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2023.03.29

「ウェルビーイング体質」を育むために、私たちができること。

「わかりやすい幸せのかたち」が失われた世界

みなさんにとって「幸せ」とは何ですか?
30代後半から40歳頃までの数年間、ぼくはこの問いに答えることができませんでした。

何をやっても空回りで、やりたいことが見つからず、うまくやっている他の人たちと自分を比べて焦ってばかりいました。人生に行きづまったぼくは、色んな人たちに「幸せとは何か」ということについて、話を聞いてまわりました。経営者、心理学者、小説家、医者、お坊さん…。そこで、ある人にこう言われたのです。

「あなたは十分幸せだと思います。ちゃんとした仕事があって、大切な家族もいて、おまけにそんな答えの出ないようなことに悩んでいる余裕まである…」

はっとしました。ぼくはすでにたくさんのことで満たされているのです。なのに、どうしてそんな当たり前のことに気づくことができなかったのでしょうか。

それは、ぼくがいつのまにか「幸せとは自分の外にあって、自分の努力で勝ち取るもの」と思いこむようになっていたからだと思います。受験戦争や就職氷河期、あるいは仕事での無数の競争を経験することで、その思いこみはより強固なものになっていったのでしょう。そういった考えは決して悪いものではなく、ちゃんと目標ややりたいことがはっきりとある場合は、人を勇気づけてくれるものです。ただ、誰もがいつでもやりたいことがあるとは限らないし、また、目標を達成しようとする努力が必ず報われるとも限りません。

これまでの世の中はそれでもよかった。それなりの努力がそれなりに報われる世界でした。それなりの会社に就職して、それなりに働いて、結婚して、老後はそれなりにゆっくりすごす…。そういった「わかりやすい幸せのかたち」がありました。

しかし、それが失われてしまった今、私たちは何を頼りにして生きていけばいいのでしょうか。
これが私たちのプロジェクトが向きあっている課題です。

 

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「ウェルビーイング体質」を育む

「わかりやすい幸せのかたち」が失われてしまった今、私たちは「自分の幸せとは何か」ということを一人一人が考え、自分なりに答えを見つける時代がやってきています。
私たちは、自分の幸せ=ウェルビーイングに気づき育てていく力を「ウェルビーイング体質」と呼んでいます。幸せを手に入れたらそれでおしまい、ということではなく、幸せに気づき、それをじっくりと育み続ける、いわば「体質づくり」が大事なのではないかと考え、この「体質づくり」に役立つ独自サービスの開発に取り組んでいます。
 
現在、人々の幸福度を向上するためにどんなことが役立つか、さまざまな研究が世界中で行われています。日本のウェルビーイング研究の第一人者として知られる慶應義塾大学院の前野教授は、幸福度を高める4つの因子を導き出しています。
 
第1因子は「やってみよう」因子。たとえば、何か夢や目標を持ったり、新しいことにチャレンジすることで、人は幸せを感じることができます。
第2因子は「ありがとう」因子。人を喜ばせたり、感謝したりすることも、幸福度を高めます。
第3因子は「なんとかなる」因子。物事の良い面を見て、楽観的でいられる人は幸せです。
そして第4因子は「ありのままに」因子。他者と比較せず、自分らしくいられるように、自分の強みを見つけて高めていくことも、幸福度の向上に役立ちます。
 
この4因子はとてもわかりやすいので、ぼくは、ちょっと調子が悪いな、と思ったときに「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」と口に出すようにしています。すると「あ、今ちょっと『やってみよう』が不足しているかもしれない…よし、何かにチャレンジしてみよう!」といったように、新たな行動を起こすきっかけとなったりします。
 
他にも、世の中には、ウェルビーイング体質を育むために役立つさまざまな方法があります。
瞑想や坐禅、マインドフルネスといった、自分の内側を掘り下げていくようなもの。
自然の雄大さに触れる旅など、いつもと違う環境に身を置いて、外から刺激をもらうもの。
これまでの価値観を揺さぶるような小説や映画などに出会うことも役に立つでしょう。
もっと言えば、私たちの周りのあらゆることが、とらえかた次第で「ウェルビーイング体質」を育む機会となることでしょう。
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動機を同期する

 しかし、このような「ウェルビーイング体質」を育む活動は、個人で取り組むだけでは十分ではないと私たちは考えています。

研究開発にあたり、働く人々を対象に、どんな時に幸せや不幸せを感じるかについてインタビューを行ったところ、人々の悩みやストレスの原因の多くは、職場の人間関係から生じていました。一方で、ワクワクするような高揚感やほっとできる安心感の多くも、やっぱり職場の人間関係の中から生まれていました。いくら個人が自分の幸福度を高める努力をしても、よい人間関係に恵まれなければ、「ウェルビーイング体質」はなかなか育たないように見えます。

では、どんな人間関係が「よい人間関係」なのでしょうか。

私たちは、お互いの「動機を同期できる」関係こそが、よい人間関係だと考えています。一人一人が働く「動機」は人の数だけ違っています。動機はお金のためだけとは限りません。自分の実力を試してみたい、世の中に何かを生み出したい、自分らしさを手に入れたい、人のために役立ちたい、毎日を穏やかにすごしたい…。人はさまざま動機を持って働いています。同じ職場で働く人たちがまったく同じ動機を持って仕事をしているわけではありません。

それでも、これまでは日本の多くの企業には「会社が成長することがみんなの幸せ」「みんなで一緒に豊かになろう」という共通の動機がありました。しかし一歩先すら見通しづらいVUCAの時代、そして個人主義化や価値観の多様化が進む時代において、それだけでは多様な人々の働く動機を束ねることが難しくなってきています。

また、最近はリモートワークや業務のデジタル化が一気に浸透しました。このこと自体はとてもすばらしいことだとぼくは思いますが、一方で職場のコミュニケーションが不足しているという声を色んなところで聞くようになりました。

これからは、働く人同士がお互いの働く動機についてもっと知りあい、その中でお互いが協力しあって実現できることを「同期」し、それを大きく育てていくことがますます重要となってくるのではないでしょうか。

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3つの同期

「動機を同期する」ためには、3つの同期が重要だと私たちは考えています。
 
1つめは体験の同期。
みんなで同じことを体験すると、お互いの心の距離が一気に近づきます。2020年には世界中の人々が同時にコロナ禍という体験を共有しました。不安でいっぱいの日々でしたが、同時にぼくは不思議な連帯感も感じていました。ぼくは当時、なんとかオンラインで大人数の対話やワークショップができないかと試行錯誤していたのですが、同じように悩んでいる人同士でオンラインで相談しあう、という体験をしました。集まった人たちは職業も立場もバラバラでしたが、お互いに見つけたアイデアを教えあったり、不安に感じていることを打ち明けあったりして、オンラインでもこんなにあたたかい気持ちになれるんだと感動したものです。
 
2つめは場の同期。
人と人が同じ「場」を共有することで、相互作用が生まれます。「場」というとオフィスや施設などリアルな空間をイメージしがちですが、メタバースのような仮想空間も立派な「場」ですし、もっと言うなら、別に空間などなくても、人と人がお互いの存在を認識し、何らかの影響を与え合おうとする状況があれば、それはすべて「場」が同期されていると言えるでしょう。
 
そして3つめは関係性の同期。
一人一人の「動機を同期」するためには、お互いが心を開き、意見を尊重しあえる関係性が必要です。直接の上司と部下や、得意先と受注者のような、お互いの役割が固定されがちな組み合わせだと、そのような関係性を作ることが難しい場合があります。そんな時は第三者が介入したり、心理的安全を守るためのルールを作ったりと、オープンでフラットな関係性でいられるための工夫が必要となります。
そして、この3つの条件が満たされた中で「動機を同期する」ための対話が始まるのです。
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現在の取り組み

このような考えのもと、私たちのプロジェクトでは、人と人がお互いの動機を同期して、ともに「ウェルビーイング体質」を育んでいくことに役立つサービスの研究開発に取り組んでいます。
 
たとえば、みんなでコーヒーを焙煎から一緒に作業したり、カレーを一緒に作ったりするなどの「体験の同期」を重視したプログラムや、旅先で焚火を囲んで語り合う「場の同期」を重視したプログラム、上司も部下も得意先も受注者もなく誰もが楽しく掃除をする「関係性の同期」を重視したプログラムなど、ただ「しゃべる」だけではない対話プログラムを開発しています。
 
また、企業のマーケティング活動においても、顧客と企業の「動機の同期」を推進するフレームワークを開発中です。マーケティングの分野では顧客の「動機」についてはさまざまな研究が行われてきていました。一方で、企業の「動機」についてはどうでしょうか。「企業」という人は存在しません。そこには一人一人違った「動機」を持って働いている従業員がいます。商品やサービスを通して、顧客と従業員がお互いの大切にしていることを「同期」できれば、そこで生まれる関係性はかけがえのないものになります。その時、マーケティングは、顧客と企業の従業員がお互いの「ウェルビーイング体質」を育みあう活動へと進化することになるでしょう。
 
さらに、私たちはプロジェクトの活動を、生活者一人一人の「ウェルビーイング体質」づくりに役立つものへと広げていきたいと考えています。現在、個人の幸福度を向上させたり、心の健康を維持したりするためのさまざまなサービスが生まれていますが、普段の生活においても、やはり個人だけの取り組みでは限界があると考えます。職場はもちろん、地域、家族、友人などのあいだで、ともに「ウェルビーイング体質」を向上できる関係性が育つためのサービスを開発・提供したいと考えています。
そのために、企業や業界を超えて協力しあえる仲間を探しています。もし、このプロジェクトに関心をお持ちいただけたら、ぜひお声がけください。ともに幸せな世界を作っていきましょう。
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〈プロジェクトメンバー〉
・荘野一星
・上垣内 淳
・上月 温子
・増田 浩一
・村上 実紗子

この記事の著者

荘野 一星

コピーライター、クリエイティブディレクターとして広告制作に携わったあと、さまざまな業界・領域・職種の仕事を経験。中年に差しかかり、人生に迷っていた頃に「ウェルビーイング」というテーマと出会い、これからは人間の幸せについて真正面から考える仕事をしようと決意。ウェルビーイングデザインセンターを立ち上げ、すばらしい仲間たちとともにサービス開発に取り組んでいる。