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2023.06.14

ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第4回〉ロイヤル顧客を生み続ける仕組み

事業の成長が、ある時を境に伸び悩む、壁にあたる――その課題の背景には、顧客の実像とCRM(顧客関係管理)のミスマッチがあるかもしれません。アンバサダーハリケーンモデルは、顧客の口コミを最大限に活用して顧客の好意度を高めLTVを向上させるマーケティング戦略のベースとなる概念モデル。顧客の心理と行動に深く踏み込んだこのモデルを活用することで、切実な課題にも打開のポイントが見えてきます。

前回の記事はこちら
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第3回〉最上位の顧客「協創アンバサダー」

購買実績だけに頼ったCRMでは、顧客のココロはつかめない。

――前回はアンバサダーハリケーンモデルの新たな発見と、顧客とのコミュニケーションのポイントについてお聞きしました。

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折橋 雄一(おりはし ゆういち)
大広 顧客価値開発本部
顧客育成局
マネジメントリーダー

――今回はさらに進んで、これまでの知見に基づいたCRMについてうかがいます。CRMの基本は顧客の分析だと思いますが、一般的にはどのように行う場合が多いのでしょうか。

折橋:通販企業では、顧客を購買実績(最新購買時期、購買頻度、購買金額など)でセグメントして、DMやメールを送ったりします。購入を検討している段階の「見込み顧客」から、繰り返し複数の商品・サービスを購入してくれる「ロイヤル顧客」まで、いくつかの階層に分類し、それぞれに向けて適切な情報発信を行うことが理想です。
しかしながら、顧客へのアプローチは一斉配信で、内容も販促がメインになっていることも多いかと思います。顧客の側からすれば、売り込みばかりが来る状況では、企業へのロイヤルティはなかなか上がりませんよね。

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――この「従来のCRM」の図は、アンバサダー度(ロイヤルティ)が途中で頭打ちになっています。

折橋:はい。顧客のマインドが、「この商品がいい(から購入する)」という実感、商品の基本ベネフィットのところで止まっていて、「その企業が好き」とか、「応援したい」というほどには企業ロイヤルティが育っていないのです。アンバサダーハリケーンモデルでいえば「商品アンバサダー」止まり、ということです。

――商品アンバサダーは、その商品のファンで口コミ推奨もしてくれるけれど、その企業のファンではないので、他社によりよい商品があると思うとそちらに移ってしまう可能性のあるアンバサダー、ということでした。

折橋:そうです。商品をリピート購入してくれた顧客でも、他社商品に目移りして離れてしまう可能性があります。その上、より上位の階層である「企業アンバサダー」や「協創アンバサダー」に育っていく顧客が少なければ、企業やブランドを応援し、紹介してくれる「良質な口コミ」が増えません。
良質な口コミは、他の顧客に良い影響を与えて優良顧客になりやすい状況をつくってくれますが、その存在がないので、企業は大きなコストをかけてでも新規顧客獲得に注力せざるを得ない状況になるわけです。

――では、「本来のCRM」とはどのようなものなのでしょうか。

折橋:商品を買い続けるとともにアンバサダー度が上がっていく状況が、理想であり、本来あるべき姿です。商品やサービスを購入する量・頻度が高まると同時に、企業やブランドに対する応援マインドが右肩上がりに上がっていく、従来のロイヤル顧客に分類される人たちが、アンバサダー度でも最も高くなる、という状況を目指すべきだと思います。

「アンバサダー度」の軸をプラスすると、真の顧客像が見えてくる!

――そこで、新たな顧客分類を考案されたと。

折橋:はい。購買実績を横軸に、アンバサダー度を縦軸において、顧客を6つのセグメントに分類しました。購買実績をもとにした従来の顧客分類を、アンバサダーのレベルである①情報収集、②購入決定、③実感、④ハマる・好きになる、⑤紹介する・応援する の5段階とクロスさせることで、マインドロイヤルティの要素を加えた顧客像が見えてくると思います。
それぞれのセグメントのごとの特徴や課題がわかり、ポジションを上げていくためのCRM戦略が明確になりますので、効果のある施策に落とし込みやすくなります。

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――それぞれを簡単にご説明いただけますか。

折橋:はい。おおむね、以下のような特徴があります。

  • 「見込顧客」…まだ商品を購入していないが、情報は収集していて興味関心を持っている段階の人。
  • 「初回顧客」…1度購入してベネフィットを実感した段階の顧客。「お試し」感覚で購入している場合もあり、この段階では競合他社の顧客である場合も多い。
  • 「単品リピーター」…あるひとつの商品を買い続けていてハマった顧客。その商品のことは大好き。
  • 「併買リピーター」…他の商品も購入していてNPS(推奨度)スコアも高いけれど、ロイヤル顧客に比べると安定性に欠ける存在。
  • 「商品アンバサダー」…「単品リピーター」クラスから、その商品を応援したい、誰かに紹介したい、というマインドに至った顧客。でも企業には関心なし。
  • 「企業アンバサダー」…「併買リピーター」クラスから、商品だけでなく企業やブランドを応援したい、紹介したい、というマインドに至った顧客。
  • 「協創アンバサダー」…「企業アンバサダー」の上層部。企業と一体化して一緒に歩んでいきたいと考えている顧客。(「ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第3回〉最上位の顧客「協創アンバサダー」」参照)

――顧客の姿がリアルに見えてきますね。ここに、先ほどの「CRM」のモデルを当てはめると…

折橋:「従来のCRM」では、「単品リピーター」あたりで頭打ちになっていて、アンバサダーが育成されていませんでした。先ほどもお話ししたように、アンバサダーがいないと口コミの件数も増えず、良質な口コミに触れないので、優良顧客になりやすい見込顧客も増えない。また顧客のLTVも上がらない。マイナスの循環が起こりやすい状況だといえます。

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一方、「本来のCRM」では、購買実績とアンバサダー度の両軸が高まり、LTVの高い企業アンバサダーが増加します。企業アンバサダーや最上位の協創アンバサダーの良質な口コミによって優良顧客になりやすい見込み顧客が増えるという、プラスのスパイラルが起こると考えられます。

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アンバサダー発想の新たなコミュニケーションで、LTVの最大化を!

――この新たな顧客セグメントが実際の戦略に結びつくということですが…

折橋:はい。各セグメントの顧客がどのような情報に価値を見出すのか、アンバサダー研究を続ける中でかなり具体的に見えてきているので、それをCRM戦略に活かすということです。
過去3回でお話ししてきたアンバサダー度の違いによる「顧客価値」の違い、また、「共感系」「探究系」それぞれへのアプローチ方法の違いを意識した上で、「企業情報」と「商品情報」の両方をバランスよく発信していくことが必要になります。

――例を挙げていただけますか。

折橋:たとえば、どの企業にとっても課題である「見込顧客」へのアプローチでは、インフルエンサーや、その企業・ブランドに詳しいファンなど、第三者による商品紹介や商品評価が有効です。インフルエンサーが自分のSNSでシズル感いっぱいの写真とともに使用感や味の良さなどの実感を伝える、ブランドのヘビーユーザーが自分のブログやファンサイトでマニアックで深い商品評価をする、などです。
そこで発信された内容(商品情報や企業情報)は、企業のHPやオウンドメディアでも確認できるようにしておく必要があります。見込顧客がSNSで目にした情報を「自分でも取得できる」ことが、その商品や企業への信頼を生む第一歩になるからです。

――アンバサダー度が上がった場合はどうでしょうか。

折橋:企業アンバサダーや協創アンバサダーの段階にある顧客に対しては、特別待遇を実感してもらうことによって、ロイヤルティ(=アンバサダー度)の維持をはかります。社員との交流の場を設けて仕事への思いを共有するとか、特別な工場見学に招待するなど、企業や社員と直接的に関わる機会をつくることが有効です。そこでの体験はさらなる口コミを発生させ、他の顧客にも良い影響を与えます。

――各企業がこうした戦略を立てるにあたって、重要なことはなんでしょうか。

折橋:まずは自社の顧客の声をきちんと調査・分析することです。顧客を知ってこそ、適切なコミュニケーション戦略が立てられますから。その上で、セールスだけにとらわれず、自社の企業価値・ブランド価値を粘り強く発信していくことが必要ですね。
顧客調査は、私たちが開発した「3つの価値探索調査」(「ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第3回〉最上位の顧客「協創アンバサダー」」参照)で比較的簡単に行なうことができますし、これまでのアンバサダー研究の知見に基づいた戦略を立案できますので、ぜひご相談いただきたいですね。多くのアンバサダーが育ち、口コミによるプラスの循環が生まれれば、事業成長の大きな力になることは間違いありませんから。

――今後に向けて、具体的に考えておられることがありましたら…

折橋:よりよいCRMを行うにあたって、非常に有効に機能すると考えているのが「ファンコミュニティサイト」です。どのセグメントの顧客に対してもアプローチしやすく、また、顧客同士の交流がはかれることから、アンバサダーによる良質な口コミの量産・拡散にもつながります。
さらに、企業にとっては、「熱い」顧客の声を聞くことのできるまたとない場でもあります。ファンコミュニティサイトでは、自社のことが大好きな顧客が、その想いを熱く語ってくれますから、企業のご担当者にとってこれ以上のうれしいことはないと思います。

また、ファンにとっても、大好きな企業・ブランドについて、同じ価値観を持った仲間と思いっきり語ることができたり、企業の方と直接話ができたりするなんて、最高に楽しい体験です。 私は、まさにファンコミュニティサイトがあれば、そこに集う顧客も「幸せ」に、そんな顧客に直接触れることのできる企業の方も「幸せ」になると確信しています。

―企業の方にも良い影響があるとは素晴らしいですね!ファンコミュニティサイトは、たくさんの「幸せ」がつくられる場でもあるのですね。

折橋:はい!であるからこそ、我々は、これから企業様にアンバサダーハリケーンモデルを活用したファンコミュニティサイトのご提案を、どんどん行っていきたいと思っております。 次の機会には、さらに具体的な事例も交えてお話しできればと思っています。

――どんな展開が見られるのか、楽しみにしています。ありがとうございました。

ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第1回〉ロイヤル顧客から、「アンバサダー」へ
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第2回〉「商品アンバサダー」と「企業アンバサダー」
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第3回〉最上位の顧客「協創アンバサダー」

ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第4回〉ロイヤル顧客を生み続ける仕組み
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第5回〉LTV向上のカギはファンコミュニティサイト

まとめ

■ 良質な口コミは、他の顧客に良い影響を与えて優良顧客になりやすい状況をつくってくれる

■ 良質な口コミがければ、企業は大きなコストをかけてでも新規顧客獲得に注力せざるを得ない

■ 企業アンバサダーや最上位の協創アンバサダーの良質な口コミによって優良顧客になりやすい見込み顧客が増えるという、プラスのスパイラルが起こる

■ 商品やサービスを購入する量・頻度が高まると同時に、企業やブランドに対する応援マインドが右肩上がりに上がっていく状況を目指すべき

この記事の著者

COCAMPダイレクトマーケティング部

(株)大広が培ってきたダイレクト・マーケティングの知見やノウハウを発信するチーム。 通販の初期から今に至るまで、変化する時代と顧客を見続けてきた第一線のプロデューサーやスタッフをメンバーに、ダイレクトビジネスの問題や課題を、顧客価値の視点から解いていきます。