慢性的な人口減少とともに、「市民の市に対する愛着度の低さ」という課題を抱えていた河内長野市。解決のための戦略の柱は、「市民を巻き込んだ施策」でした。顧客のロイヤル化に数多くかかわってきた大広は、さまざまなノウハウを提供。市民の視点で考え、市民のインサイトを探って、市民が楽しみながら主体的に活動するためのプロセスを構築し、環境を整備しました。プロジェクト成功まで熱く伴走した大広の3人に、その道のりを語ってもらいました。市を企業になぞらえると、住民は企業の顧客といえる存在。地方自治体だけでなく、ブランドのファンを育てたいすべての企業のヒントとなる事例です。
福田 豪
株式会社大広 大阪第1ビジネスデザイン局1部
2023年に中途採用で大広に入社。前職では大学を中心とした教育機関の広報支援に従事。入社後はインフラ・公共領域に加え食品・日用品メーカーなどを担当し、顧客課題に応じたコミュニケーション設計と施策推進を担う。戦略設計から実行まで一貫して携わり、関係各所と連携しながらプロジェクトを推進している。
池田 龍人
大広若者研究所「D’Z lab.」所長
1997年生まれの等身大のZ世代として、Z世代の感覚や価値観、トレンドをリアルタイムで捉え、大広若者研究所「D’Z lab.」に所属し研究中。本務では、幅広い業界において、戦略立案からプロモーション企画に至るまで、コミュニケーション戦略の立案に従事。
金 ドンヒョン
株式会社大広 GrowthXユニットソーシャルデザイングループ
2022年に新卒として大広へ入社。若者研究所「D’Z lab.」のメンバーとして、日本の若年層を対象としたマーケティングやコミュニケーション戦略の研究・実践に従事。近年は、Z世代向けSNSコンテンツの企画・制作を中心に、戦略設計から撮影・編集、プロジェクトマネジメントまで一気通貫で担当している。若者の価値観やインサイトを起点としたコンテンツ開発を得意とし、企業・自治体の課題解決やブランドファンの創出を支援している。
駅前広場に3200人が押し寄せた!「河内長野 蚤の市」
2026年2月22日、河内長野駅の駅前広場はとんでもない賑わいにあふれていました。キッチンカーや物販のブースがずらりと並び、ステージでは歌や楽器の演奏、ダンスやお笑い、トークショーなどが、タイムスケジュールの空白がないほど次から次へと披露されます。若い市民たちが実行委員となって開催した、同市で初めての「河内長野 蚤の市」です。「当日は、開場前からどんどん人が集まり始め、私たちも会場整理に追われました。SNSの反応から、当初の想定を相当上回る人が来ることは予想していましたが、それをさらに超える盛況でした」(金氏)
この日、総勢47人の「若者ミライプロジェクトチーム」と、情熱をもってそこに伴走した大広チームは、充実感いっぱいでイベントの成功を喜び合ったのでした。
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それは「消滅可能性都市」からの逆転の秘策
プロジェクトの発端となったのは、2024年に発表された「消滅可能性自治体」の衝撃的なニュースでした。「若年女性人口が半減し、将来消滅する可能性がある」とされた都市の中に、河内長野市も含まれていたのです。実は、2014年に続いて2度目のことでした。※
大阪府南東部に位置する河内長野市は、自然豊かで多くの文化財が点在する歴史ある街。大阪中心部へも電車で約40分とアクセスがよいことから、ニュータウン開発などで発展してきました。しかし、そのアクセスのよさは若年層の転出の一因にもなり、高齢化が進行しているのが現状です。市が行った調査で「若年層の市への愛着度」が伸び悩んでいるという結果も出ており、具体的な対策の必要性が高まっていました。
依頼を受けた大広チームは、D’Z lab.(大広若者研究所)やマーケティング部門のスタッフも加わって戦略立案に着手。2025年春、「若年層の流出抑制と市外からの移住者獲得」と「市民の愛着強化」 を目指してプロジェクトが動き出しました。
※「消滅可能性自治体」とは、民間の有識者らでつくる「人口戦略会議」の報告書で、2020年から2050年にかけて若年女性人口が半減し、将来消滅する可能性があるとされた都市。全国で744市町村が挙げられた。2014年のレポートでは「消滅可能性都市」と表現されていた。
15歳から34歳までの有志を募って「若者ミライプロジェクト」を創設
大広チームは、市の魅力発信のツールとして、子育て支援の動画作成や移住促進キャンペーンの展開を行いつつ、若年層市民による活動チームの結成を提案しました。若年層市民は、今回の施策のメインターゲットです。その彼らを主体にすることが重要でした。大広チームには、「市民は施策の受け手ではなく顧客そのものであり、同時に自らの行動によって価値を生み出す主体である」という確固たる思いがあったのです。
「大切なのは、我々が一方的に解決策を提示するのではなく、市民の皆さんと一緒に解決策をつくりあげていくこと、市民のみなさんとの共創だと考えました」(福田氏) 市民自らが解決策を考え、話し合い、実行して反響を得る、その「プロセスそのもの」を設計することで、参加した人たちは「価値を生み出す体験」と「その価値を享受する体験」を得ることができる。それこそが愛着の醸成につながる――それが、大広チームの提案でした。
市のSNSを通じた発信や市内の高校や大学での呼びかけ、さらには駅前でのフライヤー配布などの地道な作業を通して、15歳から34歳までの意欲のある人たち、活動のコアになってくれる人たちを募りました。約3週間という短い募集期間だったにもかかわらず、市内外から総勢47人が集結。ここに、「若者ミライプロジェクトチーム」が始動しました。
推し活×河内長野で拡散! 114万回再生動画をきっかけにTV局がイベントを取材。メンバー全員がアンバサダーに
「若者ミライプロジェクトチーム」メンバーは、「情報発信チーム」と「企画開発チーム」に分かれて活動を開始しました。
「情報発信チーム」は、主にSNSなどを通じて河内長野市の魅力を発信することが役割です。「最初に全員と個人面談を行ったのですが、話をする中で、メンバーそれぞれに好きなものや得意分野、いわば『推し』があることが明確になりました。それなら、『自分の推し+河内長野』という軸で発信すれば、彼ら自身も熱を持って発信できるし、受け手にもその楽しさが伝わると考えました」(金氏) その結果、「歴史+河内長野」「グルメ+河内長野」「子育て+河内長野」などなど、様々な角度からのコンテンツが誕生し、インスタグラム、X、TikTokなどを連動した活発な発信が行われました。
実際の投稿にあたっては、インフルエンサーとしても活動する金氏が手厚くサポートしました。SNS投稿の「考え方の基本」から、魅力的な写真の撮り方・見せ方、フォロワーへの対処までを具体的にレクチャー。ひとつ間違えば炎上などのリスクもあるSNSですが、「すべての投稿を事前にチェックして、危機管理を行いました」(金氏) インスタグラムのアプリをダウンロードするところから始めたSNS初心者のメンバーもいた中、約半年ほどの期間で800件以上の投稿を実現し、フォロワー数は8500人超えました。
↑金さんオリジナルSNS教本
↑SNSは写真が命。写真撮影を学ぶフィールドワークも行いました。
↑「情報発信チーム」のメンバーが撮影した写真。
一方、「企画開発チーム」は、プロジェクトのメインイベントの企画立案と実施が役割です。ここでも軸となるのは「メンバーのやりたいこと」。それをイベントとして具体化するためのアイデアソンを重ねました。最終的に「河内長野 蚤の市」に決定するまでに、「ドライブインシアター」や「フォトコンテスト」「ワーキングホリデーで農業体験」など、様々な「やりたいこと」のアイデアが出されたといいます。
大広チームは、それぞれのアイデアに対して、準備や予算も含めた課題の洗い出しなど、フィジビリティ(実行可能性)を高めるためのアドバイスを行いながら伴走しました。「こちらで決めて動いてもらうことは簡単だし確実ですが、メンバーが主体となってつくりあげることこそが、このプロジェクトの核心。話し合いを重ねるうちに、私たちがいない場面でもメンバーどうしでアイデアを具体化し、ブラッシュアップできるチームになっていきました」(池田氏)
メインのイベントが「蚤の市」に決定してからも、キッチンカーや物販ブース、ステージの出演者などの募集と選定、準備期間と当日のスケジューリング、会場レイアウトや消防署はじめ必要な許可申請など、複雑な作業が山積していましたが、「私たちは、問題にぶつかった時に相談に乗ったり、専門的な手続きを代行したりしながら、後半にはもう、メンバーが前進するための燃料を投下するような役割でした(笑)」(池田氏)
この「蚤の市」の様子はテレビ番組でも流れました。きっかけを作ったのは、企画チームのメンバーが発信した「河内長野市なくなります」の動画。114万回も再生され、この動画を見たテレビ局のスタッフが「若者未来プロジェクトチーム」を取材して「蚤の市」で奮闘するメンバーの姿を番組で紹介したのです。若いメンバーたちの熱量に呼応するように市民の興味関心も高まりこの活動は、徐々に市民に知られるようになりました。
↑蚤の市の会場で取材にきたテレビ局のカメラに向かって笑顔でガッツポーズ
市民と共創することで、活動は自走する。愛着が愛着を育む好循環へ
こうして、「若者ミライプロジェクトチーム」は、立ち上げからわずかの期間で自走を始めました。大広チームはその活動に常に寄り添い、市の担当者の方々との間をつなぎつつ、活動をブーストしながら伴走しました。そして、冒頭でご紹介したように、当初の予想をはるかに上回る集客を達成した「河内長野 蚤の市」へとつなげたのです。市民からは次のイベントを期待する声が寄せられ、事後のアンケートでも、市への愛着度の高まりがうかがえました。中でも、「若者ミライプロジェクト」メンバーの満足度が特に高かったことに、「若年層の流出抑制、市民の愛着強化」という目的達成につながる取り組みだったことがうかがえます。
今回のプロジェクトを通して、「若者ミライプロジェクト」のメンバーたちは、自ら河内長野の魅力を発見し、発信し、それに多くの市民が反応しました。市民が市民を巻き込むかたちで活動が自走することは、活動継続のための確かな原動力になります。イベント終了後もメンバーたちが情報交換をしながら、それぞれに河内長野の魅力を発信し続けていることが、それを物語っています。「自分たちが主体となってやりきった、というメンバーの達成感は、大きな自信になり、新たなモチベーションにもつながったと思います」(福田氏) 河内長野市では、「若者ミライプロジェクト」第2期メンバーの募集が始まっており、次へ、またその次へ…と、発展的につながっていく未来が見えてきました。
今回は河内長野市という地方自治体での取り組みでしたが、「市にとっての市民」は企業にとっての顧客であり、「市への愛着度」はそのまま顧客のロイヤリティにも置き換えられます。ただ解決策を提示するのではなく、主体となる市民(顧客)が自ら活動する「余白」を確保すること。そして、鮮度高く、熱を持って成功へと伴走すること――大広チームのソリューションは、ロイヤル顧客創出に課題をかかえる多くの企業や学校にも通じるものとなりました。
【参考】
河内長野市「若者ミライプロジェクト」~2025年活動のキセキ~
https://www.youtube.com/watch?v=hwjpWav9jv0
DʼZ lab. - 大広若者研究所
https://dzlab.daiko.co.jp/
まとめ
将来的な人口減少が予想され、「消滅可能性自治体」に名前が挙がる河内長野市。その課題解決のために、大広チームは、「市民との共創」という方法を提案しました。市民自らが主体となり、発信者となることで、他の市民を巻き込み、愛着を育む活動が自走する――大広チームは、その活動にプロとして伴走しつつ、市民=顧客の愛着度向上、いわば「ロイヤル化」を実現しました。ブランドや企業へのロイヤリティ醸成に、多くのヒントをもたらす事例です。
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