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2024.05.14

CEP(カテゴリーエントリーポイント)講座【第1回】基礎編~ロングセラーブランド復活の鍵!CEPとは!?

人口減少社会において顧客数が減少している昨今、ロングセラーブランドの多くは、曲がり角を迎えています。本稿では、昨今話題のCEP(カテゴリーエントリーポイント)の視点で、2024年1月に行われた、㈱Collexiaと大広共催セミナーの内容をベースに、CEPを取り入れてブランドを復活し成長する方法を、全3回シリーズでお届けします。

第1回は、ロングセラーブランド復活の鍵となる 「CEP」の特徴について解説します。

村上幹朗村山 幹朗
株式会社コレクシア 代表取締役
2011年に株式会社コレクシアを創業。
マーケティングリサーチを用い、顧客データに基づいたブランドの戦略策定・施策立案の支援を行う。
現在までに5000件を超えるカスタマージャーニーを作成し、ブランドの成長を実現する顧客体験の設計を手掛けている。
公益社団法人日本マーケティング協会認定マーケティング・マスター

大政剛大政 剛
株式会社 大広 エグゼクティブプロデューサー
1990年に大広入社。主に統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)の分野で、多数のブランドコミュニケーションをサポート。
これまで500件以上のプレゼンテーターを務め、広告の実務家として「顧客が動く」ことにこだわり、コミュニケーションやビジネスデザインを手掛ける。


内容のサマリー

  • CEP(カテゴリーエントリーポイント)とは、日常生活とカテゴリーやブランドを結び付ける「記憶」のこと。
  • 大きなブランドは、結びついているCEPの数が多く、たくさんのCEPを持つことで顧客獲得が促進されている。すなわち、ブランドは“CEP”が増えることで成長する。
  • 未顧客〈ライト・ノンユーザー〉ほど、CEPで最初に連想した商品を選ぶ傾向があり、ブランドスイッチも少ない。CEPで未顧客を取り込み、顧客基盤を拡大する。
  • 一つのブランドには平均的に6.4個のCEPがあり、逆に、CEPが1つしかない人は1~2割しかいない。つまり、ブランドの成長も復活も、「いかにCEPを増やすか」にかかっている。

 ロングセラーブランドの抱えるマーケティング課題

長年にわたり世の中から支持されてきたロングセラーブランドですが、歴史あるがゆえの悩みも多いかと思います。特に、古くから支持してくれた根強いファンがいるため、新規客を狙ってファンが離れてしまうようなブランドの展開はしづらいものです。このような悩みの根幹にあるのは、「ファンを大事にする」 VS. 「新顧客を獲得する」 という葛藤です。こうしたロングセラーブランドが抱える葛藤に対して、どちらもあきらめることなく解決できるのが、これから紹介するCEPなのです。

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ロングセラーブランド復活の鍵は、CEPにあった

そもそもCEP(カテゴリーエントリーポイント)とはどのようなものか?CEPの特徴をいくつかまとめました。

<CEPの特徴>
・大きなブランドは、結びついているCEPの数が多い
・成長するブランドは“CEP”が増えることで成長している
・未顧客(ライト・ノンユーザー)の方が、リピーターとなる傾向がある
・CEP”は、1つのブランドでいくつも持つことができる

以下、それぞれの特徴を掘り下げていきます。

大きなブランドは、結びついているCEPの数が多い

  • CEPは、購買の選択肢を考え出すきっかけとなる記憶や状況的な手がかりである
  • B2CでもB2Bでも、大きなブランドは、結びついているCEPの数が多い(Romaniuk, 2022)

例えば、スポーツドリンクのブランドは数多く存在しますが、どのブランドを選ぶかは人によって異なります。その人の日常生活の中で、「スポーツ後の補給に」とか「熱中症予防に」といった特定の状況や目的を起点に、適切なカテゴリーやブランドが選ばれます。このような特定の目的やシーンを「利用文脈」と言いますが、こうした利用文脈と結びついて、ブランドを想起させる記憶や心理的なきっかけを、「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」と呼びます。

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CEPの特徴の一つに、大規模なブランドほどCEPが多く結びついているという研究結果があります。つまり、ブランドのシェアを高めたい、ユーザーや購買機会を増やしたいといった場合、まずはこのCEPに焦点を当て、ブランドと結びつくCEPを増やすことを検討します。CEPが多いほど、日常的にブランドや商品が想起される回数が増え、接触回数も増加するので、ブランドとして選ばれやすくなるからです。
そのため、消費者が日常的に利用する「文脈」で思い浮かべるカテゴリーやブランドの調査を行い、ブランドと結びついたCEPの数や、ブランドとCEPの結びつきの強さを把握することが重要となります。(詳しくは、第2回「CEPブランド診断」参照)

ブランドは“CEP”が増えることで成長する!

  • 売上やシェアが落ちる時は、離反が増えるのではなく、ライトユーザーの獲得が減る(Riebe et al., 2014)
  • ブランドのパーセプションは、「強さ」にこだわるよりも、間口の「広さ」が重要

CEP1-3ブランドの成長とCEPの数には密接な関連性があり、左図のようにCEPの数が増えるとブランドの成長が確認されることがデータから明らかになっています。(Riebe et al., 2014)

一方で、ブランドの売り上げやシェアが落ちる原因は、既存のヘビーユーザーが離れるからではなく、新規のライトユーザーが減少するからだということが示されています。(Riebe et al., 2014)

したがって、ブランドを拡大し成長するには、特定の顧客層(例えばファン層)のみに明確なパーセプションを確立する「強さ」よりも、既存・新規問わず より広範な消費者が自分たちのブランドを連想しやすくするパーセプションの「広さ」の方が重要となります。ブランドを幅広いCEPと結びつけ新規ユーザーが取り込むことで、ブランドの衰退を防ぎ、成長を促すことができます。

未顧客ほどリピーター化の傾向がある!

  • 顧客特性から見た場合、未顧客ほど、CEPで最初に連想した商品を選ぶ傾向がある
  • よく知らないし、興味もないからこそ、同じブランドをリピートしてしまう

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出所:以下をもとに作成:Dawes, J. (2020). The natural monopoly effect in brand purchasing: Do big brands really appeal to lighter category buyers. Australasian marketing journal, 28(2), 90-99.

上の表は特定の期間において、カテゴリーのライト、ミドル、ヘビーユーザーが同じブランドをどれだけ購入したかを示しています。表の最下部には各層の平均値が表示されており、これを見るとライトユーザーの方が同じブランドを継続して購入する(=リピーター)割合が最も高いことがわかります。

その理由として、ヘビーユーザーの方がそのカテゴリーに詳しく様々な商品を試す傾向がある一方で、ライトユーザーはそのカテゴリーに詳しくない(または興味がない)ため、思いつきやすいブランドを選ぶ傾向があるからと考えられます。

また、ブランドのユーザー層の入れ替わりは実はアクティブで、ヘビーユーザーの半分は1年経つと新たなユーザーに取って代わられるという調査結果があります。(Baldinger & Rubinson, 1996; Romaniuk & Sharp, 2022; Romaniuk & Wight, 2015)。※下記コラム参照

つまり、ヘビーユーザーであっても、その中身は流動的で定まらないため、彼らだけに頼っていてはブランドの成長に不安が残ります。エビデンスで見ると、購入頻度は少なくても一度選んだブランドをリピートする「ライトユーザー」の獲得が、ブランドの成長には不可欠なのです。

(コラム)ヘビーユーザーの「維持率*」は50%程度

・維持率=ある年の上位20%のうち翌年も上位20%に入る割合
・「平均への回帰」:データ上はヘビーに見えても実際はライト、という人が相当交ざっている
CEP1-5ブランドごとに見ると、驚くことにヘビーユーザーの半分は1年経つと入れ替わるという研究結果があります。具体的には、ある年のヘビーユーザーの上位20%のうち、翌年も同じく上位20%に残るのは約50%だけということです。これは、ヘビーユーザーの構成が一定ではなく、常に入れ変わっていることを示しています。(Baldinger & Rubinson, 1996; Romaniuk & Sharp, 2022; Romaniuk & Wight, 2015)

この現象は「平均への回帰」と呼ばれ、ユーザーが時期によってヘビーユーザーになったり、ライトユーザー(またはノンユーザー)に戻ったりする一方で、長期的には購入量や購入頻度が平均値に収束していく傾向があることを示しています。

CEPは一つのブランドで幾つも持つことができる

  • CEPは、ブランドごとに複数存在することが可能で、一つのブランドが平均的に持つCEPは6.4個
  • 逆に、CEPが1つしかない人は1~2割 ※主にライトユーザー(Romaniuk, 2023)

一つのブランドは平均的に6.4個のCEPを持つとされており、逆に、CEPが1つしかない人は1~2割しかいないそうです。要は、消費者は様々な利用文脈によってブランドを選んでいるのです。これは、複数のCEPを保有することで、既存顧客も維持できるし、新規客も獲得するということを意味します。
つまり、ブランドの復活も成長も、「いかにCEPを増やすか」にかかっていると言えます。そのために、消費者の利用文脈をゼロベースで見直し、新たに見つけた文脈ごとブランドのストーリーを創造し発信する。ブランドのもつ「らしさ」はものすごく重要ではありますが、「らしさ」だけに縛られず、CEPによって方向性を見定め、顧客獲得の「間口」を広げていけばいいのではないでしょうか。

大広とCollexiaでCEP専門の「ブランドデザインチーム」を結成!

  • リサーチ、コンサルティング、プランニングの実行・検証まで一気通貫で支援するチーム
  • ブランドを取り巻くCEPを分析し、CEP文脈とブランドの結びつきを強める新たなストーリーを創造

このたび、大広とCollexiaは共同で、CEPを取り入れてブランド戦略を行う専門チームを結成しました。「CEPによるブランドの再生と発展」をテーマに、消費者が想起するCEPの利用文脈から設計し、構想・実装・伴走のフェーズでブランド戦略を支援します。また、ブランドデザインの入り口として、次章で詳しく述べる「CEPブランド診断」という新サービスを開始しています。

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CEPブランドデザインチーム、CEPブランド診断の問い合わせ、申し込みは 相談フォームへ


第2回では、これまでに述べたCEPとブランドの関係について、「CEPブランド診断」による調査結果をもとに掘り下げていきます。

CEP(カテゴリーエントリーポイント)講座【第1回】基礎編~ロングセラーブランド復活の鍵!CEPとは!?
CEP(カテゴリーエントリーポイント)講座【第2回】調査編~CEP(セップ)ブランド診断とは!?
CEP(カテゴリーエントリーポイント)講座【第3回】展開編~牛乳石鹸共進社『赤箱』での事例

コレクシア代表取締役 村山幹朗氏のコメント

ブランドの復活や成長には、新たなCEPとブランドを結び付けることで、未顧客(ライト・ノンユーザー)を獲得することが有効、というお話しをしてきました。ですが、「でも既存客(ヘビーユーザーやロイヤルユーザー)の維持・育成はどうするの?」 という疑問を持たれるかもしれません。

CEPは、「未顧客をどうやって初めての購入に至らせるか」という観点でボリューム成長(浸透率の向上)にまず貢献しますが、同時に既存顧客が継続的に利用を続け、ある文脈においてブランドを選択肢に入れ続ける効果も発揮するため、既存顧客向けにもCEPは重要な役割を持っています。

そもそも既存顧客は、一度購入したら以降は一定の頻度で買い続けてくれるわけではありません。ヘビーユーザーと呼ばれている顧客であっても、1年で半分が入れ替わるという研究結果もあります。既存顧客が既存顧客で“あり続ける”ことを目指すには、生活者の文脈(CEP)において、ブランドが想起され続けることが必要です。他にも、既存顧客や付加価値の高い顧客が多く含まれる文脈に向けた施策やメッセージも有効と言えます。

この記事の著者

COCAMP編集室

「ビジネスは、顧客価値でおもしろくなる」をコンセプトに、ビジネスにおける旬のキーワードや課題をテーマに情報発信しています。企業の大切な資産である「顧客」にとっての価値を起点に、社会への視点もとり入れた、事業やブランド活動の研究とコンテンツの開発に努めています。