この連載では、CRMサクセスマップを活用して、顧客育成を妨げる「3つの壁」を乗り越え、「落とし穴」を回避し、企業の応援者となるロイヤル顧客やアンバサダーを育成するためのポイントについて詳しく解説していきます。
CRMの全体像をつかみ、皆で共有できる戦略立案ツール「CRMサクセスマップ」。前回は、「見込み顧客」と「初回顧客」の特徴とインサイトについて解説しました。また、「F2(リピーター)の壁」とその攻略法についてもお話ししました。
3回目の今回は、「リピーター」の特徴とインサイトについて解説し、マップを確認していきます。
前回の記事はこちら
CRMの全体像と戦略が見える・伝わる「CRMサクセスマップ」 【第2回】 実感への期待の扉を開けて「F2の壁」を乗り越える
CRMサクセスマップの概要
CRMサクセスマップは、城下町をモチーフにしていますので、城下町をイメージしていただければ直観的に理解しやすくなっています。
まず、城下町の外にいるのが「見込み顧客」です。まだ商品を購入していない、検討中の段階です。
商品の購入に至ると、城下町に入り、「初回顧客」のゾーンに入ります。このゾーンでは「F2(リピーター)の壁」が立ちはだかっています。石垣のように表現したこの壁を突破するためには、「実感への期待の扉」を開けなければなりません。
リピーターになるのは全体の30%に留まっており、大きなハードルとなっています。この最初の壁を突破して、「リピーター」ゾーンに入ります。ここでは、「安売りの落とし穴」や「クロスセルの壁」が現れます。「クロスセルの壁」を突破するには、「企業への興味関心の扉」を開けることが必要です。「リピーター」から「クロスセル顧客」に進むと、顧客は様々な商品を買うようになります。ロイヤルティが高まっていくので、頭の上のハートマークが増えています。
「クロスセル顧客」には、「ファン化の壁」が立ちふさがり、その壁を越えることで「ロイヤル顧客」へと進んでいきます。
「ロイヤル顧客」は企業と一体化した存在となり、企業の中枢のようなお城の中に例えられるゾーンに入ります。ここにはホームページ、ファンコミュニティーサイトがあります。また、「顧客データの泉」があり、顧客データが集約されています。
価値を伝え、リピーターを「なんとなく」から「納得・実感」へ変える
リピーターの特徴
リピーターとは再購入をした人ということですが、特にリピーター前半の段階ではなんとなく継続している状態の顧客が多く、ロイヤルティが高いわけではありません。この段階でもリピート促進やクロスセルを図るため、多くの企業が割引オファーをしてしまいます。しかし、これは、ロイヤル顧客育成の目的からすると、逆効果となることが多いです。
リピーターはその商品を何回か購入しているほどですから、商品へのロイヤルティは高まりますが、一方で、企業やブランドへのロイヤルティが築かれるわけではありません。ここでは、単品リピーターで終わってしまうのか、それともロイヤル顧客に向かっていくのかの分岐点になる重要なセグメントでもあります。
リピーターの前半では、リピート促進を確実にすることが課題になります。リピーターの後半では、関連商品を紹介し、クロスセルで単価アップを図ることが課題となります。
ただし、リピーターゾーンの後半は、クロスセルといってもトライアル的なクロスセルになります。クロスセルで紹介された商品を試してみることを始める段階です。本格的なクロスセル、クロスセル商品のリピート購入は、次の「クロスセル顧客」ゾーンで始まることになります。
クロスセルでは、まずは初回購入商品と関連性の高い商品を紹介し、顧客に興味を持ってもらうことが重要です。最初に購入した商品とセットで使うとよりベネフィットが高まるという提案が最も有効です。
安売りの落とし穴
「リピーター」のゾーンで気をつけるべきは、「安売りの落とし穴」です。リピーターの継続率が安定するまでは、企業側は一生懸命、コンスタントな購入を促そうとします。
このため、安売りを行ってしまいがちです。安売りは一般的で簡単な手法ですが、やりすぎるとお客さんに安売りのイメージを植え付ける恐れがあります。その結果として、「すぐにセールがあるから、その時に買えばいい」という心理を生んでしまうのです。
このようになってしまうと、安売りなしでは購入してもらえなくなるという危険性があります。離脱されてしまったり、他社のセール時に類似商品を購入される可能性も生まれます。安売りの落とし穴に陥らないよう、特に気をつける必要があります。
基本的には、価格ではなく、商品の期待した価値を確認し、顧客に「納得感」と「実感」を持たせることが重要です。この商品だからこそ買う価値があると感じてもらうことが大切です。「リピーター」の初期段階では、「なんとなく」2回目、3回目と購入しているだけかもしれませんが、「納得感」や「実感」を高めることで、この商品は良い商品だから買う価値がある、買い続けたいと思ってもらえるように、安定的にリピートしていただくことが非常に重要です。
企業の魅力で心を惹きつけ、クロスセルの壁を突破する
クロスセルの壁
次に、クロスセルの壁についてお話しします。F2の壁を乗り越えた結果、30%の方が継続して商品を購入し、商品ロイヤルティが高まってきました。しかし、そこで止まってしまうケースもあります。このままではLTV(ライフタイムバリュー)が上がらず、ロイヤル顧客には至らないため、その先に進むための施策が必要です。
この段階では、商品のロイヤルティを高めるだけでなく、企業ロイヤルティを育むことが重要になります。初回購入商品が好きというだけではクロスセルは起きにくいことを理解しておく必要があります。
クロスセルを成功させるには、提案の順番が大切です。
まず初回購入商品と同じカテゴリーや関連性の高い商品を紹介することが効果的です。「セットで使うとさらに効果がありますよ」というような提案が良いです。次に関連性が低い商品、最後に全く異なるカテゴリーの商品を提案・紹介します。
クロスセル商品に満足してもらえると、お客様は「自分のことをよく理解してくれている」と感じ、これは成功体験となります。こうした良い顧客体験がロイヤリティを高め、企業とお客様の絆を強めます。
クロスセルの壁を越え、本格的なクロスセルが始まるには、ブランドや企業への信頼が必要です。これは、人と人とのつながりのような一対一の関係を築き、企業を好きになることが重要です。
リピーターへの施策とインサイト
CRMサクセスマップの「リピーター」ステージを見ていきます。 地面が緑色のゾーンです。
顧客の吹き出しの言葉は、定量・定性調査等で出現した顧客インサイトのコメントを使用しています。企業担当者の吹き出しの言葉は、メッセージ内容を指します。
つまり、企業担当者の言葉=CRM施策内容に対して、顧客が感じるインサイトを表しています。
リピーターの前半の多くはまだ商品に対する実感が得られておらず、期待している段階です。この段階では「まだ半信半疑」といったインサイトも多く見られます。
「安売りの落とし穴」に注意が必要です。
セールが多いと、「安くなった時に買おう」という認識を持たれ、城下町から離脱されてしまう危険性があります。
CRM施策・メッセージとして、リピーターに対し、他のユーザーの使用法などを紹介すると、悩みに共感する顧客にとって参考になり、リピートが促進されます。
商品特徴に秘められた背景や開発の苦労を伝えることも、他の商品との違いを理解してもらうために有効です。
このような情報提供を通じて、徐々に企業やブランドのロイヤルティを高めていくことで、次の「クロスセルの壁」を越え、「企業への興味関心の扉」を開けていただき、「クロスセル顧客」になっていただくが必要です。
「この企業やブランドはすごい」と感じてもらえるような体験をインサイトとして提供し、クロスセルゾーンに移行するきっかけになります。
また、基本線からは少々外れますが、2つのシーンがあります。
CRM施策として、「休眠施策」と言われるものです。商品を買うのを一時的にやめてしまった顧客に対して「また買ってください」といったアプローチを行う例です。
実際に商品を使わなくなると逆に良さを実感することがあり、このような方にはオファーを用意することで、再びリピートゾーンに戻っていただけます。このような施策も含めて、安定的なリピーターにすることが重要です。
もう一つは、商品のことに特化した「商品アンバサダー」についてです。
「商品についてとことん調べた」「商品の良さを他人に教えたい」と語るこのアンバサダーは、真のアンバサダーではなく、商品に特化した不完全なアンバサダーなのです。この点についてもお話ししたいと思います。
商品ロイヤルティから企業ロイヤルティへ: 真のアンバサダーへ導く
商品アンバサダーと企業アンバサダー
アンバサダーには不完全な「商品アンバサダー」と完全な「企業アンバサダー」が存在します。これはアンバサダー・ハリケーンモデルで我々が示したものです。商品アンバサダーは商品のみに興味を持ち、他に魅力的な商品を見つけるとそちらに関心が移りやすいという傾向があります。短期的な顧客になりやすく、別の商品に興味を持つ可能性があります。
一方、真のアンバサダーは「企業アンバサダー」であり、「企業を深く理解して初めて応援できる」という状態にあります。企業を深く理解し、応援する精神が育っているため、長期にわたりアンバサダーとしての役割を果たしてくれるので、非常に大きな違いがあります。
商品アンバサダー、つまり、商品に特化してロイヤルティが高まるタイプは、初回購入から短期間で商品ロイヤルティが形成されることが多いです。ダイレクトビジネスを行っている企業では、このタイプには短期的に良い顧客になりやすい反面、ブランドマネジメントを見誤ることもあるため、注意が必要です。
企業側からすると、ロイヤル顧客と比べて顧客期間が短いという特徴があります。商品に特化しているため、企業の他の商品についてはあまり知らないことが多く、こうした顧客に新たな商品を提案するとマインドが下がってしまうこともあります。
また、比較的、製品機能に注目しやすく、リテラシーの高い人々は競合商品に目移りしてしまう傾向も見られます。その企業への関心が低いという課題があるため、この点を改善することが重要です。
(商品アンバサダー、企業アンバサダーについては、こちらのコラムも参照ください:ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第1回〉ロイヤル顧客から、「アンバサダー」へ
ロイヤル顧客は、どのように育っていくのか〈第2回〉「商品アンバサダー」と「企業アンバサダー」)
こうして、「企業への興味関心の扉」を開け、「クロスセル顧客」ゾーンに入っていただきます。
次回は、いよいよ最終回。CRMサクセスマップのセグメント別の詳細「クロスセル顧客」「ロイヤル顧客」について解説します。
「CRMサクセスマップ」の資料ダウンロードはこちら
まとめ
・「リピーター」には安売りよりも商品価値や実感を伝え、納得して継続購入してもらうことが重要。
・「リピーター」がクロスセル顧客になるには「クロスセルの壁」を突破する必要がある。企業の魅力や価値を伝え、企業に対するロイヤルティを育てることでクロスセルの壁を突破する。
・アンバサダーには2種類あり、商品アンバサダーは移り気で短期的、企業アンバサダーは企業を深く理解し、長期的応援者となる。ゆえに真のアンバサダーは企業アンバサダーである。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからも顧客価値・顧客体験開発に関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。
またCOCAMP編集室では、みなさんからの「このコラムのここが良かった」というご感想や「こんなコンテンツがあれば役立つ」などのご意見をお待ちしています。こちら相談フォームから、ぜひご連絡ください。