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2023.01.18

ファンの目線で課題を解決! コロナ禍で一変した、Jリーグスタジアムでの新しい顧客体験開発

これまで一回の試合につき数万人ものファンで賑わっていたガンバ大阪のホームスタジアム「パナソニックスタジアム吹田」は、コロナ禍で状況が一変。無観客試合、観客制限が強いられる中、ファンとスタジアムとの間に物理的かつ心理的な距離ができてしまいました。スタジアムのリピーターであったファンは、長引くコロナ禍でリアルの場から離れ、ネット中継でサッカーを楽しむようになっています。今まで経験したことがない事態の中で、どのようにしてスタジアムから離れてしまったファンに戻って来てもらえばいいのか。今回、私たちが取り組んだ方法を紹介したいと思います。

ファンが考える、ファンのための楽しみ方

gamba_phone 開発したアプリの画面

「やっぱりサッカーはスタジアムでリアル観戦するのがいいよね」という気持ちを改めて思い出してもらうため、今回、一緒に仕事をしたのはガンバが大好きな人たちで構成された「ガンバ大阪サッカービジネスアカデミー」の受講生であるメンバー。大広社員の私もメンバーの一員となり、スタジアムでの体験価値を上げるため、ファンの目線で課題解決に取り組みました。ファンとして、ファンの立場に立って話し合いをしていく中で、私たちはあることに気づきました。


ガンバ大阪のホームスタジアムは、客席と選手の距離が近く、芝生の匂いを嗅ぎ、ボールの音が良く聞こえるなど臨場感溢れる一方、テレビやネット中継では当たり前にある“試合中の解説”を聞くことはできません。「なぜ、いま選手交代が行われたのか」「なぜ、いま選手は予想外の動きをしたのか」これまで、リアルの場ではコアなファンでもゲームの詳細や審判の判断は分からなくても仕方ない、という思い込みがあったのでは?スタジアムでも解説を聞きながら観戦ができるとしたら? 

私たちチームメンバーは新しい顧客体験の可能性を探っていきました。

gamba_membersイベントの実施メンバー(筆者は左から2人目)

初の試み!イヤホンで解説を聞きながらサッカー観戦!?

gamba_sceneスタジアムでの運営の様子

ファンの目線×テクノロジーを活用すればスタジアムでの体験価値を上げられるのではないか。そこで、リアルタイムでの音声配信サービスCHEERPHONE(チアホン)を活用して、自分のスマートフォンを使って、イヤホンでライブ解説を聞きながらサッカー観戦を楽しんでもらう企画を考えました。

今回はファンにとっても新しい試みであったため、音声解説はアプリのダウンロードではなくQRコードから読み込めるようにして、使用してもらう際の負担を極力減らすことを意識しました。またチケットを販売する時には、ライブ音声解説付きチケットを一緒に販売し、当日は私たち自ら宣伝、販売も行ったのです。

企画を進めていく中で、ターゲットはガンバ大阪のコアなファンに決めました。
コアなファンを起点に新しい体験を提供できれば、新規顧客に楽しさが伝わり、新規ファンがライトなファン、そしてコアなファンへと成長していけると見立てたのです。また、コアなファンは新しい顧客になるかもしれない友人をスタジアムへ誘い、わざわざ自分のユニフォームを着せて観戦を楽しませる大の世話焼きである、ということもターゲットにしたもう一つの理由です。

他にはない、ホームスタジアムだけの体験

サービスの内容を決定していく中で一番意識したことは、ガンバ大阪のホームスタジアムだからこそ体験できること、顧客の満足を何より大切に考えることです。そこで、中継する内容はガンバサポーターに寄り添ったものを提供する、ということに決めました。例えば実際に音声解説を活用したガンバ大阪VSサガン鳥栖では、互いの戦略や戦術の違いなどを解説し、主にガンバ大阪の選手にフォーカスした「ガンバびいきの実況中継」を行いました。そうすることで、ガンバサポーターが一番喜んでくれると考えたからです。

解説者には、ガンバ大阪でも活躍した元プレイヤーの岩下敬輔さんをお呼びしました。時に激しすぎるプレーで知られ、選手らだけでなく、ガンバサポーターの間でもアニキと慕われている存在です。テレビやネット中継には解説としてあまり出演していないところにも注目。岩下アニキが解説することで、元プレイヤーだからこそできる裏話や選手たちの小話が楽しめるほか、彼の性格や過去のプレーを知るコアなファンだからこそ面白い、と思ってもらえる内容になると考えました。

試合当日のSNSでは「バイオレンスな臭いwww」「アニキの解説が程よく緩いのがいい」などコアなファンならではのコメントが印象的でした。ここでしか聞くことができない面白さが、観戦体験にプラスの価値を感じてもらえたのではないかと思います。
この実現に至るまでには、イヤホンを使った観戦方式が初めてだったこともあり、他の試合日に実験的に私が実況、他のメンバーが解説を担当して、自分たちで実際に実況中継を行ってみました。結果、担当者の方々から面白い、とGOサインをもらうことができ、有料販売へと繋がっていったのです。

実際の試合で「CHEERPHONE」を運用するにあたっては、商品の金額を試合ごとに変動させて適正価格を検討したり、何度も実証実験を行ったり、試合後は購入者らにアンケートを実施するなどして、顧客の反応を分析しながら一つ一つ課題を解決していきました。その中で生まれた新しい施策もあります。

アプリの中でメッセージをアップできるような仕組みを作ったことです。解説者と実況者にその場でメッセージを取り上げてもらうことができ、「2人の解説が面白すぎて、負けているのに気持ちが柔らいでいますw」
「もっとぶっちゃけ話して〜」などのやりとりを通じて、ファンと双方向のコミュニケーションが取れるようになりました。

ライブ音声解説の評価は、試合の結果に左右されるのではないか、という心配も杞憂に終わり、2022年のシーズンでは事業継続が決定しています。

「今」をとらえて、顧客価値をつくる

今回、ガンバ大阪ファンによる「コアファン向けのライブ音声解説」を実施し、ファンとの双方向性を生み出すことができたのは、時代の流れを早急に掴めたことも成功に繋がった要因だと考えています。実際にライブ音声解説のサービスをやり始めた頃は、スタジアムでは座席の間隔を1席空けた観戦が求められる時期で、声出しNG、一緒に観戦に来た友人や家族とも話がしにくい状況でした。このことから一人でも楽しめるのがいい、と好評だったのです。さらに、会社やプライベートでZoomやLINEなどを使ったビデオ会議や通話が当たり前になったこともあり、イヤホンを耳に入れる行為に抵抗が少なくなった人が増加したことも大きな後押しになったのだと思います。

コロナの状況や社会情勢は常に変わっていくものですが、顧客価値を第一に考えていくことになんら変わりはありません。今後もファンの目線に立って課題を解決し、スポーツ観戦の新しい体験を、顧客価値を軸にして作り出していくことを目指しています。

私自身、J リーグが設立されてから30年来のガンバサポーターですが、今回、スポーツビジネスを通じて少し恩返しができて嬉しく思っています。

今後、大広を通じて出会う様々な案件においても、変化していく「今」の「顧客価値」を意識して掴みつつ、取り組んでいければと思います。

CHEERPHONE (チアホン)
https://www.cheerphone.jp/

この記事の著者

上垣内 淳

株式会社大広
D2Cビジネス局 
ビジネスグロースチーム

2006年大広に入社。
入社から10年はプロモーションプランナー・コミュニケーションデザイナーとして、企業のイベント企画・実施や統合企画を担当。
その後5年間営業職にて、企業のブランディングや新規事業開発に従事し、昨年より新設のD2Cビジネス推進局にてプロジェクトマネジメントに取り組む。2022年よりWellbeingのプロジェクトを立ち上げる。
社外では、「GAMBA OSAKA新規事業開発」「NewsPicks NewSchool運営」等にも関わる。2児の父で、週末はサッカーチームコーチ。