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2025.12.16

顧客起点で商品の価値をクリエイティブした衣料品メーカーの事例~ファンダイアログでファンを巻き込む広告コミュニケーション~

衣料品・日用品メーカーの広告・マーケティング担当者にとって、「自社の製品やサービスが顧客にとってどんな価値を持つのか」を見極めることは、売上を伸ばすための強力なヒントになります。とはいえ、アンケートだけではなかなか本音が引き出せない、顧客の声を聴いたもののどうやって活かせばいいのかわからない、という悩みを抱えている方は少なくないのでは。
そんな悩みを解決する手法の一つが、愛用者(ファン)を巻き込んだ「ファンダイアログ」です。愛用者(ファン)は自分が良いと思ったものをみんなにも共有したいという動機をもっています。また、好きな製品やサービスがもっと良くなってほしいという思いから、メーカーに声を寄せたり、時にはメーカーが思いもしなかった良いところを見つけてくれたりもします。そんな愛用者(ファン)との深い対話から顧客にとっての価値を見極め、コミュニケーション設計や共創につなげるのが「ファンダイアログ」。このコラムでは、顧客起点で自社製品の価値を再定義しコミュニケーション施策につなげた、アシックス商事株式会社の紳士靴ブランド「テクシーリュクス」の事例をご紹介します。

[インタビュイー]
Hitomi Okajima
岡嶋 瞳
(株)大広 第1マーケティングデザイン局 第2ダイレクトビジネスグループ

営業・マーケティング・プロモーション職にて、各種カテゴリーの店販および通販事業のマーケティングサポートを経験。2016年より、顧客育成領域に特化したコミュニケーションプランナーとして、顧客と直接つながる仕組みや絆を作るコミュニケーションの構築に従事。「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ。」がモットー。大広初代SNS中の人・さとなおオープンラボ関西3期卒業。

プロフィール写真_kuroda黒田 歩未
(株)大広 第1マーケティングデザイン局 第2ダイレクトビジネスグループ

2023年株式会社大広入社後、ブランドのファンとの対話を通した顧客理解に基づく、顧客価値発想での事業支援に従事。また、新規事業や通販事業などの顧客育成(CRM)やSNSの運用支援にも取り組んでいる。

 テクシーリュクスが顧客(愛用者)の声から始める理由 

  テクシーリュクスは2009年スタートの紳士用ビジネスシューズ。本革でありながらスニーカーのような快適さ、しかもお手頃価格という「機能価値」で選ばれてきました。2024年の15周年を機に、「ブランド価値をさらに掘り下げ、新規顧客獲得や新製品開発にもつなげたい」というご相談がありました。

  私たちの提案の骨子は、「ファンダイアログ」の実施です。機能価値に寄りかかるだけでは、より優れた機能に出会えば乗り換えが起きる。しかし、情緒価値や未来価値まで共感してもらえれば 、テクシーリュクスに強い愛情を持って、未来を一緒に創りたい!というブランドへの思いが育つ、という考え方です。——そのために、まずは熱量の高いファンの声を深く聞く「ファンダイアログ」の開催を提案したのです。愛用者(ファン)の「生の声」から情緒価値や未来価値を見出し、その共感を核にコミュニケーションを再設計していきます。

 どういう顧客を起点にするか——ロイヤル度で絞り込み、年齢偏在を“構造”として受け止める 

  量販店に加えECでも売上が多い同ブランドでは、EC会員にデジタルアンケートを実施し、回答からロイヤル度(思いの熱さ)を指標化。高ロイヤル顧客に個別に声がけして参加者を集めました。当初は「若年層の声も幅広く聞きたい」との希望がありましたが、結果として参加者は50代・60代に偏りました。ブランドが長く続いているからこそ、「最初に3040代で履き始めた方がいまは50代に、4050代だった方が60代に——だから相棒と呼べるほどの愛用者になっている」というアシックス商事さま社内の気づきがあり、「年齢に関係なく、商品の良さを知る真のファンの声を聞くべきだ」と方針が定まりました。ロイヤル顧客の構造をそのまま受け止めることで、価値の核に迫る準備が整いました。 

 対話会の設計——“語りたくなる場”をつくりコンテンツにも活用 

  当日はファンダイアログに先立ってパネルディスカッションを実施。ブランドの歩みを振り返り、開発秘話を知ることで参加者のブランドへのさらなる愛着を高めました。ファンダイアログでは、愛用の一足を持参いただき、好きな点や履きこなしを自由に語ってもらう「傾聴の時間」に徹底。会場近くに撮影スタジオも用意し、ミーティング内容やビジュアルがWebなどで活用できるよう、コンテンツとして映える写真も撮影しました。

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一般的に初対面の男性同士は会話が弾みにくいイメージがありますが、当日は驚くほど熱い語りが続き、休憩案内を出しても会話が止まらないほど。対話を心から楽しむ様子が印象的でした。

 インサイトを3軸で言語化——機能価値・情緒価値・未来価値の連鎖

  強く印象に残った発言があります。役員付き運転手の参加者が、「アクセルを踏み込むとき、テクシーリュクスの柔軟性に支えられていることを実感します。この一足があるから、仕事でいいパフォーマンスが出せるんです」と。誘導や深掘りなしに自然と出てきたこの発言は、機能価値が情緒価値へと昇華している証でした。

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  対話会では、アシックスグループの靴ブランドであることへの信頼、常識を打破する挑戦に共鳴 する声といった未来価値につながる声も複数上がり、機能情緒未来の価値連鎖が可視化されました。対話内容は事実ベースでレポート化し、発言を「機能価値」「情緒価値」「未来価値」の3軸で分析。たとえば「長時間履いても痛くない・動きやすい」は機能価値、先の運転手の発言は「パフォーマンスを落とさず仕事ができる」という情緒価値、「この靴がないと生活できない」という声は「今後のライフスタイルを支えてくれる」未来価値に分類されます。
  これらを総合して、このブランドの顧客価値を「常識を超えるハイスペックでビジネスマンの人生を支える靴」と定義しました。さらに顧客ペルソナを3タイプに分けて設定。アシックス商事さまからも「より具体的にイメージできるようになった」と評価を得ています。曖昧だった顧客がマーケティングデータとして言語化され、社内共有が可能になったことがポイントです。 

 Web施策への展開——顧客(ファン・愛用者)の声を起点に共創を継続 

  ファンダイアログは「まとめて終わり」ではなく、定義した顧客価値をベースに施策へ落とし込むことが重要。対話会の内容を反映したブランドサイトはすでにローンチ済みで、アンバサダー制度など複数のプロモーション施策も提案しています。ユーザーの生の声こそ、コミュニケーションの強い武器である——「ファンの声をそのまま出す」「ファンの声をプロモーションの起点にする」——というスタンスが、今の時代に合っていることを再確認しました。

  大広では、マーケティング&顧客体験の設計思想を「Deep Dialogue デザイン」と総称しています。その中でも、ファンダイアログは先行して形になったソリューション。今後も知見を蓄積し、さまざまな企業の力になっていきたいと考えています。


まとめ

ファンダイアログとは、顧客(ファン)との対話をマーケティングに活用する取り組みです。顧客の思いを深掘りすることで、商品やサービスの本当の価値が見えてきます。顧客価値を起点に、コミュニケーションの施策まで設計するときのポイントをまとめました。

  • アンケートだけに頼らず、熱量の高い既存ファンの「生の声」を起点にする
  • 機能価値に加え、情緒価値・未来価値まで言語化し、広告コミュニケーションの芯に据える
  • EC会員等の顧客データからロイヤル度で母集団を設計し、年齢偏在も構造として受け止める
  • 対話の場を「語りたくなる」よう設計し、コンテンツ活用を前提に撮影などを行う
  • 発言の記録を3価値軸で整理し、顧客価値とペルソナ設計に活かす
  • 顧客価値をWeb施策(ブランドサイト、アンバサダー制度等)へ展開し、ファンとの共創を継続

    ◆ファンダイアログの取り組みについて気になる方は、実際にTAKEYAで行った施策のアーカイブ動画も「ファンと直接つながる対話型マーケティング ~実践事例「TAKEYAフレッシュロック対話会」」もご覧ください。


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この記事の著者

岡嶋 瞳

営業・マーケティング・プロモーション職にて、各種カテゴリーの店販および通販事業のマーケティングサポートを経験。2016年より、顧客育成領域に特化したコミュニケーションプランナーとして、顧客と直接つながる仕組みや絆を作るコミュニケーションの構築に従事。「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ。」がモットー。大広初代SNS中の人・さとなおオープンラボ関西3期卒業。