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2025.05.26

未来を切り拓く“企業の意志 ”とは?企業パーパスが高める従業員エンゲージメントの可能性 【D4DR・藤元健太郎×大広・鬼木美和 対談】

ビジネスにおける課題を見出しにくく、課題に対するソリューションにも簡単にはたどり着けない。そんな不透明な時代の中で、企業がビジネスをしっかりと成長させるためには、明確な「意志」がなければ───そう考えて、企業パーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などの策定に取り組む企業が増えています。

企業の意志を明確にし、顧客や社会、自社従業員へ示すこと。あらためて、その活動の意義や、明確にするまでの考え方のヒント、伝え方の留意点などについて、D4DR株式会社 代表の藤元健太郎氏と、大広の鬼木美和氏が語り合いました。

【インタビュイー】

D4DR株式会社 代表取締役社長
藤元 健太郎(ふじもと・けんたろう)
電気通信大学情報数理工学科卒。1994年に野村総合研究所で日本最初のインターネットビジネス実験サイト「サイバービジネスパーク」をトータルプロデューサーとして立ち上げる。デジタルによるイノベーション、新規事業開発、マーケティング戦略、未来社会シナリオ作成などの分野で幅広くコンサルティングを展開。

株式会社大広 取締役執行役員
鬼木 美和(おにき・みわ)
九州大学文学部心理学専攻卒。大広に入社し、食品・日用品企業のAEチームで従事した後、マーケティング局で「企業ブランディング」の専門チームを発足。以降10年間「ブランド人格」の考え方をもとに企業のブランドコミュニケーションをサポート。その後も、企業意志の可視化から新たな価値づくりまで統合的に手掛ける。

なぜ、企業の意志表示が重要なのか

    今の時代、企業が「意志を持つこと」の重要性についてどのように感じておられますか。 

藤元
今はこれだけテクノロジーが進んで、AIやロボティクスが台頭してきている時代です。コロナ禍も記憶に新しい。安泰だと思われていた市場でさえも、急速に奪われたり、消えてしまったりという状況になりかねません。
そんな中でも、僕はつねづね「未来は意志の集合体」だと思っています。企業が「こうありたい」と強く示し、行動すれば未来はひらけるはずで、いろんな意味で「流されない企業」になれるのではないでしょうか。

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鬼木
企業が意志表示することの重要性、その理由のひとつは、賛同者を得るというファンづくりのためだと思います。それにはまず、自分のことを開示する必要があって、「自分はこうだよ」と先に言うことから相互理解が始まるんじゃないかと。

それから企業パーパスが重要視されるようになってきた背景には、やはり藤元さんがおっしゃったように、予測不能な社会になったということがあるでしょうね。これまでは将来を予測して、そこに向かって経営計画を立てていた。ところが加速度的に技術が進化して、リスクも多い今の社会では、綿密な中期経営計画があまり意味を成さなくなってきています。むしろ「自分たちは何者か?」「何のために世の中に存在するのか?」という、長期的かつ根源的な目的を定め、そこに向かう方法は柔軟に変えていくという企業が増えている印象です。

意志を持つことから対話が生まれる

    企業が意志を発信する際は、どのような方法が効果的なのでしょうか。パーパスという例が出ましたが、他にもMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の形にまとめるケースも多いようですが。

鬼木
MVVでもパーパスでも構いませんが、共通して言えるのは、自分たち自身の納得感と相手にとっての分かりやすさです。意志を明文化する場合、企業だからといって難しく考える必要はないと思います。人の自己紹介と同じですよ。我々は誰なのか、どんな性格や価値観を持っているのか、どんな世の中や未来を目指しているのか、そのために何ができるのかをメッセージすればいい。一番の目的は、この会社なら何かやってくれそう!自分がこうなれそう!という期待感を醸成することです。

藤元
実際のビジネスと連動させて、企業が意志表明することも可能ですよね。これまでは、商品ブランドとコーポレートブランドのトンマナを使い分けて、コーポレートブランドはちょっと抽象的に…というケースが多かったように思います。今後も、基本的にその構図は無くならないでしょうけど、「共感」がブランドの成否を分ける時代なので、「企業姿勢」と「商品」の結びつきはより強いものになっていくんじゃないでしょうか。

たとえば、すでに市場に出ているものとしては「ラベルレスのペットボトルドリンク」。ラベルが無い飲み物なんて、今までありえなかったじゃないですか。まさか…としか思わなかったものが、実際に提示されてみると「そうだよね」「アリだよね」となって、そこに大きな共感が生まれた。消費者の環境意識の高まりと、企業姿勢、商品が一致したケースのひとつだと思います。

 

    今はSNSで、企業の「中の人」が手軽に情報発信したりもしていますよね。

鬼木
確かにSNSのおかげで、企業の内側と外側、企業とお客様の境界線がほどけました。その一方で企業側にとっては、自分たちの発信に対して思わぬ反応が返ってきたり、炎上したりもしています。でも、それによって企業は「本当は自分たち、何がやりたかったんだっけ」と立ち止まって確認し、あらためて言語化することができる。安易に世間に向けて謝ったりせずに、言語化した内容を再度発信することで風向きが変わり、結果的に顧客が増えたというケースもありました。

だから、炎上って悪いことばかりでもないんですよ。それで自分たちが間違っていたとわかれば、撤収する、改善するという選択肢も取れるし、間違っていなかったと思えば、もういちど想いを伝えればいい。

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    炎上してしまった時も、勇気を持って顧客の声を聞けば見えてくるものがある、と。

鬼木
発信することだけが意志表示じゃなくて、「聴く」ということも企業の意志の表れですよね。その発話と傾聴の繰り返し、つまり「対話」にこそ意味があるんです。

ちょっとマーケティング寄りの話になっちゃいますけど、顧客に「何が欲しいですか?」って聞くのは愚問だと思います。

それを使ってどんな暮らしをしたいか、どんな生き方をしたいか、そういう話をキャッチボールすることで、真の顧客価値が見えてくるんじゃないでしょうか。環境と利便性、両立しないときはどっちが大事なの?とか。大広のDeep Dialogue デザインは、まさにそこを大切にしたマーケティングや顧客体験の設計思想なんですけど、企業の意志形成においても同じことが言えます。

※Deep Dialogueデザイン(ディープダイアログデザイン)…大広が、ダイレクトマーケティングやD2Cビジネスの経験で培った顧客との対話力。これを三者間(企業・顧客・社会)の「深層対話」へと進化させて真の顧客価値を見出し、マーケティング&顧客体験の設計に活かすことで、持続的なブランディングをもたらすという思想。


藤元
顧客の声を直接聞くのとはちょっと違いますけど、僕は商品を通して企業と顧客が対話できたり、お互いの成長が実感できたりするのも面白いなと感じていて。

近い例で言うと、量り売りのお菓子とか、昔のカメラ。量り売りは、自分で入れる手間がかかるし包装も簡易なんだけど、それが面白かったりサステナブルだったりするわけですよね。昔のカメラも、インスタントカメラは入門編で、フルマニュアル型のフィルムカメラは上級編。上に進むには頑張って勉強しなくちゃいけなくて、自分の成長がわかると楽しい。

そういう、企業が啓蒙的、教育的な意味も込めた商品に顧客が反応するのも対話であって、これは完全に個人的な仮説ですけど、今後そういう仕掛けをもった商品が増えていくような気がしています。

未来志向になればバックキャスティングが可能に

  「こうありたい」という意志を持つのは、すなわち「未来志向になる」ということだと思うのですが、それこそ先行き不透明な時代にあっては「なかなか思い切った未来を描けない」とか「リスクを回避しようとして凡庸な内容になってしまう」といった声も聞かれます。D4DR様は日頃のコンサルティングにおいて、バックキャスティングからのアプローチが重要であると提唱されていますよね。未来を思い描くコツがあればお教えください。

 ※バックキャスティング…現場から未来を予測するフォアキャスティング(Forecasting)に対して、バックキャスティング(Backcasting)は、未来の目標や理想的な状態を先に設定し、そこから逆算して現在の課題解決や行動計画を立てる思考法。

 
藤元
日本社会は残念ながら幸福度が低いので、「しあわせな未来ってなんだろう?」ということを起点にすると日本企業は考えやすいんじゃないでしょうか。いま、我慢していることっていっぱいあるはずなんです。それが当たり前になっているから、みんな気づかないだけで。

極端な例ですけど、老人になって足腰が弱った時に、薬を毎日飲むよりも「新しい足に付け替えられるよ」という未来があれば、付け替えるほうを選ぶ人がいるかもしれない。価値観がまるで変わっちゃいますよね。それくらい大胆に発想を転換しないと未来感がない。いまの常識を超えて、しあわせって何だろうってことを追求していかないと。

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鬼木
いまの既成概念、固定観念を取っ払うことや、自分ごととして考えるのがみんな難しいんですよね。50年後、100年後の未来を予測した情報ってすでにたくさんあるけれど、もう生きていないしなーとか、すごいねーで終わってしまったりとか。それは未来志向とは言えない。

新しい技術が予測されているとして、自分ならそれをどう活かすかを、もっと追い込んで考えたり話し合ったりする訓練が日頃から必要だと思うんです。

大広でやっているミラストでも、バックキャスティングの考え方で、目標とする未来の想像力や、それを実現するための思考力を養うワークショップを開催しています。

※ミラスト…「未来×ストーリー」の造語で、大広が手がける事業創造支援サービス。未来情報から可能性ある市場を見出し、企業の意志と強みを掛け合わせて新たな事業ビジョンを描く。バックキャスティング手法によって、理想の未来から逆算して現在の戦略を設計する独自のアプローチを特徴とする。

 

  未来を思い描く一方で、「過去を顧みる」ことの必要性についてはいかがでしょうか。これも、ひいては未来へと向かう企業の意志形成につながっていくと思うのですが。

藤元
おっしゃる通りで、僕は「過去をヒントに未来を思い描く」ということをしています。「超江戸社会」と勝手に名付けて、いろんな方々や企業に賛同してほしいと思いながら発信しているんですけど。

江戸時代ってホントにすごくて、今の日本文化の強みは全部あの時代に生まれたんですよ。世界に誇る日本食の基本も、江戸時代に発酵食品のイノベーションが起きて確立されたものだし、漫画やアニメを誰もが書き手になる文化も北斎漫画で広がった。何より江戸時代の文化は、貴族や武士ではなく大衆のもので、そのパワーで経済が回りまくっていたんですよね。

それに、今でいうSDGsもすでに江戸社会では実現されていました。糞尿は肥料として活用し、古着はリサイクル。LGBTも当たり前で、女性の地位もさほど低いものではありませんでした。

そんなことを知っていくと、日本人としての自己肯定感が高まりますし、江戸時代の良さに今のテクノロジーを組み合わせれば、最高に人生を楽しむ社会が実現できると思うんです。僕はそんなことをかなり真剣に考えています(笑)。

鬼木
面白い!ワクワクしますね。過去の棚卸しが、自己肯定感につながるというのは本当に同意です。私も「ブランド人格を提唱する中で、創業者が何を思って事業を興したのか、どんなことを成してきたのかを知る必要性を説いています。それを知ることで、自信や誇りが醸成されることはもちろん、未来へと向かうにあたって足りないものが見えてくるからです。

※ブランド人格…マーケティングにおいて、自社のブランドを「人格」を持ったひとりの人間のように位置づけ、共感を集めて社会からの期待値を高めていく取り組み。

今後のカギを握るのは従業員エンゲージメント

    企業の意志を具体的に示していくのは、その企業で働く従業員ですよね。ただ、従業員にもそれぞれの意志があり、策定したパーパスやMVVが形骸化してしまうこともあります。意志の調和、浸透、そのあたりはどうお考えですか。

藤元
想はやはり、企業パーパスと個人パーパスが一致、調和していることだと思います。今後はさらに雇用が流動化していき、AIが普及して個人スキルの差を代替するようになると、どこの企業に属すかはますます自由になります。従業員のエンゲージメントを高めることが非常に大切になってくるでしょう。

企業パーパスの浸透については、今後インナーコミュニケーションをもっと盛んにする必要があるはずです。社員向けにメッセージする動画も考えられますし、最近はあえて紙媒体の社内報を制作する企業も多いですね。

鬼木
すでに、そもそもの人材採用の段階から、企業と個人のパーパスの調和が重んじられるようになってきていますよね。優秀な大学出身かどうかよりも、互いのパーパスの調和・共感が大事。大広の採用活動でも、そこのマッチングは重要視しています。

入社後は、とにかくパーパスを自分なりに解釈して、自分のやりたい事と重なりそうなことを、恐れずに実践してみてほしいと思います。ちなみに大広の企業パーパスは『想いに火をつけ、ともに想像以上の未来を。』なんですけど、火をつけるってこういうことかな?っていう具体的な行動や活動を、間違っていてもやってみる、他の人の声を聞いてみる、発信してみる。それに尽きるんじゃないでしょうか。

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時とともに企業の意志は変わるはずですし、今は自発的なイノベーションも求められている時代です。最後に「意志の変化・変革」についても、何かメッセージをお願いします。

藤元
すべての企業に当てはまるかどうかはわかりませんが、僕はこれからの時代、企業パーパスを考えていく上でも、マーケティングの上でも「従業員」がキーだと思うんです。意志は人のものだから、結局はHR、人づくりが大事なんだと。

僕が考えるHRのポイントは2つあって、1つは従業員がトライブになること。昔は「鉄道会社は鉄道オタクを雇わない」なんて言われた時代もありましたけど、今はこれだけ顧客価値を追求する時代なんだから、むしろ従業員の中にトライブを作るべきじゃないでしょうか。従業員が顧客の声を聞く最前線になれば、その企業はすごく強くなると思う。

もう1つのポイントは、中途入社の従業員が変革者になることです。ずっと同じ会社の中にいる人は、自分たちの価値が見えていなくて、外から来た人のほうが価値を知っているんですよね。地方創生の仕事で地方に行くと、そこで活躍しているのはだいたい移住者です。企業でも同じことが言えると思うので、うまく中途採用者をイノベーションに活かしてほしいですね。

※トライブ…共通の興味・関心を持った集団を指すマーケティング用語。

鬼木
インナーコミュニケーションと同時に、外部との接点をつくることも大事だと思います。たとえば、社長の代わりに自社について説明する機会を持つとか。そうすると理念や歴史について勉強するし、自分の言葉で話せるようになりますよね。それに、外部の人から自社について良い評価を聞くことも、先ほどの話のように自己肯定感につながっていくと思います。

今回のように藤元さんとお話ししたり、共創したりすることもそのひとつですね。今日対談をさせていただいて、今後も新しい価値創造でいろいろとご一緒できそうだと感じました。本日はありがとうございました。

藤元
こちらこそ、ありがとうございました!

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まとめ

  • 企業がビジネスを成長させるためには、明確な「意志」が必要である。
  • 意志を持つことで、企業は「流されない企業」になれる。
  • 企業の意志表示は、賛同者を得るためのファンづくりに役立つ。
  • 企業の意志を発信する際は、納得感と分かりやすさが重要。
  • 未来志向になることで、バックキャスティングが可能になる。
  • 過去を顧みることは、未来へ向かう企業の意志形成につながる。
  • 従業員エンゲージメントが企業の意志の具体化において重要な役割を果たす。
  • 企業パーパスと個人パーパスの調和が求められている。

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この記事の著者

COCAMP編集部

「ビジネスは、顧客価値でおもしろくなる」をコンセプトに、ビジネスにおける旬のキーワードや課題をテーマに情報発信しています。企業の大切な資産である「顧客」にとっての価値を起点に、社会への視点もとり入れた、事業やブランド活動の研究とコンテンツの開発に努めています。