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2024.12.23

BtoB企業による共創型コミュニケーション戦略「シェアード・ブランディング」 ~環境配慮型製品をtoC企業とともに広げていく「TsumuGreen」の挑戦~

綜研化学×大広TsumuGreenチーム

生活者にとっての課題と、社会や環境にとっての課題を同時に解決する――これからの事業に求められるのは、そうした姿勢かもしれません。綜研化学株式会社が開発した新しい抗菌・抗ウイルス剤『TsumuGreen(ツムグリーン)』は、人と環境にやさしい植物由来の成分によるすぐれた効果を実証。ポスト・コロナの生活者ニーズをとらえ、複数の企業が協創する《シェアード・ブランド》の手法でサステナブルな安心を生み出そうとしています。未来志向のこのプロジェクトついて、綜研化学・横倉氏と、伴走した大広チームに話をうかがいました。

【インタビュイー】
■綜研化学株式会社
横倉 精二 新規事業企画部 企画担当

■大広チーム
荒巻 好宣 クリエイティブ・ディレクター/チーフプロデューサー
内波 可菜 コピーライター/プランナー
岩永 大希 デザイナー


環境配慮型の新素材開発経緯

――まず、綜研化学の横倉さんに、「TsumuGreen」がどのような性質の素材なのか、基本的な部分を教えていただきたいと思います。

横倉
はい。非常に簡単に申し上げると、植物由来のポリフェノールを原料とした抗菌・抗ウイルス剤で、複数の菌やウイルスに対する効果が確認できています。「TsumuGreen」自体は粉状で、アルコールや有機溶剤への可溶性があるためコーティング剤として使用できるほか、プラスチックや繊維に練りこんだり、不織布製品や衣料品に加工したりと、様々な製品に応用できる汎用性の高さも特徴です。


――綜研化学は、ポリマー材料を軸として様々な素材を開発され、テレビやスマートフォンなどの液晶ディスプレイのフィルム貼り付けに利用されているアクリル系粘着剤では世界上位のシェアを持っておられます。今回、まったく新しい分野で素材を開発されたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

横倉
社会が抱える課題は刻々と変化していますから、私たちも、現在の、そして将来の社会課題の解決につながるような新たな事業を生み出せないか、と取り組んでいました。特に、ヘルスケア、環境、エネルギーなどの領域で新たな事業を模索していた中で、この抗菌・抗ウイルス分野に着目したというわけです。


――コロナ禍を経験したことも影響したのでしょうか。

横倉
はい。新型コロナウイルスの蔓延によって、抗菌・抗ウイルス分野への注目は世界的に高まりましたが、多くの抗菌・抗ウイルス剤は、石油由来もしくは金属由来のものでした。石油は言うまでもなく化石燃料で、地球温暖化をはじめとする環境負荷が高い原料です。金属も地中から掘り出し精製するために多くのエネルギーを使用しますし、埋蔵量は有限です。石油や金属以外で、環境負荷が低く循環型の原料はないか、と探していて、今回の原料となる植物にたどり着きました。

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――植物を選ぶ際には、どのようなことを重視されたのでしょうか。

横倉
食物になっていない、非可食の植物であること、ですね。現在も、気候変動や紛争など、様々な理由で食べ物が不足している地域がたくさんあります。また、人口爆発による食物不足は将来にわたる課題です。新素材の開発にあたっては、食べられる植物ではなく、未利用の植物を利活用することも、社会課題の解決に貢献することだ、と考えました。


――なるほど、将来的な環境負荷や社会への影響も考慮された、ということですね。

横倉
そうですね。サステナブルであることは、もはや企業活動の前提条件ですから、当然ながら製品開発の際にも重視しました。

素材ブランドをシェアする「シェアード・ブランディング」戦略

――こうした化学素材の分野では珍しいことだと思いますが、今回、この「TsumuGreen」は、素材のブランド化にも取り組まれました。どのような展望があったのでしょうか。

横倉
コロナ禍を経験して、多くの人が抗菌・抗ウイルス剤を身近に使うようになり、現在までにたくさんの製品が生まれています。開発に先立って、一般生活者の方々へのヒアリング調査を行ったのですが、その約半数の方々は抗菌・抗ウイルス剤の成分についての懸念をお持ちでした。特に、赤ちゃんがいるご家庭やペットを飼っている人、またアレルギーをお持ちの方などは成分に敏感です。また、金属由来の成分と植物由来の成分を比較した場合、人体への安全性や環境負荷に関しては植物由来成分に強い安心感を持っておられる一方で、抗菌・抗ウイルスの効果については拮抗しており、判断基準となる正確な情報が一般生活者に届いていない状況が見て取れました。そこで、「TsumuGreen」をブランド化し、「人や環境に安心な成分」と「確かな抗菌・抗ウイルス効果」をきちんと伝えることで、素材の強みを理解いただいた上で選んでいただける、と考えました。


――なるほど。そこで、ブランディングにあたって、大広をパートナーに選ばれたわけですね。

横倉
はい。綜研化学はBtoBの事業がほとんどで、単独の素材にブランド名をつけたりロゴをつくったり、ということはほぼありませんので、プロの企業に協力いただこう、ということになりました。大広さんの他にも何社かの方とお話をしたのですが、大広さんは、この素材開発を非常に前向きに捉えていただいていると感じました。実際につくっていただいたブランドストーリーなども、我々が納得できるものでしたので、その後も引き続きお願いしているところです。


――そうした中で大広が提案したのが「シェアード・ブランド」という戦略だったとのことですが、これはどのような考え方なのか、大広チームにうかがいます。

荒巻
先ず、「シェアード・ブランド」という考えは我々が新しく提唱するブランディングの在り方です。複数の企業が協創する《シェアード・ブランド》の手法でサステナブルな安心を生み出す。BtoB企業にとって一つのプロダクト・サービスづくりの一つの指針になっていくようなものに、なるといいなと思っています。「TsumuGreen」は、それ単体ではなく、綜研化学さんの取引先の製品に取り入れられて生活者のもとに届く素材です。そこで、製品化する際に、コラボレーションする相手方企業にも「TsumuGreen」という名前やロゴ、つまり「TsumuGreen」のブランドを「シェア」していただこう、という考え方です。(安全・安心の担保としてTsumugreenのロゴが製品に入っていくような)それによって、相手方企業は、すぐれた抗菌・抗ウイルス性能があり、かつ安心・安全で環境負荷の低い製品だという価値を発信することができるし、生活者も「TsumuGreen」という名前やロゴをもとに価値ある商品を選択することができる。「三方よし」という言葉がありますが、この「シェアード・ブランド」なら、それが実現するのではないかと考えたわけです。

我々大広も、得意先企業の方々にご説明しているところですが、赤ちゃん製品を販売されているメーカー様や小売り流通業でPBを開発している企業様など、複数の企業様に興味を持っていただいています。もちろん、「TsumuGreen」というブランドの認知・浸透を並行して行う必要がありますが、「TsumuGreen」自体が環境負荷の低い素材ですから、それをシェアすることで、コラボレーションする企業も使う生活者も環境負荷低減に貢献できる。ビジネスを通してサステナブルな社会の実現に向けた協創ができるのではないかと考えています。

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横倉
私も、この素材を使った製品にロゴマークがついていて…ということは想像していましたが、取引先やその先の生活者との関係性も含んだ「シェアード・ブランド」というところまでは考えていませんでした。大広さんから提案いただいて、たしかにそういう発信の仕方があるな、と思いましたし、やりたいと思っていたことをご提案いただいたという感じです。

シェアード・ブランディングにおけるクリエイティブとは

――シェアード・ブランドの考え方を進めるためにも、ブランドストーリーやネーミング、ロゴなどの役割は大きいと思います。大広チームはどのように制作したのでしょうか。

荒巻
まず、横倉さんから開発の経緯をお聞きして、その姿勢や思いに強く共感しました。この製品が多様性を持って人々の暮らしの中に生きていく将来像が見えたので、それをひとつの物語として描いていけるのでは、と感じました。BtoBの素材でありながら一般の人の暮らしに生きるブランド、という方向で何度もディスカッションさせていただきました。


――最終的に製品を使う人たちをイメージして考えたわけですね。

荒巻
はい。綜研化学さんにとってのセールスの対象は多くが企業で、一般のユーザーはその先の存在です。でも、だからこそ私たちは、最初から一般のユーザーの暮らしを考えて、そこから発想しました。綜研化学さんが製品の価値を説明しやすいストーリー、その物語を伝えられるネーミングやロゴ、ブランドストーリーをワンテーブルで考えられたことは大きかったと思います。横倉さんはじめ開発の方々、セールスの方々を含めて、みなさんがひとつのベクトルで進んでいける方向がゴールだと考えていたので、そこを探る作業はすごく密にさせていただきました。


――ネーミングはどのように生まれたのでしょうか。

内波
素材には様々な特徴があります。その中でも、すぐれた抗菌・抗ウイルス効果と、植物由来のサステナブルな素材であることが伝わるように、様々な案をお出ししました。「TsumuGreen」という名前には、ブランドストーリーにも書いたとおり、「植物のチカラで、人と地球を未来へ紡ぐ」つまり「人の暮らしも、地球の資源も、この先の未来へとやさしく紡いでいく、そんなきっかけになれるように。」という思いをこめました。

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内波
横倉さんから、将来的には海外にも根付かせていきたい、というお話をお伺いしていたので、その点も考慮しました。英語として成立してしまうネーミングではフックがなく、流れてしまうと考えたので、日本語を組み合わせた造語にし、いい違和感を出すなど工夫しました。検討いただいた結果、最終的に残ったのが、「TsumuGreen」と「Sotwell(ソットウェル)」(そっと+Well)です。


――ソットウェルというのは…

内波
この素材は、縁の下の力持ちのように世の中にそっと浸透していて、確かにいいもの(wellということが伝わるように考えたネーミングだったのですが…sotには英語で「飲んだくれ」という意味があったようで...断念しました。

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横倉
本当にいろいろと発想いただいて、何十案も出していただきました。今見ても、どれもすごくいいなと思っています。その中で、サステナビリティや植物由来であることなど、この素材の特長をどう伝えるか、どう伝わるか、というところで決定しました。


――ロゴについてはどうでしょうか。

岩永
TsumuGreen」という素材が、最終形の商品では目に見えないものであること、いろんなものに変化して使われるということをベースに発想しました。目に見えないものがロゴによって自己紹介するわけですから、そこで安心感を持ってもらえることが商品としての強みにつながる、安心が、BtoBの先の一般の人たちにも広がっていくようにと考えました。いろいろなパターンをつくって、横倉さんはじめ開発の方々の思いと答え合わせをしていく、という感じでしたね。

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――細部の検討を、最後まで続けたそうですね。

岩永
最終案で決めていただいてから、もうひとつ考えをプラスできたらいいなと思って時間をかけました。どういう風に世の中に出ていくのかという視点から、安心のチェックマークみたいにもなれば、と考えたのが今のカタチです。商品のロゴというよりは、プロジェクトのロゴを作っているような感覚でデザインしていましたね。

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横倉
ロゴに関してもたくさん案を出していただいたので、社内でもけっこう意見が割れました。でも、最終的には「TsumuGreen」が生み出す「生活の安心」という部分をより強く打ち出したいということで、今のロゴを選ばせていただきました。

荒巻
世の中の人が手に触れるものに、このロゴと「TsumuGreen」というネーミングのセットがついていることで、安心をつくっていく、安心が育っていくといいな、と話していましたよね。

横倉
そうですね。今、取引先にも紹介しているところですが、「TsumuGreen」と聞いてわかってくれる人はまだあまりいません。でも、ブランドストーリーも含めて説明すると、「いい名前ですね」と言われます。ちょうどいい塩梅の着地点だったんだな、と思っています。

TsumuGreenの展望

――今後の展開についてはいかがでしょうか。

横倉
TsumuGreen」の応用範囲の広さを活かして、様々な企業様に働きかけているところです。繊維分野の企業様とは、抗菌繊維の開発のお話をしていますし、食品包装の分野でも可能性を検討いただいています。その他にも、塗料だったり、スプレー剤だったり、多様な分野の企業様とお話を進めているところです。また、冒頭で申し上げた生活者の方々への調査で、具体的に「こんな商品があったらいいのに」というような声をいただいたので、自社での製品開発の可能性も検討しているところです。

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――ありがとうございます。大広チームはいかがでしょうか。

内波
シェアード・ブランドという考え方を広げていくことが、今後、とても大事になると思います。そのためにも、綜研化学さんの取引先の企業様から、「『TsumuGreen』だからコラボレーションしてみたい」と言っていただけるブランドにするために、今後もご一緒に話をさせていただき、またご提案させていただきたいと考えています。

荒巻
今回、横倉さんはじめ企画部門の方々とご一緒してのBtoB企業のプロダクトブランドづくりというのは、実はありそうでなかったプロジェクトでした。素材の開発と、それをどう社会に価値づけていくかということをワンテーブルで話し合うことで、プロジェクトがどんどん広がっていく、未来に向けての大きな可能性を感じるお仕事だと考えています。


――本日は、ありがとうございました。

まとめ

環境負荷の低減、食糧問題への寄与、安心・安全といった、社会課題に応える素材開発。それをブランド化し、さらにシェアすることで、取引先や生活者とともに、よりよい社会に貢献できるビジネスモデル。「TsumuGreen」という素材を通して、サステナブルな未来社会につながる事業が始まっています。

この記事の著者

荒巻 好宣

プロモーション/クリエイティブセクション、メデイア、プロデュース領域を歴任し、現在は統合コミュニケーション領域のチームを牽引。食品・飲料メーカー、金融業界、エンタメ、BtoB企業、行政案件における事業戦略支援、ブランディング業務に従事。中小企業、スタートアップの成長戦略を支援する「ミラスト」メンバーとしても活躍。クリエイター・オブ・ザ・イヤーノミネート/ACC,JPM等受賞。