一緒につくろう、顧客価値のビジネス。

お役立ち資料 相談する
お役立ち資料 相談する

2025.09.26

STP分析でBtoBビジネスを再生する顧客起点のマーケティング

「STP分析」は、マーケティングにおける代表的なフレームワークのひとつです。STPは「Segmentation(セグメンテーション:市場細分化)」、「Targeting(ターゲティング:ターゲット市場の決定)」、「Positioning(ポジショニング:自社の立ち位置の明確化)」という3つの要素の頭文字を取ったものです。アメリカの経営学者であるフィリップ・コトラーが1970年代に提唱した手法ですが、50年以上経った今も、STP分析はマーケティングの基本中の基本とされています。

しかし、外部環境が変化したり、ビジネスが多角化したりするにつれ、「基本がおろそかになっていく」というのはよくある話です。あなたの企業は大丈夫でしょうか? いま一度、STP分析に立ち返ると、新たなマーケティング戦略が見えてくるかもしれません。今回は、大広がお手伝いしたA社の事例をご紹介しながら、ビジネスにおけるSTP分析の意義をあらためて考えます。

環境や事業は変化しているのに…貴社の STP分析、忘れ去られていませんか?

今回の事例の主役であるA社は、ある素材を、さまざまな業種の取引先企業に販売されているBtoB企業で、大広とは以前からお付き合いがあります。そこからある日、ご相談をいただいたのが事の始まりでした。

A社の業界では近年、社会要請、規制、テクノロジーなどの変化により、長年扱ってきた素材をめぐる各社の販売競争が激化しています。さらに、A社は以前から事業の多角化も図っておられ、新たな素材を販売したり、素材に関連する設備まで扱ったり、IoTやICTを取り入れたサービスなどを開発されたりもしています。

しかし、そのような変化がありながら、セールスの面では、素材の販売量で取引先企業をセグメントし、営業担当者 の配置を検討するような状況が続いていました。単純に、素材の売上が多い大口顧客に多くの人員を充てる…といった考え方です。これに対し、自社内で「おかしくないか?」という気づきがあったそうで、「どうすればいいだろう?」という大広へのご相談でした。A社はこの機会に、マーケティングの上流から丁寧に適正化に取り組んでいきたいとお考えで、最終的には「人員・資金の再配分」や「組織の再設計」まで視野に入れておられました。

そこで大広とともに、「取引先企業はこういう課題を抱えているから、こういう価値を提供しよう」という「顧客起点での価値創造」へとシフトすることで合意。そのために、マーケティングの基本であるSTP分析からしっかりと行っていくことになりました。

STP図

STP分析とは

A社に限らず、BtoB企業は商材がはっきりしているため、経営戦略やマーケティングにおいても「商材ありき」のプロダクトアウト的志向に陥りがちです。しかし、それでは遅かれ早かれ、市場環境の変化に対応できなくなってビジネスが伸び悩むことに…。STP分析を通して「モノ売り発想から脱却し、顧客志向の営業活動&マーケティング活動に変わること」が今回のテーマとなりました。

取引先企業を37の業種のセグメンテーション。顧客価値を明確にするためのヒアリング方法

まず大広が取り組んだのは、A社の取引先企業が今、どういう市場環境にあるのか、どんな課題を持っているのかを洗い出すことです。

先にも述べたように、それまでA社は、素材の販売量、つまりA社にとっての売上の多寡によって取引先企業を分類しておられました。この「販売量軸」を、より効果的なSTP分析につなげるため、「業種別軸」へと変更しました。売上ベースではなく、すべての取引先企業を業務用分野と産業用分野に分け、さらに37の業種に細かく分類したのです。これがSTPのS(セグメンテーション:市場細分化)です。

そして、それぞれのセグメントにおける課題を明らかにするためのヒアリングを実施しました。とはいえ、実際に取引先企業のもとへ足を運んで話を聞くのは時間もコストもかかり、本当のところ貴社の経営状況はどうなのか…といった聞きづらいこともあります。

そこで、A社の中で日頃、取引先企業と接している営業担当者にヒアリングを行いました。たとえば、素材の使われ方が近年はどのように変わってきているのか。どのようなニーズや懸念が生まれてきているのか。直接、取引先企業に聞くのではなく、取引先企業をよく知る営業担当者に話を聞くことで、37の市場環境をマイナス面まで客観的に捉えることができました。

また、帝国データバンクや経済産業省などが出しているオープンデータなども活用。BtoB企業と関わりの深い、省エネやCO2削減などの社会課題についても加味することで、各セグメントの状況がより鮮明になりました。こうして見えてきたセグメント単位での課題に対し、A社がどのような営業活動を行なっているのかという現状も、営業担当者に細かくヒアリングしてまとめました。

ターゲティングとポジショニングで営業組織を最適化へ導く

各セグメント単位での課題や、営業活動の現状についてのヒアリング内容をもとに、ここからは分析です。

分析にあたって必要な、各セグメントの市場規模データ、今後の成長性の見通し判定などについては、オープンデータに加えて経済情報のクラウドサービスも活用。そこに搭載されたAIエンジンによって、データ収集と分析が飛躍的に効率化できました。これらの分析結果を、37業種すべて一覧できる表にまとめ、「業界固有の省エネ課題に勝機」「新領域の提案余地もある」など、今後の【施策】につながる市場機会の見立てや、考えられるアプローチまで盛り込みました。STPのT(ターゲティング:ターゲット市場の決定)です。

さらに、これらの分析により、37に分けた取引先企業の業種ごとに、それぞれ異なる37通りの顧客価値を定量的に導き出すことができました。言い換えれば、「顧客価値はひとつじゃない」。たとえば「飲食業に対してA社は…」「化学メーカーに対してA社は…」というように、自分たちが発揮するべき「強み」が、取引先企業の業種ごとに異なることへの納得感が生まれたのです。

「これまでは、業種によるお困りごとの違いを考慮せず、いかに自社の素材を多く売るかという発想で営業活動を行なっていました」とA社。「でも、こうして俯瞰的に見ると、この業種にはこういう提案が受け入れられやすいけれど、この業種には無理かもね、ってことが分かりやすい。横並びにすることで、提案獲得のポテンシャルを比較しやすくなりました」。それぞれの業種に対し、自分たちのどのような「強み」を打ち出していくかが明確になったということで、これこそがSTPのP(ポジショニング:自社の立ち位置の明確化)にあたります。

加えて、A社の営業組織体制についても、STP分析におけるセグメンテーションと同様、これまでの「素材販売量」を軸にした部門割りから、「業種別」の部門割りへと変更。今後の成長性の見通しなどにより、人員の削減余地のある業種、不足気味の業種が明らかになったことで、人員配置の最適化も図ることができました。今回のSTP分析について、最終的にA社からは「コンサルティング会社に勝るとも劣らない分析や提案だと感じた」という嬉しいお言葉をいただきました。

4Pの実践に活かす!STP分析が導くセールス改革の道筋

STP分析は当然、その先にあるマーケティングミックス(さまざまな手法を組み合わせるマーケティング戦略)にもつながっていきます。マーケティングミックスの主な構成要素は、図の通り4P(Product=商品・サービス、Price=価格、Place=チャネル、Promotion=広告・販促) で表されます。逆に言うと、いきなり4Pから考え始めてしまうと、顧客に響かない見当違いの戦略になってしまいます。

構造図1

マーケティング戦略策定プロセスの全体図

A社の事例でもSTP分析により、たとえばターゲットの業種別にWebサイトのLPを制作するようになったり、業種別にイベント出展する話が出たりと変化が生まれています。成長が見込まれる業種で、より積極的に営業活動を展開できるようになったのです。

繰り返しになりますが、前述のようにBtoBビジネスはプロダクトアウト的志向に陥りがちで、「お客様から考える」というマーケティングの根幹を忘れやすい傾向にあります。「どの商品も同じように見える」というコモディティ化が進み、差別化しづらい環境にあってこそ、「売る発想」ではなく「顧客起点の発想」という基本の徹底が重要になってきます。「STP分析」というと、何やら頭でっかちな小難しいイメージを持ってしまいますが、要は「いかに顧客に喜んでいただくか」を常に念頭に置いてマーケティング戦略を立てるということ。ビジネスの停滞を感じておられるならば、今からでも取り組んでみてはいかがでしょうか。


まとめ

STP分析はマーケティングの基本であり、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングから成ります。大広がお手伝いしたA社の事例では、顧客を細かくセグメントし、綿密なヒアリングを実施。セグメントごとの課題と、それぞれに届けたい顧客価値を導き出しました。それが今後のマーケティングの指針となり、適切な人員配置も実現。STP分析は、マーケティング戦略はもちろん、組織まで変えるチカラを持っています。


最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからも顧客価値・顧客体験開発に関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。

またCOCAMP編集室では、みなさんからの「このコラムのここが良かった」というご感想や「こんなコンテンツがあれば役立つ」などのご意見をお待ちしています。こちら相談フォームから、ぜひご連絡ください。

この記事の著者

清水 弘樹

文学部哲学基礎文化学系を卒業後、2012年に新卒で大広に入社。
営業、ストラテジックプランニング、データドリブン、デジタルマーケティング、プロモーション、コーポレートなど幅広い業務を経験。経営・財務・統計・データ分析領域の資格に加え、高等学校教員免許(公民)を保有。
現在はマーケッターとしてのクライアントワークを中心に、自社の業務プロセス改善やナレッジマネジメントシステムの開発に従事。
日本マーケティング協会認定 マーケティングマスター