本稿では、昨今話題のCEP(カテゴリーエントリーポイント)の視点で、2024年1月に行われた、㈱Collexiaと大広共催セミナーの内容をベースに、CEPを取り入れてブランドを復活し成長する方法を、全3回シリーズでお届けします。
連載2回目は、CEPとブランドの具体的な関係を、我々が実際に行ったCEPブランド診断の調査結果を元に解説していきます。
前回の記事はこちら
ブランド復活の鍵、CEPとは?〈第1回〉ロングセラーブランドが抱える悩み
村山 幹朗
株式会社コレクシア 代表取締役
2011年に株式会社コレクシアを創業。
マーケティングリサーチを用い、顧客データに基づいたブランドの戦略策定・施策立案の支援を行う。
現在までに5000件を超えるカスタマージャーニーを作成し、ブランドの成長を実現する顧客体験の設計を手掛けている。
公益社団法人日本マーケティング協会認定マーケティング・マスター
大政 剛
株式会社 大広 エグゼクティブプロデューサー
1990年に大広入社。主に統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)の分野で、多数のブランドコミュニケーションをサポート。
これまで500件以上のプレゼンテーターを務め、広告の実務家として「顧客が動く」ことにこだわり、コミュニケーションやビジネスデザインを手掛ける。
調査結果・サマリー
- シェアが大きいブランドはたくさんのCEPを持ち、様々な文脈で構成されている
トップブランドである「ハーゲンダッツ」の場合、CEP14項目中8項目で競合よりも高い数値をとっている。 - シェアが低いブランドはCEPで優位に立てていない
特に市場規模が大きいCEPの結びつきが弱いと、シェアも伸びにくい傾向がみられる。 - 競合に対し、CEPへの抜きんでたポジショニングは、シェア確保につながる
ガリガリ君のように、「強い」CEPを持つブランドは、一定のシェアを獲得できている。
「CEPブランド診断」とは?
- CEPの視点で、定量的にブランドや市場を俯瞰し、次のプランニング(顧客価値の発掘と文脈設計)の基礎となるブランド調査。
- 市場をブランドとCEPの軸で切ったときに、どのブランドがどんなCEPでポジショニングできているかを把握。
- CEP視点で、自社の現状や競合の強みを調べ、チャンスのあるCEPを発見する。
◆ 調査目的 ◆
「日本でも、シェアが大きいブランドはたくさんのカテゴリーエントリーポイント(CEP)を持っているのか!?」
第1回で解説したCEPについて、海外論文では色々と発表されていますが、日本での研究事例が少ないことから実際に調査してみてCEPの実態を検証したいと思います。
◆ 調査ポイント ◆
・ アイスクリーム、アルコール飲料、ヘアケア の3つのカテゴリで調査
・ 消費者が「どんなシーンでどのブランドを連想するか」を聴取
・ インターネットアンケートで日本全国男女20~60代 n2800回収
◆ 調査設計 ◆
シェアが大きいブランドはたくさんのCEPを持ち、様々な文脈で構成されている
アイスクリーム」カテゴリーの場合
【表の見方】・・・縦の列には日常の利用シーン(文脈)を「CEP内容」として、回答の多い順に列挙しています。つまり、上位であればあるほど大きなCEPとなります。また、横の行は「ブランド名」が、純粋想起率の順に並べられています。例えば「ハーゲンダッツ」の場合、「少しの贅沢でささやかな楽しみを実感する時」に連想する人が57.8%存在し、それは3番目に大きなCEPということです。
- トップブランドである「ハーゲンダッツ」は、CEPの14項目中8項目でトップであり、全体的に優位な状態です。つまり、日常の様々な生活シーンの中でアイスクリームを食べたくなった時に最も連想されやすいブランドと言えます。その人気は市場シェアにも反映され、様々なCEPを獲得することでブランドとして成長している様子が伺えます。
- またハーゲンダッツは一つのCEPだけではなく、複数のCEPで競合優位を獲得しており、一つのブランドでも様々な文脈で構成され成り立っている状態と言えます。
シェアが低いブランドはCEPで優位に立てていない
- シェアの低いブランドは、優位に立てているCEPをあまり持っていないことがわかる。
- 特に、市場規模が大きいCEPにおいて優位に立てていない場合が多い。
競合に対し、CEPへの抜きんでたポジショニングは、シェア確保につながる
- ガリガリ君のCEPを見ると、一転突破型で「暑い日に暑さを紛らわせようとする時」の結びつきが44.4%と圧倒的に強い。
- ガリガリ君の場合、シェアに比べて純粋想起率が高く、存在感を示しています。このように「強いCEP」を持つことは、消費者の想起を促して選ばれやすいブランドと言え、ビジネス的な成功をもたらす可能性が高い。
抜きんでたCEPのポジショニングは、シェア確保につながる
- 「お風呂上りに何かを飲んだり食べたりする時」というシーンでは、どのブランドの数値も20%前後で並んでおり、突出して高いブランドがまだ存在していない。
- CEPの規模も上から見て4番目であり、そこそこ大きい。
- CEPには、絶対どこかが押さえている場合だけではなく、皆がとっている場合もあれば、誰も手を付けていない場合もある。
- 今回の「お風呂上がり」のように市場規模があるにも関わらず、どこもそれなりのポジションしか取れていない場合は、ここにどんどん投資をしてCEPとブランドを紐づけていくことで新規客を獲得していく、そんなチャンスがありそうなCEP。
(コラム)ヘアケアの場合
共同ウェビナーでは時間の関係上、「アイスクリーム」しか触れませんでしたが、この記事を読んでいただいた皆さんのために、「ヘアケア」カテゴリーについてもCEP視点で簡単に解説します。
・シャンプー・トリートメントなどのヘアケア市場は伸び悩みが続く中、ロングセラーブランドと新興勢力の攻防が激しく行われているカテゴリーですが、他のカテゴリーと比べ、上位ブランドで1桁台の数値が多く見られ、CEPとの結びつきが弱い状況。
・一方、「BOTANIST」や「YOLU」のような新しいブランドの方がCEPを押さえており、「何からブランドを連想してもらうか」「どこに新しい入り口をつくるか」という文脈起点の発想で未顧客を取り込み、シェアを伸ばしている様子。
・ただ、「1日の終わりにのんびりリラックスする時」や「自分の外見でのマイナス面に気づいた時」など上位のCEPで突出したブランドがなく、これらのポジションを強めることで新たな顧客を獲得できそう。
以上のCEPブランド診断が終わったら…「顧客価値の発掘と文脈設計」
顧客体験エピソードを定量調査で取得。顧客価値を発掘し、「文脈」の発見と設計を行います。
プロファイリング調査によってCEP文脈をみつけて設計するフェーズ。実際に顧客が価値を感じでいるエピソードを定量調査の手法で質的に掘り下げていく、CEPブランドデザインチーム独自の調査手法です。どのような文脈だったらお客様に価値を感じてもらえて、より良いブランドとして認識されるのか、はたまた、より多くのお客様を獲得するCEPにポジショニングできるのか、といったところを見つけ、この後の具体的なプランニングにつなげていく重要な調査です。
CEPブランドデザインチーム、CEPブランド診断の問い合わせ、申し込みは 相談フォームへ
第3回では、実際のCEPとブランドの関係について、創業110年を超えるロングセラーブランドでの事例をもとに解説します。
ブランド復活の鍵、CEPとは?〈第1回〉ロングセラーブランドが抱える悩み
ブランド復活の鍵、CEPとは?〈第2回〉CEPブランド診断とは?
ブランド復活の鍵、CEPとは?〈第3回〉牛乳石鹸共進社『赤箱』の事例