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2025.04.28

「ウェルビーイング」をキーワードに地方創生をめざす ~第2のふるさとづくりプロジェクト~

ここ数年、「ウェルビーイング」という言葉をよく耳にします。身体的・精神的・社会的に満たされた状態を指す言葉で、「幸せ」とほぼ同義と言えるかもしれません。ストレス過多の社会を背景に、ウェルビーイングをテーマとしたビジネスは大きな可能性を秘めています。大広も2023年にウェルビーイングデザインセンターを立ち上げ、独自のビジネス開発に取り組んできました。そしてカタチになったのが、新たな観光のあり方を提案するマッチングサービス「旅は人まかせ」です。ウェルビーイングの実現とともに、地方創生にもつながるこのサービスは、一体どのようにして生まれたのか。開発に携わった荘野さん、前地さんからお話を聞きました。

◆「旅は人まかせ」について◆
四国の中でも「いしづちエリア」と呼ばれる地域の4自治体(愛媛県西条市・久万高原町、高知県いの町・大川村)が、民間企業4社(クラブツーリズム株式会社、ジョージ・アンド・ショーン株式会社、株式会社ソラヤマいしづち、株式会社大広)との協働で取り組む事業。「ゲスト(来訪者)」と、「キャスト(地域の人)」と呼ばれる地域の人々をつなげることで、より深く特別な観光の体験を提供するマッチングサービスです。情報発信およびマッチングは、「旅は人まかせ」のデジタルプラットフォーム(公式サイト)を介して行われます。

「旅」という体験創出に着目した理由

「焚き火はウェルビーイング」がヒントになった

 

 僕は数年前から、「ウェルビーイング」をキーワードに何か新しいことができないか…と考えて仲間探しをしていました。そんな中で出会って意気投合したのが、旅行会社であるクラブツーリズムの方々です。ある日、その皆さんと「ウェルビーイングって何だろう」とフランクに話しているとき、「焚き火ってウェルビーイングですよね」と言われてハッとしました。あぁ、そうかもしれない、と。横文字の抽象的なワードのままだとピンとこない人もいるけど、「焚き火はウェルビーイングだ」って言われると、何となくわかってもらえるような気がしたんです。
 その後、クラブツーリズムの新規事業担当のお二人に誘っていただき、長野の駒ヶ根というところで実際に焚き火を体験してみました。今から3年ぐらい前の話です。
長野の駒ヶ根
きれいな川のそばのキャンプ場で火を焚いて、お酒を飲みながら地元の人たちといろんな話をしました。これから、この駒ヶ根をどんな場所にしていきたいか。そのためには何が必要か…。そんなことを、満天の星空のもとで。
焚き火S
いま振り返ってもそれは、ものすごくいい時間でした。そして不思議なことに、自宅に帰ってきてからも、旅の最中以上に幸せな気持ちがしばらく続いたのです。

 

特別な体験を通して人とつながることの意義

 

 焚き火体験をする前は、日常から離れ、火を見つめながら自分自身も見つめ直す…みたいなことを楽しみにしていました。でも実際にやってみると、それも充分に良かったけれど、何と言っても地元の人とつながれたことが幸せでした。めちゃくちゃ話し込んだわけじゃなくても、薪につけた火の育て方を教えてもらったり、そばに木のカウンターを持ってきて一緒にお酒を作ったりとか。
あの夜、あの場所には、焚き火を介して自然環境や地域への思いを共有できるコミュニティが確かにできあがっていた。それに焚き火って、ちょっと話が途切れても、火を見ながら「きれいねー」「ずっと見てられるよねー」なんて言えるから、無理に間を持たせなくていい。そんなユルい心地よさの中にいると、この人たちとずっと居たいな、一緒に何かやりたいな…と思える自分がいました。

  こうした経験が今回、「旅」で多くの人のウェルビーイングを実現できるんじゃないか…という発想につながったと思います。それは単に観光スポットを見て、おいしいものを食べるという旅ではありません。長く滞在して地域外の人には知られざる体験をしたり、あの人に会いたい!という理由で何度もリピーターとして訪れたり…。そんな、ライフスタイルのひとつとなり得るような地域観光を創出したいなと。また、迎え入れる住民にとっても、こんな体験をしてもらおう、こんな準備をしておこうと考えることが、ひいては産業が育つことにもつながるんじゃないかと。いわゆる地方創生のためにも、「来訪者と地域の人を継続的に結びつける仕組みをつくりたい」と考えて、いろいろと妄想をはじめました。

 

 

モニターツアーによる検証とデジタルプラットフォームの開発

コンセプトは「エンゲージメント・ツーリズム」

 今回「旅は人まかせ」のサービスを立ち上げたのは、四国の「いしづちエリア」と呼ばれる愛媛県西条市・久万高原町、高知県いの町・大川村の4自治体です。このエリアの観光資源としては、西日本で一番高い標高1,982mの石鎚山(いしづちさん)が登山者に人気なのですが、近年は隣で勢いを増す「しまなみエリア」の陰に隠れてしまっていました。また、4自治体とも人口減少、若者の流出、産業の担い手不足といった共通の社会課題がありました。ただ、西条市については「住みたい田舎」と題して月刊誌が行った全国アンケートにおいて、若者世代の部門で3年連続1位になっています。周辺地域も含め、ポテンシャルは秘めているんです。この、いしづちエリアを旅したい人と、地元で迎え入れる人をつなぐデジタルプラットフォームの開発がスタートしました。

 コンセプトは「エンゲージメント・ツーリズム」です。エンゲージメントとは、「深いつながりを持った関係性」を示す言葉。今回のサービス開発のために行った調査から、旅が好きな人々の多くは、旅に「その地域に住む人々との関わり」を求めるという結果を得ました。従来型の消費するだけの観光ではなく、来訪者が地元の人を通じて特別な体験を共有することで、地域とのつながりが強固になる観光を提案することを目指しました。

エンゲージメント・ツーリズム説明図

 サービス利用の流れとして、まず旅をしたい人はユーザー登録をして、気になるキャストを探します。キャストというのは、自身の生活や生業を体験として提供してくれるガイドのような人のこと。ゆくゆくは、そういうことをやったことのないキャストの育成もしていきたいのですが、ひとまずは元々そういったことを生業にしている方や、地域おこし協力隊の方、観光関係の方などにお願いしています。気になるキャストが見つかったら、チャットで話して、興味のある体験などについて具体的に相談することができます。話がまとまれば予約リクエストをして、いよいよ出発です。ただ、一般のツアー旅行のように細かな日程までは詰めません。その先はキャスト次第、そのとき次第となります。だから「旅は人まかせ」なんです。
 たとえば農業をやってみたくて調べていたら、高知県いの町の特産品が生姜であることを知ったので、生姜の栽培体験も盛り込んでもらった。そして実際に作業していると、たまたまキャストの知り合いの人が通りかかった。その人はカヌーの名人で、「明日、乗ってみる?」という話になって…。その川下りの様子をSNSに載せたら、友達が食いついてきて、次は一緒に行くことになって…とか。そんなふうに旅マエ、旅ナカ、旅アトを通してワクワクできて、人と人との化学反応を起こせることが、普通の旅行サイトとの違いかなと思っています。

 

モニターツアーの実感を活かしてできた“旅は人まかせ”というネーミング

 だけど、本当にこんなマッチングサービスがビジネスとして成立するのか。それを検証するために、モニターによる試験運用を重ねました。大広の社内でもモニターを募集して、興味を持った人が集まりました。そのうちの1人で、西条市のお祭りに参加した前地さんの話がこの旅のコアとなる価値を語ってくれているので、ご紹介します。

<地元の人とワクワクつながった体験記>

 社内でモニターツアーの参加者募集を見て「普段できないことができる!面白そう!」と思った私はすぐに応募して、江戸時代から続く西条市の伝統的な秋祭り「西条まつり」に参加することになりました。モニターツアーでは2回、西条市を訪問しました。1回目は事前学習、2回目がお祭りの本番でした。モニター参加者は地域の人と一緒にだんじりを担がせてもらえるということで、事前学習ではだんじりが回るコースを自転車で下見したり、太鼓の練習をしたりしました。その事前学習で、私は思ってもみない事実を知らされたのです。

西条祭りは、48時間だんじりを担ぎ続けるお祭りだということを…!!

 西条まつりのだんじりは「西条型」と呼ばれる2〜3段づくりで、重さは1基600kg以上あり、私が混ぜてもらっただんじりはタイヤは付いていないタイプのものでした。これを20人くらいで、丸2日間連続してお神輿のように担ぎ続けるのだ、と教えてもらいました。恐怖でしたが、もう行くしかない!やるしかない!の精神で本番に臨みました。地区ごとのだんじりとおみこしは、この年は全部で81基あり、並んで進む光景はまさに壮観でした。基本的に担ぎ手は男性です。特別にちょっとだけ担がせてもらって600Kgを体験しましたが、すぐに肩が痛くなり、担ぎ手の人の肩に「担ぎコブ」ができているのも納得でした。

祭り前地さン_もっと小だんじり勢ぞろいトリミング3(小)


 だんじりの後ろについて、私も寝ずに練り歩きました。そうすると町の人たちが担ぎ手のところに日本酒を持ってくるんです。担ぎ手の人たちは瓶のまま回し飲みして、痛みを紛らわしながら担ぎ続けます。途中、81基が一堂に会するポイントがあるんですが、1番から81番までのだんじりがずらりと並ぶ光景にはすごく感動しました。この一堂に会するポイントに全基が揃うまでのちょっとした待ち時間に、行き倒れのごとく道路上に転がって寝るのが唯一の休憩時間でした。
 そんな過酷な体験だったけれど、私はとても楽しくて・・・。
丸2日間、地域の人たちに混じって「一緒に32番のだんじりを担いだ」という仲間意識は相当なものでした。そしてお世話になったおじさんやお兄さんたちに、また会いたい。この場所にまた来たいと思いました。普通の旅じゃ、ここまでは絶対に思えないですよね。

祭り集合写真もっと小 実際、私は西条まつりの後、再び西条市を訪れ、今度は屠殺体験に参加しました。山に罠を仕掛けに行くところからやりましたが、獲物がかからなかったので、キャストの方が家畜として飼われている鶏を絞めることになりました。屠殺シーンを恐る恐る見学し、みんなで少し解体のお手伝いをして、命の大切さを学ぶ貴重な体験になりました。夜のバーベキューでは、西条まつりでお世話になったおじさんが会いに来てくれたんです。気分としては「親戚のおじさんができた」という感じで、まさに第二の故郷。人に会いに行く、会いたい人に会う、そういう旅ってすごく新しいと思いました!

 西条まつりも、屠殺体験もそうですが、実際に行ってみると想像もつかないような体験や出会いがあって、案内するキャストや参加する人によって全然違う旅が待っていると思うんです!観光マップ通りの旅ではなく、まさに「人まかせ」に楽しむことによって唯一無二のここでしかできない旅が生まれる。これからサービスを利用する人にもこういう“普通じゃない旅”を楽しんでほしいなと思います。

【インタビュイー】前地志保/大広WEDO アートディレクター
前地profile

(自己紹介)走り出したら止まらない、どこまでもやる、やりすぎアートディレクター。 企画も。デザインも。時には美術も。絵本作家も!?…笑。 本当は全部やりたい! 身近な人を喜ばせたり、楽しませることが好きなので、ひとりよがりなデザインではなく、きちんとクライアントの要望を聞いて、その上でクリエイティブの力でみんなの想像を超えるいいものにできるよう心がけています。

 こんなふうに、モニターツアーで「旅は人まかせ」のコンセプトにハマった前地さんは、自ら手を挙げてサイトの制作スタッフとして関わってくれるようになりました。実は「旅は人まかせ」というこのタイトルも、モニターツアーを体験した彼女の実感から生まれたコピーなんです。サイトデザインについても、前地さんが「もっと人の熱量やライブ感が感じられるほうがいい」と言ってくれて・・・。それで、今のサイトのようにキャストの方々を前面に出すように変更しました。現場での体感をネーミングやデザインに落とし込むことで、このサービスのいちばんの魅力を訴求できるサイトが完成したと思います。

社会課題解決のためにも、ディープな関係人口を増やしたい

地方が「第2のふるさと」になることで活気づく

 ここまで読んでいただいて、スムーズにサービスインまで持っていけたような印象があるかもしれません。でも、4自治体+民間4社という数多くの人が関わっているだけに、実際は一筋縄ではいかず、行き詰まったことも何度かありました。モニター越しに話していると、どうしてもみんなの顔がどんどん険しくなっていくんです。そのうちオンラインの限界を感じて、「みんなでいしづち(現地)で会おうぜ!」となりました。
 現地では、朝から合宿をやりました。無礼講で言いたいことを言い合い、夜は地元の謎のスナックへ飲みに行きました。それによって一人ひとりのキャラクターがわかり、一気にいろんな話が進みやすくなったんです。サービスの作り手である自分たちも、人同士のコミュニケーションの難しさや面白さを再認識したプロジェクトでした。「旅は人まかせ」でも、観光資源を活かすことはもちろんですが、「人」の魅力でさらに地方創生を図っていきたいと考えています。普段は絶対に接点がないような、自分たちとは全然違う人生を送ってきた人とつながれること。それが、このサービスで提供する旅の醍醐味であり、ウェルビーイングのタネとなる。準備期間を通して、僕らはそう確信しました。

 「関係人口」という言葉があります。総務省のサイトでは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことと定義づけされています。僕らがこだわりたいのは、関係人口の中でも、その地域を「第2のふるさと」と考え、何度も何度もリピートして訪れるディープな関係人口を増やすことです。そして「旅は人まかせ」をきっかけに、最終的にはデュアルライフ(二拠点生活)や移住する人々も増やしていきたい。「ウェルビーイングな旅」で元気な人が増えると、地方もどんどん元気になっていくはずです。


>>>「旅は人まかせ」の公式サイトはこちら

>>>「旅は人まかせ」の説明動画はこちら


まとめ

本記事では、近年注目されている「ウェルビーイング」をキーワードに、新しい形の観光で地方創生を目指した事例をご紹介しました。「訪れる人」と「迎え入れる人」の関係性を深めることでウェルビーイングが育まれ、ディープな関係人口の増加によって「地方創生」という社会課題解決へ導く。「ウェルビーイングの実現に取り組まねば…」と思いながらも、なかなか乗り出せないという企業や地方創生に取り組む自治体の方々のヒントになれば幸いです。


最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからも社会課題やソーシャルグッドに関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。

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この記事の著者

荘野 一星

コピーライター、クリエイティブディレクターとして広告制作に携わったあと、さまざまな業界・領域・職種の仕事を経験。中年に差しかかり、人生に迷っていた頃に「ウェルビーイング」というテーマと出会い、これからは人間の幸せについて真正面から考える仕事をしようと決意。ウェルビーイングデザインセンターを立ち上げ、すばらしい仲間たちとともにサービス開発に取り組んでいる。