大広社員の根上小夏が、新しいインクルージョンのカタチ“FUNclusion”(ファンクルージョン)についてお届けする連載、根上小夏のFUNclusion研究所。 “FUNclusion”とは「FUNな入口からはじまるインクルージョン」、その可能性を様々な角度から、みなさんと一緒に見つめていきたいと考えています。
今回は、12/5-6にヘラルボニーと大広で共同開催するイベント「FUNclusion Week 2025」の特集第二弾!素敵な飲食店が並ぶ広場に突然登場する特別企画、『見えないお花屋』とは!?本企画のクリエイターである、ブラインド・コミュニケーターの石井健介さんと、イベントのパートナー企業の株式会社日比谷花壇さんに企画が生まれた経緯や、込められた思いについて伺いました!
※FUNclusion Week 公式サイトはコチラ
【 お話を伺った皆さん】
株式会社日比谷花壇 営業推進部 窪川敦之さん
株式会社日比谷花壇 営業推進部 中野陽さん(写真右)
ブラインド・コミュニケーター 石井健介さん(写真左)
1979年生まれ。2016年の4月、一夜にしてほぼ全ての視力を失うも、軽やかにしなやかに社会復 帰。2021年からブラインド・コミュニケーターとしての活動をスタート。見える世界と見えない世界をポップに繋ぐためのワークショップ/講演活動をしている。TBS Podcast『見えないわたしの、聞けば見えてくるラジオ』パーソナリティ。著書『見えない世界で見えてきたこと』(光文社)
『見えないお花屋―ブラインド・フラワーショップ』とは!?
まずは、インタビューの前に、皆さんに『見えないお花屋』の概要をご紹介させていただきます!
ここは『見えないお花屋』 。目を使わずに花を愛でる男が、あなたの前にそっと差し出す花を視覚以外の感覚を使って選んでください。
STEP❶ このお花屋さんでははじめに、アイマスクで目隠しをしていただきます。
STEP❷ 一本ずつお花や葉っぱが手渡されます。
STEP❸ 触覚や香りを楽しみながら、あなたのお気に入りの1本を選んでください。
STEP❹ お花を選び終わったら、オリジナルの花言葉をつけてください。
STEP❺ 選んだお花は日比谷花壇さんにラッピングしていただきます!
あなただけの、いつもとちがう花束の完成です!
とっても素敵で、あまりのロマンチックさに私の胸が躍ったこちらの企画。きっかけは、日比谷花壇さんからお持ち込みいただいた“フラワーバー”というアイデアでした…
日比谷花壇さんと石井さんの対話が生んだ、『見えないお花屋』
根上:今回の企画は、日比谷花壇さんからご提案いただいた『フラワーバー』がもとになっておりますが、まさか日比谷花壇さんから企画をご提案いただけるとは全く思っておらず、FUNclusion Weekチーム一同大変驚き、感動しておりました…!
まずは、なぜ企画をご提案いただけたのか、教えていただけますか?
日比谷花壇|窪川さん:これまでも、イベントに出展することはありましたが、FUNclusion Weekのようなコンセプチュアルなイベントに参加するのは初めてでした。お誘いをいただいてから、何ができるかを改めて社内でも話をしていく中で、開催場所であるBONUS TRACKの自然な景観・環境に、突然お花屋さんが現れるストーリーがマッチするのではないかと思いました。そのストーリー性と、お花が放つにぎやかさを演出する方法を考えたとき、(バーのようにお花が並んでおり、自由に選べる)『フラワーバー』という企画がよいのではないかと思いました。
日比谷花壇|中野さん:お花屋さんは、「敷居が高い」と思われることも多いのですが、バーのように気軽に参加できる形だと、お花の良さがさらに伝わるのではないかと思いました。
石井さん:確かに!バーの形だと、“敷居”がないですね。心理的にも、物理的にも。
根上:ありがとうございます!日比谷花壇さんからご提案をいただいたアイデアを石井さんにお伝えしたところ、すぐに『見えないお花屋』の企画につながったと思うのですが、アイデアが広がった理由を教えてください。
石井さん:自分がもともと花が好きだった…というよりも昔から、「花を女性にプレゼントする男性」に憧れていました。以前は目が見えていたので、視覚的に花を選ぶことが多かったのですが、目が見えなくなってからは贈る相手のイメージをお店の方にお伝えして、一緒に選んでいただくようになりました。「このお花は少し香りが強いから、彼女のイメージには合わないかもしれません」。そんな風に、見た目ではない花の選び方ができるようになったのが今回の企画にもつながっていると思います。あとは、チャップリンの映画『街の灯』の存在が大きかったです。盲目の花売りの少女と、チャップリンが交流を深めていく、すごく素敵なストーリーで、今回の企画を聞いてすぐに、「ブラインド(見えない)×花=街の灯」という方程式が出てきました。あのお花屋さんが映画から飛び出してきてリアルな現場で体験できたら、すごく素敵だし、やりたいな、と。
日比谷花壇|中野さん:お花はビジュアルがメインだと思っていたので、新しい視点だなと思いました。そして、私もご提案をいただいたあと『街の灯』を見ました。映画を見ながら、企画全体もこの映画のような雰囲気になるのかな、と想像していました。
石井さん:チャップリンの時代なので、映画では盲目の少女は「かわいそうな子」として描き方をしています。お金を稼ぐ手段として、花を売るしかない少女と、自分も貧困なのに少女を助けようとするチャップリン。ただ、今回僕らがやろうとしているのは「FUN」。かわいそうな視覚障害者からお花を買ってください、ではなく、「違う出会い方があるんだよ!すごく楽しいから一緒にやろうよ!」という気持ちです。体験自体は似ていますが、そういう意味では『街の灯』とも違いますね。
▼お話の途中、対談テーブルにそっと設置された日比谷花壇さんからのご厚意のアレンジメントが。「あ、そして、いまお花が登場しましたね!香りがする!」「そうです!香りの強いバラです!」と、会話が弾む石井さんと中野さん。
目を使わずにお花を選ぶ、という新体験
根上:ありがとうございます。企画の大枠が決まり、一度リハーサルをさせていただいた際は、本番と同様、石井さんがお花屋さんを、中野さんと私がお客さんとして体験させていただきました。リハーサルをしてみて、いかがでしたか?
石井さん:嗅覚と記憶は直結しているので、ふわっと街中で香水の香りが香ってきたとき昔の恋人を思いだしたりしますよね。面白かったのが、中野さんにあるお花の香りを嗅いでもらったとき、「研修の香り!」と答えてくれました(笑)。
日比谷花壇|中野さん:つらい思い出ではないんです(笑)。研修の時、会議室でみんなとお花を組むのを頑張ったな、というポジティブな情景が思い浮かんできて、びっくりしました。新入社員研修以外でも、同じお花を触ることがこれまでもあったのですが、研修の時の思い出がよみがえることはなかったので。
石井さん:思い浮かんできたのはなぜだったんだろう?
日比谷花壇|中野さん:やっぱり、アイマスクをしたからかな…?そのお花に集中したのだと思います。
石井さん:うんうん。あとはイマジネーション、想像だと思います。中野さんはプロフェッショナルで普段からお花に触れているし、今回来ていただくお客様も視覚的にお花を知っている方が多いと思います。だからこそ、香りや手触りだけで、今目の前にあるお花を頭の中で“描く”、そのプロセスがすごく面白くなるだろうなと。中野さんは知識をお持ちだったので、当日も選んだお花がある程度予想通りだったとおっしゃっていましたが、根上さんはいかがでしたか?
根上:全く、予想通りではなかったです(笑)。あぁ、今日私が選んだのはこういうお花だったんだなぁと思いました。触ったとき、「すごくかわいいな」と思った葉っぱも、普段なら切り落とされている位置にありました。触覚を使ったからこそ知ることができた、新しい発見でした。
私にとっては新しい体験だったのですが、普段からお花に触れてらっしゃる中野さんにとっても新しい体験だったのでしょうか?
日比谷花壇|中野さん:そうですね。お花自体は、花びらを触ると傷がついてしまったりするので、基本的には触らないようにしています。香りも、「このバラにはにおいがある・ない」という風に覚えていました。匂いがない、と思っていたお花にも、こんな香りがあったんだと思いました。
石井さん:僕は、パッと見て、このお花きれいだな、と思うことはもうできません。四季で変わるお花を感じることもできません。ただ、ふわっと香ってくる香りでなら、そこに花があることを感じることができます。以前トレッキングに行ったとき、花の香りがして「花がない?」と周りの人に聞きました。ただ「ないよ」と言われて。「絶対にあるから探して!ここに立ったら香りがするから!」と言ったら、崖の下にお花があった、ということがありました。お花の生命力を感じる手段は、ある程度距離をとって咲いているところ見る、ということだったのだと思うのですが、より近い距離で、花びら以外からも生命を感じることができるのは、この体験が提供できることなのかもしれないですね。
▼リハ―サルでお花を選ぶ体験をする中野さん(写真右)。お花を差し出す石井さん(写真左)
共創する中で見つけた、“お花”と“お花屋さん”の可能性
根上:今回、企画を作るところから、日比谷花壇さん・石井さんにご一緒いただきましたが、企画をする中で、また『見えないお花屋』というコンテンツを通じて、感じられた新たな気づきや可能性がありましたら教えてください。
日比谷花壇|中野さん:お花は、これまで形や見た目で選んでいたことが多かったと思うのですが、新しいお花の楽しみ方を提案できるなと思いました。香りとか、葉っぱの形で選ぶという楽しみもあるなと。
日比谷花壇|窪川さん:お花を触る、香りを嗅ぐ、ということは、普段から生活の一部として取り入れてもらえる文化を創りたいと思っています。お花は基本的に「ギフト」というイメージが強いと思っています。ギフトとしても広げていきたいとも、もちろん思っていますが、自分のために、お仕事帰りに買いに行く、家に飾って楽しむ。それがウェルビーイングにつながるように感じています。
石井さん:昔、どこかのカフェに、野で摘んできた花の小さな一輪挿しがあって。すごく素敵だなと思い、自宅でも近くの公園などから積んだ花を飾っていました。お花屋さんでお花を買うのも素敵ですが、花のある生活ってこういうことなのだろうな、と感じました
日比谷花壇|中野さん:今回の企画を通じて、さわったり、嗅いだりすることで、お花を少しでも身近に感じていただいて、生活に取り入れるきっかけになってもらえたらなと思っています。私もコロナ禍で、日比谷花壇の「お花のサブスク」を始めたことが、入社のきっかけでした。家にいるのが退屈で、外に出たいという気持ちが強かったのですが、お花が食卓にあることで、「今日は何のお花にしたの?」と家族に会話が生まれました。なんとなく、ちょっと明るくなったような。花が持つ、優しい、癒しの力なのかなと。
根上:私も、前回リハーサルで使ったお花をブーケにしていただいて、久しぶりに玄関に飾ったのですが、疲れて帰ってきても香りを嗅ぐと不思議と少し回復できました!他の大広メンバーからも「お花を持ち帰ったら、家庭も平和になりました」という声がありました。(笑)
日比谷花壇|窪川さん:今皆さんがおっしゃってくださったことは、僕ら販売員としてももちろん嬉しいのですが、生産者さんの思いが乗っているということも感じます。店頭に花がある、その裏で関わってきてくれた人の思いも、私たちは大切にしたいと考えています。
石井さん:“見えなくなる”ことで、物理的に見えないところまで思いを馳せることができると思っています。目が見えなくなって、少し心が回復した時期に食卓で「いただきます」と言おうとして、ふと、「自分はだれに感謝を伝えたらいいのだろう?」と考え始めました。食物の命をいただく、という意味はもちろん、作ってくれた妻、野菜を生産してくれた方、お皿を作ってくれた方、お金がないと材料が買えなかったと思うとお仕事の関係者の皆さん…そうやって考えていくと、「やばい!これ無限に感謝できるぞ!」と、なりました(笑)。そこからさらに考えていくと、「この野菜、品種が生まれるまでに…」と時間軸が出てきて…めちゃくちゃすごいものを毎日口にしているんだなと思いました。そう思うと、お花もそうですよね。品種改良などを重ねて生まれてきた、そしてこのお花とはここでしか出会えないと思うと、すごいことですよね。
日比谷花壇|窪川さん:花屋としての既成概念を壊していきたいと思っています。コロナ禍には花の自動販売機を新宿の駅構内に置き、花屋の営業時間外にも花を購入いただけるようにしていたり。そうやって、生活に寄り添うために、花の既成概念を壊していきたいと考えています。そういう意味では、本当に新しい視点を今回いただいたなと思います。
石井さん:一緒に企画をしてくれた高橋君※が言っていましたが、今回の企画ではお花を、茎や葉から触ってから、花びらに触れていただこうと思っています。最後に花びらと出会う。お花との出会い方が変わっていますよね。出会い方が変わっていくことが、すごく素敵だと思いました。そういう意味では既成概念が変わっていますよね。
※「FUNclusion Week 2025」に協力いただくクリエイター、発明家の高橋鴻介氏。FUNclusion研究所vol2でレポートしたイベントにご登壇。https://cocamp.daiko.co.jp/blog/negami-funclusion-2
▼お花を囲みながら会話されている、石井さん(写真左)と中野さん(写真左)
ご来場いただく皆さんへ
日比谷花壇|中野さん:正解がないので、楽しむことだけを考えて、思う存分想像して、新しい花の楽しみ方を見つけていただきたいです!
石井さん:文字通り、花とふれあう時間になったらいいなと思います。それこそ、新しい出会い方をしてもらえるときっと、花の生命力を含め、見た目だけでない魅力を感じてもらえるのではないかと思いました。
おわりに
今回はFUNclusion Week企画、『見えないお花屋―ブラインド・フラワーショップ』クリエイターの石井さんと、協力いただく日比谷花壇さんからお話を伺いました。
突然現れる“見えないお花屋”を通じて、皆さんにもいつもと少し違うお花との関わりを楽しんでいただきたいです。そして、普段は“見えなかった”お花の特徴や、お花の魅力、お花に関わる方々…お花の持つストーリーを、“ブラインド”を通じて感じていただけたら嬉しいです。今後も、FUNclusion Weekに関する発信を続けてまいります!それでは皆さん、次回のFUNclusion研究所でお会いできること、楽しみにしております。
参考
◆「FUNclusion Week 2025」公式サイト:https://funclusion.jp/
◆株式会社ヘラルボニー:https://www.heralbony.jp/
◆「FUNclusion Week 2025」リリース:https://www.daiko.co.jp/daiko-topics/2025/102814003410199
最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからも社会課題やソーシャルグッドに関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。
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この記事の著者
根上 小夏
(株)大広 ソリューションデザイン本部ストラテジックプランニング局



