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2023.10.13

SDGs時代の美容事業〈第3回〉ダイバーシティが、化粧品の世界にもやってきた!

SDGsが日常化していく時代を迎え、これからの美容事業を探っていくシリーズ第3弾。今回は、ますます重要性を増す多様性の課題を含んだ「インクルーシブビューティ」について、美容アナリストの奈部川先生からお話を伺いました。

前回の記事はこちら
SDGs時代の美容事業〈第2回〉 クリーンビューティの哲学をビジネスに活かす

インクルーシブビューティの発祥

「インクルーシブビューティ」という概念が生まれてきたのは2015、6年くらいからだと思います。

「インクルーシブ」には、「包括的な」「すべてを包み込む」というような意味があります。そして、「インクルーシブビューティ」は、アメリカなど、さまざまな人種がいて、スキンカラーが豊富な国で出てきた言葉、考え方でもあります。

なぜファンデーションのカラーが限られているのか。もっと様々なスキンカラーがあってもいいのに…。そういった、スキンカラーの問題が根強くあったと思います。 

また、アメリカがオバマ政権になったあたりから、ダイバーシティ(多様性)もより叫ばれるようになり、さらにインクルーシブビューティの概念も広まっていきました。

特に盛り上がりの大きなきっかけになったのが、2017年、アーティストのリアーナが立ち上げたコスメブランドです。ファンデーションのブラック系スキンカラーのバリエーションが豊富で、インクルーシブビューティのさまざまな特徴がありました。

その頃から、人種や性別など「差別」の問題も、ビューティの世界に大きな影響を及ぼすようになっていきます。 スキンカラーだけなく、インクルーシブビューティにもともとあった、人種や性別、年齢などの要素にも、よりスポットが当たっていきました。

日本では、ジェンダーレスが
インクルーシブビューティのメイン課題に

日本はアメリカなどに比べ、スキンカラーの幅がさほど広くないこともあり、インクルーシブビューティの流れの中でまず注目されたのは、ジェンダーレスの問題でした。

たとえば、性的マイノリティーへの差別や、女性は女性らしく、といった押し付けへの批判や疑問です。

また、なぜ女性だけがメイクをしないといけないのか。、逆に、男は男らしく、も押し付けだ、などの声も上がってきました。こうした声を背景に、メンズ化粧品のコンセプトも変わりはじめています。

美容の世界は、男性用、女性用と分かれているのが当たり前だと思っていたけれど、実はそうではなかった。ジェンダーレス問題は、日本のインクルーシブビューティで、最もスポットがあたる問題となりました。

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シンプルなパッケージの化粧品は、男性も購入!
「カップルシェア」や「シェアコスメ」も人気

ちなみに今、ニューヨークの化粧品の棚は、30%くらいがジェンダーレスの商品と言われています。日本でも、シンプルなパッケージが特徴のある著名ブランドは、購入者の約40%が男性という話も。ドクターズコスメも、男性購入者がけっこう多いらしいと聞いています。

つまり、あえて男性用と打ち出していなくても、男性が使っているケースが多いということ。世代は40代以下くらいが多いようです。

また、女性用の化粧品を出している会社が、あえてパッケージをシンプルにして、男性にも支持されるようにしている、という動きもあります。実は最近、夫婦やカップルで同じ化粧品を使うという「カップルシェア」や「シェアコスメ」もメジャーになってきています。メーカー側も消費が進みますから、その動きを推しているようです。

これから10年ほどで、Z世代の年齢も上がってきますから、メンズの市場がさらに大きくなる可能性もありますね。さらにいえば、化粧品自体に、男性用、女性用という概念がなくなっていくかもしれません。

容姿や年齢にまつわる表現にも、変化の波

差別への批判という意味では、性別だけでなく、容姿や年齢での差別にも影響が及んでいます。

ルッキズム(外見至上主義などと訳され、外見や容姿などで人を判断、差別すること)への批判、反発はより高まるでしょうし、年齢での差別は減って、エイジフリーの概念が台頭してくるでしょう。

そういった「すべての人に優しい社会」になる流れを感じます。ブランドのオフィシャルサイトなとも、ルッキズムやエイジフリーの影響で、「〇〇美人に」や「10年前の顔に」といったスローガンが打ち出しづらくなるかもしれません。

また、ルッキズム以外に、スキンカラーの問題とも関連しますが、「美白」や「ホワイトニング」という言葉も、インクルーシブビューティの流れで、「ブライトニング」や「〇〇クリア」などの言葉に変わっています。(シミを取る、のような言い方はよいのですが。)

某IT企業が、2022年、広告ポリシーの変更において、「肌の色に優劣をつける美白製品の宣伝を禁止する」と、打ち出したことも、多くの化粧品会社にインパクトを与えました。

グレイヘアの推奨も、インクルーシブビューティの1つと言えるかもしれません。なぜ白髪を染めなくてはいけないの? もっと自由でいいのでは、という考え方です。

もちろん、まだグレイヘアには抵抗がある、美白と書いてあるものを使いたい、〇〇美人になりたい、きれいになりたい、という本音や要望を持つ方もたくさんいます。ただ企業としては、それをあからさまに打ち出すのは、時代のマインドではない、という判断もあり、企業側の表現も、変化、過渡期を迎えているのが現状です。

時代が変われば表現も変わる、
顧客とのコミュニケーションが変化する

たとえば、何となくターゲットの年齢層は意識していても、00歳向け、00代向け、などを打ち出した、年齢決めつけ型の化粧品も減っています。買う方も、自分より若い世代向けのものに惹かれるといった傾向もあります。

もちろん企業側では、年齢を絞らないことで、逆にたくさんの方に使っていただける、よい1面もあります。

つまり、性別、外見に関わる言葉、年齢……、さまざまな点で、企業側の表現の仕方や、企業と顧客のコミュニケーションの仕方が変わってきているのが現代の波。逆に言えばそこにまた、新たな可能性や広がりがある気がします。

発祥も多様化?! 中国やタイのコスメも今人気に

インクルーシブビューティの流れとは少し違いますが、ある種の多様性という意味では、最近日本に、中国やタイなど東南アジアのブランドがどんどん入ってきていて、特にZ世代やα世代に人気です。

おしゃれで低価格な韓国コスメは、日本でもすでに、若者だけでなく、大人も使うことに抵抗がなくなっていますよね。そしてこれからは、特に、中国のスキンケアが大きな勢力を持ってくると思われます。

資本が大きい。そして、開発力がある。この3、4年、中国のスキンケアは世界でもすごく注目されていて、上海をはじめ、アジアで中国のスキンケア系の展示会があると、ヨーロッパの企業が視察に来ています。ヨーロッパの化粧品のシンクタンク機関は、中国の皮膚科やスキンケア系の原料の展示会に着眼し、レポートもあげています。 

漢方や東洋医学という、大きなバックボーンがあるのも魅力なのだと思います。ストレスを和らげるようなハーブを、最近、アダプトゲンハーブと言って、アメリカなどで流行っているのですが、高麗人参やマカ、霊芝など、生薬系やアーユルヴェーダ系が多い。つまり、中国に材料が多いのです。

今はまだ日本で中国のスキンケアを使っている人は少ないですが、もし、高麗人参がとても濃いです、という美容液が出てきたら、どうなるか。 

また、中国では、Z世代やα世代に愛国心が強い人も多くて、グオチャオという、中国伝統文化の要素と現代のトレンドを融合した、アパレルやコスメ、エンタメなどがブームになっています。

中国の大人世代には、まだ日本のスキンケアブランドが好き、という方も多いのですが、若者の消費マインドの変化が、今後の市場を後押ししそうです。国の人口が多いこともあり、グローバルでも大きな力や発信力になるでしょう。

さまざまな点から、前回クリーンビューティの記事でも紹介したように、ラテンやアフリカのブランドも注目ですが、今後は、中国スキンケアからも目が離せないと言えそうです。

 

奈部川さんプロフィール写真奈部川貴子 
美容アナリスト・鍼灸師
女性誌にて美容ジャーナリストとして執筆を重ねながら、化粧品のプランニング、商品開発、コンセプト策定などをサポート。特に異業種からの化粧品事業参入時のコンサルティング実績多数。また、独自の整顔メソッドfacemappingに基づくサロンワークとセルフケア啓蒙、化粧品のマッサージ法監修、化粧品会社の施術開発なども行う。


(協力)ライター/遠藤理香

 

COCAMP大人美容部では、研究の一環として、企業ご担当者様との対話会(無料)なども行っております。ご相談窓口(ページ下部「相談する」)よりお気軽にお問い合わせください。


SDGs時代の美容事業〈第1回〉クリーンビューティ、ラティーナに大手が注目!
SDGs時代の美容事業〈第2回〉 クリーンビューティの哲学をビジネスに活かす

SDGs時代の美容事業〈第3回〉ダイバーシティが、化粧品の世界にもやってきた!
SDGs時代の美容事業〈第4回〉顧客インサイトを掴むキーワードは、ジョイオロジー。

まとめ

 多様性を受け止め、取り入れているかどうか。顧客のブランドへの評価や愛着は、そういった視点にも左右される時代になりました。ソーシャルグッドなブランドづくりに、欠かせないキーワードのひとつ「インクルーシブ」。美容事業にとっても、今までにない顧客層の広がりが期待できる動きでもあります。自社のブランドやコミュニケーション活動を、多様性の観点から見直してみるのも良いかもしれません。

この記事の著者

COCAMP大人美容部

COCAMP大人美容部は、美容ブランドのマーケティング戦略やコミュニケーションデザインの豊富な経験とネットワークをもつ研究チーム。人生100年時代における美容顧客を研究し、社会に貢献するブランドの活動と体験価値について情報発信を行っています。
<写真左から>
柳 恵理 (株)大広 第3ビジネスデザイン局 部長
原田 裕美 (株)大広 ソリューションデザイン統括局 COCAMP編集長
堀米 華子 (株)大広 ブランデッドダイレクト局 クリエイティブディレクター/アートディレクター ※所属は2024年6月現在