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2023.12.12

「考える」だけではウェルビーイングになれない? 現代人のモヤモヤに効く「感じる力」の育てかた。

伝染病、国際紛争、物価の高騰、社会の分断…
現代人はいつも不安を抱え、孤独を感じています。
「わかりやすい幸せのかたち」が失われた世界で、私たちは何を頼りにして生きればいいのでしょうか。幸せ=ウェルビーイングに、共通の答えはありません。
だからこそ、一人一人が自分の幸せを育てる力が、いま求められています。

当プロジェクトでは、このような力が備わっている状態を「ウェルビーイング体質」と呼んでいます。また、この体質を育むためには、個人での取り組みだけでなく、人と人がお互いにやりたいことや大切にしていること=「動機」を「同期」することが大切だと考え、これを支援するための研究開発に取り組んでいます。

今回のコラムのテーマは「ウェルビーイングと感じる力」。
論理的な思考が重視される世の中で、私たちはいつも「考える」ことばかりしています。しかしウェルビーイングを育むには「考える」だけではどうも足りなさそう。人間も生き物であり、自然の一部。身の回りのものを「感じる力」がカギとなるようです。
では、なぜ「感じる力」が必要なのか?そして「感じる力」はどうすれば育むことができるのか?ということについてお話します。

「考える」ことばかりしている現代人

「あなたがそう思う根拠は?」
「その施策を選んだ理由は?」」
「なぜそっちのほうが正しいと思うのですか?」

いまの社会で生活していると、そんな質問ばかりされるのではないでしょうか。私たちはそうやって、いつも自分の判断に関する根拠や理由ばかりを探しています。たしかにこういったとらえかたは、とても便利です。

ますます変化のスピードが速くなっていく世界の中で、私たちは大量の判断をし続けていかなければいけません。そんな中で、判断の根拠や理由、あるいは基準がはっきりしていれば、迷うことは減ります。また、会社などの組織の中で働いていると、自分だけでなく、他の人たちの合意が必要な判断がたくさんあります。全員は難しくても、多くの人たちが納得できる判断をするためにも、判断材料となるデータなどが役立つことが多いですよね。

そんなわけで、私たちはますます物事の理由や根拠を重視するようになり、いつもそれらについて考えてばかりいます。

それ自体は決して悪いことではないと思います。ただ、そうやってなんでもかんでも頭で考えてばかりしていると疲れてしまいますよね。

また、たとえば、自分がまったく理解できないものや判断の根拠がまったく見当たらないような状況に出くわした時には、「考える力」だけでは太刀打ちできないことがあります。

そこで役に立つのが「感じる力」なのです。

「感じる力」が役に立つ

ぼく自身、「考える」ことばかり優先していたせいで、困ってしまった経験があります。

ぼくは一時期、コンサルティングを専門とする組織に所属していたのですが、そこでは、物事はいつも論理的に考え、判断にはかならず根拠を持ち、常に目的と手段を分けて考えるようにと訓練を受けていました。ぼくはもともと、とても感覚的な人間なので、そういったことが苦手だったのですが、なんでも勉強だと思って、その組織ではどんなことでも論理的に「考える」ように努力をしていました。おかげで、たくさんの学びがあったのですが、一方で困ったことが起こるようになりました。

仕事から離れた場面で、物事を判断することが苦手になってきたのです。

たとえば、子どもからどっちのおもちゃのほうがかっこいいかと聞かれたとき、以前なら「こっち」とすぐに答えられたはずなのに、なかなか答えられない。あるいは、外に食事に行くときにも、何を食べたいか、まったく決められない。そのうち、あろうことか、自分自身が本当はどんな人生を送りたいのかもわからなくなってきてしまったのです。

その時に役立ったのが、歩くことでした。

途方に暮れてしまったぼくは、ある日、どこに行くかも決めず、一定時間、街を歩くことを始めました。はじめは、歩いていても仕事に関することばかり考えてしまうのですが、ある程度歩いていると、血の巡りがよくなってくるせいなのか気持ちが晴れてきて、意識が自分の外に向くようになってきます。ああこんなところに古い神社があるとか、こんなところに花が咲いているとか、目の前の光景に関心が持てるようになってくるのです。

また、どこへ行くかを決めない、というのも良い作用をもたらしました。というのも、当時のぼくはいつも仕事の中で目的を定めなければと必死だったのですが、その真逆の、何の目的地もなく歩く、という行為をすることで、自分の内側にある意志のようなものがよみがえってきたのです。ちょっとここは右に曲がってみようとか、やっぱり戻ってみようとか、この店に入ってみようとか、そういったことを特に何の根拠も理由もなく判断することができるようになってきたわけです。

ぼくはそうやって、何度もあてもなく歩くことを通して「感じる力」を取り戻していきました。」
きっと、似たような経験をされた方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

世界中から注目される「感じる力」

「感じる力」というと、なんだかそれ自体があいまいで、根拠がない概念のようにも聞こえますが、それは実際に人間に備わっているものであり、脳神経学、認知科学、心理学などさまざまな分野で「感じる」ことに関する研究がさかんに行われています。

有名なところでは、「マインドフルネス」に関する研究が挙げられます。マインドフルネスはもともと仏教における「禅」の考え方が欧米に浸透するプロセスで広がった概念ですが、近年、特にアメリカであらためて注目され、さまざまな研究が行われています。「いま、ここ」に集中し、ありのままの自分に戻り「感じる力」を取り戻す。そういった経験が、現代社会を生きる人々に不足しているという意識が高まっています。ニューヨークでは市内全域にある幼稚園から高校までの全ての公立校で、毎日25分間のマインドフルネスの時間を設けることになった、という話題がニュースにもなりました。

また、アメリカの若者のあいだでは、いま「SBNR」という概念が広がっています。「SBNR」とは「Spiritual But Not Religious」の略で、特定の宗教への信仰があるわけではないけれども、スピリチュアルなことや精神世界などに関心があり精神的な豊かさを求めている価値観や態度のことを指すそうです。スピリチュアルと聞くとちょっと抵抗を感じたりもしますが、なんでもかんでも合理的に「考える」のではなく、目に見えないものや、自分自身の声を「感じる力」を多くの人が大切にしはじめている兆しととらえることができるのではないでしょうか。

また、日本にコーチングをもたらした草分けの一人でもある山田博さんが始めた『森のリトリート』というプログラムがあります。普段は都会で忙しく働く企業の経営者や管理職の人々が、森に入って自然の中で「感じる力」を取り戻していくのです。ぼくも体験させていただきましたが、自然の中で「感じる力」を働かせると、鳥の声や風の音が聞こえるようになり、木々の間からもれる光がとても美しいことに気づくようになります。体験した人の多くが変化に気づくことができる、大変人気のあるプログラムです。

いま、世界中の人々が「感じる力」に強い関心を持っているのです。

「感じる力」を育てるには

さて、ではどうやって私たちは日常生活の中で「感じる力」を育てていけばいいのでしょうか。

もちろん「マインドフルネス」や『森のリトリート』といった専門的なプログラムを利用することは有効です。体験してみようか迷っているくらいなら、すぐにやってみることをおすすめします。

一方で、毎日の暮らしの中でも「感じる力」を育てることができると私たちは考えています。

たとえば、家の掃除をしてみるのもおすすめです。いきなり家の全部を掃除する必要はありません。たとえばリモートワークのすきま時間で、床や壁の、目に入ったところをちょっとだけ雑巾で拭いてみてください。どうでしょう。実はけっこう汚れていませんか。あるいは、よく見ないと気づかない小さな傷がついていたり、意外なところにホコリがたまっていたりしませんか。そういうことに自分のセンサーを働かせるだけで、十分に「感じる力」のトレーニングになっていると思います。また、掃除をすると血行もよくなり、ちょっと汗もかいたりして、気分も爽快になります。なんて手軽で効果的な方法なんだ!とぼくは思っています。

また、日々の買い物も「感じる力」のトレーニングになります。ぼくは先日、プロダクトデザインをされている方と一緒に新しくできた商業施設を見て回ったのですが、彼が注目するものが自分とは違うものばかりで大変興味深く感じました。また、彼がなぜそれに興味を持ったのかを聞くと、プロダクトデザイナーならではのユニークな視点にあふれていて、たくさんの刺激をもらいましたし、長いあいだ忘れていた感覚が戻ってくるような体感がありました。そうです。他人の「感じる力」によって、自分自身の「感じる力」が目覚めさせられることもあるのです。

このように、私たちの身の回りには、「感じる力」を育てるためのさまざまなヒントであふれています。

大広ウェルビーイングデザインセンターでは、それらを再発見し、一人一人のウェルビーイング向上に役立つ体験や学びのプログラムへと発展させて提供していくサービスを開発中です。

このような内容にご関心をお持ちの方や、プログラムを共創したいという方のご参加をお待ちしております。

一緒に「感じる力」を育てていきましょう。

この記事の著者

荘野 一星

コピーライター、クリエイティブディレクターとして広告制作に携わったあと、さまざまな業界・領域・職種の仕事を経験。中年に差しかかり、人生に迷っていた頃に「ウェルビーイング」というテーマと出会い、これからは人間の幸せについて真正面から考える仕事をしようと決意。ウェルビーイングデザインセンターを立ち上げ、すばらしい仲間たちとともにサービス開発に取り組んでいる。