顧客ニーズの多様化はビジネスのあり方に大きく影響を与えていますが、中でもジェンダーの多様性に対する対応は、企業の姿勢が顕著に見える分野。
第2回目は、商品開発や売り場づくり、顧客とのコミュニケーションで意識しておきたいポイントについて考察します。前回に引き続き、独自の調査・分析を通してLGBTなど性的少数者(以下、LGBT)のインサイトを深掘りし、企業のマーケティングやリスクマネジメントをサポートするLGBT総合研究所による解説をお送りします。
前回の記事はこちら
拡がるジェンダーレス〈第1回〉企業はどう対応すべきか?
ジェンダーレス時代、企業も変化を求められている
前回は「顧客の意識の変化」が、ジェンダーレスの潮流を創り出している状況について解説しました。
その変化は大きく3つに分類されること――(1)古い価値観からの解放を望む「不合理からの脱却と実利主義」、(2)ジェンダーより自分らしさに重きを置く「個性の追求」、(3)企業に対しても多様性・平等性を求める「Social Goodの選択」。大きく変化し、多様化する顧客のインサイトに対して、企業にも根本的な理解と抜本的な対応が求められていることがおわかりいただけたと思います。
顧客のインサイトに向き合うための「3つのポイント」
そうした状況を踏まえた上で、では、顧客とのよりよいコミュニケーションのために、企業はどのようなことを意識するべきなのでしょうか。具体的な3つのポイントを挙げたいと思います。
(1)ジェンダー・ユニバーサルデザイン――
商品も売り場もジェンダーレス対応へ
ユニバーサルデザインとは、個々の違いに関わらず出来るだけ多くの人が利用できることを目指した設計・デザインのこと。ジェンダーの視点でユニバーサルデザインを目指すのが、ジェンダー・ユニバーサルデザイン(Gender Universal Design)です。
パッケージや商品に採用する色調の工夫などもそのひとつです。これまでは、女性向けにはピンクや赤などの暖色、男性向けには黒や青の寒色が利用されることが一般的に多くありました。こうした性差に単純に色と紐づけることは、分かりやすさがある一方、機会損失にもなります。たとえば、昨今ではランドセルにも多様な色調が増え、性に関わらず好きな色を選べるようになっていることも、ジェンダーレス時代のインサイトを的確にとらえていると思います。
売り場のつくりかたも、ジェンダーレスの視点で見直す工夫をしてみることも重要です。日本では、まだまだ男女で売り場が分かれている場合が多いと思いますが、紳士服のフロアには女性は入りづらいし、逆も同じです。ジェンダーレスな商品が増えてきている今、商品との接触の機会を減らすという点で機会損失に繋がる可能性があります。
実際、アメリカやヨーロッパでは、ジェンダーレスなフロアや性の垣根をはずした売り場を新たに設ける例も増えており、店内の回遊率を高めて商品との接触機会を増やし、実際に売り上げを伸ばしています。
(2)イノベーションもインクルーシブに
商品開発や改良のためには市場調査が欠かせませんが、その方法にも多様なジェンダーの視点を取り入れると、まったく新しい市場機会が浮かび上がってくることもあります。
調査対象を性や年代で区切った従来の定量調査では発見できない、潜在的なニーズが無数に存在するからです(それこそが、多様性社会の特徴であるとも言えます)。
たとえば、子どもの玩具は、「男の子向け」「女の子向け」と分類されがちです。しかし実際には、戦隊ヒーローが好きな女の子も、ドレスのデザインに興味を持つ男の子も存在します(それ以外にも多様なニーズが存在するはずです)。
企業や大人が抱く固定観念に縛られることなく、幼い子供たちが選びたいものを選べる選択肢を設けることは、未来のジェンダー観を企業側も学ぶチャンスともなるのです。
過去の成功体験や他社事例を基に価値発想していると、そうした多様なニーズを理解することができず、未来につながる価値創造ができません。
旧来の価値観で顧客を限定するのではなく、より幅広い顧客の声に耳を傾け、多様な顧客と一緒にものづくりをし、改良していこうとする姿勢が重要です。たとえば、男性向けの商品に対して女性の意見を聞いたり、マイノリティの人たちの声を取り入れたりしてみる。
そこには思いがけない発見があり、商品開発に新しい価値をもたらすでしょう。
(3)ジェンダーレスへの取り組みを、社会に発信する
ジェンダーレスへの取り組みの社会的意義や自社の価値観を明示することも重要です。前回、顧客は、Social Good(社会に対してよいインパクトを与える活動や商品・サービス)を求めているというお話をしました。
ジェンダーを含めた多様性に真摯に向き合う企業を応援したいと考えている顧客は増えており、Social Goodは商品の選択基準のひとつになっています。
企業にとって、多様性に向き合う姿勢はチャンスメイクになる一方で、放置していると機会損失につながるということです。
日本でも、多くの企業が多様な性のあり方に向き合う自社の方針や行動指針を定め、公開しています。同時に、従業員に向けては研修など啓発活動を行ない、事業に関わる全員がその方針を理解し、遵守するよう行動しています。
また、自治体間により差異が出てくる同性パートナーシップ制度ではなく、会社としてパートナーシップ関係を認める制度を作ったり、法廷婚・事実婚・同姓パートナーを問わず行使できる独自の休暇制度を設けるなど、制度面での平等化に取り組む企業もあります。
多様な性のあり方に向き合う考え方を明確化し、それを社会に向けて発信する。そして、多様な性のあり方に対する理解を深めた上で、顧客に提供する価値となるブランドや商品・サービス設計のコンセプトにおいても、様々な価値観を組み込んでいく――こうした姿勢が企業に求められていると思います。
図 ジェンダーレス時代に企業が意識すべき3つのポイント
異なる価値観を理解し、尊重する、価値共創の企業活動を
2回にわたってジェンダーレス時代の潮流を読み解いてきました。
多様性社会における顧客価値の幅は無限ともいえます。企業から見れば、マーケティング活動で顧客を捉えづらい時代になったと思うかもしれません。しかし、だからこそ、向き合い方を変えてみることが必要なのだと考えます。
まず、異なる価値観を知ること。その人たちが大切にしているものを理解し、尊重しながらものづくりをし、発信していくこと――すなわち、顧客との価値共創です。多様な顧客とコミュニケートし、多様な課題を発見することは、企業にとって今後ますます重要になると思います。
LGBT総合研究所は様々な性のあり方や多様なジェンダーの視点で顧客と向き合うことに挑戦し続けていますが、これはジェンダーレスのトレンドに限らず、あらゆる社会課題においても必要な視点だと考えています。
これからも顧客と共に価値を創造することに挑戦していきたいと思います。
この記事の著者
森永 貴彦
株式会社 LGBT総合研究所 代表取締役社長
【株式会社LGBT総合研究所】
LGBTQ+に特化したマーケティング企業。「生活者発想」で、さまざまな性のあり方を調査・研究し、国内のLGBTQ+に関する豊富で質の高いデータを蓄積・保有し、企業や自治体に最適なソリューションを提供している。