ファンマーケティングとは、熱烈なファンを作ってビジネスを成長させること。つまり、ビジネス拡大の“手法”と捉えられがちですが、本当にそうなのでしょうか。もっと思いもよらない効果があるのではないか。石川(このコラムの筆者)が一人の顧客として出会った住宅メーカー『D’S STYLE』の活動に、その答えを探ります。
[D’S STYLEについて]
「人生をタノシム家」をコンセプトとする住宅メーカー。家は価値観をお仕着せるものではなく、住む人の個性を引き出すための心地よい器であるという理念を持つ。間仕切りがなく、光と風がいきわたる空間は、家族の成長やライフスタイルの変化に合わせて自在に変化する。自然素材と無垢の木も、経年により美しく変化する。多くの人に美しい家に住んでもらいたいという願いから、工程をレシピ化。敷地の面積に応じた8つの基本プランがあり、この規格をつくることによって高機能でありながらローコストを実現。関西地区を中心に成長を続けている。
D’S STYLEさんとの衝撃的な出会い
さて、私、石川は先日、念願の家を建てました。数々の不動産業者や住宅メーカーと話をしましたが、どこに行っても予算の探り合い。限りある予算のなかで探すわけですから、環境や建物はある程度似てくるわけで、見ているほうも飽きてくる。見飽きたものに何千万も払う気になれず、無いものを探す旅に疲れていたときに出会った住宅メーカーが、『D’S STYLE』でした。
D’S STYLEさんには、時折目を輝かせながら家の良さを伝えるスタッフがいました。マニュアルに沿った話術ではなく、愛おしそうに柱を撫でながら話す姿は、これまで会ってきたどの業者やメーカーの方とも全く違う。広い土間、無垢の床、漆喰の壁。この家に一歩足を踏み入れた途端に、この土間に何を置こうか、この階段に何を吊るそうか、と、想像が膨らみはじめる。そして、目の前には予算のことより木や壁の素晴らしさを語るスタッフがいる。不思議な時間でした。そして、D’S STYLEさんで私は家を建てることになったわけです。
一生に一度の買い物にもかかわらず顧客と繋がり続ける謎
住宅は何度も購入することのない耐久消費財。気に入ったからといって2度3度購入することはまずありません。なのに、D’S STYLEさんは、オーナー向けのイベントをたびたび実施しています。家を建てて終わりではなく、顧客と繋がり続ける理由はなんなのか?
ファンマーケティングを研究する仲間、上垣内とともに大阪府岸和田市にあるD’S STYLE本社へ。出迎えてくれたのは、マネージャーの中島伸也氏、わが家担当営業の下村陽平氏、広報部の關陽南子氏。わが家に出迎えてくれたかのような温かな雰囲気でテーブルを囲みました。
――D’S STYLEさんのスタッフのみなさんは楽しそうですよね。
中島氏:他のハウスメーカーとは売っているものが違うのです。D’S STYLEというのは、モノを売っているのではなくコトを売っているのです。売るというより“広める”という発想が近い。弊社の下村は実際にD’S STYLEの家に住んでいます。自らが家の良さを実感して、好きになって魅力を伝える。これはいわゆる営業とはかなり違う部分だと思います。いい映画を見たら人に伝えたくなるじゃないですか。それと同じですね。好きだっていう気持ちはお客さまに伝わります。
――家を建てるときの間取り・設備・外構、すべての打ち合わせで参考にする画像が、リアルに住まわれている家の画像でしたね。
中島氏:そうです。これはD’S STYLEの立ち上がりからずっとですね。やっぱりリアルな暮らしが見えるとお客さまにも伝わるのだと思います。SNSでもリアルなお宅の画像を発信させてもらっています。家自体はシンプルな箱ですが、そこで暮らす人たちの感性を引き出していく。それがD’S STYLEの個性なのだと思います。最初はモデルハウスがなかったという理由もありますけど(笑)。1棟目のお客さまとは今もつながっています。
――1棟目の方となると10年以上のお付き合いということですか?
中島氏:そうです。オーナー感謝祭にも登壇してもらったりして。最初のお客さまもそうですが、D’S STYLEのアカウントでお客さまの家を紹介させていただくと、その暮らしに憧れてD’S STYLEの家を建てる人が出てくる。お客さま同士がSNSで繋がっていて、感謝祭で出会ったら「わー!あの大きな植栽の家に住んでいる〇〇さんですか!」と人だかりができたりします。みなさん社員ではありませんが、D’S STYLEの家が好きで魅力を伝えてくれるのです。
D’S STYLEの家の魅力を広める社員がいる。魅力を感じながら暮らすお客さまがいる。この連鎖によってD’S STYLEのブランディングが成立しているように思います。印象的だったのは、取材に応えてくれる中島氏の目が輝いていること。D’S STYLEという会社そのものがファンコミュニティという場のような存在かもしれないと感じた瞬間です。
目指しているブランドは、『ハーレーダビッドソン』
――オーナーと繋がり続けるのにどんな理由があるのですか?
中島氏:理由はあまり考えていませんね。ただ人と繋がりたい。人と繋がるとワクワクするじゃないですか。たくさんワクワクしたい。私たちが目指しているオーナー像は、『ハーレーダビッドソン』のオーナー。ハーレーダビッドソンが好きなファンがバイクを買って、自分好みにカスタマイズして、ファンコミュニティでそれを見せ合って共有する、あの感じです。
――オーナー向けのイベントがありますよね。どんなことをされているのですか?
中島氏:オーナーパーティをしています。最近はコロナでできていませんでしたが、都度スタイルは変えています。直近ではビルボードライブの会場を借りて集まっていただきましたよ。スタッフでバンドを組んで半年くらい毎日練習して披露したり(笑)。下村が司会で。ものすごく上手。スタッフみんなでいろいろ考えて手作りでやります。過去はこの本社に200人くらい集まったこともありました。あとは年に一度のUUUU(フォーユー)FES。オーナーさんに出店をしてもらって、オーナーさんに関係する方に来てもらう。昨年は2日で3000人お越しいただきました。いつか大阪城ホールみたいな大きな会場に集まってほしいと思っています。QUEENの映画『ボヘミアン・ラプソディー』のライブシーンがあるじゃないですか。あれをやりたい。オーナーの皆さんと熱く盛り上がりたい。販売戸数No.1は目指しません。お客さまのファン度世界一を目指したい。
――オーナー様によるイベントも開催されていますね。
中島氏:D’S STYLEの家を選ぶ方は、お店をされている人やクリエイティブ系の方が多いのです。だから、UUUU(フォーユー)FESではたくさんのオーナーさんが出店してくれます。カフェとか家具とか植物とか時計とか…URBAN RESEARCH DOORSさんともコラボしてハウススタイリングなんかもしていますが、発端はURBAN RESEARCH DOORSのスタッフさんがD’S STYLEの家のオーナーだったことなのです。他に、モデルハウスで実施するオーナーイベントもあります。陶芸でD’S STYLEの家を一緒につくるワークショップとか、D’S STYLEの窓にピッタリなカーテンを販売する小窓展をやってみたり。そのオーナーさんも、D’S STYLEの家に住み始めてからカーテンを作り始めたそうです。そういう個性を引き出すのがD’S STYLEなのです。
何度も買ってくれることのない家という商品なのに顧客と繋がり続けるのはなぜか?この問いに、まっすぐな目で理由なんてないと言う中島氏。D’S STYLEは、ファンマーケティングを仕掛けようなんて微塵も考えていない。ただ人と繋がることでワクワクしたいと思って活動しているだけ。それが究極のファンマーケティングとなっているのです。家を買ってくれたお客さまたちと楽しむことがファンミーティングであり、そこで聞いた声が家づくりに生かされる。そして、新たなファンが生まれるという好循環が生まれているのです。
顧客と長く付き合っていく活動。それがファンマーケティング
D’S STYLEさんの、お客さまと繋がって楽しみたいという思いの強さ。そこにファンマーケティングの神髄を見たように思います。
ファンマーケティングに似ているものにCRM (Customer Relationship Management)があります。どちらも顧客を重視し、長期的な関係を構築しようというものですが、アプローチが違います。CRMは、顧客の行動や購買履歴などのデータを収集し、顧客に合わせた個別のサービスを提供することで、顧客の満足度を高め、継続的な売上を生み出すことを目指します。一方、ファンマーケティングは、顧客の感情を大切にし、顧客と感情的なつながりを作り出すことで、顧客の心を掴み、忠誠心を高めるというものです。
D’S STYLEさんの活動からファンマーケティングの成功の秘訣を探るなら、「自らが熱量を持って商品やサービス、それを使う顧客の成功体験を楽しむこと」「ワクワクを顧客と共有すること」だと思います。そういう活動から感情的なつながりが生まれています。意図的に「推し活」を生み出すという感じでしょうか。上手くいくと、「家」という何度も買い替えない商品でも、顧客が新しい顧客を連れてくるということが起こります。10年後、顧客の家族構成が変わってリフォームを考えたときに浮気されなくなります。これから、日本の人口は減っていく。つまり顧客となる人が減っていくわけです。顧客と長く付き合えるファンマーケティング、本気で取り組んだ方が良さそうです。
繰り返しますが、石川(筆者)はD‘S STYLEさんで家を建てました。取材を終え、家に帰ると、昨日よりもさらに家への愛おしさが増していました。シンプルで美しいというだけでなく、窓枠、コンセント、扉、その一つ一つにこだわりのストーリーがあったことを思い出しました。これからもひとりの顧客として繋がり続け、D’S STYLEさんの活動にも深く触れていきたいと思います。中島さん、下村さん、關さん、素晴らしいお話をありがとうございました!
<取材・執筆>
石川 奈津(株式会社大広WEDO ブランデッドダイレクト力Division)
上垣内 淳(株式会社大広 D2Cビジネス局 ビジネスグロースチーム)