日本の大手ブランドのダイレクトマーケティング(通販・D2C/DR)は、市場全体は伸びている一方で、新規獲得は難しくなっているというのが現状のようです。ビジネスの商機が「新規を取り続ける」から「LTV最大化(定期・継続・アップセル)+獲得チャネルの再設計」に移行しているとも言えるのではないでしょうか。
ダイレクトマーケティングの事業構造は実は単純な構造であることはあまり知られていません。実は「顧客数」×「年間顧客単価(LTV)」の掛け合わせでしかないのです。多くの企業は「LTV」が重要であり、CRMという言葉を魔法の言葉のように唱えるものの、実際は何をすべきかわかっていないことが多いことも。
今日はダイレクトマーケティングビジネスで様々な企業をサポートしてこられた(株)大広の岡野忠史さんに、ダイレクトビジネスに携わるビジネスパーソン全ての人に届けたい「CRMの重要な視点」について寄稿いただきました。
岡野 忠史
株式会社大広 データドリブンプランニング局 ダイレクトビジネスグループ 部長
大広入社時から20年間営業職に従事。営業でありながら事業戦略立案、クリエイティブディレクション、メディアプランニング、CRM戦略およびプログラム設計など事業レイヤーから現場施策まで、マルチ対応で得意先をサポートしダイレクトビジネスの知見を蓄積。現在は営業時代に培った知見を活用しながら、ダイレクトビジネス企業の事業課題解決に向けた戦略立案や施策提案などを行っている。
「LTVが重要」「CRMは重要」と言われながら成果が出ない、その理由
多くのダイレクトマーケティング企業は、「LTVが重要である」ということ自体は重々認識しています。しかし実際には、LTVを高めるために何をすべきかが整理されていないケースが少なくありません。その背景の一つに、事業の評価指標が新規顧客獲得に偏っている構造があります。
多くの場合、評価されるのは「どれだけ広告費を効率よく使って新規顧客を獲得できたか」という指標です。組織体制としても、顧客獲得を担うチームとCRMを担うチームが分かれ、それぞれが個別に最適化を進めています。その結果、獲得と育成の間にミスマッチが生まれやすくなっています。
本来「顧客数」とは既存顧客も含めた概念ですが、現場では都合よく「新規顧客数」と置き換えられているケースも多く見られます。CPOやCPA(CPR)が正義とされ、安価な広告枠を押さえて大量出稿し、新規顧客獲得を繰り返します。一方で、獲得後のCRM施策は手探りのまま進められ、十分に機能しないまま事業利益が積み上がらない状態が生まれています。
ダイレクトマーケティングの事業構造は、「顧客数」×「年間顧客単価(LTV)」という掛け算で成り立っています。顧客数を増やせば短期的に売上は伸びます。顧客獲得が順調な間は、見かけ上の売上も大きくなるため、CRMの課題が後回しにされがちです。しかし、新規顧客が獲得できなくなった途端に事業は不安定になります。この構造に気づかないまま走り続けている企業は少なくありません。
さらに重要なのは、どれだけ効率よく新規顧客を獲得できたとしても、CPOやCPAは初回受注単価を下回ることはないという現実です。仮に1万円のコストをかけて顧客を獲得したとしても、初回の商品購入金額が2,000円や3,000円であれば、その時点では赤字です。本来その赤字は、継続購入やアップセルによって回収される前提で設計されています。何度も購入していただくことで初めて利益が生まれます。この前提に十分向き合えていないことが、CRMが機能しない大きな要因だと考えています。
顧客獲得とCRMは、なぜ一気通貫で考える必要があるのか
仮に初回購入を安価に実現できたとしても、その顧客の多くが離脱し、2回目、3回目の購入につながらなければ、事業としては損益分岐点を超えず、結果的に利益を生まない施策になってしまいます。新規顧客を獲得できた時点で重要なのは、「いかにリピートしてもらうか」という視点に切り替えられるかどうかです。
そのためには、そもそもどのようなお客様を獲得するのかを明確にした上で、広告からCRMまで一貫したコミュニケーションを設計する必要があります。広告におけるターゲット設定と、その後のCRMの“語り口”がずれてしまうと、顧客とのコミュニケーションは一方通行になりがちです。
よく例えに出しますが、「和食が食べたい」と思って入った店で洋食が出てきたら、違和感を覚えるはずです。顧客とのコミュニケーションも同じです。例えば「膝が痛い」という理由で商品を購入した顧客に対して、購入後に「認知機能が高まる」といった別の価値訴求ばかりを行っても、その顧客には響きません。
さらに言えば、「膝が痛い」という同じ入口であっても、その内側にあるニーズは人によって異なります。「今の痛みを何とかしたい」のか、「将来に向けて膝を強くしたい」のか。その違いによって、伝えるべき情報やコミュニケーションの設計は大きく変わります。
顧客獲得とCRMのコミュニケーションが別々に設計されていると、こうした文脈が断絶し、顧客にとっては話がつながらない状態になります。だからこそ、顧客獲得とCRMは一連のストーリーとして捉える必要があります。どのようなお客様を獲得するのかによって、その後のコミュニケーションのあり方は根本から変わります。この考え方が、大広が顧客獲得とCRM(顧客育成)を一気通貫で捉えている理由です。

CRMの起点は「獲得したい顧客」のインサイト理解にある
CRMのために既存顧客のインサイトを深掘りするという発想は一見正しそうに見えますが、本質的には獲得したいターゲットのインサイトを起点に設計しなければCRMは機能しません。だからこそ、まず決めるべきなのは「どのようなお客様を獲得したいのか」という点です。
顧客理解はCRMのスタート地点ですが、その理解は「獲得後」に始まるものではありません。獲得の段階で、どんな課題意識や期待を持った人なのかを見極めておく必要があります。
例えば、グルコサミンのサプリメントを検討している顧客一つをとっても、「強い膝の痛みを何とかしたい」と考えている人と、「最近、膝に違和感が出てきたので将来に備えたい」と考えている人とでは、コミュニケーションの設計は大きく異なります。成分量を強調すべきか、長期的な価値を伝えるべきかも変わってきます。
ダイレクトビジネスの目的は、単に安価に顧客を獲得することではありません。獲得後のコミュニケーションを通じて、顧客と長く関係を築き、買い続けていただくことにあります。
大広がダイレクトマーケティングのクリエイティブに応用しているS-Streamは、存在を認識していただく「情報認識」、商品を知りたいという動機を生む「感情喚起」、商品理解を促す「提案理解」、購入を判断する「価値評価」というプロセスを整理した意思決定モデルです。このS-Streamは顧客獲得のためだけに生まれたものではありません。顧客の意思決定プロセスを捉えるフレームである以上、CRMにおいても有効に機能します。獲得と育成を分断せず、同じ意思決定の流れとして捉えることが、最適なCRM設計につながります。

顧客との関係を「続くもの」にするために設計すべきこと
顧客との関係構築、すなわちCRMプログラムの設計は、顧客マインドをどう捉えるかという視点から始まります。顧客は初めて商品を購入した瞬間、期待や希望が最も高い状態にあります。このタイミングはCRM設計において極めて重要な起点です。
しかし、その高い熱量も時間とともに必ず変化します。課題が解決に向かう中で感じる小さな変化がある一方で、効果実感が曖昧になったり、日常に忙殺されたりすることで期待値が下がる瞬間も訪れます。CRMは、こうした顧客の心理変化を前提に設計されるべきものです。
カスタマージャーニーとは単なる接点整理ではありません。顧客の期待と感情の動きを時間軸で捉え、それに寄り添うための設計図です。

「効果」から「感動」へ。関係を持続させる価値転換
顧客は何らかの課題意識を持って商品に出会い、その課題に対する効果を実感したとき、初めて心を動かされます。ただし、効果を実感したからといって、必ずしも商品を使い続けるとは限りません。
商品を継続して購入していただくためには、「効果がある」という評価を超えて、その商品が顧客にとってどのような存在になるのかが重要です。例えば、「これがあると安心できる」「これは自分にとって欠かせない」と感じてもらえる状態です。言い換えれば、商品が単なる機能ではなく、特別な情緒的価値を感じられている状態、いわば“お守り”のような存在へと価値転換されている状態です。
大広では、この価値転換を生む体験を「感動体験」と呼んでいます。感動には、驚きや胸が熱くなる動的な体験もあれば、安心や充足感のような静的な体験もあります。情報があふれる現代において、理性的な情報だけでは顧客の心を動かし続けることは難しいのです。効果実感という合理的な納得に加え、感情に働きかける体験が重なったとき、継続利用、愛用という行動につながります。
CRMにおいて重要なのは、この感動体験を偶然に任せるのではなくマインドジャーニーの中に意図的に組み込むことです。効果を感じるタイミング、その先にある不安や迷い、そして「続けたい」という意思が芽生える瞬間。その流れを見据えて設計された感動体験こそが、顧客に長く選ばれ続ける関係をつくります。
【事例解説】90日間プログラムから、30日間プログラムへ。最新のCRMクリエイティブ事例
顧客心理に寄り添ったCRMクリエイティブとは何か
ダイレクトビジネスを取り巻く環境は変化しています。コモディティ化した商品が多く存在する中で、現在ではサンプル飲用終了後30日以内が定期引き上げの目安になるケースが増えています。
ここでは、膝の悩みを改善する健康食品(サプリメント)を事例に、商品サンプル到着から飲用終了までの期間において、顧客心理を理解しながら定期引き上げにつなげていくコミュニケーション施策についてご説明します。
初回のお試し商品を購入した直後は、「膝の悩みから解放されるかもしれない」という期待が最も高いタイミングです。この段階で企業側が行うべきなのは、強い売り込みではありません。「試していただきありがとうございます」という感謝とともに、なぜこの商品を開発するに至ったのか、その背景にある思いを丁寧に伝えることです。単に「役に立つはずです」と伝えるのではなく、「あなたの悩みを理解した上で届けています」という姿勢を示すことが重要です。
この姿勢が伝わることで、顧客は初めて企業やブランドに対して信頼を持ち始めます。CRMクリエイティブの第一歩は、顧客の期待に応える準備ができていることを示すコミュニケーションから始まるのです。
①
お試し商品を飲み始めた直後の顧客は、「まずは飲んで様子を見てみよう」という状態にあります。とはいえ、「今日飲んで明日すぐに劇的な変化が出る」と期待しているわけではありません。
このタイミングで企業側が示すべきなのは、「どれくらいで効果実感が期待できるのか」という見通しです。「多くの方がどのくらいの期間で実感を得ているのか」「どれくらい続けることで変化が見込まれるのか」といった情報を提示することで、顧客は安心して継続できます。

サプリメントを飲み始めたばかりの顧客は、まだ効果実感がありません。そのため、機能性表示食品であればヒト試験の結果をグラフなどで示し、継続期間と効果の関係をわかりやすく伝えることが有効です。ここでは購入促進を強く行う必要はありません。まずは「そこまでは続けてみよう」と思っていただくことが大切です。
圧着ハガキを例に挙げていますが、重要なのはツールの形状そのものではなく、このタイミングの顧客心理に対して最も伝わりやすい形式は何かを考えることです。内容を最も伝えやすい形状やボリュームは何かを考えることがCRMクリエイティブ設計において欠かせない視点になります。

②
お試し商品を15日間、あるいは30日間で飲み切った直後は、顧客の心理が大きく揺れ動くタイミングです。「なんとなく良くなってきた気がする」という前向きな感覚が芽生える一方で、「この先もお金をかけて続けるべきだろうか」という迷いが同時に生まれる局面です。
このフェーズでは、感情的な期待だけに頼ったコミュニケーションは機能しにくいものです。顧客の中では、“続けるかどうか”を理性的に判断しようとする意識が強まり始めているからです。そのため企業側に求められるのは、「なぜこの商品を飲み続けることに意味があるのか」を感覚ではなく根拠として提示することになります。

例えば配合されている成分について、どのような科学的エビデンスがあるのかを示すことは有効なアプローチです。権威ある医師や研究者による第三者推奨、あるいは「膝の軟骨は日常生活の中で徐々にすり減っていき、一度失われたものは元に戻らない」といった、意外と知られていない医学的な事実を丁寧に伝えることで、顧客は自分自身の判断を補強する材料を得ることができます。
ここで重要なのは、「不安をあおる」ことでも続けない「リスクを強調する」ことでもありません。続けることの合理性を理解してもらうことです。このタイミングでのCRMクリエイティブは、顧客が「続ける」という選択を自分の意思で下せるように、判断軸を提供する役割を担っています。
そのため、ここではA3版の圧着DMのように、一定の情報量をしっかりと届けられるツールが適しています。ボリュームがあるからこそ成分の背景や医学的ファクトを整理し、顧客が腰を据えて読み、納得できる構成をつくることができるのです。ツールのサイズや形式もまた、顧客心理に合わせた設計の一部なのです。
③
お試し商品を飲み切り、そこから15日前後が経過したタイミングは顧客の心理が最も不安定になりやすい局面です。すでにサンプルは手元になく、継続使用もしていない。一方で、「やめてしまって本当に大丈夫だろうか」という不安が、少しずつ心の中に芽生え始めています。
この時点の顧客は「飲み終わってみたが、調子が良くなったのかどうか、正直よく分からない」という状態にあることが想定できます。しかし実際には本人が意識していないだけで、日常生活の中に小さな変化が現れ始めていることも少なくないものです。
そこで有効なのが、顧客自身にその変化を“思い出してもらう”ためのコミュニケーションです。例えば、「階段の上り下りで、以前ほど違和感を感じなくなっていないか」「朝、ベッドから起き上がるときに、少しスムーズになっていないか」といった日常の具体的なシーンを提示し、そうした問いかけを通じて、顧客が自分自身の体調変化を振り返るきっかけを与えます。

このフェーズにおいて重要なのは、企業側が「効果があった」と断定することではありません。顧客自身に、“もしかしたら変わってきているかもしれない”と気づいてもらうことです。その気づきが生まれたとき、顧客の中で商品に対する印象は、「単なるお試し」から「意味のある体験」へと変わっていきます。
そのため、このタイミングでは、圧着ハガキのように顧客が手に取り自分のペースで確認できるツールが適しています。チェックリスト形式や簡単な問いかけを通じて、顧客自身が自分の変化を確かめる“自己確認の場”を提供することが、次の行動につながる重要な役割を果たします。
④
お試し商品を飲み切ってから約30日が経過すると、顧客の中には新たな心理が生まれてきます。せっかくサンプルを試したにもかかわらず、このままやめてしまって本当に大丈夫なのか。もう少し続けなければ、本来得られるはずの効果を逃してしまうのではないか。そうした不安が、次第に大きくなっていくタイミングです。
この局面で企業側に求められるのは、理屈や説明を重ねることではありません。「続けている人は、今どうなっているのか」という具体的な未来像を示すことです。例えば、長期的に商品を愛用している顧客の日常をスナップ写真やリアルな声とともに紹介するとか。そこに描かれるのは誇張された効果ではなく、自然体でいきいきとした“今”の姿です。

こうした表現を通じて、顧客は「もし続けたら、自分もこうなれるかもしれない」という疑似体験をすることができます。継続の先にある理想状態を具体的に思い描けたとき、顧客の中にあった不安は少しずつ安心へと変わっていきます。CRMクリエイティブの役割は、この未来への納得感と期待を後押しすることにあります。
そのため、このフェーズではA3版の圧着DMのように、写真やストーリーをしっかりと伝えられるツールが有効です。情報量の多さではなく、「自分のこれから」を重ね合わせられる表現が、顧客の意思決定を静かに後押しするのです。
まとめ
「今なら安い」という訴求は、短期的には購入を促す効果があります。しかしこのアプローチを続けていくと、商品やブランドは次第に「安い時にしか買われない存在」になってしまいます。価格で選ばれる関係が定着すると、顧客との関係は深まらず、継続やLTVの向上にもつながりにくくなるのです。
CRMとは、顧客との関係をどう設計するかという考え方です。さらに言えば、それはCRM施策の話ではなく、事業そのものをどう設計するかという問いに近いものです。にもかかわらず、CRM活動を「セールのDMを送ること」や「値引きの案内をすること」と誤解してしまうケースは少なくないのです。
CRMは、商品を買わせるための活動ではありません。企業やブランドを理解してもらうための行動を積み重ねていく活動です。どのようなお客様と、どのような関係を築いていきたいのか。その顧客に対して、どんな価値を、どんな体験を通じて届けていくのか。まずは、その顧客像と関係性を明確に描き、寄り添うことが出発点となります。
企業やブランドが何者で、なぜその商品をつくっているのかが伝わったとき、初めて顧客との間に信頼が生まれます。その信頼があるからこそ、買い続けてもらえるという関係が成立するのです。
究極的にCRMとは、企業やブランドの価値を正しく理解してもらうためのアクション。その設計を丁寧に行うことが、長く選ばれ続ける事業をつくっていくのです。
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