大広社員の根上小夏が、新しいインクルージョンのカタチ“FUNclusion”(ファンクル―ジョン)についてお届けする連載、根上小夏のFUNclusion研究所。 “FUNclusion”とは「FUNな入口からはじまるインクルージョン」、その可能性を様々な角度から、皆さんと一緒に見つめていきたいと考えています。 今回は、大広6階で開催いただいたヘラルボニーさん主催のイベント、『企業向け体験型DE&Iプログラム“PEACE”体験会』を、レポートいたします!FUNなカードゲーム“PEACE”を中心とした今回のイベント。本記事を読んでいただいている皆様に、“FUNclusion”のパワーを感じていただけると思います。ぜひ、最後までお読みいただけますと幸いです!
根上小夏
株式会社大広ソリューションデザイン本部
ストラテジックプランニング局第3グループ
北海道出身、2000年生まれ。2023年 株式会社大広に新卒入社し、以来マーケティングセクションに所属。調査を通した市場・顧客分析や事業・ブランド戦略や施策立案業務に携わる。高校生の時、広告を見て自身が励まされた経験から、“きもちのスイッチ”を発見できるマーケターを目指しています。忙しなくも、愛おしい日々に、心が前向きになる瞬間を創りだしていきたいです。日常の彩る瞬間を、増やせますように。そんな気持ちを胸に、日々の業務に向き合っています。
登壇者
株式会社ヘラルボニーウェルフェア事業部 河村翔さん、菊永ふみさん
“ちがいを面白がれるほうの世界へ”。HERALBONY ACADEMYの挑戦。
まずは、ヘラルボニーのウェルフェア事業部に所属されている河村翔さんから、ヘラルボニーさんが企業向けのDE&Iプログラムを提供されている背景についての説明がありました。アートを使って障害のイメージを変えるだけでなく、すべての人が「それぞれの人が異彩を放てる社会」を目指し活動していらっしゃるヘラルボニーさん。活動を続けられる中で、よりダイレクトにアートをつかわない初めての事業として、それぞれの異なった力をもったひとたちが真に力を発揮できる組織・社会を作れるようにしよう、として1年半前に研修事業を立ち上げたそうです。立ち上げメンバーは、ヘラルボニーのウェルフェア事業部に所属されている神さん、菊永さんのお二人。事業の立ち上げ当初は、今回イベントにもご登壇いただく、耳が聴こえないろう者の菊永さんと、耳が聴こえる聴者の神さんとの間には、衝突ばかりだったそうです。衝突を繰り返しながらも「乗り越えることで社会も人生も豊かになる」そう実感したお二人の活動が実を結び、今年の7月末から本格始動したそうです。
「80億人がちがいをおもしろがれるほうの世界へ」HERALBONY ACADEMYが大切にしているこの言葉。DE&Iの分野では、「違いを認め合おう」というゴールが設定されていることが多いですが、HERALBONY ACADEMYが大事にしているのは、「ちがいを認めたうえで、面白がれる。」こと。 “認める”ことももちろん重要ですが、“面白がれる”ほうが楽しいし豊かである、そうした考え方の中で、研修事業も展開されているのだそうです。
「DE&I研修」と聞くと、知識として身に着ける必要のある、非常に義務的で“お勉強”としての側面の強い研修のように感じてしまいますが、ヘラルボニーさんの研修は一味違うようです。HERALBONY ACADEMYの中にあるプログラムの1つ『FUNclusionプログラム』の中に本日のイベントは位置しています。本日はお読みいただいている皆さんにも、普通とはちょっぴり違うDE&Iを体感できるカードゲーム『PEACE』の世界をご体感いただけますと幸いです!
▼HERALBONY ACADEMYの成り立ちについて話す河村さん。
オリジナルカードゲーム『PEACE』の成り立ちと基本ルールとは!?
河村さんからHERALBONY ACADEMYについてご紹介いただいたあと、各チームの自己紹介から、本格的に体験会がスタートしました。ほとんど初対面の方同士でチームを組んでいたため、名前とともに「自分を動物に例えると?」というテーマで話す、アイスブレイクからはじめることに。一通り、各チームの自己紹介が落ち着いたところで「自己紹介を忘れていました!」とお声がけがありました。河村さんからバトンタッチする形でファシリテーターとして登壇された菊永ふみさん。先ほど言及させていただいた、HERALBONY ACADEMYの立ち上げメンバーであり、『PEACE』の開発メンバーでもあります。菊永さんは手話を使っていらっしゃるため、菊永さんのお話は手話通訳の方の声を通じて会場に届けられます。「生まれつきのろう者だが、最初に習得されたのは音声言語だった。」という菊永さんの体験から、お話が始まりました。4歳の時、ろう者のコミュニティと出会ったことをきっかけに、「ろう者と聴者が対等にチャレンジしていくためには?」と、ずっと考えてこられたそうです。その結果、もともと好きだった“謎解き”と手話を掛け合わせたゲーム、『異言語脱出ゲーム』の開発に至り、『異言語脱出ゲーム』を通じてヘラルボニー松田社長に出会い、いまがある。思わず引き込まれてしまう菊永さんの自己紹介があり、いよいよ今回のゲーム『PEACE』についての説明がはじまりました。(ちなみに、菊永さんはお家でゆっくり過ごしているときと、すさまじい集中力を発揮されるお仕事中のギャップから、ご自身を動物に例えると「猫」なのだとか。)
『PEACE』とはヘラルボニー契約作家である笠原鉄平さんの『集いの習慣』というアートを使ったカードゲームです。カードには、「ニンゲン」、「ツリー(木の妖精)」、「ロボット」が描かれています。
菊永さんによると、このカードが面白いのは、みんな手でピースしていることなのだそうです。いろいろな属性・個性の人が集まり、一緒に心地よく過ごし、みんなで平和になる、そんな思いが込められているカードで、笠原さんがこのゲームのために描き下ろしてくださったのだとか。
『PEACE』のカードとルールは以下のような内容です。
『PEACE』カード詳細
・「ニンゲン」「ツリー」「ロボット」の3つの属性
・1~7までの数字
・赤・黄色・青・緑の4種類
▼ 『PEACE』のカードについて説明する菊永さん。
『PEACE』ルール
1. 一人7枚ずつ配り、山札から1枚出してスタート
2. 場のカードと「同じ色」または「同じ数字もしくは隣の数字」のカードを出す
3. 属性は場のカードと「異なる属性」でつないでいく
4. 手札を減らすと勝利で、ラスト1枚になったら『PEACE』と言う
ルールの中にある不思議な一文「異なる属性」とは何なのか。例えば、「ニンゲン」が場に出ている場合は、「ニンゲン」以外の属性「ツリー」または「ロボット」を出す必要があります。菊永さんより、ルールの説明は続きますが、このあたりから会場にはざわめきが…。そのほかの詳しいルールまで菊永さんからお話いただき、一度簡単にテストプレイを挟みました。皆さんの盛り上がりが会場にたちこめ、ルールへの疑問点がなくなったところで、いよいよ本番を迎えました。
▼テストプレイ中、菊永さんにルール確認をする参加者の皆さん。

突然配られた”役割カード”。立ちはだかる“ルール”の壁。
いざ、本番に入ろうとしたタイミングで、練習と違うルールが1つ追加されました。ゲーム冒頭、”役割カード”が配布されました。
「せーの!で裏返します!」という菊永さんの合図とともに、皆さん一斉にカードを裏返します。「カードをご覧になり、必要なアイテムがある方は会場前方に受け取りに行ってください」と続けて呼びかけがありました。
今回配られた役割カードは「見えにくい役」「聞こえにくい役」「10の言葉しか話さない役」「車いすの使い手役」「自分自身役」の5種類。「見えにくい役」の方には視野狭窄眼鏡が、「聞こえにくい役」の方には耳栓とヘッドホンが、「10の言葉しか話さない役」の方にはマスクが、「車いすの使い手役」の方にはクッションが配られました。皆さん、突然配られた道具に戸惑いながらも、身に着け始めます。ちなみに、クッションが配られた方の中には、椅子の上にクッションを置いてやや座りやすくなった椅子で待機していた方もいらっしゃいましたが…ここですかさず「クッションは床に置いて、その上にお座りください!」と菊永さんからの補足説明がありました。
ゲームスタートの直前、「カードを出すのは、テーブルの中央の青い四角の中にお願いします。」と菊永さんからもうひとつルールが追加され、すべての準備が整ったところで、ゲームスタートです。
ゲームが始まると、テストプレイとはすこし違った雰囲気が会場を覆いました。
「床に座ると、カードを出すテーブル上の四角が遠く、前のカードが判別できない」「視野狭窄眼鏡ではカードの色がわかりにくい」「聞こえにくい役で、耳栓とヘッドホンをしていると聞こえにくく、周囲の状況がわからない」「話せる10の言葉の中に、PEACEがないため最後の一枚になっても上がれない」そんな風に、ゲームのルールがそれぞれの方に少しずつ障壁となって立ちはだかります。
各チーム、なんとか試行錯誤の末一度目のゲームを終えたところで、再び菊永さんから「それぞれいろいろな思いがあったと思います。」というお声がけがありました。
今回のゲームのルールと同じようなことが、社会の中でも起こっている。やりたいのに、ルールに従うとできないことが生まれる。マジョリティが勝手に作ったルールからこぼれ落ちてしまうことがある。
菊永さんのお話を伺いながら、先ほどゲームに取り組んでいた皆さんの姿を思い返していました。机の真ん中にある場のカードに届かず、必死に手を伸ばす「車いすの使い手役」の方、状況を理解しようと顔を大きく動かして見よう・聴こうとする「見えにくい役」の方、「聞こえにくい役」の方、PEACEも言えず意思の疎通をすることが難しい「10の言葉しか話さない」方…そして、ゲームの状況に戸惑う「自分自身役の方」。菊永さんからも、助けられる側、助ける側という立場の中で、本当に楽しめていたか?という問いかけがありました。
▼「見えにくい役」の方に配布された、視野狭窄眼鏡。
2度目のゲーム開始。「みんなの心地良さ」に向き合う体験。
ゲームの本質が見えてきたところで、役割カードを引き直すよう、菊永さんから指示がありました。さらに、「2度目のゲームに入る前にお互いに気持ちよく過ごせるルールをチームごとに考えてみてください!」と、菊永さんから声掛けがありました。
「車いすの人もいるので、みんなで床に座ってゲームすることにしました!」「場のカードを読み上げてからはじめよう!」「PEACEを宣言するカードを作ろう!」それぞれのチームから、たくさんのアイデアが生まれます。
ゲームが始まった後も、思考錯誤する様子が見られましたが、「みんなが心地良くなるためには?」という共通の問いが皆さんの中に存在していたからか、徐々に笑顔が増え、白熱したゲームが展開されていました。
▼みんなで床に座ってプレイすることを選んだチームの皆さん

2度目のゲーム終了後、改めて菊永さんからお話が。
ゲームのルールを改めて考えるとき、みんなが一人で合わせるという視点と、一人がみんなに合わせるという視点、どちらの方法も考えられる。そうした中で“できることを前提とする関係性”も考えてみてほしい。「できないことがあるから助けてあげよう」というサポートの視点も大事だが、「みんなができるようにするためには」という視点で心地いい関係性を検討することで見えてくるものがある。まさに今回の、「全員が床に座りプレイする」という新ルールや、「PEACEを宣言するカードを作る」というアイデアは、この後者の発想でした。
菊永さんの解説を経て、最後は改めて河村さんから体験後の皆さんにお話がありました。「感じた言葉にできない疎外感や無能感、言いにくさを体験し、頭ではなく、腹で理解できたのでは。」河村さんの言葉から私は、今回の体験が、一般的な「DE&I研修」とは一線を画すものだったと感じました。河村さんからは続けて、「FUNからはじめる」ことの大切さについてのお話が。DE&Iの課題は、興味のある人しか集まらないこと。だからこそ、「たのしい」からはじめることが重要になってくる。河村さんのおっしゃる通り、誰もが当事者であるはずの『DE&I』は、まだまだ組織の中で一部の方だけが関心を持つ分野になってしまっているようにも感じます。「DE&Iについて考えよう!」というと、かなりのハードルを感じますが、「ちょっと面白いカードゲームがあるからやってみない?」というお誘いなら、手を上げたくなる人が増えそうです。
最後に、「このカードゲームでは当事者をファシリテーターにすることを大切にしていて、菊永さんの佇まいを体感していただくことが、非言語的なインパクトになる」という河村さんの言葉とともに、体験会は幕を下ろしました。菊永さんの手話を使ったファシリテーションと、菊永さんご自身が楽しんでいらっしゃることが伝わる進行を体験すること、それら自体が、体験会で提供している『FUN』の大きな部分を占めているのだろうな、と改めて感じていました。
オリジナルカードゲーム『PEACE』と『FUNclusion』がもたらす可能性。
私も以前、社内の研修として『PEACE』の前身となる”役割カード”を使ったゲームを体験させていただいたことがあり、今回の体験会と同様に、1度ゲームをした後、ルールを作り直しました。私のチームが作ったルールは、「車いすの使い手役の方に合わせてみんなで床に座るけれど、机はそのままにする」というもの。「あえて難易度の高い新しいゲームを作成し、みんなで楽しんでみよう」を合言葉に、2度目のゲームを開始した結果、びっくりするほど盛り上がりました。その瞬間、私は『FUNclusion』のもつ力を強く感じました。このルールは、役割カードがなければ生まれなかった新たなアイデアだったと思います。ゲームを体験するまで、私自身がマジョリティ側の性質も持っているからか、“インクルージョン”という言葉から、「マジョリティがマイノリティのために何かする」という想像をどこかでしてしまっていたように感じます。ゲームを通じて、様々な属性を持った人がまざりあうことで、一人では、一つの属性だけではたどり着けなかった景色を見られる、ということを体感しました。河村さんのおっしゃる通り、DE&Iを頭だけでなく、腹の底から理解できること。そして、軽やかに、新しい風が吹いたように自然と自分の中に落ちてくること。これこそが、『PEACE』そして、『FUNclusion』のパワーであると実感しています。
今後も、FUNclusion研究所では『FUNclusion』にまつわる様々なトピックを取り上げてまいりますので、ぜひまたお立ち寄りいただけますと幸いです。
それでは皆さん、また次回のFUNclusion研究所でお会いできること、楽しみにしております。
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この記事の著者
根上 小夏
(株)大広 ソリューションデザイン本部ストラテジックプランニング局


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