顧客価値とSDGs
近年、テクノロジーの進化に伴い、情報の主導権はメディアや企業から顧客にシフトしています。そのような変化の中で企業が生き残るためには、顧客の賛同を獲得することは不可欠です。 だからこそ企業には今、顧客視点に立ち「顧客にとって価値があるか」の追究がより一層求められています。
当社ではこの顧客にとっての価値のことを「顧客価値」と呼んでおり、それは企業と顧客と社会をつなぐ真ん中にある価値で、ブランドに賛同する理由になると考えています。
重要となる点は ブランドの「顧客価値」を考える上で企業と顧客の関係だけではなく 、”社会”についても考慮する必要があるということです。
今日、顧客が認める価値の対象が、モノやサービスが提供する機能・効果だけにとどまらず、企業の持つ思想や理念、社会との向き合い方にまで広がっています。そのため企業の「”社会”に対する姿勢や社会に提供している価値」が 顧客にとっての価値を構成する一要素になると捉えられます。
昨今の、企業におけるSDGsの取組の加速も、 同様の背景があると想定されます。本来SDGsの取り組みは社会的要請であり、企業が果たすべき責任としての要素が強い存在でした。けれども、企業が社会で果たす役割やもたらす価値に顧客が関心を寄せるようになったことで、SDGsは 顧客の要請でもあるようになってきていると言えます。
調査背景
このように様々な方面から要請が高まっている企業のSDGsに関する取り組みですが、その推進に課題を感じている企業も多く見られます。各社課題に感じている点は多種多様ではありますが、共通して取り組みの障壁のひとつとなっているのが、「その成果/効果をどのように評価するか」ではないでしょうか。
取り組むべき必要性は理解していても、いざ実施を試みると 、自社で今行うメリットがあるのかと 疑問を感じる担当者の方も多くいると思います。
そこには「SDGsは売り上げ増加に直結するのか」という業績的な視点でしか評価されないという課題があり、多様な視点でSDGsの取り組みがもたらす成果/効果をみつめてみることが必要であると考えています。
そこで当社では、企業がSDGsに取り組むことによる効果の1つとして社員のワークエンゲージメント (※)の向上があるのではないかという仮説をもとに、「SDGsへの取り組みとワークエンゲージメントの関連調査」を2022年3月に10業界計4120人のビジネスパーソンを対象に実施。このコラムでは、その調査結果を見ながら、SDGsへの取組に関する「新たな評価視点」を提示します。
※社員のワークエンゲージメント とは、社員が仕事や自社に対してポジティブな感情を 抱き生き生きと働いている状態のことを指します。本調査では「自社満足」「業務満足」「やりがい認識」「モチベーション維持」「自社への共感」「自社への愛着」「自社への誇り」「勤続意向」の9項目を設定しています。
そもそもSDGsへの取り組みはどれだけ実施されているのか
まず最初に、本題のSDGsへの取り組みとワークエンゲージメントの関連を見ていく前に、そもそもどの程度の企業がSDGsに取り組んでいるのかを見ていきます。
自身が勤めている会社でSDGsに関連する取り組みを行っていると回答した割合は、大企業に勤めている方で50.0%、中小企業 で19.1%という結果となりました。大企業ではもう半数もの企業が、社員が認識している範囲の中での取り組みを実施しており、「SDGsへの取り組み」が広く推進されている様子 が見てとれます。一方で中小企業では全業界で大企業の実施率の半分以下となっており、組織規模によるギャップがあることがわかりました。
また、業界ごとで比べてみると、「ESG投資」「インパクト投資」といったSDGsに関連したトレンドが事業領域に浸透している「金融・保険」が高い傾向にある一方で、「医薬品・ヘルスケア」は少し遅れをとっている様子が見られました。
SDGsへの取り組みはどれだけ社内に浸透しているのか
続いて、SDGsへの取り組みを行っている企業について、「その施策がどの程度社内に浸透しているのか」を見ていきます 。
自社のSDGsの取り組みについて、ほぼすべての項目で8割以上の人が認知しており、特に「自社のSDGs方針」(92.1%)、「SDGsに対する具体的な取り組み内容」(90.8%)に関しては9割以上と、取り組み企業の社内に広く浸透していることがわかりました。
一方で、その内容について理解している人の割合はすべての項目で2割程度と全体の4分の1にも満たない結果に とどまりました。このことから、社内における理解促進には課題があると考えられます。
また、自社のSDGsの取り組みへの関与について、58.8%の人が関わっていると回答しており、日々の業務や社内活動の中で多くの社員が携わっていることがわかりました。
SDGsへの取り組みは、社員のエンゲージメント向上に寄与するのか
それでは、本題の「SDGsへの取り組みとワークエンゲージメントの関連」について見ていきます。
「自社でSDGsに関する取り組みを行っている」層のワークエンゲージメントスコア は66.2%となっており、行っていない層と比較して16.8ptも高い結果となりました。これにより、自身の勤務先でのSDGsへの取り組みが何らかの形でワークエンゲージメント向上に寄与している可能性が示されました。
また、「自社がSDGsの取り組みを行っている 」と答えた方を対象に、その具体的な内容の認知度別でワークエンゲージメントスコアを比べてみると、「認知のみ」は「非認知」と比較して13.8pt高く、「理解」は「認知のみ」と比較し16.8pt高い結果に。ここから、 自社の取り組みの認知度・理解度を深めることが、ワークエンゲージメント向上の寄与につながる可能性も示唆されました。
また、同様に自社の取り組みへの関与の有無でワークエンゲージメントスコアを比較すると、「関与あり」は「非関与」と比較して25.5pt高いスコアとなりました。 こちらも自社のSDGsの取り組みに関わることで、ワークエンゲージメントがさらに深まる可能性への示唆と考えられます。
上記の結果を踏まえると、単にSDGsの取り組みをするだけでなく、「その取り組みをいかに社員に浸透させるか、巻き込んで実施していくか 」を検討する必要 があると言えるのではないでしょうか。
SDGsへの取り組みの社内浸透は社員に何をもたらすか
最後に、自社のSDGsの取り組みの「認知」「理解」「関与」が具体的にどのワークエンゲージメント項目に寄与しうるのかに着目します 。
以下はワークエンゲージメントスコアを算出した9項目について、「非認知/認知のみ」「認知のみ/理解」「非関与/関与あり」でそれぞれ比較した際のスコア差を大きいものから順に並べたグラフです。
「非認知」と「認知のみ」 のスコアを比較すると、「モチベーション維持」のスコアが最も伸びており、自社のSDGsの取り組みを「認知」することが自身の仕事に対するモチベーション維持に影響を与えている可能性が示唆されました。
また同様にスコアを比較すると「認知のみ」と「理解」 では「業務満足」、「非関与」と「関与あり」 では「自社への共感」「自社への誇り」の数値が伸びていることがわかります。
自社のSDGsの取り組みを「理解」することは自身の業務の満足度向上 に、そして 、取り組みに「関与」することは 自社の考え方に共感し誇りを感じることにつながるのではないかという結果 が見てとれました。
上記を踏まえると、自社のSDGsへの取り組みの理解度や関与度が深まることで、社員のワークエンゲージメントスコア全体が高くなっていくだけでなく、「モチベーション維持」といった”業務エンゲージメント”の向上から「自社への誇り」といった”企業エンゲージメント”の向上にエンゲージメントの”質”が深化していく可能性も垣間見えてくるのです。
SDGsへの取り組みは何のためにしていくべきことか
今回の調査では、SDGsの取り組みを実施することで社員のワークエンゲージメントが向上するだけでなく 、その認知度、理解度、関与度が大きくなるとさらにワークエンゲージメントが高くなる可能性が示される結果となりました。また、取り組みへの理解・関与が深まることで、業務エンゲージメントから企業エンゲージメントへと 、向上するワークエンゲージメントの”質”も深化 すると言えるでしょう。
現在、SDGsは一種社会のトレンドワードのように取り沙汰されており、大きくなる外部要請に各社早急な対応が求められています。それゆえに、経営層からのトップダウン的な取り組みとして「やらなくてはいけないもの」という認識で取り組んでいる/検討している企業も多い状況です。
しかし、SDGsへの取り組みは、事業を通してその企業が顧客および社会にどのような価値をもたらしていくのか、「その企業としての姿勢を明示するもの」と 捉えることができ、いわば企業活動の原点とも考えられます。
だからこそ、自社のSDGsの取り組みを認知・関与することはその企業の「原点」を社員たちが再認識し、日々の業務では実感しにくい自身の業務の価値を改めて捉えなおすこととなり、ワークエンゲージメントの向上に寄与するのではないでしょうか。
ブランド活動は社員ひとりひとりの手によって生み出されていきます。ゆえにその社員のワークエンゲージメントを高めることは、中長期的に見ればブランドの価値を高めることに繋がっています。 SDGsの取り組みを積極的に実施していくことで 、巡り巡ってブランドおよび企業の価値、さらには売り上げ増加につながっていくと考えられます 。
短期的な売り上げへの効果が可視化しにくいSDGsへの取り組みをどう評価していくかは確かに難しい問題です。それでも自分たちの企業の社会に対する姿勢を示す重要な要素として SDGsの取り組みを評価し、一人ひとりの社員を巻き込んだ全社ごととして実施していく必要があるのではないでしょうか。
今回の調査では、上記に掲載した結果 以外にも「自社のSDGsの取り組み方」や「自社のSDGsの発信状況」等SDGsに関連した設問を聴取しています 。その他の調査結果や業界ごとの平均スコアなど詳細を知りたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。また業界平均値に基づいたSDGsの取り組みの社内浸透度の無料診断も実施しています 。併せてご相談いただけますと幸いです。
【調査概要】
・調査対象:全国20~59歳の指定業界に勤務する正社員
・サンプル数:4120サンプル(10業界×中小企業/大企業の20セルに対し各206サンプル)
・調査方法:インターネットリサーチ
・調査時期:2022年3月25日(金)~3月27日(日)
・調査主体:株式会社大広
・調査委託先:株式会社マクロミル
この記事の著者
SDGs Doer’s ソリューション開発 調査パッケージチーム
メンバー(あいうえお順)
大広
成瀬 翔太
D2Cビジネス推進局 コンサルティングチーム2
松本 貴司
大阪第2プロデュース局 菅チームプロデューサー
山下 有紀
大阪第2プロデュース局 大畠チームチーフプロデューサー
大広WEDO
浜田 英之
大阪クリエイティブ力Division チーム栗波
コピーライター宮崎 あゆみ
大阪クリエイティブ力Division チーム鯉沼
プランナー/デザイナー