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2024.03.07

社会課題解決への想いが新しい商品を生み出す ~日本初の月経に関する機能性表示食品の誕生背景~

今年1月にアサヒグループ食品が発売したサプリメント「わたしプロローグ」は、乳酸菌の力で、正常な月経周期のある健康な女性の「月経前の一時的な晴れない気分、精神的疲労感、眠気」を軽減する機能があるという日本初の機能性表示食品。この商品でフェムケア分野に参入した同社ですが、商品開発の過程からは多くの新たな発見があったといいます。開発にあたったアサヒグループ食品のおふたりと、フェムテック・フェムケア研究の領域から商品開発に伴走した大広チームに話を聞きました。

※自社調べ 23年12月 月経に関する機能性を持つ機能性表示食品として

[インタビュイー] 
アサヒグループ食品株式会社
コンシューマ事業本部 ダイレクトマーケティング部 部長
岩崎 琢也

アサヒグループ食品株式会社
コンシューマ事業本部 ダイレクトマーケティング部 課長補佐
藤澤 侑衣

株式会社大広 
大広フェムテック・フェムケアラボ チーフプロジェクトマネージャー
平野 陽子

 

伝統の乳酸菌研究が、フェムケアへの扉を開いた

――機能性の新しさで大きな注目を集めている「わたしプロローグ」ですが、誕生までにはどのような経緯があったのでしょうか。

岩崎
私たちアサヒグループは、長年にわたって「カルピス」由来の乳酸菌研究を続けています。「わたしプロローグ」に配合されている「CP2305ガセリ菌」もアサヒグループ独自の乳酸菌で、腸内環境を改善することは早くからわかっていました。脳と腸が相互に影響を及ぼしあう「脳腸相関」を考慮すると、「CP2305ガセリ菌」がメンタル領域でも課題解決に結びつくのでは、と研究を始めたのが2007年ごろ。その成果は、まず、睡眠の質の向上などの機能性表示食品につながりました。

――乳酸菌研究がメンタルの分野に広がったのですね。

岩崎
はい。一方でお客様からは、月経前の不調に関するお悩みの声もいくつか寄せられていました。そこで、徳島大学の西田憲生准教授と共同でさらなる研究を行ったところ、「CP2305ガセリ菌」が女性ホルモンの変動や調節に影響をおよぼすのではないかということがわかってきました。研究を開始したのが2017年ごろのことです。菌の研究を通して社会課題の解決に貢献したい、というのは一貫した私たちの願いですから、これは取り組むべきだと考えました。

岩崎 琢也

――そこから約6年での商品化、ということだったのですね。「わたしプロローグ」はどのように作用するのでしょうか。

藤澤
摂取したCP2305ガセリ菌が腸に届くことで、いわゆる脳腸相関のメカニズムがはたらき、女性ホルモンの変動や調節に関わるのではないかと考えています。臨床試験では、正常な月経周期を有する健康な女性の方にわたしプロローグを摂取して頂き、月経前の一時的な晴れない気分、精神的疲労感、眠気などを軽減することを確認しました。月経に関する機能性を訴求した機能性表示食品は日本初なんです。

藤澤 侑衣

――「わたしプロローグ」は「フェムケア食品」と紹介されますが、開発がスタートした2017年当時、フェムテック・フェムケア分野はどのような状況だったのでしょうか。

大広(以下、D)平野
「フェムテック」という言葉は、まだ日本には入っていなかったと思います。海外から少しずつ情報が得られるようになったのが2018年ごろ。自分たちがそれまで言葉にできなかった、女性領域のウェルネスやヘルスケアに寄与するカテゴリー群というものに、「フェムテック」という名前がついたのだ、と、認識しました。日本で第1回の「FemtechFes!」が開催されたのが2019年。私たちもそこで海外の様々な商品やサービスに触れ、日本のスタートアップ企業の方々とお話をしたのを覚えています。

平野 陽子

――なるほど、状況が急激に変化していく時期と重なっていたのですね。

D平野
そうですね。「わたしプロローグ」開発期間の後半になると、スタートアップ企業を中心としたフェムテック市場が徐々に認知され始めて、中堅以上の企業もマーケットインの機会があるのか探りはじめていた、という状況だったと思います。

 

課題への深い理解が、ブレない商品開発につながった

――印象的なネーミングとパッケージです。

藤澤
はい。サプリらしくない、とよく言われるのですが、毎日飲むことを負担に感じてほしくない、お守りのように常にお客様に寄り添うものにしたい、という思いがありました。「月経の期間も含めて365日自分らしい毎日を過ごしてほしい」というのが、この商品に託した私たちの願いです。「わたしプロローグ」というネーミングには、仕事や生活スタイルの変化を感じやすくなる20代後半から30代女性に対して、前向きな新しい人生の始まりに寄り添う商品に、という意味をこめました。マジックアワーの美しい空は、つらいときには上を向いてほしい、というメッセージでもあります。

わたしプロローグ(1)美しい空をデザインした「わたしプロローグ」のパッケージ。カルピス健康通販で販売。

 

――社内の反応はどうだったのでしょうか。

藤澤
当初、男性社員からは、「よくわからない」という反応が多かったように思います。月経やそれにともなう不調の経験は、もちろん男性にはないので、これでいいのか「よくわからない」と。そこで、社内の女性社員にアンケートをとることにしたんです。さきほど申し上げたコンセプトは多くの人に共感してもらえましたし、「パッケージがかわいい」などの声も集まって、商品を後押ししてくれる力になりました。それと同時に、月経の状況も感じ方も、人によってバラバラだということも改めてよくわかりました。

D平野
「体調不良でつらいでしょう?」という押し付けはよくない、ということですよね。「わたしプロローグ」が目指した、「つらい状態のその先」を提示するようなネーミングやパッケージは、だからこそふさわしいのだと思います。

平野陽子 藤澤侑衣

 

――ネーミングやデザインなども大広がお手伝いしたわけですが、それ以前の、商品開発のかなり初期の段階でお付き合いが始まったのですよね。

岩崎
2020年から2021年にかけての時期だったと思います。そのころはまだ、「わたしプロローグ」につながる研究は進行中の段階で、フェムケア食品の開発はテーマのひとつ、という位置づけでした。部門全体の商品開発の方向性を探るにあたって大広さんとワークショップを行っていたのですが、大広さんはフェムテック・フェムケア分野に強く、社内にフェムテック・フェムケアラボがあって平野さんもいらっしゃる。業界の中でも先駆者でしたから、お話をするうちに、ぜひ一緒にやりたいと考えるようになりました。

D平野
初の段階では、フェムテック・フェムケア分野の歩みも含めて、そこにどういう課題があるのか、事象の背景を一緒にひも解いていく、という取り組みをさせていただきましたね。

藤澤
早い段階から、平野さんに様々な情報を共有していただいたことはとても貴重な体験でした。フェムケアに対する本質的な理解を深めることができたからこそ、商品化する過程でも、ネーミングやパッケージデザインを決めるときも、考え方がブレなかった。結果としてこの商品にたどり着いたのだと思います。

岩崎
私たちはメーカーですから、完成した商品の広告コミュニケーションをご一緒することがほとんどで、これほど早い段階から入っていただくことはなかなかありません。でも、大広さんと議論を重ねる中で、この商品によってお客様にどのような価値を提供するのか、その過程で何を大事にするべきなのか、明確にしながら進むことができた。ものづくりは本来こうあるべきだと改めて思っています。

岩崎琢也 平野陽子

 

フェムケアを考えることで見えてきた、誰もが生きやすい社会

――「わたしプロローグ」が発売されて、社内の反応、社会の反応はいかがでしたか。

岩崎
記者発表も含めて色々なメディアで露出したことで、社内でも話題にのぼることが増えました。話題が増えると会話量が増える。「よくわからない」だったのが、「わからないから教えてほしい」になる。社内の啓蒙はまだまだ必要だと感じていますが、商品化し、事業として打ち出したことで、認識にも変化が起きていると思います。

藤澤
同僚からは、「記者発表の記事を見たよ」という連絡がたくさんきました。商品がきっかけとなって、フェムケアへの理解も少しずつ進んでいる印象です。

岩崎
社内のことでいえば、今回、新しい分野での商品開発ということで部署を横断して色々な人とやりとりをしました。「わたしプロローグ」が目指す「365日自分らしく」という生き方を実現するには、DEIへの理解も必要ですし、企業組織としては人事や福利厚生などの要素もからんでくる。既存の組織の枠を超えて協力したり知恵を集めたりする必要があると感じています。誰もが生きやすい社会を志向すると、組織のあり方も、より柔軟に変わっていけるのかもしれないですね。

 

――今後の展望をお聞かせください。

岩崎
今年、「FemtechFes!」に参加したのですが、いろいろな企業の人から、「この領域の扉を開いてくれてありがとう」とお礼を言われたんですよ。皆さん、可能性は十分に感じておられる。それで、我々のような企業がフェムケア分野の商品を出す意義のようなものを感じました。もちろん、最初のころからずっとスタートアップ企業の方々が切り拓いてくださっている中で、研究を長期間継続したり、届け出が受理されるまで何年ものプロセスを耐えたりする体力のある企業には、新しい分野の商品を社会に広め、一般化する使命みたいなものがある。だから今後も、我々が持っているエビデンスをどう生かして社会に貢献していくか、新しい領域を開拓していくかを考えたいですね。

D平野
そこは本当に大事だと思います。ちょうど市場自体もフェーズが変わってきているところで、規模にかかわらず会社と会社、アセットとアセットをつないでひとつのプロジェクトにしていくような形もすごく増えています。

岩崎
フェムケアに限らず、まだ顕在化していない社会課題はたくさんあると思います。そこに貢献できるような商品開発を進めていきたいですね。

藤澤
様々な健康課題に対処するための選択肢をひとつでも増やすことが、これからの課題だと思っています。私たちの強みのひとつである安心感を最大限に生かしつつ、お客様に寄り添えるよい商品を世の中に出していきたいですね。その意味で、「わたしプロローグ」はまさに「始まり」だなと感じています。

D平野
本当にそうですね。女性の領域で見つかる課題というのは、性別や年齢を変えれば別の新たな課題につながる場合が多いですし、これからは、性差分析に基づいたイノベーションである「ジェンダード・イノベーション」の領域がさらに広がっていくと思うので、引き続きお手伝いできればと考えています。

岩崎琢也 平野陽子 藤澤侑衣

 

まとめ

■長年にわたる乳酸菌研究の蓄積をもとに、フェムケアという新たな領域へと進出。

■明確なコンセプトに基づく開発姿勢で、ブレない商品開発を実現。

■フェムケアをスタート地点に、さらなる社会課題の解決を目指す。

この記事の著者

COCAMP編集室

「ビジネスは、顧客価値でおもしろくなる」をコンセプトに、ビジネスにおける旬のキーワードや課題をテーマに情報発信しています。企業の大切な資産である「顧客」にとっての価値を起点に、社会への視点もとり入れた、事業やブランド活動の研究とコンテンツの開発に努めています。