SDGsが注目され、世代をこえて意識が浸透していくなか、あらゆる業界の市場で、顧客価値にも少しずつ変化が訪れています。皆さまの業界や事業ではいかがでしょうか。美容において顧客が求める価値、感じる価値のこれからを、今回も美容ジャーナリストの奈部川先生とともに解いていきます。
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SDGs時代の美容事業〈第3回〉ダイバーシティが、化粧品の世界にもやってきた!
ラグジュアリーの概念が大きく変わる。キーワードは「ジョイオロジー」
「ジョイオロジー」は、ニューラグジュアリー(本質的な豊かさ)の概念。2025年に向けて、ラグジュアリーの概念が大きく変わると、多くのシンクタンクなどが予測、分析しています。
モノを持つ、買う、という概念から、「喜びや幸せを感じる瞬間へ」「体験的な価値や経験的な価値へ」という変化です。モノからコトへ、という流れは以前からありましたが、それがさらに進化を遂げる、と言われています。
また、コロナ期には、ウェルビーイングという言葉が、ヘルスケア的な意味や新たな価値観として、よく使われるようになりました。ジョイオロジーは、ウェルビーイングのネクストキーワード的な概念、言葉、とも言われています。
ウェルビーイングから、ジョイオロジーへ
ウェルビーイングという言葉は、コロナ期のヘルスケアの真ん中にある言葉でした。色々な我慢や社会的な不安がある中で、「おうち時間の大切さ」や、「1人1人がありのままの自分を大切にしながら、健康で幸せでいる瞬間が一番大事だよね」という価値観が生まれました。
それが、ウェルビーイングという言葉がたくさん使われ、広がっていった背景だと思います。
でも3年経って、世界的にも色々な緩和が進んできて、さらに新たな考え方、価値観が生まれました。コロナで色々打撃は受けたけれど、ストレスや社会的な不安から解放されて、物質的なものでなく、「人生において幸せを感じる瞬間」が大きな価値を持つ、そういうことをさらに大事にする世の中になる……、と。
それがジョイオロジーの考え方です。
たとえば、以前の“ラグジュアリー”は、高価な時計やアクセサリー、車や家を買うなど、ものを所有したり、消費したりすることが1つの象徴でした。けれど、ジョイオロジーを軸とした“ニューラグジュアリー”は、何かを購入して物欲を満たすということでなく、また、ステイタス、たとえば、地位や名誉、〇〇賞を取る、などということでもない。
家族でおいしいごはんを食べたり、素敵な景色の中で美しい夕日を眺めたり、そういう幸せな瞬間こそがラグジュアリー。ストレスから解き放たれ、心が平和で、喜びや幸せを感じられる瞬間、それこそが、ラグジュアリーだと……。
シンクタンクだけでなく、関連するライフスタイル研究機関や、識者なども、そこに注目しています。
美容でも、体験的な価値、経験的な価値に、注目が高まる時代に!
美容の分野でも、ジョイオロジーをふまえた、サービスや商品が展開される可能性があります。たとえば2、3日ホテルステイし、ファスティングや体をシェイプするだけでなく、胃も頭も心も空っぽにして、自分を見つめ直す……、そんな体験的価値が貴重になったり。
また、そこに、ジョイオロジーの要素の1つとして、人とのつながりが含まれることも多いでしょう。たとえばウェルネスツアーや、あるいは、薬膳ツアーやハーブと触れ合う旅、睡眠にこだわるツアーなど、いくつかのツアーを例にしてみましょう。
薬膳やハーブ、あるいは枕など睡眠に対するソリューションをハードとするなら、ソフトの部分、サービスをする側と受ける側の人間同士の間に起きるよい化学反応も、価値になる。このセラピストやインストラクターに会えてよかった、この参加メンバーに会えて楽しかった、など、そういう1つ1つも、喜びにつながると思います。
つながり、結びつきが、美容の世界でも注目に
実は今、美容の世界でも、つながり、結びつきが、大きなキーワードの1つになっています。それは、オンラインカウンセリングや、実際の店舗でのサロン的なイベント、ネットワーク化粧品の流行など、さまざまな形で現れています。
コロナ期を経て、オンラインがメジャーで手軽になりました。化粧品メーカーなどが行う、オンラインカウンセリングやレッスンも人気です。
オンラインで気軽に、美容部員さんなどと1対1で、スキンケアやメイクのカウンセリング、アドバイス、レッスンも受けられる……。店舗に行かずとも、という手軽さもありますが、美容部員さんなどとのパーソナルなつながり感、会話、コミュニケーションの楽しさも受けていると思います。
1対1でなくても、オンラインイベントは人気。手軽に参加できる、気軽につながれる、という面は魅力です。
もちろん、コロナ後はリアルなつながり、触れ合いも求められています。実際の店舗での、コミュニケーション型サービスも人気があります。たとえば、フェイシャルなどちょっとしたエステ体験や、おいしいお茶、他の参加者とのおしゃべりを楽しみながら、商品の説明を聞く、というような。
また、アロマのエッセンシャル系やサスティナブル系の商品も含めて、友人や知人に魅力を伝えて売る、ネットワーク系の化粧品もバリエーションが増加しました。皆で集まって、わいわいおしゃべりを楽しみながら、商品を売ったり、買ったり、情報交換を楽しむ感覚があるんですよね。特に世代が上がると、孤独さが増す場合も多いので、仲間作りの場にもなっていると思います。
コスメ以上の何かを探す大人世代。1人1人の幸せ、もキーワードに
美容の世界も、モノからコトへ、モノから体験へ、と以前からよく言われています。商品だけを語るのでなく、提供する価値には、次のステップがあるのではないかと。
また、今までの美容は、美のミューズのような人がいて、みんながそれに向かってがんばって、体重を落としたり、容姿を磨いたりしていたと思います。でも、ジョイオロジーの概念には、憧れの姿や、今の美しさはこう、こうでなくてはだめ、のようなものはないんです。
1人1人がどう幸せか、それが人生100年時代’の、美の定義の1つです。
人生100年時代とジョイオロジー
豊かな人間関係を感じる、自然との対話を楽しむ、そんな人生の喜びや幸せの瞬間の大切さ。
もちろんジョイオロジーに関しては、1人でも、贅沢じゃなくてもいいんです。おいしいランチを食べたり、心地よい風を感じたり、そんなちょっとした瞬間でもよいと思います。
ストレスは、顔も体もこわばるし、臓器にも影響を与えかねません。なるべくストレスが少なく、おいしい、楽しい、気持ちいい、をたくさん感じることは、健康寿命にもつながるかもしれません。
そして何より、ストレスから解き放たれ、内面を平和に保ち、喜びや幸せをたくさん感じるということは、年齢に関係なく、内側からの、光輝く美しさにつながるでしょう。
化粧品がなくなることはないと思いますが、そういったある種の価値観、ジョイオロジーという概念が、今後美容の世界にも、大きく関わってくるのではないかと思います。
奈部川貴子
美容アナリスト・鍼灸師
女性誌にて美容ジャーナリストとして執筆を重ねながら、化粧品のプランニング、商品開発、コンセプト策定などをサポート。特に異業種からの化粧品事業参入時のコンサルティング実績多数。また、独自の整顔メソッドfacemappingに基づくサロンワークとセルフケア啓蒙、化粧品のマッサージ法監修、化粧品会社の施術開発なども行う。
(協力)ライター/遠藤理香
COCAMP大人美容部では、研究の一環として、企業ご担当者様との対話会(無料)なども行っております。ご相談窓口(ページ下部「相談する」)よりお気軽にお問い合わせください。
SDGs時代の美容事業〈第1回〉クリーンビューティ、ラティーナに大手が注目!
SDGs時代の美容事業〈第2回〉 クリーンビューティの哲学をビジネスに活かす
SDGs時代の美容事業〈第3回〉ダイバーシティが、化粧品の世界にもやってきた!
SDGs時代の美容事業〈第4回〉顧客インサイトを掴むキーワードは、ジョイオロジー。
まとめ
SDGs、人生100年と、社会や時代が移り変わり、顧客が感じる価値も変化しています。ジョイオロジーという概念も注目され、喜びや幸せを感じる瞬間を何より大切にする傾向が色濃くなりました。
美容の世界でも、化粧品の効果だけでなく、体験価値や経験価値への注目がさらに高まるはずです。つながりや結びつきも、大きなキーワード。自身の心と向き合い、そして周囲との関係の中で、平和や幸せを感じることが、美しさを増していく要素のひとつになっていくだろうと予測しています。
この記事の著者
COCAMP大人美容部
<写真左から>
柳 恵理 (株)大広 第3ビジネスデザイン局 部長
原田 裕美 (株)大広 ソリューションデザイン統括局 COCAMP編集長
堀米 華子 (株)大広 ブランデッドダイレクト局 クリエイティブディレクター/アートディレクター ※所属は2024年6月現在