。
広告会社歴約30年の中で、マーケティング職、営業職、コーポレート職に従事し、インターナルおよびエクスターナル・マーケティングの知見を深める。
博報堂100年生活者研究所では、自身が40代で推し活を始めた経験から、「人生100年時代」×「推し活」による幸福について研究。
「推し活」はウェルビーイングを高める活動だった!
――人生100年時代と言われて久しいですが、「推し活」が生きる意欲に影響を与えているようですね。なぜでしょうか?
はい。それではここで、私が研究員として活動している「博報堂100年生活者研究所」※1で行った「推し活」に関する調査結果※2をご紹介したいと思います。
まず、生きる意欲への影響という点ですが、「推し活をしている」 =“推し層”、「推し活ではないが、好きな対象がいる」=“好き層”、「推し活をしていないし、好きな対象もいない」=“ファン無層”に対し、「人生100年時代において、100歳まで生きたいと思うか」と尋ねたところ、①“推し層”>②“好き層”>③“ファン無層”の順で、「100年生きたい意欲」が高い結果となりました。つまり 「推し」がいるほうが、人生100年時代を生き抜く力を高める可能性があると言えるのです。
【100年生きたい意欲】
出典:博報堂100年生活者研究所
そして、なぜなのかと言う点についてですが、“推し層”と“好き層”が、「その対象から得られたこと」について聞いた結果があり、そこからの考察になりますが、「推し活」がウェルビーイングを引き上げてくれることが関係する可能性があります。
WHOの定義では、ウェルビーイングは「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」を指しますが、“推し層”に「対象から得られたこと」について聞いてみると、“好き層”と比べて、精神的メリット、身体的メリット、社会的メリットに該当する回答が、全般に高い傾向にあることが分かったのです。特に「出会いや友達が増えた」は3.8倍(社会的メリット)、「行動範囲が広がった」は2.9倍(身体的メリット)、「生きがいを得られた」は2.1倍(精神的メリット)、となっています。
つまり、「推し活」はウェルビーイングを高める力があり、もしやウェルビーイングが、人生100年時代の「生きる意欲」を牽引する可能性がある、ということも考えられます。
【対象から得られたこと】
出典:博報堂100年生活者研究所
――「推し活」と、趣味や好きなこととの違いって何ですか?
その違いは何か、“推し層”と“好き層”の「対象についての行動」を調べてみたところ、“推し層”が20ポイント以上、中には36ポイント以上差がつく行動をとっており、総じて“推し層”が「①対象に関連した購買力」「②対象への接近力」「③他者との情報流通力」を持っていることが分かりました。
つまり、「推し活」は、それらが単に好きな対象に対する行動とは段違いであるということになります。
また、そうした行動を「誰との間で行える行動か」で捉えて見てみると、“好き層”が自分のみで行える「①自分内行動」が特徴的であるのに対し、“推し層”はそれに加え、対象により近づき行える「②対象間行動」、周囲や仲間と行える「③他者間行動」が特徴的でした。
つまり、「推し活」は自分内だけでなく、推しや推し友といった対象間や他者間に渡り、多面的に行動をとる、より社会的な活動であると言えるのです。
【対象についての行動】
出典:博報堂100年生活者研究所
ウェルビーイングメリットが高くなるミドル層の「推し活」
――ミドル層が「推し活」に積極的だそうですね。
「推し活」の中心層は若い世代ですが、実は40~50代も「推し活」にアクティブというデータがあります。
これは、先の調査の追加分析で明らかになったのですが、“推し層”の「対象についての行動」を年代別に見てみると、40~50代は、20~30代に比べ「対象について他者とコミュニケーションをとる」で1.4倍、「対象がいる・ある現場に行く」で 1.3倍、「対象に直接気持ちを伝える」で3.3倍となっているのです。
【対象についての行動(推し層・年代別)】
出典:博報堂100年生活者研究所
――ミドル層の「推し活」行動は、前向きであることが分かりましたが、それによる効能といのうはあるのでしょうか?
“推し層”において、「対象から得られたこと」について聞いてみると、実は20~30代に比べ、40〜50代が全体に高めの傾向にあります。特に高いのは「人との話題や会話が増えた」で2.0倍(社会的メリット)、「出会いや友達が増えた」で1.9倍(社会的メリット)、「行動範囲が広がった」で1.7倍(身体的メリット)、「積極的に出かけるようになった」で1.7倍(身体的メリット)となっています。
これらは、ウェルビーイングでいう「社会的メリット」と「身体的メリット」の享受になります。前者の視点にて、「推し活」は、自分以外の他者や対象と“繋がる”ことを後押ししてくれる「社会的装置」であると言えます。こうした繋がりの中で、所属感を得られることは、人生100年時代、定年層や高齢単身世帯が増えていく時代となっても、孤独を解消し、生きがいを与えてくれるものとなっていくのではないでしょうか。また、後者の視点では、「推し活」により行動がアクティブになることで“健康”に寄与し、こうした社会的な活動をする上で大切な基盤になっていくのではないでしょうか。よって、「推し活」はミドル層以上に大きな支えとなるはずです。
【対象から得られたこと(推し層・年代別)】
出典:博報堂100年生活者研究所
研究員がハマったことと、出会ったリアルな「推し活」ミドル~シニア層
――髙橋さんご自身も、「推し活」 にハマっていると伺いました。生活に変化はありましたか?
コロナ禍を機に、あるキャラクターにハマりました。40代半ばのことです。それまで自分自身に「推し」が出来、いわゆる「推し活」をするとは思っていませんでした。それからと言うもの、日常がまるで変わりました。「推し」の情報をWEB検索したり、今まで使っていなかったSNSアプリを使用して「推し」と繋がったり。それにより推し友が出来てリプライをしあったり、推し友と「推し」のイベント現場に出かけ、「推し」に直接気持ちを伝えたり。また、関連グッズを複数購入したり等々・・・。
それだけ、「推し活」に関する時間が増えると、仕事やその他プライベートの時間との両立を心配に思われますが、逆に、「推し活」の時間を確保するためにメリハリが出来ました。
――「推し活」の現場を実際に見てみると、ミドル~シニア層がアクティブと伺いました。
「推し活」を始めて、SNSで繋がり、毎日のようにリプライし合い、イベント等の現場を共にする推し友には、50代、60代の仲間がいます。
ある50代の仲間は、共通の「推し」以外に、他の「推し」も複数いらっしゃいます。特に熱心なのはご当地キャラクターで、活動歴は約10年。キャラクターの遠征に合わせ、全国各地のイベント現場に出向かわれます。お仕事をされている中で調整も大変なようですが、各地での食事や、現場での「推し」の活動を複数のSNSに投稿され、推し友とのリプライも盛んです。先日は遠征先で「推し」にプレゼントを渡すことが出来たと喜んでおられました。また、関連グッズも沢山お持ちですが、どれも大切にされています。
そして他にも、お母様とご一緒にあるミュージシャンも推しておられるのですが、お母様が亡くなられた現在も、各地のファンミーティングやコンサートなどによく出かけていらっしゃいます。
また60代の仲間は、毎日、「推し」の活動に関するSNS投稿をされ、推し友と、その「推し」ならではの独自のネタに触れ、世界観に浸かれる会話を楽しんでいらっしゃいます。そしてやはり現場主義。「推し」のイベントはほぼ全て出向いておられ、マネージャーさんからご挨拶をされるほどです。先日は「推し」のデビュー記念日だったのですが、お仕事を調整され、「推し」が活動する現場に一言「おめでとう」を伝えるために向かわれていました。そしてそのチャレンジは成功されたようです。
先の調査でも、「推し活」が精神的にも身体的にも力になっているという60代の方のお声もありました。
定量的には、若い世代が注目されがちですが、「推し活」現場では私を含めミドル~シニア層の活動の熱量はとても高く、アクティブな実感があります。
【対象がいることで最も幸せを感じる瞬間(推し層)】
「行動的にも知的にも世界が広がりました。推し活した経験が、苦しい時にも今も頑張る力になります。(60代)」
出典:博報堂100年生活者研究所
「推し活」×ブランド活動で新たな顧客価値の創造を
――ブランドが「推し活」を応援する施策は考えられますか?
例えば、企業がブランド活動にキャラクターを起用することはよく考えられますが、その際、キャラクターの起用により、「推し活」のメリットであるウェルビーイングを享受出来る顧客体験までを、ブランドが支援する施策となっているかがカギとなるかもしれません。
つまり、顧客(ターゲット)に対し、そのキャラクターを接点に、精神的、身体的、社会的な充実感を得られる「推し活」の体験を、ブランド活動で支援出来るかが、大切な視点になります。ブランドありきではなく、あくまで「推し活」をする顧客をブランドが支援する。顧客価値創造のため、その転換が必要です。
「推し活」をする顧客にブランドが伴走することで、顧客はウェルビーイングを体感出来る。そのことにより、顧客はその姿勢に共感し、関与を高め、信頼関係を築く。人生を共に歩むパートナーブランドとしてのエンゲージメントを高めてくれるのです。
また、先に「推し活」は「社会的装置」であると述べました。さらに、40~50代が「推し活」のメリットを享受していることも明らかになりました。人生100年時代、後半に向けて、「推し活」は新たな生きがいや社会との繋がりを持つ手段として大きな役割を果たしていくと考えられます。企業は、ミドル~シニア層を中心に、その活動を支えることで、社会貢献を実現していくことが出来るのではないでしょうか。
※1 100年生活者研究所 | 研究デザインセンター | 博報堂
※2 【博報堂100年生活者研究所 調査概要】
・調査名:人生100年時代のファンとは?
・調査対象者:博報堂100年生活者研究所LINE会員 20~80代 男女861名
・調査手法:LINEによるアンケート調査
・調査期間:2023年7月
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この記事の著者
髙橋 薫
2008年株式会社大広入社。
博報堂100年生活者研究所研究員(研修出向)。経営学修士。
広告会社歴約30年の中で、マーケティング職、営業職、コーポレート職に従事し、インターナルおよびエクスターナル・マーケティングの知見を深める。
博報堂100年生活者研究所では、自身が40代で推し活を始めた経験から、 「人生100年時代」×「推し活」による幸福について研究。
※所属は2025年6月現在