ファンマーケティングとは、商品やサービスに愛着を持つファンを増やし、企業が売上を拡大するマーケティング戦略のことをいいます。この記事では、ファンマーケティングの手法や事例、メリット、戦略を立案するポイントなどをまとめて解説します。
ファンマーケティングとは?
ファンマーケティングとは、企業が提供する商品やサービスに愛着を持って支持してくれるファンを増やし、中長期的な視点で売上の拡大を図るマーケティング戦略のことです。ここでいう「ファン」とは、商品やサービスに対する熱狂的な愛用者や支持者のことを指します。ファンは、商品やブランドを継続的に支え続けてくれる存在です。たとえば、商品価格の値上げがあったとしても、離れずに支持してくれる顧客は、強い愛着を持ったファンといえるでしょう。
ファンマーケティングが注目される背景には、いくつか要因があります。まずは、新規顧客獲得の難易度が上がっているということです。少子高齢化に伴う市場縮小や、デジタルメディアの発展・普及により「情報過多」といわれる環境のなかから、自社の情報を見つけてもらい、新規顧客獲得につなげることは簡単ではありません。そのため、サービスに強い愛着を持ち、継続的に支えるファンの存在を増やすことが大切といえます。
また、購買行動にはユーザー発信のコンテンツが大きな影響を与えるようになってきたことも要因の1つです。インターネットやSNSの普及に伴い、顧客は実際に購入した商品やサービスについて周囲に発信することが容易になっており、ほかの顧客はそれらの情報を購買の参考にしています。そのため、新規顧客を獲得するには、商品の口コミを発信してくれるファンを育てることが重要といえるのです。
こうしたことから、ファンマーケティングに取り組むことで、自社の課題解決に結びつくのではないかと考える企業が昨今増えてきています。
ファンマーケティングの手法と事例
ファンマーケティングの代表的な手法としては、以下の3つがあります。施策事例と共に見ていきましょう。
- ファンミーティング
- ファンコミュニティ
- SNSを活用した施策
ファンミーティング
「ファンミーティング」とは、ファンと企業が交流するイベントのことです。たとえば以下のような事例が挙げられます。
あるお菓子メーカーは、SNSを活用して呼びかけを行い、ハロウィンに関連した体験型イベントを実施しました。イベントでは発売前の商品サンプルを配布したり、会場限定グッズが当たる抽選を行ったりと、参加者だけが体験できる企画を通して、企業への愛着や満足度を深めてもらうことに成功しました。
また、あるアウトドアメーカーでは、自社商品ユーザーと自社スタッフが焚火を囲んでキャンプトークを行うイベントを開催しました。ユーザーと企業が直接対話することで、ファンと企業との関係性を強化する成果を得られたといいます。
ファンコミュニティ
「ファンコミュニティ」とは、ファン同士が交流したり、ファンと企業が交流したりする場所のことです。ファンコミュニティの事例には、次のようなものがあります。
ある食品会社は、レシピの紹介やレビューの投稿などを通して、顧客が参加できるファンコミュニティを展開しています。このファンコミュニティでは、ファンの声を聴く座談会も行っており、ファンの意見を参考にして開発した商品もあります。
また、ある自動車メーカーでは、特定車種の既存顧客と購入検討者が共に交流できるファンコミュニティサイトを提供しました。コミュニティで既存顧客と交流してもらうことで、購入検討者のメーカーに対する愛着を強化することに成功したといいます。
SNSを活用した施策
ファンマーケティングの施策として、SNSを効果的に活用した成功事例もあります。たとえば、ある外食サービスの企業は新メニュー認知と売上拡大を図るため、SNSを使ったコミュニケーションを展開しました。これは、企業の公式アカウントのファンを増やし、SNSでの口コミを活性化することにより、既存顧客でなくても来店したくなる流れを作る戦略といえるでしょう。さらに、ファンがUGC(User Generated Contents:一般ユーザーの手によって作成された「ユーザー生成コンテンツ」のこと)を投稿し、ほかの人がその投稿を見ることで来店したくなるような仕掛けも作ることで、相乗効果を上げることに成功しています。
ファンマーケティングのメリット
ファンマーケティングを行うメリットには、どのようなものがあるでしょうか?主なメリットは3つあります。具体的に見ていきましょう。
顧客と中長期的な関係を築き、LTVが向上する
ファンをつくることは顧客個人のLTV(Life Time Value:ライフタイムバリュー)を向上する効果があります。LTVとは、一生涯にわたって顧客から得られる利益のことで、単発の関係ではなく、継続的な関係に重きを置く考え方です。
前述したように、少子高齢化が進み市場が縮小するなかで、自社の商品やブランドの情報を届けて、新規顧客を獲得することは簡単ではありません。ファンの満足度を向上させることで生まれる、継続的な購買行動が重要になります。世界的なマーケティング企業が「既存顧客の維持・拡大」を重要視している例も見られ、LTVの向上においては、ファンは欠かせない存在といえるでしょう。
●LTVを重視すべき理由や施策について、詳しくはこちら
LTVとは?重視すべき理由や計算方法、改善施策を具体的に解説
ファンの声が新しい顧客を呼び込む可能性がある
ファンマーケティングには、新規顧客を獲得する効果もあります。顧客の口コミがほかの人の購買行動に影響を及ぼすとすると、消費者は企業からの情報より口コミに反応する傾向があるといえるでしょう。そのため、ファンがSNSで商品やサービスについて情報・感想を発信すれば、その投稿を見た人が新しい顧客になる可能性もあります。
また、UGCによって新規顧客の獲得につながることもあります。企業やブランドのファンが良質なUGCを生み出すことによって、そこから新規顧客が生まれる可能性もあるでしょう。
ファンの声が新商品や新サービスの開発につながる
ファンは、企業が気付いていない提供価値を見いだしている可能性があり、そんなファンの意見が新商品や新サービスの開発に生かされる例もあります。顧客と企業が共に新しい商品やサービスを開発する取り組みを「共創(共創型商品開発)」といい、ファンは、新しい商品やブランドの開発に参加することに積極的です。新商品や新サービスの開発をファンと共に行うことで、ファンの思いを反映し、満足度をさらに向上させる結果につながるでしょう。
ファンマーケティングのデメリット
ファンマーケティングには、デメリットになり得る点もあります。代表的な2つを具体的に見ていきましょう。
顧客との関係構築に時間がかかる
ファンの育成には、一定の時間がかかることは否めません。単に購入頻度や購入回数を増やせばよいのではなく、ブランド・商品に対する共感や愛着、信頼を獲得することが目標となるためです。従って、ファンを育成するには、顧客体験の提供と丁寧な交流を積み重ねることが大切です。商品の魅力だけでなく、ブランドコンセプトや歴史なども伝えることで、より効果は上がるといえるでしょう。
コミュニティづくりが難しい場合がある
企業が顧客獲得を目的としてコミュニティづくりを試みても、必ずしもうまくいくことばかりではありません。なぜなら、ファン同士の交流が思わぬ方向へ展開し、ネガティブな状態に陥ることもあるからです。たとえば、古参のファンが新規のファンに対して排他的な態度を取っていると、新規のファンが参加しにくく、閉鎖的なコミュニティになりかねません。このような状況を防ぐには、企業がコミュニティのファシリテート(話し合いの場を円滑化・活性化させること)を担うことが大切です。企業の目的に沿った交流の場になるよう、適度にサポートするとよいでしょう。ただし、企業がファン同士の交流に介入して、自社に都合のよい方向へと誘導しようとすると、強い拒絶反応が起こることもある点には注意が必要です。
ファンマーケティング戦略を立案するポイント
ここでは、ファンマーケティング戦略を立案するとき、どのようなポイントがあるか、具体的に見ていきましょう。
ユーザー目線で体験価値を提供する
ファンの育成は、ユーザーの満足につながる体験がきっかけになります。満足度を向上させるためには、ユーザー目線で体験価値を提供できるかがポイントです。
ユーザー目線の価値提供の事例として、あるJリーグのチームが開発したサービスをご紹介しましょう。チームはコロナ禍におけるリアル観戦の減少により、ファンのスタジアム離れに頭を悩ませていました。スタジアムは、選手の声やボールの音が身近に響き、芝生の青い香りをその場で感じられる点が魅力な一方で、テレビ・ネット観戦にあるような解説を聞くことはできません。そこで「スタジアムでも解説を聞きながら観戦ができたら?」と、ユーザー目線で考えたサービスが、リアルタイムでの音声解説サービスでした。顧客の満足を何よりも大切に考え、ファンが喜ぶ解説や、ファン同士の交流ができる新しい価値を提供したのです。
●顧客目線を活用したJリーグスタジアムでの体験価値開発について、詳しくはこちら
ファンの目線で課題を解決! Jリーグスタジアムでの新しい顧客体験開発
企業アンバサダーを発見・育成する
「アンバサダー」とは、企業やブランドの応援者となる顧客のことです。「長期継続(継続的な購入)」+「クロスセル(複数商品の購入)」の2つを満たすうえ、商品やブランドのことを深く理解し、口コミを通じてほかの顧客を購買へと動かしてくれるという、ロイヤル顧客以上の存在です。企業が成長を続けるためには、企業アンバサダーの発見・育成も重要な戦略といえるでしょう。なぜなら、これまで述べてきたように、顧客の口コミがほかの人の購買行動に影響を与えているからです。少子高齢化による市場の縮小、消費者の購買行動の変化などに対しても、企業アンバサダーの存在は突破口となる可能性があるでしょう。
(アンバサダーハリケーンモデル)
近年、顧客がアンバサダー化するプロセス(カスタマージャーニー)が研究されています。商品を好きになり、口コミを投稿してくれる「商品アンバサダー」を超え、企業に深い共感を持ち、応援者となってくれる「企業アンバサダー」を育てるには、企業側の情報発信力が必要です。
以下の記事を参考に、企業アンバサダーを発見・育成してみましょう。
●口コミを活用してLTVを向上させるマーケティング戦略について、詳しくはこちら
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第1回〉ロイヤル顧客から、「アンバサダー」へ
●企業アンバサダーはどのように生まれるかについて、詳しくはこちら
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第2回〉「商品アンバサダー」と「企業アンバサダー」
●最上位顧客との対話から生まれたコミュニケーション戦略について、詳しくはこちら
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第3回〉最上位の顧客「協創アンバサダー」
ファンコミュニティやUGCを活用する
顧客は何を考え、何を求めているのか、そのヒントはファンコミュニティサイトのなかにあります。事業課題を解決するポイントには、「顧客の声の収集」と「UGCの活用」の2つが挙げられるでしょう。企業は顧客からの声を商品やサービスの改善に積極的に反映させることで、顧客満足度を高められます。また、ファンが作成したUGCをリポスト・WEB掲載といった形で活用することで、信頼できる情報として、顧客の購買行動に影響を与えることも可能です。
(戦略的ファンコミュニティサイト運用)
ファンコミュニティサイトは、ファンと企業による価値共創プラットフォームであり、VOC(顧客の声)の宝庫です。企業情報の発信の場としても有効でしょう。情報がきちんと伝わり、好意的に受け止めてもらえやすいため、戦略的に活用して、事業課題の解決に役立てることが大切です。
●ファンコミュニティサイトを活用するときの重要ポイントについて、詳しくはこちら
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第5回〉LTV向上のカギはファンコミュニティサイト
まとめ
ファンマーケティングとは、商品やサービスに愛着を持つファンを増やし、売上を拡大するマーケティング戦略のことです。顧客のLTVが向上するほか、ファンの声が新規顧客の獲得・新商品や新サービスの開発につながるといったメリットがあります。ご紹介した戦略立案のポイントも参考にしながら、自社の課題解決に適した手法を検討してみましょう。