企業が成長していく上で、「どんなゴールを目指して活動するのか」、「社会においてどんな存在でありたいのか」といった企業理念を持つことは大切なことです。そして、多くの企業が、経営理念やミッション・ビジョン・バリュー、パーパスなどの表現で、カタチにしています。
とはいえ、せっかく考えた企業理念をうまく活用できていない企業も少なくありません。表現を作って終わり…。それは非常にもったいないことではないでしょうか。
本記事では、今後のビジネスをより良くするために、企業理念を社内外に浸透させることの重要性とその方法についてご紹介します。
なぜ、企業理念(パーパスやMVV)を策定するのか?
近年、パーパスやミッション・ビジョン・バリュー(MVV)などという名称で、企業理念を改定したり発信したりする企業が増えています。
その理由は、これまで通りの仕事のやり方では売り上げが頭打ちになるのでは?という危機感があるから。今のビジネスの延長線上に未来が見えない、だから何かを変えなければ、というVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代に対応する姿勢づくりを整えたい。そんな思いで企業理念を改めるのは決して間違いではないでしょう。
また、持続可能な社会の実現が謳われ始めた2019年頃から、自社の企業活動が持続可能な社会に対してどう貢献しているのかを考える風潮が生まれたのも遠因かもしれません。自分の企業だけが成功してもダメ、社会全体で持続可能な方向を目指さなければ。そういう社会に変わったということです。
ちなみに、企業理念は、その企業で働いている方々の気持ちや発言から抽出した価値観を言語化して策定します。若手社員や中間管理職、経営層など、経験や立場が違えば価値観も異なりますが、どの層にも共通している軸を見出し、それをもとに珠玉のコピーを作っていくのがセオリーです。
最近は、パーパスやMVVなどいろいろな呼び方がありますが、どちらもベースは企業のDNAです。社会に向けて自社の存在価値をアピールするものはパーパス、社内向けに経営の方針を発信するのはMVVと考えれば混乱しにくいでしょう。
時間と費用をかけて作るパーパスやMVVですが、ただ作っただけでは企業活動に大きな変化は生まれません。重要なのは、社内外にしっかりと浸透させること。とくに社内の一人ひとりがパーパスやMVVをしっかり理解していると、みなの走る方向性が一定化し、より良いゴールをめざしやすくなる。そういう効果が期待できるのではないでしょうか。
実際に、企業内にパーパスやMVVが浸透し従業員エンゲージメントが高まると売り上げが向上すると結論付けた調査もあります。
パーパスやMVVは、浸透させなければ意味がないということです。
企業理念を浸透させる40段階のステップ
パーパスやMVVを社内外に浸透させることが大切だとわかっていても、パーパスやMVVを書いたポスターを社内に貼っただけでは、ほとんど何も変わらないでしょう。
では、どうすればいいか?
パーパスやMVVは策定するのにも時間がかかりますが、それを浸透させるのも一筋縄ではいきません。少なくとも半年、長ければ3年くらいはかかることが想定されます。 そのため、進み具合や効果が実感できず、パーパス浸透施策は途中でプロジェクト自体を中断してしまうこともよくあります。
そこで大広は、ステップを順番に踏むことでパーパスやMVVをスムーズに自社内に浸透させられる独自のスキーム「40段階パーパス浸透法」を提案します。
パーパス・MVVの浸透を着実に、実感を持って進めていけるよう、40段階パーパス浸透法では40のステップをさらに3つに細分化。「受容ステップ」「機能ステップ」「企業価値向上ステップ」を1つずつクリアし、さらにまた受容ステップへ戻ることを繰り返していくことで、パーパス・MVVの浸透を目指せます。
「受容ステップ」と「機能ステップ」は社内への浸透を、「企業価値向上ステップ」は社外への発信を重視した取り組みで構成されています。
各ステップのポイントを以下でご紹介していきます。
パーパス・MVVを社内で浸透させる「受容・機能ステップ」
受容ステップと機能ステップはどちらも、社員に対するパーパス・MVVの浸透を目的としています。社長が「ウチのパーパス・MVVはこれだ!」と言っても、なかなか社員にパーパス・MVVが受け入れられないのはよくある話です。 事実、私が携わった事例でも、とにかく社員に浸透させるのが難しかった。だからこそ、最初の「受容ステップ」では、パーパス・MVVをまずは“自分事化”してもらうことから始めます。
受容ステップ
具体的には、ミドルマネジメント層からの支持を得る「ミドル⇒ボトムラインの確立」です。パーパス・MVVの浸透を計画している際に最も逆風となるのは、ミドルマネジメント層からの不支持です。経営トップ層が「パーパス・MVV」を浸透させようとするのは当たり前のことですが、これにミドル層も賛同しているかどうかは受容ステップにおいて大きなウェートを占めています。
現場のボトム社員は、自分の部署のミドルマネジメント層が本当にパーパス・MVVを理解しているか・信じているかを判断したいと考えます。そのため、ミドルマネジメント層が「トップ層が言っているパーパスについて、自分は納得していない」や「気にしなくてよい」などと発言してしまうと、ボトム社員はパーパス・MVVについて真剣に考えようという気持ちがなくなってしまいます。そのため、まずは何もってしても「ミドル⇒ボトムラインの確立」をするために、ミドルマネジメント層を味方に付けることが重要となります。
もう一つの具体例としては、「会社が発表したパーパス・MVV」と、「自分が人生で成し遂げたいパーパス・MVV」との重なり合う場所を見つけるための、“マイパーパス・MVVシート”を作成してもらうことです。それにより、社員一人ひとりが会社という場を使って自己実現したいことを明確に意識してもらい、会社のパーパス・MVVと自分のパーパス・MVVとの重なる部分を探してもらうのです。これにより、明確に行動変容の準備が整います。
機能ステップ
次の「機能ステップ」は、社員一人ひとりの行動を変化させることを目指しています。
いろいろな施策がありますが、1つ挙げるとすると、上司が部下を褒めるときに日常的にパーパス・MVVのワードを使うのは効果的です。大広の場合だと、パーパスは「想いに火をつけ、ともに想像以上の未来を」なので、会議の席で部下を褒める際に「あの行動がお客様の想いに火をつけたよね」と褒める。
そのほか、表彰制度や社長からの褒めメール、パーパス・MVVに沿った行動を人事評価に反映する制度を作るのもおすすめです。
このように、小さくても確かな賞賛を重ねることで、パーパス・MVVに沿った行動を肯定してあげると、社員の行動が変わりやすくなります。
受容・機能ステップを経ることで社員の仕事に対するモチベーションが上がるとともに、自社に対するプライドが生まれるのもメリットです。 社員一人ひとりが「自分の会社はすごい」という気持ちを持って働けるのは、企業の将来にきっと良い結果をもたらすでしょう。
パーパス・MVVを社外に発信する「企業価値向上ステップ」
パーパス・MVVが社内で浸透し始めてきたら、次は「企業価値向上ステップ」です。
企業価値向上ステップ
例えば、社員へのパーパス・MVVの浸透具合を調べ、その成果を調査リリースとして社外に発信すること。他にも、自社のパーパス・MVVを社外に誇り高く掲げる広告活動を行うことで、自社従業員のエンゲージメントが向上することが考えられます。そのため、わかりやすいパーパスMOVIEを制作・発表するなどが考えられます。
パーパス・MVVを作るだけでなく、そのおかげで社内がどんな風に変わったかを発信することは、企業の価値向上にもつながっていくでしょう。
なお、なぜ最終段階で社外発信をするのかというと、パーパス・MVVの理解が深まっていないうちに広告を出すと、社内で白々しい雰囲気が漂う恐れがあるからです。広告がパーパス・MVV浸透の妨げになってしまっては元も子もありませんよね。
社外に発信する方法としては、いろいろありますが、まずはわかりやすく動画制作をベースに考えると良いと考えています。動画があれば、ウェブ広告やCM、新聞広告などに展開しやすく効率的ではないでしょうか。
また、ビジネス雑誌で社長と大学教授の対談記事を作るのも一手。また調査後なら、パーパス・MVVによって社員一人ひとりの行動がリアルに変化したことまで語りやすくなります。
大々的に広告することも従来の取引先へのアピールや、リクルートへの好影響、新たな取引先の獲得にももちろん有益です。
自社の広告を打つことは、自社従業員へのインナーアプローチとしても効果的です。広告を打った後に社員へ調査をすると、うれしいエピソードが得られることもあります。「新聞15段の広告を家で見て、会社に誇りを持てるようになった」「TVを見ていたら自社のCMが流れたので、子供にお父さんの会社だよと自慢した」など、広告は社内への影響力も当然ながら強いものがあります。
企業の事情に合わせたカスタマイズの必要性
40段階パーパス浸透法では、最初の8か月くらいで受容ステップ→機能ステップ→企業価値向上ステップを一巡させるのが理想です。
そこで一旦、社員のモチベーションや企業価値がどれくらい上がったかを確認。その後、再び受容ステップに立ち戻り、さらにパーパス・MVVの浸透を深める施策を行っていきます。
これまでにさまざまなクライアントのパーパス・MVV・企業理念策定やその後の浸透施策をお手伝いしてきましたが、本当に一社一社状況が異なります。
40段階式のステップがありますが、これはどの企業にも当てはまるというわけではなく、企業のご担当者様の意見を膝を詰めてお聞きしながらカスタマイズしていく必要性があるものです。
実際に、40段階ではなく、60段階のパーパス浸透法をご提供させて頂いたケースもございます。規模や業種に関わらずどんな企業にも応用できるステップなので、今後も多くの企業のご発展に、この段階式浸透ステップをご活用いただけたらと考えています。
まとめ
長年培われてきた企業文化を変えるのは容易なことではありません。
しかし、パーパス・MVVの浸透を段階的に進められる「40段階パーパス浸透法」のようなプロセスを実行すれば、社員の方々が生き生きと働ける姿が見られたり、より良いアイディアが生まれやすい組織を実現したりできるでしょう。
魅力的な企業として成長し続けるためには、パーパス・MVV(=「北極星」のようにブレない目標)に向かって、社員が一丸となって進むことが大事です。
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この記事の著者
清水 純
定性・定量調査を基にした生活者インサイト発掘、課題&USP抽出、ブランディング、新規事業開発、態度変容トリガーの策定を手掛ける。インフラ・小売・流通・不動産・飲食・観光・行政などのクライアントに広告・非広告事業のプレゼン・コンサルティング事業を数多く経験。 広告賞・論文賞多数受賞。日本流通学会会員。