一緒につくろう、顧客価値のビジネス。

お役立ち資料 相談する
お役立ち資料 相談する

2025.10.16

シマに学ぶ、未来のデザイン ~ビジネスを変える「シマ思考」とは~

離島経済新聞社と株式会社大広のウエルビーイングデザインセンターが「共創の未来をシマからデザインする」と題したイベントを9月8日(月)に開催しました。離島で育まれた独自の知恵や文化から、持続可能な社会を築くためのヒントを得るイベントです。登壇したのは、日本の離島に特化したニュースを発信し、その魅力を伝えてきた離島経済新聞社の代表、鯨本あつこ氏と、ビジネスにおける新しい価値観を提唱する株式会社大広ウェルビーイングデザインセンターの荘野一星氏。なぜ今「シマ」から学ぶべきなのか、そして「シマ思考」が私たちの未来にどのような羅針盤となるのかを、イベントの模様を紹介しながら紐解いていきます。

isamoto鯨本 あつこ Atsuko Isamoto
認定NPO法人 離島経済新聞社 代表理事・統括編集長

1982年生まれ。大分県日田市出身。地方誌編集者、経済誌の広告ディレクター等を経て2010年に離島経済新聞社を設立。「島の宝を未来につなぐ」ことを目的に、国内400島余りの有人離島地域の情報発信および地域振興事業を行う。2児の母。美ら島沖縄大使。趣味は人とお酒と考えごと。

 

syouno荘野 一星 Issei Shono
株式会社大広 ウェルビーイングデザインセンター センター長

1977年 大阪生まれ。大広にて戦略プランナー、コピーライター、クリエイティブディレクターとして広告業務に従事。中年に差しかかり、人生に迷っていた頃に「ウェルビーイング」というテーマと出会い、これからは人間の幸せについて真正面から考える仕事をしようと決意。大広 ウェルビーイングデザインセンターを立ち上げ、企業/自治体/個人の「幸せ」に関する活動支援と、自社サービスの開発に取り組み中。趣味はブログと合気道。

 

 島と島・島と人をつなぐ「NPO法人離島経済新聞社」の「リトケイ」 

 日本には14125島の島があり、そのうち北海道、本州、四国、九州、沖縄本島は5島と言われて離島とは区別されます。離島と呼ばれる14120島のうち、人が住んでいる有人離島は417島。 

日本の島嶼構成2

(図)日本の島嶼構成

島に関する法律は図のように、細かい区分がされていて、なかなか島どうしで課題を語り合う機会がありませんでした。また、同じ名前の島がたくさんあって(例えば大島という名前の島は16島、黒島という名前の島は8島)ネット上で検索にかかりにくく、情報が探しにくいという状況。鯨本氏は2010年に島の情報を集めた「リトケイ」という新聞を発行して、島と島、島と人がつながるきっかけを作りその魅力を伝えてきました。リトケイが伝えるのは主に島で挑戦と創造に取り組んでいる人達や、その想い。リトケイは2025年の秋で50号を発行しています。リトケイの情報は同時にネットでも掲載しているので、日本中の離島の住民たちや離島の市町村同士をつなぎ、また、離島と企業や関係省庁、支援団体をつなぐ役割を果たしてきました。鯨本氏は「これらの活動を通して、毎年人口が減っている離島の関係人口を増やしたい。ただの関係人口ではなく、島に対して愛のある関係人口を増やしたい」と語ります。

 世界がかわる「シマ思考」とは 

2024年に離島経済新聞社が『世界がかわるシマ思考離島に学ぶ、生きるすべ』という書籍を出版しました。リトケイで離島を取材する中で、島の人たちが話す宝物のような素敵なことばを多くの人に伝えたいという想いから生まれた書籍です。

 

「シマ思考」書籍

しかし、この書籍はそれらを単に紹介するものではありません。鯨本氏は、地理的な制約を抱える離島ならではの『自律性』と『共創性』」に注目しつつ、島=「ISLAND」、ではなくシマ=「なわばり・集落」ととらえることで、離島でのエピソードは、日本全国の自治体においても、持続可能で心豊かな暮らしを実現することのヒントになるのではと考えました。だから「シマ思考」のシマはカタカナなんです。
自分の「集落、シマ」、具体的には150人程度の人々が半径400メートルぐらいで成すコミュニティをイメージすることで「シマ思考」での行動が起こしやすくなると鯨本氏は語ります。「シマ思考」は都市部を含むあらゆるコミュニティや企業組織にも応用可能な概念です。


 

 「シマ思考」から学ぶ、7つのポイントと具体的事例 

 

イベントでは、離島に学ぶべき7つのポイントが紹介されました。

  1. 有機的な「シマ」の密集地
  2. 利他的生き残りの先進地域
  3. 「ない」から生まれる想像力と生きる力
  4. 誰一人とりのこせない世界
  5. 「足るを知る」が当たり前
  6. 地球と生きる豊かな感覚
  7. 課題も可能性も見える「日本の縮図」

この中でも特に初めの3つの視点について、具体的な事例を交えながら解説していきました。

1. 有機的な「シマ」の密集地
  
無機的というのは、支えあいのない状態のこと。逆に、有機的なシマではご近所同士で子供を預けたり預かったり、食材の貸し借りやお裾分けなどが当たり前のように行われています。そんな有機的なシマが密集している例として沖縄県の竹富島をあげていました。竹富島は人口約300人、そこに集落が3つもあってまさにシマの密集地です。3集落はお互い高めあいながら暮らしやすい環境を実現しています。3つも集落があったら、対抗意識が生まれて仲が悪くなるのでは、という会場からの質問もありましたが、そこには3つの集落でみんなで高めあっていこうという竹富島憲章があり、一年に18回も3つの集落が共同で行う伝統的な行事も行われています。こういった行事が中心にあることでみんなの心がつながり「高めあい」が実現しているそうです。

2.利他的生き残りの先進地域
  台風で物流が止まってもパニックにならない沖永良部島を例に挙げて、2週間ぐらい船が止まるということがしょっちゅうあるので、ちょっとした災害訓練を常にやってる状態だと説明します。そんな状況でもみんながパニックにならないのは、日頃から「おすそ分け」や「助け合い」を当たり前とするお金を介さない経済が発達しているから。この非貨幣経済が、非常時における強固な防災力につながるのです 

3.「ない」から生まれる想像力と生きる力
  離島には、都会のように何でも揃っているわけではありません。しかし、その「ない」という状況を島の人たちはシンプルでいい、ととらえます。そして「ない」ことは創造性の源泉となります。必要なものは自分たちで作り、ないものを補うために知恵を絞るからです。たとえば、福岡県宗像市相島は漁の盛んな島。昼間は島から男の人がいなくなって、女性と子供たちしかいません。この島では、子供たちが消防団を作って、防火訓練はもちろん、週に4回、毎回40分、火の用心を叫んでまわります。やっている子供たちは、その活動を誇りにしているそうです。
  また、島根県の海士町では、塾がないので公営塾を作っています。その公営塾の高校生が「5年後、10年後こうなったらいいな」というテーマで書いた言葉に「小規模の利を極める」という言葉がありました。自分たちが置かれている状況を受け入れていて、それを利としていこうとする、そのための挑戦と創造がこの離島では続けられています。

 共創を生み出す「シマ」の力学 

離島のコミュニティは、創造性に富み、助け合いの精神に溢れていますが、その一方で、インフラや資金、専門的な技術といった住民だけではどうにもできない課題も少なくありません。そこで企業の出番となります。企業が離島と関わる場面は多岐にわたり、それらは単なる慈善活動ではなく、企業側にとっても新たな価値を生み出す「共創」の機会となります。離島が抱える課題は、人口減少、高齢化、インフラの老朽化など、やがて日本の多くの地域が直面する課題でもあります。これらの課題に対し、企業のテクノロジーやノウハウが、離島の共創精神と結びつくことで、新たなビジネスモデルが生まれています。

 たとえば、ドローンによるラストワンマイルの解決。
医療品や給食の食材など、緊急性が高く、かつ物流コストが高い離島への輸送は長年の課題でした。これに対し、ドローン技術を持つ企業が離島と連携し、ラストワンマイルの物流を効率化する実証実験が進められています。これは、単に物流コストを下げるだけでなく、住民の生活の質向上にも貢献するモデル。また海洋ごみを運ぶロボットの実験というのも進められています。

耕作放棄地を活用した共創プロジェクト
新潟県の人口約300人の粟島では、耕作放棄地が増えるという課題がありました。あるお菓子メーカーはこれを活用して、農業体験ツアーを5年前から始めました。このツアーは耕作放棄地の課題を解決するだけでなく、顧客が農作業体験を通じて企業や地域とつながることで、ブランドへの愛着を高めるとともに、地域の関係人口を増やすことにもつながっています。

官民連携によるインフラ整備
財政難に苦しむ自治体にとって、公共施設の老朽化対策は大きな負担です。沖縄県の座間味村では、民間企業が庁舎などをリース形式で提供し、維持管理も担う官民連携モデルが注目されています。これは、企業の新たな収益源を確保するだけでなく、自治体の財政負担を軽減し、住民サービスの維持・向上にもつながるWin-Winの関係です。

これらの事例は、「シマ思考」が、閉じたコミュニティの中で完結するのではなく、外部の企業と連携することで、より大きな価値を生み出すことを示しています。企業は単に収益を追求するだけでなく、社会課題の解決に貢献する「パーパス」を持つことが求められる時代。離島での共創は、そのパーパスを体現する最適なフィールドとなり得ます。

「シマ思考」を体験するワークショップ

 イベントの後半では、参加者が「シマ思考」を体感するためのワークショップが行われました。自ら手を動かし、考えることで、その本質を深く理解することを目的としたものです。
大広の荘野氏から「2050年、日本の人口が1億人を切る、そんな社会で起きる課題を考えてください」というお題が出されました。参加者は4人程度のチームに分かれてどんな課題があるか、話しあいながら、ポストイットに書き出していきます。
 一通り課題が出そろったところで、出てきた課題のうちの一つを選んで、それを解決するアイディアを考えます。その際に大事なのが、選んだ課題を「シマ思考」でとらえなおすこと。具体的には課題に対して「それって本当に、全部解決しないとダメ?」「それって、何か新しいものを持ち込まないとダメ?」「それってお金をかけないとダメ?」と、問いかけてみるのです。この時にも大事なのは、150人、半径400メートルの中でどうにかできそうなことを考えるという視点。

IMG_2985(ワークショップ)

 各グループからはシマ思考で考えたいろんなアイディアがでてきました。あるグループからは「伝統的な祭りができなくなる」という課題に対して、主だった神事的な祭り以外はフェス方式にして、残るものだけ残せばいいと。祭りを実施すること以上に、祭りやフェスの場が地域の人たちを顔見知りにさせることの方を大事にして企画する、というアイディア。 
 また別のグループは、「日本人が減り、外国人が増えることで日本のアイデンティティが失われるのでは」という課題に対して、22時以降電気を消してSNSも手放す。そうすれば直接会話する時間も増えて、共有できることも増える。SNSで外国人の批判することもなくなって、目の前に来た人を素直に受け止めて、お互いをリスペクトして一緒に暮らしていくという感覚が生まれる、というアイディアが。
 ワークショップを通じて、参加者は、普段当たり前のようにやっていた、いろんな資源を持ち出して対策を考える方法から、ちょっと視点をかえて、「ないものはない、その中で創造力を働かせてアイディアを出す」ということを体験しました。

「シマ思考」の最たるものはコミュニケーション力

 島の人たちが一番持ってるサバイバル力は「困った時に助けてくださいといえる知恵と力」だと鯨本さんは語ります。島に住んでいる人たちはだれに対しても「助けてください」と言える。そして人に助けてもらう代わりに自分ができるときは人を助ける。離島の人たちはそんな人間の相互扶助を皮膚感覚で持っていてその循環を維持しているのです。また、離島では差し迫った課題に次々と直面するので、新しいアイデアや最先端の技術を積極的に取り入れ、今までとは異なった取り組みをしていく必要があります。伝統的なものを守りながらも、無いものはない、という現実の中でどうすれば心豊かに暮らしていけるのかを常に考え、アイディアを出し合ってみんなで共生しているのが離島の人々の暮らし方です。
 助けてと言える力、「ない」状況から生み出すアイディア、新しいことへの挑戦、利他的な生存術・・・それらに共通して必要なのは周りの人との対話だと鯨本さんは話します。離島で起きている人口減少やインフラの老朽化といった課題は、やがて都市部も直面する未来の姿。「シマ思考」は限られた資源の中でイノベーションを起こすヒントを与えてくれ、変化に適応するための「生きるすべ」を学ぶための思考法なのではないでしょうか。


まとめ

離島の「ない」状況から生まれる創造性や新しいことへの挑戦、助け合いのコミュニティ、そして利他的な生存術・・・「シマ思考」は離島の暮らし方から学ぶ新しい思考法です。ウエルビーイングセンターの荘野氏は「地方創生の仕事をしていく中で、なぜか地方にはイノベーションを起こす面白い人材が多いと感じた。彼らは、目の前で起きている社会課題と向き合って、自身が行動しないとどうにもならない状況の中で、行動を起こして、しかも、楽しそうだ、というのが印象的だった」と語ります。このイベントを開催したのは、そんな地方の人たちの挑戦と創造の秘訣を、地方の一つである離島を研究した「シマ思考」に学びたい、と思ったからだとか。「シマ思考」が皆さんのビジネスにおいても、イノベーションのヒントとなることを期待しています。

参考資料

■離島経済新聞社のサイト https://ritokei.org/
■リトケイのサイト https://ritokei.com/
■書籍「シマ思考」 https://eijipress.co.jp/products/5057
■島と島、島と人を結ぶ活動の一例
・シマ育コミュニティ https://shimaiku.ritokei.com/
・離島医療会議https://ritouiryoukaigi.studio.site/
・未来のシマ共創会議https://ritokei.com/campaign/co-creation


最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからも新たな視点からのコミュニケーション開発やマーケティング戦略に関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。

またCOCAMP編集部では、みなさんからの「このコラムのここが良かった」というご感想や「こんなコンテンツがあれば役立つ」などのご意見をお待ちしています。こちら相談フォームから、ぜひご連絡ください。

 

この記事の著者

荘野 一星

株式会社大広 ウェルビーイングデザインセンター センター長

コピーライター、クリエイティブディレクターとして広告制作に携わったあと、さまざまな業界・領域・職種の仕事を経験。中年に差しかかり、人生に迷っていた頃に「ウェルビーイング」というテーマと出会い、これからは人間の幸せについて真正面から考える仕事をしようと決意。ウェルビーイングデザインセンターを立ち上げ、すばらしい仲間たちとともにサービス開発に取り組んでいる。