世界的なトレンドになりつつある「ヘルステック」。次々と新たな技術やサービスが登場していますが、きちんと人に寄り添うヘルステックは「まだ始まったばかり」かもしれません。大広フェムテック・フェムケアラボが主催する「ヘルステック・クロストーク」では、「ヘルステックは日常をどう変える?」「未来の自分への”健康投資”はどんなことから?」――そんな疑問を紐解きながら、一人ひとりが健やかに本来の自分らしく生きられる未来を探っていきます。
第1回は「ヘルステックで変わる生活を紐解く」。2025年10月に上市したパナソニックの体調ナビゲーションサービス《RizMo》について、開発の経緯や今後の展望などをうかがいながら、「目に見えない不調をどう可視化し、生活者にどう向き合おうとしているか」を深掘りします。
「自分事」ではなかった健康課題に真摯に向き合い、5年をかけて辿り着いた『お守り』の正体とは。社会実装の裏側にある、試行錯誤と情熱のプロセスを紐解きます。
※本レポートは、当日のセミナー内容をもとに、一部構成を再編成・編集して掲載しています。
ヘルステックで変わる生活を紐解く「ヘルステック・クロストーク」
~パナソニック「RizMo」と語る社会実装のヒント~
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[スピーカー]
図師 和彦氏
パナソニック株式会社 ビューティ・パーソナルケア事業部
ビジネスデザイン部 事業開発課 課長
1992年、松下電器産業株式会社(現パナソニックホールディングス(株))へ入社。新規事業を中心に、事業開発・商品企画・マーケティング・広報・セールスなどの職種を担当。2021年に現在の事業場にて、フェムテックプロジェクトを立上げ、現在に至る。
井上 貴美子氏
パナソニック株式会社 ビューティ・パーソナルケア事業部
ビューティブランドマネジメント部 主幹
ナソニックにてヘアケア家電の商品企画を担当後、2021年より新規事業開発部門にて「RizMo」のサービス・アプリケーションの企画を主導したのち、現在はマーケティング・プロモーションを担当。自分自身を知ることが体調管理の第一歩となる、その価値をより多くの人に伝えていきたいと考えている。
[モデレーター]
平野 陽子氏
株式会社大広 未来共創本部
「大広フェムテック・フェムケアラボ」 チーフプロジェクトマネージャー
PMI「Project Management Professional」保有。 IT企業、事業会社でのWebマスター、商品企画開発、新規事業開発やプロジェクトマネジメント等を経て2019年より大広所属。「大広フェムテック・フェムケアラボ」では、女性のウェルネスやヘルスケアに取り組む企業の事業開発・コミュニケーション支援、ワークショップでの社内浸透支援、リサーチ等に携わっている。
見えていない不調=見えていない社会課題を解決するための、全く新しいサービス
平野:《RizMo》は、ユーザーから「自分を支えるお守りのような存在」と支持され、多くの賞を受賞しています。まず、サービスの概要を教えていただけますか。
井上(文中敬称略、以下同):はい。《RizMo》は、「温度」と「睡眠」のデータから女性の体調を可視化する体調ナビゲーションサービスです。使い方は非常にシンプルで、小さなウェアラブルデバイス《リズムモニター》をショーツのウエスト部分に着けて寝ていただくことで、就寝中に腹部温度と睡眠の状態を計測し、翌朝、そのデータをスマホのアプリに転送すると分析結果などが届くというものです。

体調ナビゲーションサービスRizMo(リズモ)
https://ec-plus.panasonic.jp/store/page/RizMo/

温度変化や睡眠のデータをもとに、たとえば、「今日は睡眠不足なので無理しないほうがいい日」「生理前だけどパワー出せる日」というように体調に合わせたアドバイスや、1ヶ月先までの体調のいい時期・悪い時期や月経周期などの予測が届きます。また、専門家に相談できる機能や体調のデータを家族やパートナーに共有したりする機能も備えており、体調の把握に加えて妊活にも役立てていただけます。

平野:どのようなデータをどうとるか、ということについては多くの専門家の方々と研究を重ねてこられました。
井上:女性の体調変化にはホルモンバランスの変動と睡眠が大きく影響を与えているという事実に基づいて、低温期、高温期の温度変化や、睡眠の量と質とリズムを正確に測定で測きるデバイスを開発しました。産婦人科の医師や、睡眠・生体計測の専門家の方々に参画いただきましたし、基礎体温と腹部温度との相関については、日本大学・村山嘉延教授との共同研究で実証実験を行ってエビデンスを得ています。
平野:サービスの開発にはどのような背景があったのでしょうか。
図師:発端は、フェムテックを特集したテレビ番組で女性ホルモンが体に及ぼす影響について知ったことでした。調べていくうちに、女性の実に80%以上が月経にともなう症状や更年期等によって「日常生活に影響がある」と感じており、弊社のモニターの方々の声からも、予期せぬ女性の不調(生理周期や睡眠状態に関係した体調変化)に振り回されている実態が見えてきたのです。
これは社会課題といっていい状況だと思いますが、実際には、多くの女性がその不調を表に出さない、つまり社会的には「目に見えない不調」になっている。私自身、周囲の女性がそのように不調を抱えながら生活していることが「見えていなかった」ことに衝撃を受けました。

そうした不調時にどう対処しているかをお聞きすると、多くの方が自己流の、ある意味で主観的な方法で乗り越えているという回答でした。症状が重くなるなど自分ではどうしようもなくなって初めて医療にかかったりするのですが、そこに至るにも心理的なハードルがあるという実態も見えてきました。
私たちが提供できるのは何か、と考えたとき、まずはそうした「目に見えない不調」を可視化することだという結論に至りました。科学的な裏付けをもとに自分で判断できる環境をつくり、必要なときに気軽に専門家に相談したり診断を受けたりできるエコシステムをつくること、いずれはすべての女性が当たり前に利用する「お守り」のようなサービスにすること――これが《RizMo》を立ち上げた背景です。
5年の歳月をかけて開発・改良を繰り返す
平野:《RizMo》は2025年10月に上市されました。そこに至るまでには様々な試行錯誤があったとのことですが…。
井上:試作開発と改善の繰り返しでした。数百名の方にモニターになって使っていただき、フィードバックを受けて改善する、ということを、開発チーム全員でひたすら繰り返していました。モニターの方々には1人あたり90分以上のインタビューを実施して、一人ひとりの意見や思いもお聞きしました。それらの蓄積によって使う人の像が明確化し、適切な改善につながっていったと思います。


平野:データの向こうにいる「人」を読み解く、というところを、とても丁寧になさっていたのですね。ユーザーが装着する《リズムモニター》も、すごくなめらかで綺麗に小型化・軽量化をされています。ここにもお客様の声が反映されているのでしょうか。
井上:そうですね。着けて違和感がなく、ストレスフリーかつ安定的に計測ができて、でも外れない…ということを追求しました。シンプルな機器だからこそ難しかったですね。ショーツの種類によっては外れるとか、ひっくり返るとか、「夜中にリズモちゃんがどっかに行っちゃいました」などというお声もあって…それをひとつひとつお聞きしながら改良を重ねました。

平野:上市までには構想から約5年の時間がかかったとうかがっています。
井上:そうなんです。もちろん、開発と改善に時間をかけたこともあるのですが、社内的な事情もありました。私たちは普段、美容家電や健康家電を作っている事業体で、サービスの提供は未知の領域です。加えて女性特有の健康課題という、ある意味すごく個人的でセンシティブな領域で事業化することに、慎重になった部分があったのだと思います。モニターの方々の実際の声をもとに、確かなニーズがあることを繰り返し提案して、ようやく事業化が実現したという感じです。
平野:上市してから約半年が経過しました。現状についてお聞かせいただけますか。
井上:正直なところ、今もすごく「もがいている」のが実情です。いざ上市して提供を始めると、実証実験では出てこなかった問い合わせやお声がたくさんありまして…。でも、そこは、チーム全員でお客様の声に触れながらサービスを磨き続けるしかない、と思っています。
利用状況や閲覧状況などのデータは単なる数字ではありません。「それがなぜ起こっているのか」を全員でディスカッションをして、サービスやマーケティングの改善につなげています。それをいかに早くアウトプットとして実現するかも重要ですので、全力で取り組んでいるところです。
自分を知ることで、日常生活の質が高まる実感
平野:実は私も《RizMo》を使わせていただいていて、「この時期にダイエットするといいな」とか「スキンケアが効くな」みたいな発見があります。体調を含めた自分を知ることが、実生活の様々な面に生きてくる実感があるのですが、お客様はどのような反応でしょうか。
井上:《RizMo》の便利さ、利用しての変化をお聴きしたのですが、だいたい5つくらいの方向に分かれています。

■計測がとても楽
体調を知るのに基礎体温や睡眠を計測したいけれど、以前はそれがストレスだったので、簡単に測れるのはとてもいい、というご意見です。
■不調の原因がわかるだけでも安心する
なんとなくだるいとか眠いとかメンタルが落ちる、そういうネガティブな状態になったときに、《RizMo》の分析を見て、「今そういう時期だから」と思える。以前なら不調があってもつい頑張ってしまっていたけれど、《RizMo》に「休んだ方がいいですよ」とアドバイスされると「じゃあ休もうかな」と切り替えられる。そんなフィードバックをいただいています。
■予測機能が便利
生理周期や、いつどんな不調が起こりやすいかという予測が出るので、先回りして準備ができることを評価していただいています。
■分析結果を見るのが楽しみ
それをモチベーションに継続しているという声もいただいています。《RizMo》に「寝不足です」とか「睡眠のリズムがずれています」と言われると、その数値を改善したくて夜更かしをやめた、など、自然と行動の変化が起きているという声もあります。
■自分の中で閉じていた部分を家族やパートナーと共有できるようになった
たとえば少しイライラしたりしても、「体のメカニズム的にこういう時期だ」とデータで示されることで、相互理解につながっているようです。
データ上でも、《RizMo》の利用で中途覚醒が減って睡眠効率がアップしたり、睡眠時間が増加したりするなど、よい影響が出ている例が確認できています。《RizMo》の利用が安心感や自己効力感につながっているのだと分析しています。
人に寄り添うヘルステックが、社会をよりよく変えていく
平野:なるほど、利用者の声からも、いままで見えていなかった体調(不調)を可視化することで、暮らし方に大きな変化が出ていることがわかります。《RizMo》が普及することで、「体調を含めて自分を知る」「周囲の人のことを想像する」ことが社会のあたりまえになっていくのではないかと思いますが、これをもっと進めるために、どのような取り組みをお考えでしょうか。
井上:自分を知ることについては、ぜひ、多くの方に《RizMo》という便利なツールを使っていただきたいなと思いますが、周囲の人のことを想像する、ということでは2つあると思っています。
ひとつは、対話をすること。《RizMo》の取り組みでは、女性の健康課題を、女性だけの、個人の課題に終わらせないことを重要視してきました。家族やパートナーとデータを共有する機能や、専門家に相談する機能を設けたのもそのためです。加えて、上司・同僚など男性を含めた対話会などのイベントやセミナーを全国で行い、リテラシー向上をはかってきました。やはり自分が知らないことは想像できないので、対話を通じて互いに理解し、他の人の状況を想像できる組織や社会にすること、その仕組みを含めて実装していくことは、今後もすごく重要だと思っています。
もうひとつは、女性向けだけでなく、男性も含めた一般の生活者向けのコミュニケーションやマーケティングに関しても、相互理解を促すような働きかけが色々検討できるのではないかと思っています。
平野:ありがとうございます。立ち上げからここまで、ユーザーの方々の声に真摯に丁寧に向き合い、それを製品に反映してこられた経緯がよくわかりました。また、こうしたヘルステックが社会実装されることで、生活者の体や心、さらには組織や社会の仕組みが変わっていく可能性についても多くの示唆をいただきました。

少し先の未来の日本について考えますと、高齢化の進行とともに医療費の自己負担額が増える流れがあり、現役世代にとっては「健康維持が最大の資産になる」、そんな時代が近づいています。海外でも、自分の健康状態を日常的にモニタリングすることで健康を維持したいと考える消費者が増えており、ロンジェヴィティ(=Longevity;長寿と健康)、つまり、「身体だけでなく心の健康や脳の多様性、未病に気づく・防ぐこと」は主要なトレンドになっています。その意味で、ヘルステックは今後重要な選択肢になると予想されますが、中でも、これまでフェムテックが掲げてきた「個体差への着目」は大切な要素だと考えています。
一方で、新しく世に出るものをエンドユーザーに使い続けてもらうためには、「正しさ」だけではなく、「右脳を使った」工夫も必要になります。異なる領域へ展開すること、領域をクロスしていくことが重要です。私たち大広フェムテック・フェムケアラボは、真摯な取り組みをされている企業の方々が領域を超えて「クロスする機会」を提供しつつ、実践的な知見を広げ、共有するお手伝いをしたいと考えております。本日はありがとうございました。
質疑応答の内容もお伝えします。
(質問1)仕事先との関係が、相手の体調によって左右された経験があります。トラブルを未然に防ぐためには相手の体調を知っておくことは有効だけれど、それはプライバシーの問題にもなり得る。社会の課題として考えた時に、自己開示とプライバシーのバランスがどのようになっていくとよいとお考えでしょうか。
図師:非常に難しい問題ですが、「自分の状態を客観的に理解しながら過ごすことは自分自身にとっても楽だし、会社生活も家族との関係性もよりよくなる」ということを理解することが第一歩目ではないかと思います。自分の状態を理解して対処できるようになれば、ご質問のような難しいシチュエーションも減っていくのではないかと思うので、まずはそういった認識が広がっていくことが有効なのではないでしょうか。
(質問2)今後、《RizMo》の機能を広げていくとしたらどういうことが考えられるでしょうか。
井上:《RizMo》は、長期間使い続けることが重要なサービスです。自分の状態がわかることによる安心感や、生活改善による体調の良化実感が得られ、気持ちが前向きになるなどの変化が起きていきます。ですから、継続する重要性が伝わるようなサービスを拡充していきたいと考えています。
また、「自分のことがわかった」後にどうするのか、そのソリューションの部分も提供していきたいですね。私たちだけではカバーできない領域もあるので、そういったソリューションを提供しているような事業会社の方々と連携しながらサービスを拡張していければ、という思いもあります。
図師:このサービスではお客様の大切なバイタルデータをお預かりしますから、私たちが、お客様に「自分のデータを預けたい」と思っていただける企業だということが非常に重要だと考えています。自らを律して責任感をもって取り組むこと。その上で、お客様自身が望まれる暮らしを実現するために、そのデータをどう活かすのかを考える、ということが基本のスタンスであるということは申し上げておきたいです。
(質問3)事業化まで約5年かかったとのことですが、その間に社会の価値観や流行にも変化があったと思います。そうした変化の中でひとつのものを開発していく際に、どのようなことを考えておられたのか知りたいです。
井上:最初に図師もお話ししましたが、この領域は、社会の根源的な、普遍的な課題に根ざしている、という思いで開発を行っていましたので、その部分に関してはブレることはなかったと思います。トレンドというよりは本質的なところをちゃんと突いていくぞというところでしょうか。
――ありがとうございました。
まとめ
新しい技術やサービスでこれまで見えにくかった社会課題に光を当て、よりよい暮らしをサポートする。《RizMo》の開発には、一人ひとり異なるユーザーの声に真摯に耳を傾け、体と心に技術で寄り添う姿勢が徹底されていました。そうして開発された技術やサービスは、人の暮らしも、社会そのものも、よりよく変えていく力になります。これからますます重要性が増すであろうヘルステックという領域が、日本に根付き、発展していくための多くのヒントがありました。
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