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2024.09.12

社会課題の解決へ利活用が広がる、 XR/メタバースの現在地

メタバースと聞くと、仮想空間で体験するエンターテインメントを想起される方も多いのでは?通信技術の発展にともなって、没入感の高いバーチャル空間でアバターを介してインタラクションができるメタバースは、ゲームやイベントシーンでの利活用に加えて、教育や就労、地域活性化などの社会課題解決の手段としての活用も始まっています。(株)大広はそんなメタバースへの解像度を高めるべく、2024年5月29日に港区立産業振興センターとともに「知る、感じるメタバースの可能性 ~DAIKO×MINATO CITY Metaverse Seminar~」を開催。メタバースという技術の最新事情や活用事例、そしてこの先の展望について、イベントをプロデュースされた(株)大広 未来開発局の高木正興さんに伺いました。

 

高木写真サイズ変更高木正興

(株)大広 未来開発局オープンイノベーションセンター
広告会社2社を経て、2017年に株式会社大広入社。
営業プロデューサー・デジタルプランナーとして官公庁・自治体、大手インフラ会社等を担当。
2021年より博報堂DYベンチャーズに出向し、スタートアップ投資・事業連携・事業支援、コンサルに従事。2023年より現職に復帰。

 

 

大広×港区コラボイベント「知る、感じる、メタバースの可能性」

――今回のセミナーイベントですが、どんな趣旨のイベントだったのでしょう?

港区が設立した「港区立産業振興センター」とのコラボイベントだったのですが、「知る、感じる、メタバースの可能性」というタイトルの通り、メタバース領域に興味をお持ちの方や企業向けに、スタートアップから最新事情や活用事例についてセミナー形式で講演いただくことが主な趣旨です。港区から港区立産業振興センターの紹介があり、基調講演およびスタートアップピッチには3社に登壇いただきました。クラスター株式会社様からは企業や自治体における活用事例や教育分野への広がりなどを、株式会社アルファコード様からは社会課題の解決に役立つXR技術について、株式会社m-Lab様からはメタバース空間を活用したイベントサービスについて講演がありました。最後に大広がリリースした、レンタルメタバース『Renta-verse』というパッケージを紹介させていただきました。

――メタバースのイベントであり、スタートアップからのプレゼンの場でもあるようなイメージですね。そういえば港区はスタートアップ支援に力を入れていると伺いました。

港区は、ファッション・デザイナー、クリエイター、エンジニア、コンサルタントなど、高いスキルを活かしてビジネスを展開している個人事業者が少なくありません。一方で、大企業やベンチャーキャピタルの事業所も多数集まっています。さらに、慶應義塾大学のお膝元でもあり、東京工業大学田町キャンパスの再開発も進んでいるなど、産官学のオープンイノベーションが生まれやすい環境が整っています。港区立産業振興センターは、港区内に新しい産業振興の一大拠点を設けるという構想の下に立ち上げられました。中小企業、起業家、フリーランスの事業者と結びつくハブとなり、さまざまな課題解決を図れる場になること、それが港区の狙いです。またスタートアップのエコシステムを作っていけば、既存のビジネスリソースとうまく連携ができるんじゃないか?そんなお気持ちもあったと聞いています。

コロナ禍を背景に盛んになったメタバース

――さて、ビジネスでメタバースの利活用が盛んになってきた背景にはどんなことがあるでしょう?

理由としてはやっぱり今のタイミング、コロナ禍という環境がすごく大きかったように思います。リアルに人が集まれなくなったけれど、会社は動いていて。じゃあメタバースを使ってオンラインで社員総会とか定例会とかやろうよっていう風潮が生まれたのが2020年あたりで、その辺から盛んになっていったのかなと思います。コロナが一旦収束を迎えて、働き方も完全リモートからハイブリッド型になっていきましたよね。その流れの中で、社員総会だけじゃない、ビジネスへの利活用が広まってきた、そういう印象がすごくあります。

――人が集まれないという環境下で利活用が始まったことがきっかけ、ということですね。他に理由は考えられますか?

メタバースは、高機能のデバイスがないと使えないとか、結構難しいものだと捉えられていた気がします。それが、一般的にだいぶライトな感じに見られるようになったのではないでしょうか。ちょっと前まで難しかったものが、「なんだ、簡単に使えるじゃん」って。たとえばZOOMもこれまで使用頻度が少なかった人が圧倒的多数だったはずですが、コロナ禍でみんな使うようなったじゃないですか。ZOOMのようにあそこまで一気にハードルが下がったわけじゃないですけど、メタバースも同じ感じでハードルは下がったんじゃないかなって思います。

進んでいる、ビジネスへの応用と展開

――メタバースの利活用が進んでいるビジネスシーンにはどのようなケースがありますか?

大手衣料ブランドの事例ですと、すでに実際のメタバース空間で商品販売しているとか割と活発に活用していますね。他の事例だと、自動車メーカーがショールームや環境問題を共有するツアーをメタバース空間でやっています。
あとは皆さんご存知の、任天堂「あつもり(あつまれ どうぶつの森)」のように、自分の分身となるアバターを通じて、離れた場所にいる他プレイヤーと共にリアルな時間を共有する、こういうメタバース的な文脈を活用することに向いていると思います。
たとえば教育やアカデミアの分野では演奏会や医学系の学会や、大学のオープンキャンパスをメタバース上で行う大学も出てきています。
また、今回のセミナーを実施するにあたっていろんなスタートアップの方々からお話を聞いた限りでは、地方創生の文脈で地方自治体が移住促進のためのセミナーに使ったりもしていました。実際の町並みをメタバース空間に再現して、移住するとこんな空間があってこういうことができますよと紹介されていました。

 

――メタバースの利活用はいろんな課題解決につながりそうですね

これは結構いろんな見方があって。例えば学校のオープンキャンパスや地方移住っていうと実際になかなか現場に行けないという課題を、その代用体験ということで解決しています。他には内覧や現地の下見という感じで、リアル空間との接続のための立ち位置としてメタバースを使うっていうのは一つ課題解決としてあるんじゃないかなと思います。
移住してみたいけどちょっと現地の様子が分からないし、GOOGLEマップで見ても平面情報しかわからないという時に、メタバースの空間にある程度の立体的なものが作れていれば、もっと具体的にバーチャル体験を通じて理解が進む、そういう課題解決にも期待できるかと。ただ単純に、見えなかったものを立体的に見たいという欲求を解決することはもちろんあるんですけど、それだけじゃ多分頭打ちになっちゃうかなと。
メタバースは、人が集まってコミュニケーションするための場所でもあるので、コミュニティを作ることによる課題の解決にも繋がってくると思います。
個人で楽しむだけじゃなくて、「場」を作ってコミュニケーションができるっていうことが、メタバースが今後伸びていく上で重要なことになるんじゃないのかと思います。
もちろんリアルなコミュニケーションが必要ということは前提にあります。リアルを否定するわけでもネットを否定するわけでもなく、メタバースっていうまた違う新しい世界ができたっていう風に捉えられれば、うまく共存しながら伸びていくんじゃないかと、そういう風に思っています。

――セミナーの基調講演の中で、メタバースには明確な定義はないけれど、コミュニケーションが2Dから3Dに変わる、またアバターという自分の分身を使って身体的な体験が可能になること、という説明がありましたね。

そうですね。僕が先ほど触れたネットでもリアルでもない第3の社会みたいな感じで考えてくれればいいのかなと思います。
アバターというものがどれだけ進歩するかっていうところは、ちょっとまた別の議論になると思うんですけれども、コミュニケーションの進化、その先にメタバースがあるんじゃないのかなっていうふうには思っています。

 

――身体的な体験ができるっていうことですが、今までのインターネット上のWEB体験と比べて、どんなことが生活者にとって利点になると思われますか?

インターネットにおけるコミュニケーションは平面的な交流ですけど、メタバース空間によってユーザー同士の立体的な交流ができるんじゃないのかなと思っています。メタバース空間はコミュニケーションの場所であったり、部屋みたいな感じだったりします。なのでその空間ではより温かみのある体験ができるんじゃないのかなと。
企業の利便性としてはメタバースで体験してみて、「じゃあ、実際に現場へ行ってみよう」っていう、リアルへの導線としても使うことができます。

 

大広がサポートするメタバースの利活用促進とは

――ところで、大広からもメタバースを活用したプロダクトのリリースが発表されていましたね?

はい、レンタルメタバース『Renta-verse』というパッケージになります。​「知識や知恵に出会い、ともに育てていく場所。」をコンセプトとしたレンタルのメタバース空間、といえばわかりやすいでしょうか。メタバースイベントをやってみたいというニーズは多くあると思うのですが、イニシャルコストがハードルになりがちです。『Renta-verse』を使うことで低コストでメタバースイベントへ参入ができ、繰り返し利用することでナレッジの蓄積も可能になります。​

RENTAVERSE

――メタバース空間のテンプレートが用意されてるようなイメージでしょうか?

そうですね。利用する企業・団体が抱えている課題に合わせて、そのテンプレートをカスタマイズしていくような感じです。自由にカスタマイズできるので、使い勝手もいいです。メリットを簡単に挙げてみると、
①イニシャルコストの削減
②スケジュールの圧縮
能動的体験設計​
④行動データ取得​
といった点があり、メタバースイベントへの参加障壁を下げられるのではと考えています。

 
――イニシャルコストが下げられて、メタバースイベントが開催できることは大きなメリットのように感じますね。

私たちの得意先の中には、抱えている課題の解決にメタバースっていう発想がまだない企業もあると思うんですね。そういう企業の新しい顧客の開拓や価値の創出など、チャレンジの入り口を大広がサポートしていくと面白いことになるんじゃないかなと思っています。

社会課題の解決に向き合うメタバース

――イベントで登壇されたスタートアップ企業の事例を見ますと、人材教育や会社説明会にXR/メタバースが活用される事例が多くありました。

そうですね。例えば株式会社m-Lab様のメタバース活用事例と参加者の声など、少し紹介してみます。

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(株)いよぎんコンピュータサービス 新卒向け会社説明会
参加者の感想 「対面になると移動などが大変ですが、メタバースを利用した説明会はゲームの世界にて説明会を受けている感覚になり、とても満足しました」


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AGC硝子建材(株) 社員総会
参加者の感想 「(これまで社員総会というと)コロナ渦もありTeamsであるとかZoomでやるわけですね。しかし採用活動にはやっぱり対面っていうところもあると思っているところに、こういうことを絡めていくと会社のインパクトが上がるように思います」


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福井県 越前市 移住相談・交流会
参加者の感想 「自宅にいながらメタバース上の紫式部公園を散策し、越前市の美しい自然、歴史、そして地元ならではの美味しい食べ物について学べました。」
※このイベントの後、2名の方から具体的な移住相談が寄せられました。

――最後の事例のように、社会課題の解決に向き合うようなものもほかにもありましたが、このような活用事例は増えているのでしょうか?

そうですね。今回イベントに登壇頂いた株式会社アルファコード様の事例で、東京都が主催している「TOKYO強靭化プロジェクト」というものがありまして、災害に強い首都を目指し様々な取り組みを行っています。その一環で、『先端技術を活用した、都民の防災意識向上に資するコンテンツの開発』というコンペがあり、そのコンペに優勝したコンテンツが「みんなで防災体験 VR・メタバース」です。minnadebousai_tokyo_top

「みんなで防災体験VR・メタバース」では、仮想空間の東京の中で、普段の生活ではあまり意識することのない、防災対策の数々を体感することができます。
https://www.tokyo-resilience.jp/
※本事例についての問い合わせは、株式会社アルファコードまで sales@alphacode.co.jp


――東京は、大型台風や集中豪雨など多くの自然災害を経験してきましたけど、東京の街を再現したメタバース空間を歩き回って擬似体験できるのですね。ところで、港区のようにスタートアップ支援やメタバース事業支援に注力している自治体は他にもあるでしょうか?

メタバースに注力している自治体ってそんなに多くはないのですが、福岡はかなり力を入れているイメージがあります。例えば今年度、メタバースを活用した無業者就労支援事業を行っています。
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――今日お話をお伺いして、今までメタバースというと何かエンタメやゲーム世界のことのように考えていたのですが、社会課題の解決に向いている技術、という印象に変わりました。

個人的な見解になりますが、メタバースって世の中を面白くする以上に、世の中の役に立つプロダクトだと思っています。メタバースは社会的に役に立つものだっていうことがちゃんと認識されれば、多分市場としての伸びも全然違うんじゃないかなと思います。社会を面白くすることはもちろんできるけれど、まずは社会に役に立つことを愚直にやっていくことが大事なんじゃないかと考えています。そういうことに気づき始めたから、メタバースやスタートアップを支援する自治体が増えてきているのではとも思います。

 

――先ほど、東京都の災害のシミュレーションのお話がありました。他にも、気温が2度上がったらなにが起こるかってことをシミュレーションするメタバースの活用事例を聞いたことがあります。また事故の体験が事故を起こさないための一番の学びになるので、メタバースを使って学習する活用方法もあると・・・。

イベント内で株式会社アルファコード様が紹介されておりましたが、建設用クレーン、高所作業車などを製造・販売する株式会社タダノ様の事例ですね。
やっぱり仮想空間の中ならではと言いますか、例えば交通事故なども実際に起こしてはまずいわけです。でもメタバース空間を活用した擬似体験なら、なるほどこうなるのか、じゃあこういう対策をして未然に防がなきゃいけないよねっていう、マインドチェンジに繋がる。こういう使い方はもっともっと広がるのではないかと思いますね。
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「安全教育ツール360°VR」
点検・修理作業中に発生しやすい事故および起こり得る重大な事故の「未然防止」の徹底を目的として制作された。
https://www.alphacode.co.jp/solution/20180424115215.html
※本事例についての問い合わせは株式会社アルファコードまで  sales@alphacode.co.jp

 

 ――インターネットのブラウザでの体験との大きな違いは、メタバースには参加感があるということですね。

人が集まれないという環境下で利活用が進んだという背景からもわかるようにコミュニケーションの場ですので、メタバースの中では能動的に参加しないと何も進まないってとこがありますね。自分の分身であるアバターによってコミュニケーションできることも、参加感が増幅する要素でしょうか。3D空間でのVRやアバターによる身体的な体験は、その場やコミュニティに参加している感覚を増幅させます。こういう特徴は、体験を自分事化して積極的な参加を促すので、社会課題の解決に向いていると思うんです。メタバース空間に参加して体験できることはまだまだあるはずです。テクノロジーとしては今、導入期から成長期に入っているようなものですから、コンテンツや使い方次第でプラットフォームとしてもっと活用事例が生まれてくると思います。エンタメやV TUBERと同じ土俵で語られがちですが、XR/メタバースはみんなが参加することで、課題を解決して、より良い社会をつくるためのプラットフォームになるのではないかと思います。

まとめ

メタバースといえば、オンラインゲームの空間のイメージでしたが、さまざまな社会課題の解決に活用されていることがこのイベントの取材を通してわかりました。コミュニケーションの「場」として参加感がより強く感じられることや、リアリティのある身体的な体験が事故防止や災害の際の行動の学習に役立つこと。メタバースの特徴を生かして、解決できる社会課題はこのほかにも、まだまだたくさんあるはず。メタバース活用の今後に注目していきたいと思います。

※大広のレンタルメタバース『Renta-verse』の詳細はこちらをご覧ください

この記事の著者

COCAMP編集室

「ビジネスは、顧客価値でおもしろくなる」をコンセプトに、ビジネスにおける旬のキーワードや課題をテーマに情報発信しています。企業の大切な資産である「顧客」にとっての価値を起点に、社会への視点もとり入れた、事業やブランド活動の研究とコンテンツの開発に努めています。