ダイレクトマーケティングでは、広告がいわば「売り場」の機能を持つため、クリエイティブの質が成果を大きく左右します。ターゲットの目に留まり、内容を理解してもらい、最終的に購買に至るまで、ターゲットの行動を促す魅力的なクリエイティブが不可欠です。ダイレクトマーケティングには「顧客を理解し、その行動を促す」という顧客起点のノウハウがあるようです。顧客をセグメントすることや、顧客の声や行動データを基に顧客理解を深めることと同じように、実はクリエイティブにもメソッドがあります。ダイレクトマーケティングを成功させるクリエイティブメソッド、メソッドの構成要素とはどんなものでしょうか。今日は(株)大広WEDOのクリエイティブ・ディレクター小倉さんに、効果の高いダイレクトレスポンス広告の作り方についてお話しいただきます。
小倉 和徳
株式会社大広WEDO
東京クリエイティブ局 第1制作部
クリエイティブディレクター・アートディレクター
入社27年勤務。健康食品・美容・保険・健康器具など、さまざまなダイレクト商材に精通。認知・獲得・CRMなど様々なコミュニケーションの企画・制作に取り組む新規からCRMまでダイレクトマスターです。
ダイレクトレスポンス広告のクリエイティブについて
多くの企業やブランドを担当するようになって、これまでの知見をもとにした広告を提案させていただいています。知見は様々あるのですが、いろんなクライアント企業に感心を寄せていただけるのが、今日お話しする「S-Stream Plot Planning」というメソッドです。
「S-Stream Plot Planning」の話の前に、店頭などで販売される商材のブランド広告とダイレクトマーケティング商材の広告クリエイティブの違いをお話しします。
いわゆるブランド広告は商品や企業名を覚えてもらう、認知してもらうことに主眼に置いているところがあります。シンプルにわかりやすく、生活者に興味を持ってもらう考え方で作られている。一方ダイレクトマーケティングでは「広告は店舗」とよく言われるように、広告で商品を知ってもらうだけでなく、商品特徴を理解していただいて「これ欲しい」と思ってもらって買ってもらうまでを担うことが求められます。ここに大きな違いがあります。
実はこの理解が広告制作ではとても重要になります。
私たちが感じる企画制作における難しさはいくつかあるのですが、ダイレクトマーケティングにあまり慣れていないクライアント企業ですと、自社商品の訴求ポイントが開発者視点であったり営業視点であったりします。そこは大事な部分ではありますが、お客様が求めていることとズレてしまう。そういう場合、私たちの方から「こんな視点がありますよ」とアドバイスを差し上げながら進めるようにしています。一方でダイレクトマーケティングの知見も豊富でしっかりやっているクライアント企業であっても、担当者が変わると積み上げてきたことが引き継がれずに、もう一回ゼロからスタートということもあります。ダイレクトレスポンス広告は、知見の積み上げがとても重要です。
新聞の折込チラシやデジタルのランディングページでAB テストをプランニングするときには、A と B を実施してCPAなど結果が出たときにどこに差が出るのか、ある程度考えながら計画を立てて提案します。しかしクライアント企業はまた違った視点を持っていて、テストするべき要素以外の要素を追加したいというお戻しをいただくことが結構多いです。
例えばチラシのキャッチコピーのテストをしたい。その場合、それ以外の要素はあまり変えずにキャッチコピーのAとBテストをしましょう、という提案をしますが、クライアント企業からはキャッチコピーだけじゃなくてビジュアルも変えましょう、細かな要素を追加しましょう、という話によくなります。より良くしたいという発想は間違っていないのですが、そうするとテストの結果としてどこが良かったのか悪かったのか、正確に判断しづらくなってしまう。その場合、得意先様の意見は否定せずにうまく整理しながら、テスト結果の内容をきちんと把握できるように意識しながら制作しなくていけません。ダイレクトレスポンス広告制作の実際ではどうしてもそういったことが起こることもあります。
S-Stream Plot Planningについて
ダイレクトレスポンス広告制作における留意点をお話ししましたが、大広、大広WEDOが持つ「S-Stream Plot Planning」(以降S-Stream)についてお話しします。
S-Streamは、一言で言うと商品を購入する際の意思決定プロセスです。
商品を購入していただくアプローチのプロセスを、存在を認識していただく「情報認識」、商品を知りたいという動機づけとなる「感情喚起」、商品理解を促す「提案理解」、商品購入を判断する「価値評価」をして、じゃあ買おうという行動に移すまでのプロセスをフロー化しています。
ダイレクトマーケティングの場合、ひとつの広告の中でターゲットとなる生活者に、商品の購入までたどり着かせなければいけません。広告表現、ストーリー開発をS-Streamで整理すると、ターゲットの行動を流れを追って、表現開発することができます。S-Stream は折込チラシやデジタル広告、新聞広告やインフォマーシャルなどメディアを問わず活用することができます。
広告表現においては、読み進める導線を意識して配置することが重要です。また、先に「感情喚起」へ導く広告表現の方が商品購入を促す方が良いとされています。
私たちが新しいクライアント企業に伺う時、大広、大広WEDOのクレデンシャルとしてS-Stream を紹介するのですが、いろんなクライアント企業が大きな関心を寄せてくださいます。
得意先様も今まで経験値的に「こういう情報を入れたらいいだろう」「こういうコピーなら買ってもらえるのでは」と苦心されていますが、S-Streamのようなサイエンスを背景にロジカルに制作したことがなかったということもよく伺います。そもそもどういう構造で広告を作ったらいいのかわからないというような、初めてダイレクトに携わる方たちにとっても、教科書的な考え方として理解してもらいやすいメソッドでもあります。
ここでS-Stream の主なプロセスを膝の痛みを緩和する健康食品の事例を挟みながら順に説明します。
情報認識
商品を購入していただくアプローチの第一歩は、存在を認識していただくことが重要です。これが「情報認識」というプロセスです。買い物でお店に入ったとしましょう。お店の中にちょっと気になる商品があるなと気づくこと、それが「情報認識」です。広告表現では、レイアウトなど商品の存在を印象づける工夫をすることにあたります。
感情喚起
広告のストーリー、あるいはターゲットの目線をすぐさま商品情報や商品の機能などの説明につなげることもできるのですが、実は一旦「感情喚起」へ導く広告表現の方が商品購入を促す方が良いことがわかっています。商品を見ただけでは反応しない消費者でも、感情的な共鳴が生まれれば、商品の購入に繋がります。ダイレクトマーケティングにおいても、「急がば回れ」という諺は有効なんです。つまり私たちが広告表現を開発するとき、この「感情喚起」のプロセスをどうつくるかが重要だと考えています。
「感情喚起」を成功させるには、ターゲットが抱える具体的な問題を取り上げ、その解決策を提案することにかかっています。例えば、「階段を上がるのが辛い」と感じている人々に対し、その悩みに共感し、どのようにその問題を解決できるかを示すことで、感情的な共鳴を生み出すことができます。「感情喚起」が成功すると、消費者は商品に対する興味を持ち、実際に購入に至る可能性が高まります。
提案理解
提案理解の段階では、商品がどのように消費者の問題を解決するかを訴求します。たとえば、膝の悩みを改善する健康食品の場合、「膝の痛みを和らげる」という機能を伝えることが重要です。この段階では、商品がどのように効果を発揮するのか、どのように他の商品と異なるのかを明確に説明します。臨床試験の結果や成分の詳細を示すことで、消費者の納得感を高め、商品の信頼性を強化します。
また、LP(ランディングページ)などで商品の特徴を説明する際、限られたスペースで重要な情報を提供するために、どの情報を強調するかを慎重に選ぶ必要があります。商品の機能や効果を説明する一方で、感情的なアプローチとも調和させることが求められます。
価値評価
価値評価は、ターゲットが最終的に購入を決定するための後押しをする部分です。
商品の信頼性を高めるためには、第三者の推奨、販売実績などの証拠を提示することが効果的です。たとえば顧客満足度が高い調査結果や、「ナンバーワン」の売り上げ実績があることを提示すると、購入に対する安心感が生まれます。
実際に使用した顧客の評価や体験談である「お客様の声」は、価値評価を醸成するために最も効果の高いエビデンスです。「お客様の声」を紹介することで、消費者の不安を取り除き、購入への意欲を引き出します。
CTA(コール・トゥ・アクション)
CTA(コール・トゥ・アクション)では、消費者に購入を促すための最終的な決定をサポートします。消費者が「この価格でこの商品が手に入るなら損はしない」と感じるように、価格の透明性やオファー(無料お試しなど)を強調します。これにより、消費者は購入に踏み切りやすくなります。
また、購入後の手続きが簡単であることも重要です。申し込み方法を明確にし、消費者が簡単に購入できるように導線を整理することが求められます。
健康食品(膝の痛みを和らげる商品)の事例
健康食品の膝の痛みを和らげる商品を事例として、感情喚起から、CTAまで以下の図でご説明しています。広告表現にする際には、感情喚起から入り、読み進める導線を意識して配置しています。
(※制作物はダミーの商品で制作しております。)
<「感情喚起」の例>
例えば、「感情喚起」では、膝の痛みを感じている生活者に対して、「そういえば最近膝が痛むことが多い」といった悩みを引き出すことが必要です。ターゲットが共感できるような問いかけをすることで、その悩みを引き出すのです。
具体的には、商品のターゲットが「いつも膝に痛みを感じる人」と「時々膝が痛くなる人」では、アプローチが異なります。膝がいつも痛む人には、より強い訴求が必要です。たとえば「膝が痛くて階段の上り下りが辛い」といった具体的なシチュエーションを提示することで、その痛みがいかに日常生活に支障をきたしているかを強調します。一方で、膝に少し違和感を感じるだけの人に対しては、「最近膝がちょっと痛くなった気がする」といった、やや軽い症状に触れることで共感を呼び起こします。このように、ターゲット層の症状の深刻さに合わせたメッセージが求められるのです。
仮に「膝がいつも痛くて困っている人」をターゲットにする場合、「時々つらい」症状による悩みを提示してしまうと、実際に深刻な悩みを抱える人々からは反応を得られない可能性があります。このターゲットのズレが反応の低下を引き起こす原因となります。
S-Streamに基づいた広告表現がPDCAサイクルを回しやすくなる理由:改善ポイントを見つけやすい
S-Streamは広告制作におけるフレームとしても機能するため、テストや改善の際にどこが効果的だったのか、どこに課題があったのかを特定しやすくなります。広告の効果を測定する際、どの部分が購買に影響を与えたのかを明確にすることができます。
「テストを繰り返すことで、結果がどこで出たかが明確になる」
たとえば、ABテストを実施した場合、S-Streamをフレームとして制作した広告では、レイアウト、コピー、訴求内容のどこに改善の余地があったのかが簡単にわかります。
そして、成果が出た部分(良かったクリエイティブ)を分析し、その部分を強化することができます。
逆に、効果が出なかった部分(改善が必要な部分)も特定でき、その部分に対して次回の広告制作で修正を加えることができるのです。
そのため、S-Streamに基づいた広告は、次回の広告制作において「より効果的な要素」を見つけ出し、それを活用するため、PDCA(計画・実行・確認・改善)サイクルを効率的に回すことができます。これにより、広告の質を段階的に向上させることが可能になります。
「他の商品でもS-Streamを適用した過成功事例を参考にすることで、効果の高いクリエイティブを再現できる」
例えば、膝の痛みに対して効果的だった広告を基に、別の製品(例えば、関節サポートサプリメント)にも同じような感情喚起の手法を使い、同じような成果を得ることができます。
また、再現性が高い広告を作るためには、広告の背後にある「科学的なアプローチ」と「知見」が融合していることが欠かせません。S-Streamは、効果的な広告を制作するためのフレームですが、過去のデータや蓄積された経験値、そしてターゲットの理解が加わることで、初めて広告は効果を発揮すると思います。
まとめ
私たちが仕事に取り組む際に得意先様にお伝えすることは、まず「感情喚起」がどの程度効果的に行われているかを分析することが重要だということです。また、テスト結果が良くない場合は、ターゲットやオファーの設定などの見直しを行うべきです。ターゲット層が適切でない場合、ターゲット層を再確認し、その層に最適なメッセージを作り直す必要があります。
さらに、商品の価格がターゲットの期待に合っているかどうかを見直し、適切なオファーを選ぶことも重要です。余談になりますが、ご担当者が変わられてもこれまでの計画やクリエイティブの足跡が引き継がれやすいことも利点ではないかと思います。
S-Streamを理解すれば、広告制作をより分かりやすく行えるようになります。ダイレクトマーケティングの初心者でも、S-Streamのフレームワークに基づいて広告を構成することはできます。ただし、広告の効果を最大化するためには、知見や経験が不可欠であり、その融合が成功のカギとなります。ダイレクトマーケティングが初めてのトライアルというお客様も、最近踊り場に差し掛かっていて効率が上がらないというお客様も、ぜひ大広WEDOの知見とS-Streamをご検討いただければと思います。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからもダイレクトマーケティング・D2C事業に関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。
またCOCAMP編集室では、みなさんからの「このコラムのここが良かった」というご感想や「こんなコンテンツがあれば役立つ」などのご意見をお待ちしています。こちら相談フォームから、ぜひご連絡ください。