「アンバサダー」とは、企業やブランドの応援者となり、口コミを通じて他の顧客に推奨・紹介をしてくれる顧客のこと。企業にとっての強力な味方であり、事業の成長に欠かせない存在です。アンバサダーがどのようにして生まれ、どのようなコミュニケーションによって育っていくのか、前回に引き続き、「ハリケーンアンバサダーモデル」の開発者が、さらなる深層を解き明かします。
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ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第1回〉ロイヤル顧客から、「アンバサダー」へ
「応援マインド」の差は、情報の差?!
――前回は、ハリケーンの渦の中を探索したら、完璧な応援者に見えるアンバサダーの中にも完全な「企業アンバサダー」と、少々移り気で不完全な「商品アンバサダー」のふたつがあることがわかった、というところまでを解説いただきました。
アンバサダーハリケーンモデル プロジェクトチーム
中村友紀子・折橋雄一
折橋:そうですね。企業アンバサダーが、企業やブランドの応援者になって長く顧客でありつづけ、なおかつ複数の商品を購入し、LTVを高めていくのに対して、商品アンバサダーは商品にしか興味がないので、他社に良いいい商品があるとそちらに惹かれてしまうというお話をしました。企業アンバサダーの手前に、実は不完全な商品アンバサダーの存在があった、というのが新たな発見だったんです。
企業が成長するためには、自身のLTVが高く、さらに、良い口コミで他の顧客に商品や企業・ブランドを推奨してくれる企業アンバサダー=真のアンバサダーの存在が不可欠です。だから、どうすれば真のアンバサダーが育つのか、メカニズムを解明する必要があると考えました。
中村:そこで、アンバサダーの人たちがどのような情報に興味・関心を抱くのか、特に、SNSや口コミに対する意識を調査しました。すると、とても長期にわたって商品を購入しているのに企業の好意度が低い人がいる。なぜだろう、どういう人なんだろう…と深掘りしていった結果、アンバサダーになる人との違いが徐々に見えてきました。
折橋:つまり、企業やブランドを深く知ることが、企業アンバサダーとしての応援マインドを育てることにつながっている。言い換えれば、企業アンバサダーになるかどうかは、企業自身が、どれだけ自分たちのことを発信しているかにかかっている、ということになります。広告にせよ、口コミにせよ、圧倒的に商品情報が多い現状では、せっかく商品のことを好きになっても商品アンバサダー止まり、ということになりかねない。企業は意識して企業やブランドの情報を発信し続け、触れてもらう必要があるということです。
アンバサダーはふたつの顔を持っている!
――さらに、企業アンバサダーの応援マインドにも種類があるんですよね。
折橋:はい。前回も少しだけお話ししましたが、「理屈抜きにこの商品や企業を多くの人に知ってほしい、もっともっと広めたい、応援したい」という「共感系」と、「興味のある人と、この企業がすばらしい理由・秘密をじっくり語り合いたい、応援したい」という「探究系」です。
――具体的にはどのような特徴があるのでしょうか。
折橋:共感系は、自分の気持ちと近いSNSや口コミに触れて、共感が増幅することでその企業や商品にハマっていきます。「わかる!」「そうそう!」と思える情報に惹かれるんですね。探究系は、その商品についての「自分が知らない知識」に触れて、知識を持てば持つほど企業や商品にハマッていく傾向があります。深掘りして、「なるほど!」と納得する。
中村:共感系は感覚的なところもあって、「おいしそう」とか「パッケージがかわいい」とか、そういうことに強く反応する傾向があります。いわゆる「映え写真」が好き。そして、「その商品や企業のことを好きだからわかるコメント」や、「その商品を使う前の悩みに寄り添ったコメント」に反応します。一方で探究系は、客観的な数字とかファクトに惹かれる傾向があり、マニアックな情報を知りたいと考えます。商品のスペックや、使い方の裏技などにも強い興味を示します。たとえば化粧品なら、共感系は「こんなに肌がすべすべになった」というような情報に反応し、探究系は「こんなに効果的な新しい成分が入っている」ということに反応します。
「共感系」と「探究系」ふたつの情報発信で応援マインドを刺激する!
――企業アンバサダーの人たちは、そのどちらかに分かれるのでしょうか?
折橋:ひとりの人の中に両方の志向があって、どちらかがより強く現れる、と考えています。調査では、共感系が強く出るタイプには女性が多く、探究系が強く出るタイプには男性が多いこともわかってきました。とはいえ、企業アンバサダーになる人たちは、共感系・探究系、両方の情報をきちんと理解し、納得しています。だから、企業が情報を発信する時には、その両方を刺激できる内容や表現を意識する必要があるということです。
――具体的には、どのような方法があるのでしょうか。
折橋:SNSの企業アカウントやオウンドメディア、自社のHP、ファンサイトでの発信の強化は必須です。また、顧客との直接的なコミュニケーションにも取り組む必要があると思います。共感系には体感イベントなどが有効ですし、探究系には専門家による解説や勉強会なども響きます。私は、「ファンサイト」の活用が特に有効だと感じています。コアなファンに情報を出してもらったり投稿してもらったり、そこに社員が出てきて交流したり、オン・オフイベントや座談会、工場見学、商品モニターなどを募集したり、また実施後、その様子をレポートしたり等、どんどん広がっていきますから。
中村:工場見学は昔から多くの企業がやっていますが、コンテンツとしてはとても有効だと思います。共感系には、たとえば案内してくれる人の丁寧な応対が響くこともあるし、工場は情報の宝庫ですから、探究系も大いに刺激することができます。参加者は自ら多くの発見をしてくれる上に、そこで彼らが得た情報を、良好な口コミとして拡散してくれる。企業側は、「自分たちのファンになっていただくために情報を発信する」という目的を明確にした上で、応援マインドに「刺さる」情報を届けていくことが重要だと思います。
――情報発信に対する「意識」が重要なんですね。
折橋:とても重要だと思います。注意しなくてはいけないのは、「いかにもつくられた情報」ではだめだ、ということです。広告の場合は、時間や紙面のスペースなどの制約もあって、企業側でつくりこんだ表現になりがちです。しかし、今、アンバサダーを刺激するのは、もう少し企業の「素」が出るコミュニケーションです。
中村:受け取る顧客のリテラシーも上がっていますから、「こんなにいい企業です」と一方的なメッセージを出しても、なかなか信頼が得られません。そういう意味では、一所懸命な姿勢を見せることの大切さを、企業も気づき始めているのではないでしょうか。
折橋:誠実さが求められていますよね。企業は、自分たちが何者で、何を目指してどういう活動をしているのか、どういう想いで顧客に接しているのか、ということをしっかり発信していくことが大切だと思います。
もちろん、実際には商品情報も必要ですから、企業が発信する情報には共感系・探究系・商品系・企業系という4つの軸が出てくるわけです。アンバサダーを育てるためには、これらを有効に組み合わせて情報を出し続ける必要があります。そしてそれこそが、顧客育成になると考えています。
中村:そういう情報発信を、きちんと設計して、戦略的に行なっていくためのモデルが、このアンバサダーハリケーンモデルだと理解してもらえるといいですね。
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第1回〉ロイヤル顧客から、「アンバサダー」へ
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第2回〉「商品アンバサダー」と「企業アンバサダー」
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第3回〉最上位の顧客「協創アンバサダー」
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第4回〉ロイヤル顧客を生み続ける仕組み
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第5回〉LTV向上のカギはファンコミュニティサイト
顧客の声をしっかり聞けば、必ず有効なコミュニケーションの方法が見えてきます。
大広は、顧客を理解し、顧客価値を見極め、企業活動のあらゆる接点において、企業が進める顧客との共創をサポートします。
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[アンバサダーハリケーンモデル プロジェクトチーム]
中村 友紀子(なかむら ゆきこ)
大広 東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部
顧客価値開発局
顧客発掘チーム ディレクター
折橋 雄一(おりはし ゆういち)
大広 東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部
顧客価値開発局
顧客育成チーム チームリーダー
※所属等は2023年3月現在