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2024.07.02

自治体の少子化対策は顧客価値発想で取り組むと上手くいく

日本の出生数が8年連続で減少し、過去最少となる前年比5.1%減の75万8631人だったと発表されました※。婚姻数も48万9281組で戦後初めて50万組を割り、新型コロナウイルスの影響で減少したまま回復していないようです。少子化問題が地方でより深刻化するなか、各地方自治体では高齢者医療や介護と同じ水準まで保育など子育て分野に公費を投入するなど、さまざまな対策を講じています。若者が希望を抱き、結婚や子育てに前向きになってもらうには、どんな取り組みが有効になるのでしょうか?
「住民中心発想」によって地方自治体の構造的問題をクリアし、自治体が抱える少子化の課題解決をサポートする大広担当者に話を伺いました。

※2024年2月27日厚生労働省発表による

山下有紀山下 有紀
(株)大広 第3ビジネスデザイン局 第1部 部長
神戸大学経済学部卒業後、株式会社大広に入社。営業職から事業開発職に従事。現在は営業管理職として広告や商品戦略の支援を行う。社内SDGsワーキングチームのリーダーも兼務。社外活動としてSDGsゲーム「Get the Point」などのファシリテーターや、関西SDGsプラットフォームや地方創生関連の団体の支援、SDGs未来ビジネス学生コンテストの審査員や大学講師も務める。

 

成瀬翔太成瀬 翔太 
(株)大広 第3ビジネスデザイン局 プランナー
筑波大学人間学群卒業後、株式会社大広に入社。広告コミュニケーションの枠をこえ、企業のビジョン・パーパス開発や新規事業の構想・立ち上げ支援に従事。近年は自治体やスタートアップ企業の事業開発やマーケティング支援も行っている。共創型の事業支援を重視しており、そのためのワークショップ設計やコミュニティマネジメント、ファシリテーション等も行う。関西SDGsプラットフォームリサーチチーム所属。

 

自治体が抱える少子化対策の課題、そこにある構造的問題とは?

―少子化対策の糸口を探す自治体は多いと思います。今回、岡山県の活動をサポートされた成瀬さんから見て、自治体が抱えている課題のようなものはありましたか?

成瀬
生活者には子育てひとつとってみても結婚から出産、育児と、ライフステージごとにさまざまな課題や壁があるわけですが、自治体としては住民中心の視点や認識が重要になってきていると思います。一人ひとりが抱える課題に向き合い、本当に価値のある支援って何なのか、という視点ですね。ただ、実際のアクションとなると、その主体となる自治体には3つほど課題があると感じています。

一つ目は、担当者の異動が頻繁なため、組織にノウハウが蓄積されにくいこと。自治体では3年くらいで全く異なる課に移動するというのが通例になっていて……。岡山県で一緒にお仕事させていただいた課長の方も、昨年までは高齢福祉課を担当されていたと話されていました。 昨日までおじいちゃんやおばあちゃんの相手をしていたのに、明日から急に子どものこと考えてほしいみたいなことですよね。管理職でさえ経験値のない業務の担当課に異動してしまうわけです。

少子化対策は、本来長期的に考えなければいけないことなのですが、年度が変わると新しい担当者のやり方とか考え方みたいなところで議論が進んでいってしまい、それまでのプロセスが継承されにくいことが一つ課題としてあると感じています。

二つ目は、少子化対策は複数の担当課の領域にまたがる課題であることから、どの課がリードするのかが不透明になることですね。このことは職員の方々も含めて認識されているようでした。最近は少子化対策として関連部署を立てている自治体が多く、岡山県の場合、「子ども未来課」という課があります。

少子化って移住・定住みたいな視点も出てきますし、婚姻の話もそうですし、労働環境の課題もあります。少子化対策は、子ども関係を担当している部署だけではなかなか完結できません。また、自治体ではデジタル関連部署が独立で存在していることも多く、自治体手続きや生活環境のDXICT化などはその部署が担当していることもあります。そうなると少子化に関わるデジタル政策について検討しなければ、となっても、これはどこが担当するんだろう?とお見合いしてしまい、プロジェクトをまとめてリードすることがやりにくい、動きにくいという事情があります。

三つ目は、経済的な支援に頼ってしまう、つまりお金配りに終始してしまいがちなこと。やはり経済的な支援が一番喜ばれるし分かりやすいし、自治体としては手をつけやすく簡単であるということなのです。ただ、いま直面している問題をお金で支援することができたとしても、その問題がなぜ起きているのか、本質的なところに迫れる支援かどうかという点では疑問が残ります。
経済面だけでカバーしきれないような課題も様々ある中で、本当にお金を配るということが最善なのかということがしっかりと精査・検証されないまま予算がつけられて、政策として実施されている、というような課題があると思います。
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―お金配りでは解決できない課題も多くあるということですね。山下さん、生活者が感じている悩み、課題はどんなことがありますか?

山下
地域の子育てならではの悩みというのは、本当に多岐に渡ると思います。ゴミの収集が週に1回しかなく、使用済みのおむつがすごく溜まってしまって困っているということだったり、夏の炎天下の中、家以外で子どもを遊ばせる場所が無かったりなど、生活の中で子育てならではの問題で困っているところが結構あるなと感じます。
また、地方でよく聞かれたのが、男は外で働いて女は家を守るものという、いわゆる家制度の価値観が結構残っているという声です。そういう昔からの固定観念のせいで女性が大変な思いをしているとか、都会の生活とは違うお困り事というのがあるということも直接インタビューする中で分かってきました。

―そういう課題は、子育ての悩みでもあるし地域社会の悩みでもありますね。自治体からすると、どの課が担当する課題なのか判断しにくそうです。

成瀬
ゴミの収集問題は、本来、少子化対策ではないですよね。特別にやってもらおうと思うと少子化対策の部署から地域環境に関連する別の部署に連絡する必要がありますし、本来連携すべきことなのに「おむつゴミ」ということで少子化対策の部署に任せられてしまう、そんな苦労があるのだろうなと思いますね。

さきほど課題として挙げましたが、経済的な支援は住民の方に喜ばれることですし、それによって移住してくる方が出てくるぐらい価値が大きいものなのです。ただ、今回大勢の方にインタビューする中で見えてきた悩みや課題は、経済的なサポートだけではカバーしきれないことも多いということ。地域に転入されてきて子育てしている方ですと、悩みがあっても相談する先がないとか。 ママ友って自然にできると思っていたけれど 気がついたらできないままだとか。そんな地域社会のあり方のような課題もあります。

さらに、男女間にも課題の温度差があって、女性は経済的な支援よりもコミュニティの人手不足や生きにくさのような、社会との関係性みたいなところに課題感を感じているのですが、男性は経済的な課題しか感じていないというか、課題の解像度が低い印象を受けました。岡山県は都心部以外では、まだまだ男女の役割分業の意識が強く、家事育児の当事者の方が、より経済的なところ以外の部分での支援を求めている。少子化対策を「住民中心発想」で見つめ直すと、本質的な課題が数多く浮き上がってきます

「住民中心発想」による少子化対策がもたらすメリット

―少子化対策を「住民中心発想」という視点で捉え直すことで、プロジェクト推進にどんな変化が生まれたのでしょう?

山下
大きくいうと、地域課題や住民課題を起点とした事業立案になるので、実施ロジックが整理しやすくなります。少子化対策にはエビデンスに基づいた事業設計、EBPMが必要だとさかんに言われていますが、今回私たちが大切にしたことのひとつに、住民の方々の自発的な語りに重点を置いた「ナラティブ・アプローチ」を採ることがあります。住民の「声」を起点にするということです。
さきほど話した通り、少子化問題はさまざまなケースが含まれているので、起点とすべきは「住民の語り」にしましょう、と。そうすることで少子化対策は自治体の課題ではなく、自分ゴト化された地域住民の課題として捉えることができます。起点がはっきりすると検討メンバー共通の指針も明確になって、「なぜやるのか」も整理しやすくなると感じています。今後のノウハウとしても蓄積しやすいですし、さまざまな関係者が関わっていく少子化対策には有効なアプローチだと思います。

※EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング/エビデンスに基づく政策立案)

―ひとりひとりの気持ちを汲み上げていくナラティブ・アプローチ、住民の方々にはどう映ったのでしょうか?

成瀬
今回いろいろな土地を訪問してディスカッションやワークショップをやってみたのですが、「このような取り組みは初めてだった」とすべての会場で言われました。政策意見交換会のような、町長から「こんな政策どうですか」といった話を聞く機会はあったようです。ただ、住民の日々の暮らしがどうなのかとか、 どんな思いを抱えながら生きているのかとか、どんな理想の将来像を描いているのかみたいな住民の語りやナラティブを大切にした、生活そのものに入り込んだ視点のディスカッションはやられてこなかったとのことでした。本質的な課題を汲み上げないまま、いろんなことが少子化対策として進んでいるところは多いのかなという印象です。

―自治体の方々にも、さまざまな「気づき」が生まれたと思われますがいかがですか? 

成瀬
住民一人ひとりの声を、参加メンバーみんなで聞くということに価値があると感じていただけたと思います。直接施策に落ちないケースもあるのかなとは思うのですけれど。住民の方から抱えているものや想いとか、暮らしている自治体の好きなところも含めて聞いたことで、自治体関係者の担当メンバーの目が変わったと言いますか。やっぱりこういうことをやっていかなきゃいけないよね、という意識が芽生えたと感じています。

山下
参加されている自治体メンバーの構成を見ると、全てではありませんが年長者の男性と若い女性が多かったです。県内の各市町村から参加される責任者にも女性の方はほとんどいらっしゃいませんでした。そういうメンバー構成で住民の声を聞かずに少子化対策について意見交換をやると、どうしても男性の年長者の意見が採択されやすいと思います。それが住民の声をみんなで聞くという構図になると、本質的な課題を汲み上げやすいということも感じます。

生の声、語りというのは、今からでもできることをやっていこうよみたいな話になったとき、原動力になりやすい。それはアンケート結果を活用することよりも使いやすいと感じました。また住民の方、自治体の方も、実施ロジックが整理しやすくなりメンバー共通の指針になることで、プロジェクトも推進しやすくなると感じています。
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―関係者全員の指針にしやすかったということですね。「住民中心発想」は大広が掲げる「顧客価値」に通じるものを感じます。

山下
そうです。まさにそこは、今、大広が目指しているところにも近いと思います。このプロジェクトでは、デジタル田園都市国家構想実現会議事務局の内閣官房の方々にも視察や見学をしていただけました。ここまでインタビュー形式で住民一人ひとりの声を聞いている施策立案というケースは少なくて、とても新しさを感じたという感想をいただいていています。
少子化対策を始めるにあたって、これまでは簡単だからアンケートで住民の声を数多く集めることも多いのですが、私たちは調査手法も選べるという形にしながらインタビューから始めることにこだわりました。

―さきほど、住民課題に寄り添うことで本質的支援の在り方が見えてくるというお話を伺いました。もう少しお話聞かせていただけますか?

成瀬
たとえば、先ほど挙げた昨年は猛暑が続いて、お子さんを安心して公園で遊ばせられないという課題があるとします。遊び場の問題と捉えると「どんな施設が欲しいですか?」というような経済的な支援に結びつけやすいかもしれません。でもインタビューしてみると、母親は、そんな環境の中で「どうやって子どもたちにいろんな体験をさせたらいいのか」みたいなことを課題として抱えていらっしゃる。とすれば、「施設」ではなく「体験」が課題だということが浮かび上がってきます。

住民課題に寄り添うということは、語りを重要視しつつその発言やニーズ、課題感の裏にある「背景」「文脈」を解釈していく必要があって、そこから本質的な支援が見えてくるものなのです。
ですから、インタビューも住民のみなさんの主観的な想いを聞くことから始めました。日々どういうタイムスケジュールで生活をされていて、そのときどんな感情を持っているか。 他にも子どものどんなところが好きなのかという話とか、どんなお父さんお母さんになりたいのか、みたいな日々の想いなどですね。
そうすると、経済的な話だけじゃなくて、「こういう不安があるんです」とか「こういう孤独感を感じながらやってるんです」とか、葛藤を抱えながら現実に向き合っている方も含めて、なかなかうまくいかないところが見えてきます。もちろん補助金などでカバーできる部分もあるのですが、もっと何か家族や地域との関係性みたいなところに着目していかなければいけない部分が出てきたりします。 

遊び場の問題だから施設が必要だろう、働きに出ている母親の問題であればベビーシッターさんが必要だろう、そんな経済的支援を検討する前に、背景にある家族関係や、その土地が持っている文化や風土からアプローチしていかなければいけない様々な視点が見えてきます。今まで想定していたことよりも 幅広い形での支援の方向性を検討できたと思います。

「少子化対策地域評価ツール」を活用した、「住民中心発想」プログラム

―「住民中心発想」の少子化対策プログラムを策定するにあたって、利用したツールなどがあればお聞かせください。

成瀬
今回私たちがプログラムを策定するにあたって、ベースとなったツールがあります。内閣官房のデジタル田園都市国家構想実現会議事務局が作成した「少子化対策地域評価ツール」と呼ばれるものです。
これは、まちのにぎわい、家族形態、コミュニティ、子育て支援サービス、男女の就業の状況、経済・雇用など、結婚・出産・子育てに関連する分野について、客観的なデータを用いて、都道府県平均や近隣自治体等との比較を行い、地域特性を見える化する支援ツールです。地域アプローチという考え方のもと、各自治体がオーダーメイド型で少子化対策の施策プロセスを策定するフレームのようなものです。
いわゆる行政資料ですから、すごい分量のマニュアルがあります。網羅的で良くできたツールですけれど、なかなかうまく活用できている自治体が多くないという印象でした。
今回のプログラム策定にあたっては、岡山県からこのツールをより使いやすいものにしたいという相談がありました。大広としては「住民中心発想」をコアに据えて、検討メンバー全員が使いやすいオリジナルの支援ツールを開発しました。「少子化対策地域評価ツール」の住民中心発想、顧客発想バージョンといえばわかりやすいかもしれません。

―既存のツールは使いにくいという課題があったのですか?

山下
岡山県の担当者の方も「少子化対策地域評価ツール」は使えそうだと感じつつも、自分たちで使いこなせるのかという不安も同時にあったようです。
ツールはあるけれど、それをどう活用してどう議論していくか。これまでは様々な担当の方がいらっしゃるディスカッションの場面で、なかなか意見交換がうまく進まないとか、アイデアが出てこないというような課題感もあったようでした。ですから、どうやって当事者意識を作ってもらうのか、アイデアのディスカッションを活性化させるのかというような仕掛け作りも含めて、“使いこなせる”ツールを目指しました。

独自開発したツールを活用して、実際にはどのようなワークショップを行ったのでしょう?

成瀬
私たちが提供したワークショップは、大広オリジナルツールを活用したオリジナルプログラムです。「少子化対策地域評価ツール」における地域課題の把握と少子化対応策の検討というプロセスを、6日間のワークショップで行う内容です。
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少子化の問題は婚姻・出産の課題がポンとひとつあるわけではなくて、家族とか住宅の課題に繋がっていたり、街の賑わいや経済・労働環境の課題に繋がっていたり、課題の連鎖性みたいなところをどう捉えるかが重要だと思います。この連鎖性を意識しながら市町村の課題・現状を精緻に把握するために「少子化対策イシューマップ」を開発し、課題のつながりや関係性を構造化して整理しています。

プログラムに参加した岡山県は、どんな成果を感じてらっしゃるのでしょう?

成瀬
「少子化対策に挑戦する市町村バックアップ事業」ということで、岡山県の〈子ども・福祉部 子ども未来課〉が中心となり、玉野市・瀬戸内市・矢掛町・美咲町・奈義町の5市町に参加いただきました。5 市町が同じ空間で並行してワークショップに取り組むという設計にしたことで、市町を飛び越えたプロジェクトメンバー全員の一体感を醸成しながらプログラムを進めることができたと感じていただけました。

少子化の課題を把握するために重要なのは、それぞれの課題の関連性を見るということだと思っています。お話しした通り、より実効性のある少子化対策を推進していくためには 地域の実情に応じた少子化対策をオーダーメイド型で作っていくという発想が重要です。その発想に基づいて作られた「少子化対策地域評価ツール」に、大広の顧客価値発想を掛け合わせることで、地域の実情に合った事業施策を検討できるようなプログラムになったと感じています。

―最後になりますが、今後の抱負についてお聞かせください。

山下
少子化対策を進めるという大きな目標は同じであっても、県と市町村では抱える課題、それに対する役割はそれぞれ異なるものだということもわかりました。課題はおそらく自治体ごとに異なるものでしょう。今回、大広は岡山県とともに、国の指標である「少子化対策地域評価ツール」に、顧客価値をベースにした「住民中心発想」を掛け合わせた少子化対策プログラムを提案し実施したわけですが、この「住民中心発想」によるプログラムはどんな自治体でも活用できると考えています。同時に、同じプロセスを違う自治体で実施した場合は、全く異なる本質的な課題が浮き上がるのだろうと思います。地方創生や、少子化対策の解決を導く「打ち手」として、私たちの「住民中心発想」をぜひ活用いただけたらと思います。
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地方創生・少子化対策事業に関するご相談は、こちらまでお寄せください。

この記事の著者

COCAMP編集室

「ビジネスは、顧客価値でおもしろくなる」をコンセプトに、ビジネスにおける旬のキーワードや課題をテーマに情報発信しています。企業の大切な資産である「顧客」にとっての価値を起点に、社会への視点もとり入れた、事業やブランド活動の研究とコンテンツの開発に努めています。